896 クマさん、城に行く
サタケさんとギルマスから届いた、昨日の男の詳細に関する手紙を読んでのんびりしていたときに、その巫女さんはやってきた。
「サクラ様、城から手紙が届きました」
「城からですか?」
さっき、サタケさんからの手紙が届けられたばかりだ。
わたしたちは顔を見合わせる。
なにか新しいことでも分かったのかと思ったら、予想外の名前が出る。
「スオウ陛下よりです」
巫女さんはそう言って、サクラに手紙を渡す。
「ありがとうございます」
巫女さんは頭を下げて部屋から出る。
「スオウの奴からか、内容はなんじゃ?」
サクラは封を外し、中から手紙を出し、内容を確認する。
「なにが書いてあるの?」
「……サタケさんが行方不明になったそうです」
「行方不明って、さっき手紙が届いたよね?」
「あれは深夜のうちに書いて、朝に届けるように指示を出しておいたのじゃろう」
確かに深夜に手紙を出しても受け取ることができない。
まして、至急報告するような内容でもなかったし。
「でも、サタケさんが行方不明? 昨日会ったよ」
「妾も会っておる。大人が1日行方不明だとしても、手紙を出して知らせるほどではないと思うが」
ジュウベイさんなんて、数日間、連絡がない。
もし、サクラが行方不明だったら、慌てて、捜しまくるけど。
いい大人が一日連絡が取れなくなったぐらいで。
「それが、深夜に妖刀と遭遇。交戦したのち、行方がわからなくなったそうです」
「妖刀と遭遇……」
「それって」
「分かりません。手紙にはそれ以上のことは書かれていません」
「呼び出しは?」
「書かれていません。新たに分かり次第、報告すると書かれています」
「妾がスオウの奴に聞いてくる」
「わたしも行くよ」
わたしとカガリさんは立ち上がる。
今は少しでも情報が欲しい。
それに、顔見知りが行方不明なのは気になる。
急がないと大変なことになるかもしれない。
「わたしも」
サクラも立ち上がる。
「お主はここにいてくれ」
「カガリ様……」
「ここには情報が集まってくる。シノブやジュウベイ、ギルマスからも来るじゃろう。お主は妾たちを繋げる中心点じゃ。お主がいなかったら、妾たちが困る。だから、残ってくれ」
「そうだよ。サクラがここにいるから、わたしもカガリさんも帰ってくるんだよ。そして、シノブもね」
シノブも帰ってくると思う。
ここに誰もいなかったら悲しい。
だから、サクラにはここにいて、わたしたちを待っていてほしい。
「カガリ様、ユナ様……。分かりました。わたしが行っても、お役に立てませんよね。つい、ユナ様たちと一緒に行動している気分になっておりました。ここに残って、皆さんを待ちます」
「すまぬ」
「ありがとうね」
サクラは戦うことができなくても、わたしたちにとって重要な女の子だ。
サクラがいるから、みんなが集まることができる。
サクラは太陽で、わたしたちは惑星なのかもしれない。
あとのことはサクラに頼み、わたしとカガリさんは城にいる、スオウ王の元へ向かう。
スオウ王はわたしたちが部屋に着くと、人払いをしてくれた。
「早いな」
「手紙を読んで、すぐに来たからのう。それで、どういうことじゃ?」
「深夜、サタケの下に妖刀らしき物を持っている者を発見したと連絡が入った。サタケはその報告の場所へ向かった」
「一人でか?」
「いや、部下を1人連れて行った」
つまり2人。
「駆けつけたとき、男の後を付けていた男が倒れていたのを発見。サタケと一緒に来ていた者に、倒れている男を連れて退避するように指示を出した。部下はサタケの指示に従い、倒れていた男を連れて城に戻った。そして、すぐに部下は仲間を連れてサタケのところに戻ったが、サタケはおらず。周辺を捜したが見つかっていない」
「つまり、どこかで殺されたってこと?」
「もしくは、妖刀に取り憑かれたかのどっちかじゃのう」
どっちの状況でも最悪だ。
死んでいるか、妖刀に取り憑かれている。
「後者だ。現場に一人の男が倒れていた。妖刀を持っていた人物だ。そして、現場には妖刀は落ちていなかった」
つまり、妖刀を持ったサタケさんが消えたってわけか。もしくは近くにいた誰かに取り憑いて逃げた可能性もあるけど、今まで連絡がないのもおかしい。
「殺されていなかったから、よかったと言うべき?」
「それは、サタケが誰も人を殺さなかった場合じゃな。サタケが人を殺せば、最悪の状況になる」
カガリさんの言葉に、息を呑む。
現状では誰も死んでいないけど。サタケさんの行動次第では多くの人が死ぬ可能性だってある。
「それって」
「一般人や冒険者が人を殺すより、サタケが人を殺せば問題が大きくなる」
サタケさんは国の部隊長をしている人物だ。それが無差別に人を殺すようなことになれば、国の問題になりかねない。
一般人が殺人を起こすのと国民を守る警察官が殺人を起こすのでは、問題が大きくなるのは後者だ。
「ああ、だから、サタケが問題を起こす前に見つけないといけない」
どこまで庇うことができるか分からないけど、最悪、死刑ってこともあり得る。
妖刀に操られていたって証明するのは難しいだろうし、国が殺人者を庇うようにも見える。
「だから、今、動ける者でサタケを見つけ次第、妖刀の回収の指示を出している」
「妖刀の回収? サタケを殺すつもりか?」
「あくまで妖刀の回収が優先だ」
カガリさんの言葉にスオウ王は苦虫を噛み潰したような表情をしながら答える。
つまりサタケさんの状況次第では殺すってことだ。
「被害を最小限に収めるのは国王の仕事だ」
スオウ王だって、サタケさんを殺したくはないと思う。
でも、サタケさんを殺さなければ、被害が大きくなるなら、殺すしかない。
だから、王として決断をしたんだと思う。
「お主、バカか」
「カガリ?」
「仲間に殺させるな」
「だが」
「現段階で、殺人は起きていない。完全には取り込まれていないってことじゃろう」
「だが、逃げている時点で取り込まれていると思っていいだろう」
そう。意識があれば逃げる必要はない。
城に助けを求めればいい。
なのに、姿を消している。
状況は悪い方向へ行っている。
「じゃが、まだ間に合う。お前さんを慕っているものを切り捨てるな。国を支えるには、ああいう奴は必要じゃ」
確かに、得体の知れないわたしのことを警戒したり、疑ったりしたのも国のためだったかもしれない。
国王の言葉に「はい」と素直に従う人物は必要だけど、ときには「いいえ」と答える者が必要だ。国王だって人間だ。間違えることだってある。わたしが悪人で国王を騙している可能性だってあるんだから。
「妾が、ちゃんと生きてサタケを連れ戻してくる」
「そうだね。わたしも手伝うよ。サタケさんにはお世話になったからね」
「カガリ、ユナ、感謝する」
いざとなれば魔法を使えばいい。
もし、妖刀に逃げられても、サタケさんを助けることはできる。
それに次拾った人が一般人とか、サタケさんより弱い人であれば回収出来る確率は高くなる。
サタケさんは部隊長になるほどの実力者だ。
「でも、そのサタケさんの居場所が分からなければ、なにもできないよ」
「そうじゃのう」
「でも、なんで隠れているんだろう。逃げる心が残っているなら、城に来たほうが被害は少ないと思うんだけど」
無抵抗の住民より、強い兵士などがいる城のほうがいい。
「妖刀はそれぞれ違う。妖刀馬鉄は名刀を探す。逃げているのでなく、別の目的を探しているのかも知れぬ」
「それだったら、サタケさんは目立つんだから、見つけられてもいいと思うけど」
「まあ、ここで話していてもしかたない。今は手当たり次第探すしかないじゃろう。それじゃ妾たちは行く。新しい情報が入ったら、サクラのところに頼む」
わたしとカガリさんは部屋を後にする。
「それで何か当てはあるの?」
「あればスオウの奴に言って、調べさせておる。人数は武器じゃからのう」
「それじゃ、どうする?」
「どうするかのう」
「でも、カガリさんには妖刀右京を探すって目的があるんでしょう? こっちはわたしが対処しようか? 妖刀を逃しちゃったし」
「サタケが持っている妖刀が右京かも知れぬ。それに現状では情報はないから、かまわぬ」
わたしとカガリさんは手分けして探すことになった。
いつものことだけど街の中を歩くと人に見られる。
こればかりは仕方ない。
どこに行っても着ぐるみの格好は目立つ。
違和感がないのは夢の国ぐらいだろう。
う〜ん、この広い城下町で人一人探し出すのは大変だ。
東京みたいに人が多いわけじゃないけど、それなりの人がいて、建物があって、広い。
そうなると相手が動かないと出てこないかも。
……そうだ。
どうせ、街の中を探すなら、別の妖刀も一緒に探せばいい。
妖刀赤桜が魔力に反応すると書物に書かれていた。
カガリさんの言葉じゃないけど、サタケさんが持っている妖刀が妖刀右京の可能性もあるけど、妖刀赤桜の可能性もある。もし妖刀赤桜なら魔力に反応するかもしれない。
わたしは体に魔力を纏わせる。
妖刀の釣りの開始だ。
わたしは魔力を纏いながら城下町を歩く。
サタケさんを捜索することになりました。
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一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




