869 クマさん、最終準備をする
髪の色を染めたノアとミサは、店のリバーシ対戦スペースに参加するようになった。
孤児院の子供たちは、ノアとミサに会っているはずなのに気付いた様子はない。
服装に髪の色、さらには髪形も変えてある。
ちなみに、ノアとミサは髪を後頭部で一つにまとめてポニーテールにしている。
さらには口調もなるべく変えて話している。
そのせいもあって、誰も気付かない。
変装は完璧みたいだ。
「ノア様とミサ様、楽しそうですね」
2人は気兼ねなくリバーシができて、楽しそうにしている。
ノアの表情がコロコロと変わるから面白い。
そして、最後はノアは頭を下げる。どうやら負けたらしい。
ミサのほうはといえば、嬉しそうな顔をしている。どうやらミサは勝ったみたいだ。
「フィナはやりにいかないの?」
「孤児院のみんなやシュリとやっているから」
フィナもそれなりに練習はしているみたいだ。
それからも、ノアとミサは交互に対戦して戻ってくる。
「疲れました」
「お疲れ様」
わたしは飲み物を渡してあげる。
「誰もわたしのことに気づきませんでした」
「変装は完璧だね」
服装や髪の色、さらには髪型まで変えて、貴族の令嬢がこんなところでリバーシをやっている、とは思わないよね。
「対戦の方はどうだった?」
遠くから顔を見ていたから、ある程度は分かっているけど。
「4回やって、2回しか勝てませんでした」
「わたしは、4回やって3回勝ちました」
対戦相手によると思うけど、ミサは勝ち越したみたいだ。
「初めは知らない人とやるのは緊張しましたが、楽しかったです」
大会でも知らない人とやるから、いい経験になったみたいだ。
リバーシ大会の日が迫ってくる。
そんな中、リアナさんに相談された。
「ユナさん、どうしましょう」
参加者が予想以上に集まっているとのこと。
「止めなかったの?」
「その、応募箱をそのままにしていたら、いっぱいになっていて」
だからといって、どうしましょうって。
参加人数は13歳以下は60名近くになっており、14歳以上が120名になりそうだと言う。
大会の場所は貸出広場、その日はリバーシのイベントのため、一日広場を借りられるように手配していたらしい。
でも、このままでは参加者だけでなく、応援に来る人のことも考えるとキャパオーバーだ。
さらには屋台も出ることになっているらしい。
ムリだね。
「う〜ん、それなら、広い場所に変更したら?」
「わたしも考えたのですが、それだけの人数となると、今からだと限られた場所しかなく」
「あるの?」
「ありますが、岩が転がっていたり、地面はでこぼこだったりして」
「どこ?」
「孤児院へ向かう途中にある開けた場所です」
ああ、確かにあるね。
あそこだったら十分な広さがある。
岩や地面のでこぼこぐらいなら問題はない。
「大会の必要な物って?」
「リバーシ、机、椅子。でしょうか。用意していましたが数が足りません。そもそも広場に置けません」
なんでも、対戦コーナーのおかげでリバーシが売れて、大会用のリバーシを増やすことが難しいとのこと。
しかも、人数が増えて机も椅子も足らないそうだ。
「それに、屋台も並ぶ予定ですから、さらに人が増えるかと」
それを考えるなら、
「でも、今から場所を変更しても大丈夫なの?」
「チラシを貼ります。当日にも会場予定だった場所に、誘導員を置きますので大丈夫だと思います。それにあそこなら、会場からも近いので時間的にも間に合うかと」
「それじゃ、そこに会場を作っちゃおう」
問題がないなら会場を作るだけだ。
「今から準備して間に合うでしょうか」
「そこは魔法でちょちょっと」
「ちょちょっとって。そんなに簡単に」
「とりあえず行ってみようか」
わたしとリアナさんは孤児院の方へ向かう。
このあたりは、街の中心から離れているため建物は少ない。
街を囲う壁際は不便なので人は住まない。
ちなみに街の入り口は別だ。あの通りは中心まで道がちゃんとしており、多くの建物が並んでいる。
「このあたりだよね」
「はい。広さはありますが、岩や地面がでこぼこしていますね」
地面がデコボコしているので、机や椅子を置けば傾く。
岩も転がっており、雑草も生えている。
「まあ、見てて」
わたしは開けた場所の中央に立つ。
このあたりでいいかな。
地面に魔力を流す。
へこんだところは地面が盛り上がり、山なりだったところはへこむ。
広場一面が平らになる。
「ユナさん、なにをしたんですか?」
「見てのとおりに、魔法で平らにしただけだよ」
「そんな、簡単に言わないでください。こんな広さを。でもユナさんなら……」
久しぶりの反応だ。
「あとは岩をどかせば大丈夫だと思うよ」
わたしはクマボックスに岩を入れていく。こういうときクマボックスは便利だ。
そして、あっという間に平地の完成だ。
「机と椅子も作っちゃおうと思うけど? どうする?」
「作っていただけるなら、運ぶ手間がかからないので、助かりますが」
了承を得たわたしは、等間隔にテーブルと椅子を作っていく。
テーブルの上にはリバーシ盤も設置済みだ。
「魔法で作ったテーブルと椅子だから。大会が終わればわたしが片づけるから」
「ユナさん、ありがとうございます」
「あとは、リバーシの石だけだけど、それなら用意できるでしょう?」
「はい、大丈夫です」
あとは、周囲に簡易観客席を作る。
階段みたいになっているやつだ。
上から様子を窺うことができる。
「こんなものかな」
「ユナさんの凄さは分かっているつもりでしたが、分かっていませんでした」
会場を見てそんなことを言う。
「ユナさん、ありがとうございます。わたしのミスで」
「誰だって、初めてのことは分からないことばかりだよ。ミスから学ぶこともあるよ」
「先輩にも言われますが、年下のユナさんに言われると」
「そういえば、ミレーヌさんに相談しなかったの?」
「しました。ユナさんに相談してダメだったら、一緒に考えてくれると」
つまり、ミレーヌさんに任せてもよかったのかもしれない。
まあ、ノアたちも楽しみにしていることだし、成功してほしいから、手を貸すぐらいはいいんだけどね。
会場の準備も終わり、わたしの家では、ノア、ミサ、フィナ、シュリがリバーシの対戦をしている。
わたしはその風景をまったりと見ている。
「わたしの勝ちです」
「負けました」
ノアが勝ち、フィナが負ける。
「どうにか勝ちました」
「うぅ、負けた」
ミサが勝ち、シュリが負ける。
「シュリちゃん、年下なのに強いです」
この中では最年少だ。
それなのに、ノアたちと同格に戦っているのはすごいことだ。
「今日のところはこれで終わりにしましょう」
「ええええ」
ノアの言葉にシュリが声を上げる。
「勝つためには頭を休ませるのも大切ですよ」
「そうなの?」
「お父様が言っていました。疲れていては頭が回らず、いいアイディアは浮かばないって」
「確かにそうだね。運動だって、体を休ませないと動けなくなるからね」
「お父さんも言っていました。疲れているとミスが多くなって危険だから、解体するときは気をつけるようにって」
なんでもそうだけど、疲れていたら集中力は続かない。
「頭も同じです。明日勝つために休ませましょう」
みんなの言葉でシュリも納得する。
「それで、みんなの対戦成績は、どんな感じなの?」
フィナたちは対戦の結果を紙に記入している。
「えっと、少し待ってください」
ノアが紙とペンを持つ。
「この数日間の結果は。わたしは18勝で、ミサが16勝、フィナが15勝、シュリが12勝ですね」
「うぅ」
シュリが悲しそうにする。
試合を見てた感じ、ミサは頭脳派。シュリはひらめき派、フィナは堅実派って感じだ。ノアは頭脳とひらめきの両方を持ち合わせている感じだ。
たまに、ミサは相手を誘導させる感じに石を置くことがある。そこに石を置けば、多分相手は次にそこへ置くだろうと考えてって感じだ。
フィナは堅実に石を置いていく。
シュリは予想外のところに置く。それがハマれば勝てるが、ほとんどが悪手で負けることが多い。
ノアはミサとシュリの両方の頭脳を持っている感じだ。
初めは直感で動き、後半はしっかり考えている。
「でも、くまゆるちゃん、くまきゅうちゃんは20勝です」
はじめは冗談のつもりで、くまゆるとくまきゅうにも参加してもらった。
ノアが「手加減無用です」とか言ったこともあって、くまゆるとくまきゅうは本気で対戦をした。
その結果、あまりにも強過ぎて、誰も勝てないので、対戦禁止となった。
ちなみに、くまゆるの指だと石は掴めないので、指先? 爪でコツンと石を置く場所を指示をして、相手が石を置く感じで進ませた。
くまゆるとくまきゅうって、誰よりも頭がいいかもしれない。
次回、大会が始まります。
すみません、ちょっと仕事が入ってしまって1日遅れました。
※申し訳ありません。いろいろと確認作業の仕事が来てしまっため、次回の投稿はお休みにさせていただきます。
※コミカライズ13巻、文庫版12巻の発売日が2025/6/6に決まりました。
※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約が始まりました。
初の子熊化したくまゆるとくまきゅうも付属します。
※祝PASH!ブックス10周年
くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎えました。
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詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。
※投稿日は4日ごとにさせていただきます。(できなかったらすみません)
※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ133話公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝23話公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)
お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。
【くまクマ熊ベアー発売予定】
書籍21巻 2025年2月7日発売中。(次巻、22巻、作業中)
コミカライズ12巻 2024年8月3日に発売しました。(次巻、13巻6月6日発売予定)
コミカライズ外伝 3巻 2024年12月20日発売しました。(次巻、4巻発売日未定)
文庫版11巻 2024年10月4日発売しました。(表紙のユナとシュリのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2025年1月20日、抽選で20名様にプレゼント)(次巻、12巻6月6日発売予定)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。