865 クマさん、確認を取る その3
ノアはパンを購入してくると、わたしの前の席に座る。
買ってきたのはクマパン2つと果汁だ。
「いつも、クマパンだね」
「中に入っているのが違うので、同じではないですよ」
クマパンには普通のクマパンから、中にチーズ、クリーム、肉、野菜、ジャーマンポテトが入ったパンもある。
ノアが食べているのはジャーマンポテトらしい。もう一つがチーズみたいだ。
ちなみに中身が分かるように、裏にはそれぞれの食材が埋め込まれている。
購入者が困らないようにするための配慮もあるけど、作っているときに忘れることもある。
そのための対策だ。
「あのポスターの絵はユナさんが描いたんですか?」
ノアがクマパンを食べながら尋ねてくる。
「そうだけど、分かるの?」
「和の国で描いてもらった絵に似ていますから」
そういえば和の国に行ったときに描いてあげたことがあった。
でも、分かるものだね。
イラストにはその人の特徴がでるっていうし。
「でも、リバーシの大会ですか、気付きませんでした」
「前からポスターは貼ってあったみたいだよ」
いつから貼ってあったかは知らないけど。
「ユナさんが描いた絵が貼られていたら、分かると思うのですが」
「あのポスターは今日からだよ」
わたしは絵を描いた理由を話す。
「確かに店に入って、すぐに気づきました」
効果はあるみたいだ。
ポスターのほうを見ると、立ち止まる人が多い。
効果があると嬉しいものだ。
「フィナは大会に参加するのですか?」
「シュリと一緒に参加するみたいだよ」
わたしの言葉を聞いてノアは考え込む。
「参加は誰でもできるんですよね」
「子供と大人と分かれているぐらいだね」
「わたしは11歳ですから、子供のほうですね。大人のほうでもよかったのに残念です」
大人が子供のほうに参加するのはダメなのは分かるけど、子供が大人のほうに参加するのはありなのかな?
本人が強いと思えば、大人のほうに参加しても問題はないと思う。
本当に細かいところで、穴が多い。
初めてのことだし、考える時間もなかったし、素人だし、仕方ないよね。と自分に言い訳をしてみる。
「それじゃ、参加者はクリモニア限定とかありますか?」
「決めていないけど」
そもそも、他の街から参加する人なんているとは思わないから、考えたこともなかった。
「それじゃ、ミサが参加しても大丈夫ですね」
「ミサ?」
ミサは少し離れた街、シーリンに住む女の子だ。
ちなみにミサはシーリンの街の領主の娘さんだ。
「誰でも参加できるようなら、ミサを誘ってみます」
そう言って、ノアはパクッとパンを食べる。
ノアとミサ(予定)も参加することになり、2名追加だ。
パンを食べ終わったわたしたちは店を一緒に出る。
「それじゃ、ユナさん。今度、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんに会いに家に行きますね」
一人で立ち去っていく。その姿は貴族の令嬢とは思えないほどだ。
いつも思うけど、どこかに隠れた護衛でもいるのかな?
ララさんがノアの居場所を突き止めて、やってくるし。
もしかすると、わたしも気付けない隠密の護衛がいるのかもしれない。
ノアと別れたわたしはお店でリバーシをやってくれる子供たちを確認するため孤児院に向かう。
孤児院に到着すると、ちょうど昼食が終わったところらしく、院長先生、リズさん、ニーフさん、それからティルミナさんの4人が食堂でまったりとお茶をしている。
その近くでは、リバーシをやっている子供たちもいる。
その中にはフィナとシュリもいる。
「ユナさん、いらっしゃい」
「リズさん、昨日の件はどうなりましたか?」
「そのことなら、ティルミナさんに伝えたところですよ」
「参加予定表をリズさんから預かっているわよ」
ティルミナさんが紙を見せてくれる。
その紙には1日目、2日目、3日目と書かれており、その横にはそれぞれ4人ずつ名前が書かれている。
そこにはシュリの名前も入っていた。
でも、フィナの名前はなかった。
「交代で3日ごとに参加することになったわ」
12人ほどが参加してくれるみたいだ。
毎日孤児院から4人。店で働いている子から2人、計6人がリバーシの対戦相手になってくれることになる。
「それで、いつから行かせればいいのか、ティルミナさんに聞いていたの」
「わたしも、把握していないから、後で店に行くつもりだったんだけど」
わたしは店のことを話す。ポスターは完成して、貼られていること、リバーシの用意もされていて、いつでも来てもらって大丈夫なこと。
「それじゃ、今日から行っていいの?」
話を聞いていた子供たちが話に入ってくる。
「う〜ん、どうだろう」
時間的には、お昼時も終わり、ちょうどいい時間だ。
「やるなら、早いほうがいいんじゃないかしら」
ティルミナさんの言葉で、今日から始めることにした。
わたしは1日目に参加する子供たちに声をかける。
そこにはシュリもいる。
「フィナは参加しないんだね」
シュリの横にいるフィナに尋ねる。
「わたし、あまり知らない人と話すのは苦手だから」
「この子は仲良くなると、大丈夫だけど。それまでは緊張するのよ」
ティルミナさんの言葉に思い返してみると、知らない人を紹介するとき、緊張していたかも?
「まあ、フィナは冒険者ギルドの中で働いていたから、仲良くなれば大丈夫なんだけどね」
「うぅ」
フィナは少し恥ずかしそうにする。
そう考えると、シュリは無邪気? 恐れを知らないって感じの子供だ。
それが良いことなのか、悪いことなのかは、わからないけど。
怪しい人には付いていかないように注意しておかないとダメだね。
わたしは紙に書かれた子供たちと一緒に店に向かう。
本当に昨日から、同じ場所の行き来が多い。
「みんな、リバーシは上手なの?」
「僕が一番、強いよ」
「わたしは勝ったり、負けたりする」
「わたし、お姉ちゃんに勝てるよ」
シュリが自慢げに言う。
これは、シュリが強いのか分からない。
フィナの性格なら、手加減して、わざと負けてあげている可能性もある。
「ユナお姉ちゃん、わたし、リバーシ好きだけど、あまり勝てないけど。いいの?」
「大丈夫だよ。リバーシをやったことがない子に教えてあげてほしいだけだから。その好きって言うか、楽しさを教えてあげて」
「うん!」
強い人を求めているわけではない。
リバーシの楽しさを教えてくれればいい。
それに初心者相手に強い子が試合して、全面が同じ色の石になったら、相手はトラウマものだ
「強い人、いないのか。強い人がくると思って、楽しみにしていたのに」
男の子は残念がる。
「分からないよ。リバーシは売れているらしいから、リバーシを持っている人が来る可能性は十分にあるよ」
「本当!」
「来るかもだよ」
来るとは言えないし、来ないとも言えない。
こればかりは分からないことだ。
「初めに言っておくけど、初めての人がいたら、アドバイスをしながらやるんだよ。一方的にやっちゃダメだからね」
「相手がやったことがあるなら、いいの?」
「まあ、その場合はいいよ」
手加減されても嬉しくはないと思うし。
わたしたちは「くまの憩いの店」にやってくる。
お昼も過ぎたので店は名前のとおりに憩いの店になっている。
ケーキやポテトチップス、プリンをゆっくりとおしゃべりしながら食べている子連れの女性が多い。
「ユナさん、おかえりなさい。子供たちを連れてきたってことは今日から、するんですか?」店に入ってきたわたしたちに気付いたカリンさんが声をかけてくる。
「子供たちがやる気になっていてね。あと、これ、参加予定の子供たちの名前が書かれているから」
わたしはリズさんが書いてくれた紙をカリンさんに渡す。
そして、リバーシ予定のテーブルに目を向けると、親子でやっている人がいた。
「カリンさん、あれって」
「とりあえず、置いておきました。置くだけなら、手間はかかりませんので」
しかも手書きで「リバーシ、自由に遊んでください」と書かれたポップが各テーブルに置いてある。
「あれもカリンさんが?」
「はい、エレナさんと話して、あったほうがいいかなと思って、わたしとエレナさんで作りました」
確かにポップとかあったほうが分かりやすい。
「それから、こんなものも作りました」
カリンさんはどこからともなく、同じ大きさのポップを、わたしの前に出す。
そこには「対戦者希望の方は申し出てください」や「初心者歓迎、やり方教えます」と書かれていた。
そこまで頭が回らなかった。
「カリンさん、ありがとう」
「パンやケーキに分かりやすくポップを作ったりするので」
たしかにお店でパンの具材とか書かれたポップを見かける。
「でも、なんでクマが?」
ポップには簡易クマの絵が描かれていた。
クマがしゃべっている感じになっている。
意外と絵心がある。
「なんでもなにも、ここは『くまの憩いの店』ですよ」
反論する言葉が出てこなかった。
「ユナお姉ちゃん、わたしたち、どうしたらいいの?」
「とりあえず、リバーシで遊んで」
「いいの?」
「それで、もし興味を持った人が近づいてきたら、やり方を教えてあげて。もちろん、対戦してもいいよ」
「うん、分かった」
子供たちは空いているテーブルに移動する。
店で働く子供たちも2人ほど参加する。
よくよく見ると、リバーシをするテーブルの近くの壁には大会のポスターが貼られている。
ちゃんと考えられてポスターや対戦テーブルが配置されているみたいだ。
ノアとミサ(予定)の参加することになりました。
※祝PASH!ブックス10周年
くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎えました。
それにともない、いろいろなキャンペーンがあるみたいです。
もしかしたら、クマも参加するかもしれません。
詳しいことは活動報告に書きましたので、興味がある人は見ていただければと思います。
ちなみに「くまクマ熊ベアー」も2015/5/29 に1巻が発売して、2025/5/29 に10周年を迎えます。
これからも続きますので、よろしくお願いします。
※投稿日は4日ごとにさせていただきます。(できなかったらすみません)
※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ133話公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝23話公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)
お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。
【くまクマ熊ベアー発売予定】
書籍21巻 2025年2月7日発売中。(次巻、22巻、作業中)
コミカライズ12巻 2024年8月3日に発売しました。(次巻、13巻発売日未定)
コミカライズ外伝 3巻 2024年12月20日発売しました。(次巻、4巻発売日未定)
文庫版11巻 2024年10月4日発売しました。(表紙のユナとシュリのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2025年1月20日、抽選で20名様にプレゼント)(次巻、12巻発売日未定)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。