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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、海に行く
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86 クマさん、町を探索をする

 美味しい食事でお腹も膨らみ、部屋に案内してもらう。

 部屋も沢山空いているため宿で一番広い一人部屋をお値段据え置き価格で用意してくれた。

 少し大きめのベッドに腰をかけ、クリモニアの街にいるフィナにクマ通話を使ってミリーラの町に着いたことを伝えた。

 フィナはわたしが無事に町に着いたことを安堵してくれる。

 そんなフィナを心配させたくなかったので、クラーケンや町の状況は教えなかった。

 ただ、しばらくは街に戻らないことだけは伝えた。


 朝起きると、ベッドの上に大きな黒い饅頭と白い饅頭があった。

 何だろうとよく見るとくまゆるとくまきゅうがベッドの上で丸まって寝ていた。

 昨日の夜に、防犯対策で召喚しておいたのを思い出す。

 15歳の乙女が寝ているんだ。そのぐらいの防犯対策は必要だ。

 でも、くまゆるたちは気持ちよく寝ているけど、誰かが来たら起こしてくれるよね?

 信用しているからね。

 寝ているくまゆるたちを撫でる。

 くまゆるたちは小さな欠伸をするとすぐに丸くなってしまう。

 そんなくまゆるたちを手袋に戻し、ベッドから起き上がる。

 わたしは白くまから黒くまの服に着替えなおして1階の食堂に向かう。


「早いな、飯ならできているぞ」


 マッチョが朝食を出してくれる。

 筋肉マッチョが作ったとは思えないほど料理は美味しい。

 この宿にはマッチョの奥さんと奥さん似の子供たちも働いている。

 息子さんはわたしよりも年上で宿を手伝いながら漁師をしているとのことだ。

 宿屋の食事の魚は息子さんが獲ってきて料理をしていたらしいが、現在は海に出れず、宿の手伝いをしている。

 娘さんの年はわたしと同じぐらい(身長は向こうの方がかなり高いけど)、母親の掃除、洗濯、食事の準備の手伝いをしている。

 二人を見たときマッチョでなくて良かったと思った。

 奥さんの遺伝に感謝だね。

 美味しい朝食を食べ、のんびりとしていると、ユウラさんがやってきた。


「ユナちゃん、おはよう。よく眠れた?」

「おはようございます。良い宿を紹介してくれたので、よく寝れましたよ」


 食事休憩も終わったので宿を後にする。


「それで、どこから行く?」

「まずは海かな。魚が売っている場所があれば見てみたかったけど」


 今は市場とか無いんだよね。


「魚は商業ギルドが仕切っているから、買うとしたら商業ギルドだけど。馬鹿馬鹿しい値段よ」


 まあ、浅瀬しか捕れない状態だから高いのは仕方ない。

 お金は有るから買えるけど、ラーニャさんの話を聞くと心理的に商業ギルドでは買いたくなくなるんだよね。


「あとは冒険者ギルドに行きたいかな」


 クラーケンと戦うつもりは無いけど、盗賊の件は情報が欲しい。

 盗賊を倒せば道は通れるようになる。そうすれば最低限の物資は入ってくるだろうし、ユウラさんみたいに山脈を越えようとする者もいなくなる。


「ところでダモンさんは?」

「ダモンはユナちゃんに貰った食材を知り合いに配りに行ったよ」

「大丈夫? 足りている?」

「しばらくは大丈夫よ。お互いに少ない食材を交換してるからね」

「足らなかったら言ってね」


 しばらく歩くと海岸が見えてくる。

 視界に大きな海が一面に広がる。

 青い海、広がる海、青い空。クラーケンがいるとは思えない穏やかな海だ。

 目線を左に移すと多くの漁船が港に停泊している。

 クラーケンが居なければ多くの漁船が海に出ているんだろう。


「ユウラさんの船もあそこにあるの?」

「ええ、あるけど。今は商業ギルドの許可が無いと動かせないのよ」

「どの辺にクラーケンって出るの?」


 わたしは見える海を指してみる。

 この広い海、静かで穏やかにしか見えない海にクラーケンがいるとは思えない。


「どこって決まってないよ。遠出をする船は必ず襲われる。近くで魚を捕っていた者も襲われることもあるから、一概にどこに現れるって言えないのよ」


 現状でわたしにクラーケンを倒す方法は無い。

 海の上で戦う方法を持っていない。

 空は飛べないし、海は潜れない。

 ゲームの時は、イベントアイテムで水の中でも息ができるアイテムが存在した。だから、船の上から落ちても死ななかったし、攻撃もできた。

 せめて地上に来てくれれば焼き殺して、巨大イカ焼きでも作ってあげるんだけど。

 まあ、こればっかりは無い物ねだりをしても仕方ない。

 万能クマも海の中では活躍はできない。

 ランクSの冒険者や軍隊が動くのを祈ろう。


「こんな静かだとクラーケンがいるとは思えないんだけどな」


 海岸沿いを歩き、辺りを探索する。

 この先にある砂浜に子供たちがいる。

 もしかして、アサリでも採っているのかな。

 アサリの味噌汁が飲みたくなる。

 日本食が恋しくなってくる。

 ほんと、誰かクラーケンを倒して欲しい。

 わたしがお金を出すからSランク冒険者が討伐に来てくれないかな。

 そんな事を考えながら、道を歩く。

 砂浜のさらに遠くには崖が見える。


「あの崖の先に盗賊が現れるから、行くなら気をつけてね 」


 ユウラさんが忠告してくれる。

 わたし、一人で歩いていれば襲ってくるかな?

 そうなら、出向かなくて済むから楽なんだけど。


 海を一通り見たわたしは、海を後にして道具屋、武器屋などに案内してもらう。

 最後に、商業ギルドと冒険者ギルドの場所を教えてもらうと、ユウラさんとはここで別れる。

 先に一人で冒険者ギルドに行くことにする。

 ユウラさんと別れて一人で行く理由は過去の経験から学んだためだ。

 初めて行く冒険者ギルドでは必ず因縁をつけられる。(主にわたしの格好のせいで)

 そんなところにユウラさんを連れていくことはできない。


 そんなわけで一人で来た冒険者ギルドはさほど大きな建物ではなかった。

 クリモニアの街の冒険者ギルドよりも小さい。

 わたしは冒険者の喧嘩を買う心構えをしながらギルドに入る。

 中に入ると冒険者の全員の視線がわたしに……向かなかった。


「誰もいない……」

「あら、失礼ね。ちゃんといるわよ」


 声がした方を見ると露出狂がそこにいた。

 強調された大きな胸。肌が見える腰周り、短いスカート。

 女性は椅子に座りながら、お酒を飲んでいる。


「あら、可愛いクマさんがこんな冒険者ギルドになんの用かしら?」

「ここ冒険者ギルドよね?」


 間違えて大人のお店に来ちゃった?


「そうだけど」


 冒険者ギルドで合っているらしい。


「それじゃ、どうしてギルドに露出狂がいるの?」

「あら、失礼ね。これはわたしの私服よ。男は喜んでくれるのよ」


 そう言って胸を強調する。

 今の薄い胸板のわたしにはできない技だ。

 あと、数年もすればできるけど。


「でも、その見てくれる男って言うか、冒険者が誰もいないんだけど」

「いるわけないでしょう。くまさんはこの街のこと聞いていないのかしら?」

「クラーケンと盗賊が現れて困っている話は知ってるよ。そして、高ランク冒険者は一部の市民と一緒に逃げ出したけど、街には低ランク冒険者は残っているって聞いた」

「だいたい合っているわよ。ただ、残っている冒険者は商業ギルドの方にいるわよ」

「冒険者が商業ギルドに?」

「低ランクとは言え、低ランクの魔物や動物は狩れるわ。それを高いお金で買い取ってくれるからみんな、あっちに行ったわ」


 なるほど、冒険者ギルドではなく、商業ギルドに売ればお金になるってわけか。

 つまり、冒険者は巨乳よりもお金を選んだわけか。

 口に出して言わないけど。


「冒険者ギルドは高く買い取らないの?」

「あら、わたしにあんな奴と同じことをしろと」


 女性は睨みつけるようにわたしを見る。

 一瞬、女性の鋭い目付きにたじろいてしまう。


「ふふ、冗談よ。そんなに怖がらないで。それでくまさんは冒険者ギルドに何しに来たのかしら?」

「海沿いに現れる盗賊の件とクラーケンの情報を聞きに来たんだけど」

「あら、聞いてどうするの? クマのお嬢ちゃんが倒してくれるのかしら?」

「クラーケンは無理だけど、盗賊の方は情報次第で倒すつもり」


 そう返事をすると女性は笑いだす。


「ふふ、あはははははは……。久しぶりに笑ったわ。クマのお嬢ちゃんが盗賊退治? 盗賊の中には、あなたみたいな小さな子が好きな盗賊もいるのよ。捕まったらどうなるか分かっているの?」

「盗賊退治ぐらいできるよ」

「あらそう。なら、これ以上は何も言わないわ。もし、捕まったとしても助けが来るとは思わないでね」


 女性は面倒くさそうに言う。


「それじゃ、ギルドカードを出して」


 女性はギルドのカウンターの中に入る。


「あなたは?」

「ああ、そういえば名乗っていなかったわね。わたしはこの街の冒険者ギルドのギルドマスターのアトラよ」


 まさかの露出狂がギルドマスターとか。

 人材不足かな。

 アトラさんにギルドカードを渡す。


「他の職員はいないの?」

「街がこんな状況でのんびりしているほど、ギルドは暇じゃないわ」


 あなた、今暇そうにお酒を呑んでいなかった?


「戦闘の心得があるものは山に食料を捕りに、力のある者には近くの町へ冒険者の派兵の交渉を。それ以外の者は魔物、動物の解体。食料の配布をしているわ」

「食料の配布?」

「ええ、食料難だからね。食料に困っている住人は沢山いる。見殺しにするわけにはいかない。できることは、できる限りやるわ」


 見た目とは裏腹に住人のために頑張っている優秀なギルドマスターだった。

 でも、それって町長の仕事だと思うんだけど。


「町長は何をしているの?」

「何もしていないわよ。全財産持って逃げたからね。だから、今、この町を管理しているのは商業ギルドなのよ」


 町長、駄目じゃん。

 国から命じられて管理しているわけじゃないから刑罰にはならないのかな?

 この世界の政治は分からないから考えても無駄かな。

 アトラさんはわたしから受け取ったギルドカードを水晶板に乗せて操作をする。


「冒険者ランクD……」


 アトラさんはわたしの冒険者ランクを読み上げる。


「これは……」


 目を細めながら水晶板に浮かび上がる文字を読んでいる。


「……英雄」


 アトラさんの口からそんな言葉が漏れた


「魔物……討伐に……タイガー……、ブラック……依頼達成率100%……」


 聞き取れないほど小さな声で呟いている。聞き取れる断片からはわたしが討伐した魔物の内容を見ているようだ。

 アトラさんはわたしのギルドカードの内容を見て水晶板に浮かんだ文字を見たまま固まっている。

 

「どうしたの?」

「ああ、ごめんなさい。ギルドカードの内容に思考が追い付かなかったのよ」

「ギルドカードの内容?」

「エルファニカの英雄、タイガーウルフ討伐、ブラックバイパー討伐。依頼達成率100%、エルファニカ王都のギルドマスターの伝令書。最後にエルファニカの国王陛下の刻印がギルドカードに押されているわ」


「そのエルファニカの英雄ってなに? ギルドマスターの伝令書? 国王陛下の刻印? 初耳なんだけど」

「エルファニカの英雄……エルファニカの王都のギルドマスターと国王陛下がその偉業を認めた場合に付けられる称号よ。あなた、何をしたの?」


 何をしたのかは書かれていないらしい。


「ちょっと魔物を倒しただけよ」

「倒しただけって……あなた、これがどんだけ凄いことか分かっている?」


 知るわけがない。この世界に来て数ヶ月、この世界の常識なんて知らないよ。


「それに国王の刻印。こんなの押されるなんて何をしたのよ」

「国王の刻印って何よ?」

「国王がもっとも信頼を置いている冒険者や商人に送られる刻印よ。国のために働き、過大なる功績を残した者に与えられるわ。あなた年齢詐称していないわよね」

「15歳の乙女よ」


 そんな物がギルドカードに書かれていたり、押されているなんて知らなかった。

 勝手にしないでほしい。

 これって、新しいギルドに行く度に騒がれることになるの?


「消すことってできるのかな」

「な、何を言っているの!? 消せるわけ無いでしょう。国王の刻印よ」

「そうやって騒がれるのが面倒なんだけど」

「それなら、大丈夫よ。エルファニカの英雄も国王の刻印もギルドマスターしか見れないから、普通に使う分には誰も気づかないわ。ギルドで困ったときにギルドマスターに見せればかなり優遇してくれるんじゃない?」


 昔の時代劇に出てきた印籠みたいな物かな。


「でも、ギルマスが言いふらせば意味がないような」

「それは王都のギルドマスターの伝令書に、このことは口外することを禁じるように書かれているから大丈夫。話せば処罰を受けることになるわ」


 ちゃんと口止めはしているらしい。

 困ったときにはありがたく、印籠代わりに使わせてもらう。


「強い冒険者は歓迎よ。改めて歓迎するわ」


 手を差し出してくるのでクマさんパペットで握手をする。


「それで、英雄さんに単刀直入に聞くけど、クラーケンは倒せる?」

「無理。倒す方法が無い。海の中にいるんじゃ攻撃もできない」


 無理だということをはっきりと伝える。


「そう、やっぱり無理よね」


 残念そうに言う。

 こんな15歳の少女にクラーケン討伐ができると思わないでほしい。


「でも、盗賊の方はどうにかするよ」

「ありがとう、それだけでも助かるわ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 「国王何してくれとんじゃぁぁあああっっっっ!!!!!!」 とかなんとか叫ぶゆっくりユナを幻視したw
[一言] ギルドカードの『隠し項目』の件、この一回きりしか出てきていないんですよね。 その後、どうなったのかなぁ。 最低限でも『ミリーラの救世主』くらいは入ってそうです。 でも、『冒険者ギルドでも把…
[良い点] 黒い饅頭と白い饅頭······ なんたる可愛さ。
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