904 クマさん、昨夜のことを報告する
サクラの屋敷で働く人たちの足音で目が覚める。
「もう、朝?」
さっき、寝たと思ったのに。
左右ではサクラとカガリさんが気持ちよく寝ている。
2人は遅くまで起きていたから寝かせておこう。
そう思っていたけど、わたしが起き上がったことで、2人の目が覚めてしまう。
「もう、朝ですか?」
「もう少し寝かせてくれ」
サクラは起き上がり、カガリさんはくまゆるの体に顔を埋めて陽の光が入らないようにする。
「カガリ様、起きてください。朝ですよ」
「眠い」
カガリさんはサクラに起こされて起き上がる。
そして、顔を洗い、着替え、朝食をいただく。
「それにしても妖刀を盗んだ男がユナの知り合いだったとはのう」
「悪い方の知り合いだけどね」
知らない人が聞いて、友人と思われても困る。
「それで、今日はどうなさるのですか?」
「とりあえず、国王に報告しないとダメだよね」
昨日の今日で報告だ。毎日、国王に会いに行っている感じになっている。
「そうじゃのう。警備体制のことをスオウの奴に一言言わんとならんから、妾も一緒に行こう」
「それじゃ、わたしはお留守番していますね」
「すぐに帰ってくる」
サクラが手配してくれた馬車に乗って、わたしとカガリさんは城にやってくる。
馬車だと指をさされないからいいね。
3日連続となると門番の人もカードを見せるだけで通してくれる。
わたしとカガリさんは国王の執務室にやってくる。
「こんな朝早くにどうした? なにかあったのか?」
わたしは昨夜あったことを話す。
「辞めた人間のことまで、管理しろとは言わんが、対策を練ったほうがいい」
元従業員が金庫の場所を知っていたから、盗みに入ったとかニュースで聞いたことがある。
「問題ありで辞めさせられたのか、別の理由で辞めたのか、そのぐらいは把握しておけ。問題を起こした者なら、また問題を起こす可能性が高い」
確かに、逆恨みをするかもしれない。
日本でも辞めさせられた腹いせに、ネットで会社の誹謗中傷したニュースも見たことがある。
どこの世界も同じってことかな。
「そうだな。今後、徹底させる」
今後は今回のように盗まれないことを願うだけだ。
「それで、盗んだもう一人の男がユナの知り合いだとはな」
「仲がいいみたいに言わないで。フィナを殴ったんだから」
フィナとノアを殴り、ミサを攫った男だ。
「因縁か」
「こっちは断ち切りたいけどね」
関わらないでほしいものだ。
「それとお前たちが来たから伝えておく。盗まれた妖刀が判明した」
「やっとか」
「『妖刀赤桜』『妖刀風切』『妖刀馬鉄』『妖刀右京』『妖刀魔花』『妖刀狂華』の6本だ」
「6本か」
初めて聞く妖刀がある。
「えっと、そのうちの一本を黒男が持っていて」
「あとはサタケと一緒に行方不明になった一本」
「カガリさんが一本回収して」
「残りは3本か」
「師匠が2本持っているっすよ」
声がしたほうを見ると扉の前にシノブがいた。
「シノブ?」
「どういうことじゃ?」
全員の視線がシノブに集まり、シノブがこちらに歩きながら説明する。
「昨日、師匠と会ったっすよ」
「ジュウベイさんなら、わたしも会ったけど」
時間を聞くと、先にシノブと会って、それからわたしと会った感じだ。
「それで、ジュウベイが妖刀を持っていたのか?」
「師匠が持っていた刀はいつも持っている刀じゃなかったっす」
わたしはジュウベイさんがどんな刀を使っていたか覚えていない。
記憶にあるのは「刀、カッコいいな」ぐらいだ。
でも、師匠と仰いでいるジュウベイさんの刀をシノブが間違えるわけがない。
「もちろん、新しい刀を使っている可能性もあるっすけど、そんな話は聞かないし、刀を大切にしていたっす。だから、師匠が持っていたのは妖刀だと思うっす」
「ジュウベイとは、どこで会ったんだ?」
「えっと、それは……」
シノブが国王を見る。
「言えない場所なのか?」
「えっ、もしかして、大人の……」
そんなところにジュウベイさんが。
「違うっすよ。裏町っすよ」
「ウラ町?」
シノブの話を聞くと、表で生きていけない人の集まりだとか。
「犯罪者に近い者たちを管理していると言ったほうがいいかもっす」
「そんな場所を認めているの?」
国王を見る。
「認めてはいないが、表立って取り潰すこともしていない。人が集まれば、悪いことをする者はいる。しかし、それを管理するのは国では限界がある」
「だから、その者たちにやらせているわけ?」
「殺し、暴力などしなければ多少のことは目を瞑っている」
「そうっす。だから、あそこでは暴力が起きないようにしているっす」
なんでも裏町を管理している人物がいるとのことだ。
裏社会のボスみたいなものかな?
「でも、あの裏町を管理している人の息子はとんでもないっすよ」
なんでも、競売に妖刀らしきものが掛けられることを知ったシノブは競売所に参加したそうだ。
「競売、面白そう」
「別に面白くないっすよ。掘り出し物なんて、毎回でるわけじゃないっすし、暇人が行くところっす」
それで、たまに掘り出し物が出ればラッキーって感じか。
「それで、妖刀だったのか?」
カガリさんが話を戻すように尋ねる。
「妖刀だったっす。いろいろとあって、妖刀を賭けて、その息子と戦うことになったっす。あの息子、戦闘狂っすよ」
シノブは呆れるように言う。
シノブは戦うことになった経緯を簡単に話す。
「それで、勝ったのか?」
「もちろん勝ったっすよ。ギリギリっすけど」
最後の部分の声が小さくなる。
相当ギリギリだったのかな。
でも、シノブと互角ってかなり強い。
「それじゃ妖刀を手にすることができたのか?」
「それが師匠が現れて、持って行ったっす」
「ジュウベイのやつが?」
ここでジュウベイさんが登場するわけか。
「それで師匠がいつも持っている刀を使っていなかったっす。あれ、妖刀っすよ。間違いないっす」
長い付き合いのシノブならジュウベイさんが使っている刀を見間違えるわけがない。
「ジュウベイさんが2本もっているなら、残りの一本は城で働いていた男の人ってこと?」
「可能性は高いじゃろう」
「すぐに調べて、手配する」
そっちは国王に任せておけばいいだろう。
「これで、6本すべての行方が分かったってことじゃな」
盗んだ男が持っていればだけど。
「まあ、持っている人が分かっているだけで、場所は分からないけどね」
「妖刀だけを捜すのと、人を捜すのでは違う」
確かに、どこかにある物より、人のほうが捜しやすい。
まして、全員知り合いだ。
でも、あの黒男を知り合いとは呼びたくないけど。
「それじゃ、わたしが逃した妖刀って誰が持っているのかな?」
「ジュウベイの奴が拾ったのか」とカガリさんが言い。
「サタケと戦った男が拾った可能性もある」と国王が言い。
「昨日、わたしが見た妖刀の可能性もあるっすよ」とシノブが言う。
どっちにしても、わたしが2本も回収ミスをした。
取り戻さないといけない。
「でも、どうして、ジュウベイさんは妖刀を回収したのに、戻ってこないんだろう」
「妖刀に取り憑かれているかもっす」
それは否定できない。
昨日の夜に会ったジュウベイさんは少し様子がおかしかった。
「これって、ジュウベイさんと戦うことになるのかな?」
「いやいや、無理っすよ」
「それを言ったら、サタケもじゃろう」
カガリさんの言葉に部屋が静まり返る。
「スオウ。2人に対応できる者を集めておいたほうがいいかもしれぬぞ」
「そうだな。だが、隊長クラスを簡単に呼び寄せることは」
「手遅れになってからでは遅い。一応、妾とユナとで、対応するが」
わたしが数に入れられた。
まあ、2回も取り逃したわけだから、もしもの場合は戦うけど。
ジュウベイさんと戦うのはイヤだな。
「わたしは戦力外っすか」
「先ほど、自分じゃ、無理だと言っていたじゃろう」
「そうっすけど」
「サタケの実力は知らんが、ジュウベイと戦えるのはユナと妾ぐらいじゃろう」
確かにそうだけど、わたしと戦ったときのジュウベイさんって、どれだけの力で戦っていたか問題だ。
それに妖刀の力が追加される。
「スオウ。もし、ジュウベイ、サタケを見つけても手を出すなと捜索している者たちに伝えておけ。ジュウベイとサタケの状況が分からない今、戦いになるかもしれぬ。そんなことになれば、被害がでるだけじゃろう」
2人の状況が分からない。
「ジュウベイと戦える者は少ないし、すぐには呼べないなら、妾に伝えよ」
「迷惑をかける」
「それと黒男も強いから、手を出さないように言っておいて」
「そっちも伝えておく」
今度は逃がさない。
「それと、師匠からユナに伝言があるっす」
「伝言? 会ったとき、なにも言っていなかったと思うけど」
「妖刀は自分が集めるから、ユナはしないでいいみたいなことっす」
「……? それってどういう意味?」
「分からないっす。とりあえず、伝えたっす」
「よくわからないけど、ジュウベイさんには断るって言っておいて」
ここまで関わったのに、いまさら引き下がれない。
それにあの黒男もいる。
「いや、無理っすよ。師匠に会えるなら、会いに行くっすよ」
それはそうだ。
「情報はこんなもんじゃな」
話も一区切りするとシノブが言いにくそうに口を開く。
「国王様、ちょっとお願いがあるっす」
「なんだ」
シノブは妖刀で怪我を負った者がいること、妖刀を取り戻すために建物を少し壊してしまったこと、さらにはジュウベイさんが怪我を負わせたことも話す。
「少しばかり、お金を融通してもらうことは可能っすか?」
「いくら必要だ?」
「このぐらいっす」
シノブは懐から紙を取り出し、国王に差し出す。
「怪我人の数、建物破損状況、こんなもんか」
どうやら、紙には必要金額の細かいことが書かれているみたいだ。
国王はペンを持つと、紙に何かを書き始める。
「少し多めの金額を書いておいた。これを財務に渡して、金を受け取れ」
「いいんすか?」
「ジュウベイも関わっている」
「ありがとうっす」
シノブは嬉しそうに紙を受け取ると部屋から出ていく。
妖刀が盗まれた本数が判明しました。
その場で考えたので妖刀の名前は適当です。
妖刀の名前はカタカナのほうがよかったかもしれませんね。
※くまクマ熊ベアー10周年です。
原作イラストの029先生、コミカライズ担当のせるげい先生。外伝担当の滝沢リネン先生がコメントとイラストをいただきました。
よかったら、可愛いので見ていただければと思います。
リンク先は活動報告やX(旧Twitter)で確認していただければと思います。
※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約受付中ですが、お店によっては締め切りが始まっているみたいです。購入を考えている方がいましたら、忘れずにしていただければと思います。
※祝PASH!ブックス10周年
くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎え、いろいろなキャンペーンが行われています。
詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。
※投稿日は4日ごとの22時前後に投稿させていただきます。(できなかったらすみません)
※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)
お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。
【くまクマ熊ベアー発売予定】
書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)
コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)
コミカライズ外伝 4巻 2025年8月1日発売しました。(次巻5巻、未定)
文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。