89 クマさん、盗賊退治に向かう
遅くなった理由。
いつもの倍、書いたから。
商業ギルドのことはアトラさんに任せて盗賊退治の準備をする。
準備と言っても腹ごしらえをするだけだ。
「嬢ちゃん、本当に盗賊討伐に行くのか?」
マッチョのおじさんが心配そうに聞いてくる。
先ほどのギルドマスターとの会話を聞いていたのだろう。
「そうだけど。でも、その前にデーガさんの美味しい朝食を食べてから行くよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、嬢ちゃんみたいな女の子じゃ危険じゃ……」
「大丈夫よ。一応冒険者だし、召喚獣も見たでしょう。あの子たちもいるし、ぱぱっと倒してくるよ」
「そうか、なら帰ってきたら俺が今できる、最高の料理を作ってやるよ」
「それじゃ、急いで倒して戻ってこないといけないね」
町の外に出ると、くまゆるを呼び出す。
いざ、盗賊討伐に出発!
盗賊が現れると言われる場所に向かう。
海岸沿いの道を馬が走る程度の速さで進んでいく。
潮風が気持ちいい。
もう少し暖かくなれば泳ぐこともできるのかな?
フィナは海を見たことがないだろうし、夏になったら皆で来てもいいかも。でも、水泳は小学校の授業以来泳いでいないんだよね。
それ以前にわたしの知り合いに泳げる人いるのかな?
クリモニアの街の住人の顔を思い浮かべてみるが居ないような気がする。
まあ、砂浜で遊ぶのも楽しいだろうし。未来のことは未来に考えることにして、今は盗賊退治に向かおう。
盗賊がいつ現れるか分からないので探知魔法は発動させておく。
マップが作成されていないのでこれから進む先は黒い地図があるだけだ。
道なりに進んでいくと黒い地図の先に四つの人の反応が出る。
盗賊?
待ち伏せ?
でも、クマに乗っている相手を襲おうとするかな?
まあ、盗賊なら捕まえてアジトの方角ぐらい聞き出せばいいし、盗賊じゃなければスルーすればいいかな。
気にしないで進むと遠くに人影を捉える。
冒険者風の4人の姿が見える。
男1人に女性が3人、男から見たら羨ましいパーティーだ。
これが世間で言われているハーレムパーティーかな。
冒険者はくまゆるに乗ったわたしに気づくと剣と杖を構え戦闘態勢に入る。
もしかして、襲われる?
ゆっくりと近づくと、先頭に立つ男が道を塞ぐ。
「どいて、もらえるかな?」
横を走り抜けることはできるけど、一応尋ねてみる。
冒険者たちはわたしたちを見ている。
「そのクマはなんだ?」
「わたしのクマだけど」
「危険は無いのか」
「いきなり、攻撃とか仕掛けてこなければね」
「そっちに攻撃の意思が無ければ、こっちもそのつもりはない」
男は剣を下ろす。
それを見たほかのメンバーも武器を下ろす。
「一応、忠告しておくけど、この先には盗賊が現れるから危険だぞ」
「知っているよ。その盗賊を討伐に行くところだから」
「あなた本気?」
後ろにいる杖を構えている髪の長い女性が驚いた様子で聞いてくる。
服装や武器を見ると魔法使いかな。
「あなたみたいな女の子が倒せるような相手じゃないよ」
「大丈夫。これでも冒険者だから、それにこの子もいるから」
くまゆるの頭を撫でる。
「だが、盗賊退治なら諦めた方がいい。俺たちも数日間、捜したが見付けることができなかった。もしかすると、もう居ないかもしれないぞ」
「それなら、それでいいけど。もし、居ればこの子が見つけてくれるから行ってみるよ」
探知魔法のことは教えることじゃないので黙っておく。
「だから、通させてもらっていいかな?」
「そのクマが盗賊を見つけることができるの?」
魔法使いの女性が尋ねてくる。
「あなたたちが言う通りに居なければ無理だけど。もし、その場所に居れば見つけることはできるよ」
その言葉に女性は少し考え事をする。
「わたしたちも付いていってもいい?」
「あなたたちが?」
「ええ、盗賊討伐に行ったのに、このまま手掛かりも見つけられずに帰るのも体裁が悪いからね」
「トメア?」
いきなりのことに男が女性の名前を呼ぶ。
「だってそうでしょう。わたしたちじゃ盗賊は見つけられない。でも、このクマがいれば見つけられるかもしれない。なら手伝うべきでしょう」
「本当に分かるかどうか分からないだろう。それに俺たちがあれだけ捜して見つからなかったんだぞ」
「別にいいじゃない。確かめるだけでも」
「だが」
「2人はどうする?」
トメアと呼ばれた女性は後ろにいる2人にも聞いてみる。
「そうだな。食料もあるし、付き合ってもいいぞ」
女性剣士は答える。
「トメア姉が言うなら、わたしもいいよ」
「2人は賛成してくれたけどブリッツはどうする?」
「分かった。付いていく。女の子4人に行かせて男の俺が行かないわけにはいかない」
諦めぎみに言う。
「そういうわけだから、ついていってもいいかな?」
「足手まといだから、断りたいんだけど」
「言ってくれるね。これでもランクCの冒険者だから足手まといにはならないよ」
「全員そうなの?」
「わたしと彼がランクC、後ろの二人はランクDよ。ちなみに、あなたのランクを聞いていいかな?」
「Dだけど」
「なら、わたしの方がランクが高いから足手まといにはならないと思うけど」
面倒なことになってきた。
あまり、他人に戦うところは見せたくないんだよね。
どうしたものかと考えていると、あることが脳裏に浮かぶ。
「後処理をしてくれるならいいけど」
「後処理?」
「たぶん、捕まっている女性がいると思うから、わたしがするよりも、大人のあなたたちがしてくれると助かる」
たぶん、女の人が捕まっているなら酷い目に遭っているはずだ。
そんな女性に掛ける言葉はわたしは持っていないし、対処の仕方も分からない。
「分かったわ。責任をもって捕まっている女性は保護するわ」
了承を得て、改めて自己紹介をする。
男がブリッツ、一応リーダーらしいが、基本、トメアという魔法使いの女性が仕切っているっぽい。
そして、もう一人の魔法使い。トメアよりも年齢は低く、20歳前ぐらいの女の子。名前はラン。
男性剣士と同じぐらいの長身の女性剣士。色黒の肌に少し大きめの剣を持っている。名前はグリモス。
「それから、聞いてもいいかな?」
「なに?」
「ユナちゃんのその格好はなに?」
やっぱり、聞いてくるよね。
「わたし、クマの加護を受けているのよ」
「クマの加護?」
「だから、この格好をしていると力が出てくるのよ」
と、新しい設定を考えてみた。
別に嘘をついているわけじゃない。
実際に呪いと言ってもいいほどに、クマの加護を受けている。
「そんな加護があるの?」
「この子がわたしの指示に従っているのが証拠でしょう」
乗っているくまゆるを指す。
納得したのか、していないのか微妙な顔をしている。
わたしだってクマの加護って初めて聞く言葉だよ。
漫画、アニメ、小説、ゲーム、映画、いろんなファンタジー物を見てきたけど一度も聞いたことがないよ。
「ユナちゃんは一人でこの町に? 他にパーティーメンバーは居ないの?」
「一人だけど」
「よく、盗賊に襲われなかったね」
「クリモニアの街から山脈を越えてきたからね」
「あの山脈を」
ここからでも見える山脈を見る。
頂上付近は白い雪が積もっているのが見える。
富士山みたいな感じかな。高さは分からないけど、横幅はこちらの方が広がっている。山がいくつも繋がっているためだ。
「それにしても大人しい子ね。名前は何て言うの?」
くまゆるを見ながら尋ねてくる。
「くまゆる」
「触ってもいい?」
「いいけど」
わたしが許可を出すと歩きながらくまゆるの体を優しく撫でる。
「わたしもいい?」
もう1人の魔法使いのランが聞いてくるので了承する。
「柔らかい。何、この毛並み。高級毛皮を触っているみたい」
「本当に危なくないのか?」
ブリッツが心配そうに2人を見ている。
「この子やわたしに危害を与えなければ大丈夫よ」
魔法使いの2人はくまゆるの毛並みを堪能していた。
探知魔法を使いながら進んでいると山の中腹に人の反応を見つける。
二つある。
それ以外の人の反応はない。
見張りかな?
もう少し探知範囲が広いといいんだけど。
でも、これは十分に役に立つから文句は言えないけど。
さて、どうしたもんか。
下手に攻撃したりして、逃げられても面倒だから、逃げ出す前に処理をしたい。
でも、盗賊では無い可能性も少なからずある。
魔法を使って殺すべきか、捕まえて情報を聞き出すのか、盗賊で無い可能性を考慮するべきか。
「どうしたの?」
わたしが悩んでいるとトメアが声を掛けてくる。
「見張りらしき者を発見したんだけど。殺すか、捕まえるか、一般人の可能性も考慮するべきか悩んでね」
「どこら辺?」
「顔は向けないでね。右の山の中腹にいるよ」
皆、視線だけを向ける。
「分からないわね」
「本当にいるのか?」
「もう少し近づいてから判断しましょう」
気付いていない振りをしながら進んでいく。
動かないね。
ずっと見ているのかな。
少しずつ距離を縮める。
森の中に入れば姿は見られないかな。
「あの木の下を通ったら、中腹に隠れている盗賊を捕まえてくるね。だから、みんなはそのまま歩いていって」
「ちょっと……」
「100mほど歩いたら、わたしが先ほど言った中腹に来て」
「俺たちを囮にするのか?」
「囮じゃないよ。適材適所よ。あなたたちは正確な位置の場所は分からない。わたしは分かる。それで十分でしょう。もし、あなたたちに任せて逃げられたらどうするの」
「ユナちゃんなら捕まえられるの?」
「くまゆるから逃げ出せる人間がいたら見てみたいね」
「分かった。100mでいいんだな」
「50mぐらいでもいいけど、念のためにね」
目標にしている木が近づく。
木の下を通った瞬間、わたしを乗せたくまゆるは木々の間を抜けて山を駆け上っていく。
くまゆるは坂道を平地と同じぐらいの速さで駆け抜ける。
冒険者が50mも行かないうちに中腹に辿り着く。
「なんだ!」
中腹にいた人間が叫ぶ。
それに答える義務はわたしにはない。
とっさに剣を抜こうとするが遅い。
くまゆるが二人の体を押さえつけて倒れる。
「2人は盗賊の仲間で合っているよね?」
「なんのことだ」
男はしらを切る。
「惚けるの。まあ、話を聞くなら1人でいいかな。くまゆる、美味しい方を食べていいよ」
くまゆるが大きく口を開く。
「止めろ! 止めてくれ!」
「それとも、2人を少しずつ食べる?」
くまゆるも脅しだと分かっているため演技をしてくれる。
大きく口を開き、涎を垂らす。
「それじゃ、2人の腕から食べようか。頭は最後だからね」
「頼む! 止めてくれ!」
「それじゃ、もう一度聞くね。あなたたちはここで町の住人を襲っている盗賊で合っているよね」
「……ああ、そうだ」
男は諦めたように頷く。
「それじゃ、アジトを教えてくれるかな? 方角だけでもいいよ」
「話せば見逃してくれるのか?」
「まさか、話せばクマに喰われないだけよ。ちゃんと冒険者ギルドに引き渡してあげる」
2人は黙ったまま考え込んでいる。
「分かった。話す」
2人からアジトの場所を聞き出すのが終わると、ブリッツたちが山を登ってくるのが見えた。
足取りが重そうだ。
特に剣士の二人は重い剣に防具も着けているから大変そうだ。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。それで、どうなった?」
「やっぱり、盗賊の仲間だったよ。アジトの場所も聞き出したから、これから向かうつもり」
「そうか」
「それで悪いけど、誰かこの二人を任せてもいい?」
駄目なら穴を掘って閉じ込めるけど。
「わたしが残る」
グリモスが口を開く。
「グリモス、いいの?」
「山の中では、動きが遅いわたしは足手まといだからな」
グリモスはアイテム袋からロープを取り出すと盗賊を縛り上げていく。
「わたしはこいつらを連れて下にいる。一日たって戻らなかったら町に戻る」
「ええ、それでいいわ」
トメアの指示に素直に従うグリモス。
リーダーってだれだっけ?
これじゃ、誰がリーダーか分からないね。
わたしは見張り役から得た情報を基に盗賊のアジトに向かうことにする。
その後ろを3人が付いてくる。
「それにしても、本当に見張り役がいたのは驚いたよ」
「この子のおかげだけどね」
「わたしも欲しい……」
ランが羨ましそうにくまゆるを見てる。
あげないけどね。
しばらく移動すると、探知魔法に数十人の反応が出る。
意外と近かった。
「迷いなく進んでいるけど、大丈夫なの?」
「捕まえた盗賊が嘘をついていれば違うところに向かっている可能性もあるからな」
「大丈夫。この子がもう見つけてくれているから」
「本当?」
「もうすぐ着くけど、休憩は必要?」
わたしはくまゆるに乗っているだけだから疲れない。
「大丈夫だ」
「わたしも平気よ」
「わたしも頑張れる」
3人の言葉を聞いてこのまま先に進むことにする。
くまゆるが草木を倒し、その道を3人が付いてくる。
自動マップを見る。
わたしたちが進んでいる道は正式な道ではないみたいだ。
だからこそ、気づかれずにアジトまで行ける。
「そろそろ、近いから静かにしてね」
数十人の反応がある地点が近くにあるため、一応注意をしておく。
3人は頷く。
山の木々に囲まれたところに洞窟がある。その周りに15人ほどの男たちが女性を侍らせながら昼間から酒盛りをしている。
女性たちは捕まっている女性たちだろう。
反応は洞窟の中にもある。
「こんなところにあったのね」
「くそ、捕まっている女たちもいるぞ」
「どうする?」
「わたしが、全部相手にしてもいいけど」
面倒だからそう言ってみる。
「何を言っているの」
「これは一度戻って応援を呼んだ方がいいかもな」
「これは無理」
ランクCでもこの人数は駄目なのかな?
「それじゃ、わたしが行ってくるから、待っていて」
「ちょっと」
口論をするつもりは無いので、くまゆるに乗って、走り出す。
「なんだ!」
「クマ!」
「熊!」
男たちが叫ぶ。
わたしはくまゆるから飛び降りる。
着地と同時に女性が近くにいない盗賊には10mほどの落とし穴を作り、穴に落とす。
運が悪ければ死ぬけど、知ったことじゃない。
殺さなかっただけでもありがたく思ってほしい。
「くまゆる! 逃げる者がいたらお願い!」
女性が近くにいる男には、空気弾を撃ち込み、女性から遠ざける。
遠ざかったらすかさず、落とし穴に落とす。
「ユナちゃん。後ろ!」
わたしが後ろを振り向くと炎の玉が飛んでくるところだった。
左手の白クマを炎の玉に翳すと、炎が消え去る。
杖を構えている魔法使いが3人いる。
空気弾を脳天に撃ち込む。命中補正があるから百発百中。
魔法使いは防ぐこともできずに倒れる。
落とし穴と空気弾を使って盗賊を全て倒す。
辺りを見渡すと、立っている者はわたししかいなかった。
その間、一分も経っていない。
「ユナちゃん。怪我はない!?」
トメアが駆け寄ってくる。
「無いよ」
「ほんと? 魔法を食らってたみたいだけど?」
「あれぐらい、平気よ。それよりも女性たちをお願い」
女性たちは何が起きたのか分からず、その場に腰を抜かしている。
3人が女性を介抱しに行くと、洞窟から数人の男たちが出てくる。
その中心に立つ男が異様な雰囲気を漂わせている。
「なんだ、こりゃ!」
まわりの現状を見て男が吼える。
「これはおまえたちがやったのか」
男はわたしではなく、ブリッツたちの方を見る。
「おまえ、ブリッツか」
男がブリッツを見て名前を言う。
もしかして、知り合い?
「おまえはボーグ……」
「なんだ。盗賊退治にわざわざ、こんなところまで来たのか」
「なんで、貴様がここに居る」
「そんなの決まっているだろう。仕事だよ、仕事」
「仕事だと」
「ああ、この先の道を通る人を襲って、金を奪い、女を戴く、簡単なお仕事」
わたしは近くにいるトメアに尋ねる。
「誰?」
「前の町に居たときにいた冒険者です。実力はあるのですが、横暴で、自分勝手、パーティーにいる女性は自分の物だと思っている男です。だから、誰も彼とはパーティーは組まなくなり、町から消えたんですが、こんなところで盗賊になっているとは思いませんでした」
「おいおい、俺は盗賊じゃないぞ。冒険者としての仕事だよ。商業ギルドのギルドマスターからの正式な仕事だよ」
「商業ギルド?」
なんか、とんでもない言葉が出てきたんだけど。
「そんなこと、俺たちに話してもいいのか?」
ブリッツが男の前に立つ。
「別にいいに決まっているだろう。貴様は死ぬし、貴様の女は俺の女になるんだから」
「貴様!」
「前に見たときから抱きたいと思っていたんだよ」
男が汚い笑みをトメアに向ける。
ブリッツが剣を抜こうとした瞬間。
ボーグと名乗った男が吹っ飛びました。
もちろん、わたしが殴りました。
だって、殴りやすそうな顔をしているし、無防備におしゃべりをしているし、何よりもムカついたから。理由はそれだけで十分。
わたしは追い討ちをかけるように、倒れている男、ボーグにマウントを取り、殴り続ける。
もちろん、簡単に気絶はしないように手加減はしますよ。
「きさま!」
くまぱんち、クマパンチ、熊パンチ。
「どきやがれ!」
手を伸ばしてくるがくまぱんち、クマパンチ、熊パンチ。
「やめろ……」
止めるわけがない。
くまぱんち、クマパンチ、熊パンチ。
顔が変形していく。
わたしに伸ばそうとした手は力尽きて、地面に落ちる。
「ああ、すっきりした」
わたしは男から離れる。
周りを見ると、ブリッツ、洞窟から出てきた盗賊、捕まっていた女性もみんながわたしを見ている。
「どうしたの?」
「どうしたのって」
「もしかして、殴りたかった? 殺すなら後にしてね。なんか、面白いことを言っていたから。わたしだって手加減したんだから」
「手加減って……」
商業ギルドのギルドマスターに頼まれたと言っていた。
宿で襲ってきた冒険者も商業ギルドのギルドマスターに頼まれたって言っていたし。
もしかすると、クラーケンもギルドマスターのせいだったりするのかな。
「それで、そこの立っている盗賊のみなさんは、大人しく捕まる? それとも、こいつみたいになる?」
その言葉に盗賊たちはボーグの顔を見る。そして、首を横に振り、武器を捨てる。
「中にまだ、仲間はいる?」
「いない。捕まえてある女がいるだけだ」
盗賊は素直に答える。
それから、洞窟の中に捕まっている女性を助け出し、奪い去った財産も奪い返す。
馬も馬車も麓にあるそうなので、ありがたく活用させてもらう。
盗賊たちは全員縛り上げ、馬車に放り込み、町に帰ることにする。
「わたしたち、何もしなかったね」
「ああ、しかも、ボーグがあんなに簡単にやられるなんて」
ボーグは意識はあるが動けない状態である。
目覚めたボーグは騒ぎ始め、うるさかったので、紐なしバンジーをさせてみた。
風魔法でボーグを上空に吹き飛ばし、地面に叩き落とすことを、数十回した。
もちろん、地面に空気のクッションを作って死なないようにしてある。
気絶しても、水を掛けて、起こす。
これを何度も行ったら、
「頼むから、止めてくれ……やるなら殺してくれ……」
そんなことを言うから、更に紐なしバンジーを続けた。
楽になりたいから殺してくれなんて、逃げ道を潰すために。
最終的には罪を償うと言ったが、それを決めるのはわたしじゃない。
違う馬車に乗っている女性たちであり、町の住人たちだ。
馬車は進み、途中でグリモスと合流する。
町に戻ると門を警備している男が駆け寄ってくる。
「みなさん、これは」
「盗賊を全員捕まえてきた。冒険者ギルドのギルドマスターに報告したいがいいか?」
ブリッツが代表として話す。
「本当ですか?」
馬車の中に捕まっている盗賊を見る。
「すぐに、報告をしてきます!」
警備の人は冒険者ギルドに駆け出していく。
わたしたちは捕まっていた女性を馬車から下ろす。
女性たちはお互いに泣きながら抱き締めあっている。
盗賊に捕まっている間、何をされたか想像ができるが、わたしはかける言葉を持っていない。
それに、それだけじゃないだろう。一緒に町を出た人物もいたはずだ。
夫であり、親、もしかすると子供もいたかも知れない。
だから、その痛みが分からないわたしには言葉が出てこない。
捕まっていた女性は何度もお礼をしてくれる。
改めてここは日本ではなく、ゲームの世界でもなく、異世界だと久しぶりに再認識された。
しばらくすると、ギルドマスターがやってくる。
「ユナ! 本当に討伐してくれたの!?」
「そこにいる冒険者が力を貸してくれたからね」
「そう言うけど、わたしたち何もしていないんだけど」
「盗賊を縛り上げたり、捕まっていた女性のケアをしたり、馬車を操縦してくれたでしょう?」
わたしには女性のケアもできないし、馬車の操縦もできない。
もし、わたし一人だったら、どうなっていたか分からないのが本当の気持ちだ。
「それで、捕まえた盗賊とはこいつらのことか?」
アトラさんが馬車の上に乗っている盗賊を見る。
「おまえたちは……」
「知り合い?」
「ああ、この町の冒険者だ。護衛で町を出た者や知らないうちに消えた者たちだ。てっきり、クラーケンに恐れをなして逃げたものだと思っていたが。まさか、盗賊になっていたとはな」
元冒険者は、ギルドマスターとは目を合わさず、下を向いている。
「それで、捕まえた盗賊から面白い話を聞いたんだけど」
「面白い話?」
商業ギルドのギルドマスターの話をする。
「ほう、それは面白い話だな。わたしの方もいろいろ分かってきたところだ」
アトラさんは怒りの笑みを浮かべている。