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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
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903 シノブ、妖刀を探す その4

 ……勝った。

 ちょっとズルをしたけど、勝ったっす。

 わたしが安堵していると、男が立ち上がる。

 手の甲から血が流れている。


「大丈夫っすか」


 わたしは短刀をしまい、代わるようにハンカチを出し、男の手に巻く。

 ユナみたいに怪我を治す魔法は使えない。

 そう考えるとユナって、本当に規格外っす。


「もっていけ」


 男が突き刺さっている刀に目を向ける。


「いいっすか?」

「約束だ。貴様が勝った」

「ちょっと、卑怯だったすけど」

「それが戦いだ。それにここに長くいるのは危険だ」


 わたしの魔法のせいで天井が崩れかけている。


「確認っすけど、修理代は……」

「払ってくれるのか?」

「それは……」

「冗談だ。俺が戦いを挑んで負けた。もし、おまえさんが負けていたら、請求させてもらったけどな」

「それは……」


 断りたいけど、壊したのはわたしだ。


「だが、貴様の主人に関わりたくない。だから金はいい」

「すまないっす」


 わたしは立ち上がり、妖刀に近づこうとしたとき、妖刀が揺れる。

 手を伸ばそうとした瞬間、妖刀が動き、伸ばしたわたしの手をすり抜ける。

 妖刀の行方を追うと、妖刀は男の手に収まっていた。


「どういうつもりっすか?」

「約束を破るつもりはない。だけど、この刀が許してくれないらしい」


 男は手に握った妖刀を見ながら言う。


「すまないが、もう少し付き合ってもらう」


 男は妖刀を構える。


「断りたいっす」

「俺を殺してくれてもいい。おまえさんを殺しても、収まる気がしない。高揚感、斬りたい。いろいろな感情が湧いてくる」

「さっきは抑え込んでいたっすよね。刀を離すっす」

「無理そうだ。無性に貴様を斬りたいと思っている」


 男は近づく。

 戦うしかないっすか。

 短刀を取り出し、構えた瞬間、扉が吹っ飛ぶ。


「なんすか」


 扉があったほうを見ると、男が一人立っている。


「し、師匠」


 吹っ飛んだ扉の前にはジュウベイ師匠が立っていた。


「どうして、師匠がここに?」

「シノブか」


 師匠がわたしを見る。でも、すぐに妖刀を持っている男を見る。


「妖刀か」


 師匠は男を見ると、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


「なんだ、おまえは? 俺たちの戦いの邪魔しに来たのか?」

「邪魔をするつもりはない。だけど、それを持つなら、別だ」


 師匠が刀を鞘から抜く。

 違和感を覚える。

 その違和感はすぐに分かる。

 いつも持っている刀とは違った。

 師匠が使っている刀は何度も見ているし、持たせてもらったこともある。でも、抜いた刀はいつもの刀ではなかった。

 男が師匠の前に立つ。


「貴様、強いな」

「15年しか生きていない女の子に負け、国が危険にさらされたときも無力だった」


 師匠の様子が変っす。


「国の命運を15歳の女の子に背負わせてしまった。そんな俺が強いと?」


 師匠が怒っている。


「よく分からないが、俺に八つ当たりするな。貴様が弱いのは貴様自身のせいだろう。まあ、俺もそこの女に負けたから、人のことは言えないが」


 男はわたしに軽く視線を向ける。


「師匠、どうしたっすか。ユナが心配していたっすよ」

「嬢ちゃんが来ているのか」

「そうっす。妖刀の回収を手伝ってくれているっす」

「また、迷惑をかけてしまったのか」


 やっぱり、様子がおかしいっす。


「まずは、その妖刀を回収させてもらう」

「できるなら、してみな」


 男が妖刀を構える。

 そして、師匠と男の戦いが始まる。

 妖刀を持った男の動きは速かった。

 でもそれ以上に師匠の動きは速い。

 目で追うだけでも精一杯だ。

 男の攻撃を師匠は滑らかに受け流す。

 師匠の攻撃を男はギリギリで避ける。

 師匠が押している。

 男が突きの構えをする。

 それを見た師匠も突きの構えをする。

 そして、同時に両者が動く。

 一瞬の出来事だった。

 お互いに一突き目は躱す。

 師匠は余裕に、男はギリギリ。

 でも、師匠の突きは止まらない。

 さらにニ突き目、三突き目が繰り出された。

 男はニ突き目、三突き目を躱すことはできず、肩辺りに突き刺さる。

 男は倒れ、手から妖刀が離れる。

 師匠はゆっくり男に向かって歩くと、妖刀を拾い上げる。


「シノブ、鞘を」


 わたしは慌てて周囲を見て、妖刀が納められていた鞘を探し、床に落ちているのを見つけると、拾い、師匠のところに持っていく。

 師匠は鞘を受け取ると男が持っていた妖刀を鞘に戻す。


「師匠、どこに行っていたっすか?」

「嬢ちゃんに妖刀は俺が回収すると伝えておいてくれ」


 それだけ言うと、師匠は背中を向け、入ってきた入口に向かって歩き出す。

 師匠を追おうとしたけど、天井が崩れ始めている。

 男も倒れている。

 わたしは男に駆け寄る。


「大丈夫っすか?」

「くそ、なんだ。あの男は。師匠と言っていたみたいだが」

「なんのことっすか」

「しらばっくれるな。あの男はジュウベイだろう」

「知っているっすか?」

「これでも城の重要人物ぐらいは把握している。俺たちにとって危険な人物だからな」


 確かに裏町を管理する者にとって師匠は危険人物かもしれない。


「肩は大丈夫っすか?」

「動かせないが、命に別状はない。詳しい話をしたいが、今はここを出るぞ」


 話をしている間にも天井からパラパラと落ちてくる。

 男は立ち上がり、わたしと男は通路を通り、建物の外に出る。


「ガクト様、無事でしたか」


 わたしたちに気づいた男が駆け寄ってくる。


「ああ、お前たちは、無事じゃないみたいだな」


死んではいないようだけど、数人の男たちが倒れている。


「それが、いきなり男が現れて、建物の中に入ろうとしたので止めたのですが」


 攻撃をされたそうだ。

 間違いなく、師匠だ。


「その男が、さっき出て行ったのですが、追わせますか」

「いや、いい。今は怪我人の手当てを優先しろ。それから落ち着いたら、建物の修復だ」


 男は指示を出すと、動ける者たちが動き出す。


「迷惑をかけたっす」

「本当だ。まさか、王家が関わっているとはな。知っていれば、あんな刀はさっさと渡したのに」

「そうなんすか?」

「あんな男に攻め込まれてみろ。終わりだ。ここが攻め込まれない理由は、ギリギリの線を保っているからだ」


 聞いたことがある。

 危険な人物たちを、ここが管理しているから、多少の犯罪は見逃されている。

 税金逃れとかは、そのための費用と思っていると聞いたことがある。

 犯罪者が散らばるよりも、一箇所で管理したほうがいい。

 そして、ここの男たちはそれを分かっているから、トラブルを持ち込む者を許さない。

 だから、わたし、目を付けられたっすか。


「まさか、あのジュウベイがお前さんの師匠か。どうりで強いわけか」

「強くないっすよ。あなたにも卑怯な手で勝ったっす」

「天井のことを言っているのか。周りの情報を把握して、戦うのも戦いの一つだ。ただ、俺の戦い方じゃないから、好きじゃないのは確かだ」


 わたしは逃げたっす。

 師匠やユナだったら、正面から戦って勝っていた。


「それにしても、あれが噂のジュウベイか。強すぎるだろう」


 そんな師匠にユナは勝った。


「やっぱり、関わらないのが一番だな。だから、貴様も帰れ」

「いいんすか?」

「ここには貴様が求める物はない。だから、貴様も用はないだろう」

「ちなみに他の妖刀は?」

「他にも盗まれたのか?」


 ミスったっす。


「今のところ、その情報は入っていない」

「そうっすか」

「もし、妖刀を見つけたら、城の中に放り込んでやるから、安心しろ」


 それはそれでありがたいけど、困るような。


「それじゃ、失礼するっす」


 わたしはアイテム袋からフードを取り出し、被ると、隠れるように後にする。


「疲れたっす」


 そして、道具屋にやってくる。

 もう、夜も遅いので、閉まっているかと思ったら、店主のおじいちゃんが店の前に立っていた。


「こんなところでなにをしているっすか?」

「戻ったか。貴様、なにをした?」

「なにをとは、なんすか?」

「競売所が大変なことになっていると聞いた」

「もう、情報が回っているっすか?」

「知り合いが参加していただけだ」


 でも、その人が知らせてくれたとしても、情報が伝わるのが速い。

 もしかして、監視されていたっすか?


「初めに言っておくっすけど、わたしのせいじゃないっすよ」

「進行役の男が刀を持って暴れたと聞いた。例の刀か?」

「えっと、そうっす」


 お爺ちゃんは刀を持った男が暴れたことを知っている。

 そして、その刀が競売にかけられることも。

 隠し通せるものではないので、素直に答える。


「それが嬢ちゃんが探していた刀だったのか?」

「そうだったみたいす」

「どう言うことだ?」

「えっと、わたしが回収する前に、他の人が回収して、どこかに行ってしまったっす」


 師匠のことは話す必要はないので、そのあたりは黙っておく。


「面倒なことには巻き込むなよ」

「それは大丈夫っす」


 この店には迷惑がかかることはないはずだ。


「コイン、ありがとうっす。助かったす」


 わたしは競売に参加するコインをお爺ちゃんに渡す。

 お爺ちゃんは乱暴に受け取る。


「ふん! 今度来るときは、もっと美味しいものを持ってこい。それから、たくさん商品を買っていけ」


 なんだかんだ言っても、来るなとは言わない。

 お爺ちゃんの優しさを感じる。


「了解っす」


 今度、美味しいものを持ってこよう。

 わたしは、店を後にする。

ジュウベイさんが現れて消えました。

シノブ視点は終わりです。


※くまクマ熊ベアー10周年です。

原作イラストの029先生、コミカライズ担当のせるげい先生。外伝担当の滝沢リネン先生がコメントとイラストをいただきました。

よかったら、可愛いので見ていただければと思います。

リンク先は活動報告やX(旧Twitter)で確認していただければと思います。


※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約受付中ですが、お店によっては締め切りが始まっているみたいです。購入を考えている方がいましたら、忘れずにしていただければと思います。


※祝PASH!ブックス10周年

くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎え、いろいろなキャンペーンが行われています。

詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。


※投稿日は4日ごとの22時前後に投稿させていただきます。(できなかったらすみません)

※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)

お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。


【くまクマ熊ベアー発売予定】

書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)

コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)

コミカライズ外伝 4巻 2025年8月1日発売しました。(次巻5巻、未定)

文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
「妖刀」盗難事件のここまでの展開を、一度整理してみたいと思います。 なお、誰が、どの「妖刀」を持っているのか、は私の推測になります。  ◇ ブラッドと共犯者が和の国の王城に侵入して「右京」、「赤桜」…
ジュウベイも妖刀を使ってる…?でも意識は保ってるということですね?これは謎な展開で目を離せませんね とりあえずシノブが無事でよかったよかった
>師匠が使っている刀は何度も見ているし、持たせてもらったこともある。でも、抜いた刀はいつもの刀ではなかった >師匠の様子が変っす ジュウベイさんはガクトから「妖刀」を回収する前から「妖刀」を持ってい…
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