857 クマさん、王都に帰ってくる
王都に帰ってきたわたしたちは、くまゆるとくまきゅうを送還し、馬車に乗って城に向かう。
エレローラさんの「馬車を用意して」の一言で、馬車が用意されるのを見ると、流石貴族様だと思った。
馬車は魔法省がある城の入り口から入ろうとしたら、入り口の門番に止められる。
「エレローラ様、国王陛下がお呼びです」
「もしかして、全ての門へ、伝達がいっているの?」
どうやら、エレローラさんは門番に伝達がいっているのを読んで、正門から入らず、魔法省の入り口から入ろうとしたらしい。
「城に戻られましたら、取り急ぎとのことです」
「エレローラ、頑張ってね」
マーネさんは笑顔でそう言うと、反対側のドアから馬車を降りようとする。
でも、そんなマーネさんの腕をエレローラさんが掴む。
「マーネ様、逃がしませんよ」
「呼ばれているのはあなただけでしょう」
「その理由を作ったのはマーネ様でしょう。それと今回のお礼の件で、一緒に陛下に言い訳をしてくださる約束をしましたよね」
お互いに静かに顔を見る。
マーネさんが諦めた表情をする。
「はぁ、分かったわよ」
どうやらマーネさんは、エレローラさんと一緒に国王様に会いに行くことになったみたいだ。
「それじゃ、わたしは一度帰って、明日改めて来たほうがいいかな」
馬車から降りようと立ち上がろうとすると左右から腕を掴まれる。
「「ダメよ」」
「ユナちゃんも一緒に来るのよ」
「そうよ。なに、1人で逃げようとしているのよ」
「いや、わたし、関係ないよね」
わたしの仕事はマーネさんの護衛だ。
「ユナはわたしの護衛でしょう」
「そうだけど」
その護衛の仕事は終わった。
家に帰るまでが仕事だから、王都まで帰ってきたんだから、もはや護衛は必要はない。
「わたしを国王陛下から守って」
国王陛下に一緒に怒られる仕事や、言い訳をする仕事は含まれていない。
なので、返答は一択だ。
「丁重にお断りします」
わたしが謝罪すると門番が申し訳なさそうに声をかけてくる。
「申し訳ありません。クマの格好した女の子が一緒だったら、一緒に連れてくるようにと言われています」
「……なぜ?」
結局、わたしも行くことになった。
まあ、森の奥深くにあった魔法陣のことも伝えたほうがいいと考え、素直に一緒に行くことにした。
わたしたちは国王陛下が仕事をしている執務室にやってくる。
「帰ってきたか」
「本日、魔法省マーネ様に頼まれた仕事から帰ってきました」
エレローラさんはマーネさんに頼まれた仕事って部分を強調しながら言う。
「お前は、全部、俺に仕事を放り投げて」
「緊急だったので」
「それでマーネ。どうして、エレローラを呼んだんだ? そのせいで、俺の仕事が増えたんだぞ」
国王はマーネさんを見ながら尋ねる。
マーネさんは今回のことを説明する。
貴族が関わっていたから、自分だけでは対処ができないため、エレローラさんに助けを求めたこと。
「そのぐらいなら、エレローラでなくても大丈夫だろう」
「わたしが知っている貴族の中で信用ができて、今回のことを知っているのはエレローラだけだったから」
信用しているって言葉にエレローラさんは嬉しそうにする。
確かに、エレローラさんは信頼できる。
「だが、エレローラ。何日も城を空けるようなら、ちゃんと報告するように。今回のことは緊急ってことで許すが、仕事はたくさん残っているから、しばらくは休みがないと思え」
「横暴よ」
ブラック企業だ。
社員が一人休んだだけで、会社が回らないのはダメだと思う。
でも、エレローラさんみたいな優秀な人の替えは簡単に見つからないから、判断は難しいところだ。
「ユナ、マーネが迷惑をかけたみたいで、すまなかったな」
「ううん、一応仕事だから。それで、わたしを呼んだ理由は?」
「大した理由はない。時間があったらフローラに会いに行ってくれと言うつもりだっただけだ」
それだけで、呼びつけないでほしいものだ。
国王に呼びつけられる一般市民の気持ちになってほしい。
「あとで、会いに行くよ」
「それじゃ、それぞれ仕事に戻っていいぞ」
「ちょっと待って」
わたしは声を出す。
「一応、国王様に伝えたほうがいいかなと思うことがあるんだけど」
「なんだ?」
わたしは周りを見る。
国王陛下の仕事を手伝う文官たちが数名いる。
「面倒ごとか?」
「終わったことだけど、報告したほうがいいかなと思って」
「あのことね」
マーネさんも理解したみたいだ。
「あとで、わたしのほうから報告書を提出しようと思ったけど、タイミング的に伝えたほうがいいかもね」
国王はわたしたちを見ると、人払いをさせる。
部屋の中には国王陛下、エレローラさん、マーネさん、わたしの4人だけになる。
「それでなんだ?」
わたしとマーネさんは森深くで見つけた魔法陣のことを話す。
そして、壊したことを。
「たぶん、魔物一万匹集めた時の魔法陣だと思うんだよね」
「魔物はその森から移動があったと報告にあったが……」
「とりあえず、魔法陣は壊したから、魔物が集まることはないよ」
「そうか、感謝する」
「怒らないの? 重要な証拠だったかもしれないのに」
「いや、壊してくれて問題はない。そんなものが残っていれば、誰かが悪用するかもしれない。初めから無ければ、誰も使うことはできない」
どうやら、国王はわたしと同じ考えだったみたいだ。
「それに首謀者は死んでいる。不要なものだ」
ただ気掛かりがあるとしたら、その男の家だ。
家には魔法陣の研究資料が残っている可能性がある。
魔物を呼ぶ魔法陣の原型とか。完成図とか。
さらに言えばユーファリアの街に現れた男の存在もある。
2人とも死んだけど、どこかに研究資料が眠っている可能性は十分にある。
でも、そのことを口にしても解決することではないし、国王も分かっているはずだ。
だから、少しでも魔物を呼ぶ資料は無くしたほうがいい。
話も終わったので、わたしたちは国王の執務室から出る。
「それじゃ、わたしは仕事に行くわ」
エレローラさんが部屋から出ると、そんなことを言い出す。
帰って来たばかりなのに、今回ばかりは同情してしまう。
「エレローラ、ありがとうね。助かったわ。今度、あらためてお礼をするわ」
「それじゃ、今度、食事でも奢ってください」
エレローラさんは、一人廊下を歩いて行く。
わたしとマーネさんは反対方向を歩く。
「それで、あの花で、薬は作れそうなの?」
今回の目的はマーネさんが成長するための薬。
「ええ、一歩近づいたわ」
「一歩?」
「もしかして、完成すると思ったの?」
「うん、まあ」
「そんな簡単に薬が完成するなら、何十年もかかっていないわよ。まだまだ、必要な素材はたくさんあるわよ。こればかりは地道に集めていくしかないわ」
「そうなんだ。わたしにできることがあったら、言ってね。できる範囲だったら、手伝ってあげるよ」
無理難題だったら、断る。
「そのときはお願いね」
「わたしが薬草に詳しければ、採取してあげられるんだけどね」
薬草については無知に近い。探しに行こうにも、同じ草に見える。
「そうね。ユナは冒険者だから、もし、竜の情報があったら教えて」
「竜?」
「ちょっとばかり、竜の素材も必要なのよね」
竜といえば、思いつくのは氷竜だ。
「それって、竜だったらなんでもいいの?」
「そうね。炎竜、水竜、地竜、風竜、いろいろといるけど、竜の魔力が籠もった素材が欲しいのよ」
なに、その四大素材は。
存在するの?
「竜なんて倒せる人なんているの?」
氷竜は強かった。
「別に倒さなくてもいいのよ。通った先に、鱗が落ちている場合もあるし、竜同士の戦いで、死体があがる場合もあるわ」
確かに、氷竜同士が戦っていた。
「そんな情報を得た場合、教えてちょうだい」
これって、どうするべき?
氷竜の素材なら持っている。
でも、マーネさんが言った竜の中には入っていなかった。
「どうしたの?」
マーネさんが下から覗き込むように、わたしを見る。
「えっと、その、氷竜の素材なら持っているんだけど、ダメだよね」
一応、尋ねてみる。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
マーネさんの声が城の中で響き渡る。
わたしは慌てて、クマパペットで、マーネさんの口を塞ぐ。
「うぅうぅ」
マーネさんはクマパペットに口を塞がれて唸っている。
わたしはゆっくりと口から離す。
「はぁ、はぁ、わたしを殺すつもり」
「ごめん。でも、マーネさんが、いきなり大きな声をあげるから」
「だって、氷竜の素材を持っているとか言うからでしょう」
「マーネさん、声が大きいよ」
周りを見るが誰もいない。
「それ、本当なの?」
「うん、まあ」
「偽物じゃないの? 誰かに騙されていない?」
「えっと、氷竜と戦って」
「はぁ?」
わたしは、またマーネさんの口を塞ぐ。
「うぅぅぅぅ」
わたしはゆっくりとマーネさんの口から手を離す。
「戦った?」
「うん」
「それで、なんで生きて五体満足でここにいるのよ」
やっぱり、そういうレベルなんだ。
「でも、氷竜だからダメ?」
「そんなことはないわ。氷竜は四大竜と同等の竜よ。とにかく、ここじゃ話ができないから、わたしの部屋に行くわよ」
わたしは魔法省にあるマーネさんの仕事場に連れて来られる。
「それで、氷竜と戦ったって本当なの?」
「成り行きでね」
「普通は成り行きで戦ったりしないわよ。それでどうなったの?」
「いろいろあって、角と鱗を手に入れた感じ?」
「そのいろいろって部分が気になるところね」
氷竜からお詫びとして貰ったと言っても、信じてもらえないと思う。
「えっと、ちなみに、今持っていたりするの?」
「アイテム袋に入っているよ」
「見せてもらってもいい?」
「どっちを?」
鱗なら見せることはできる。でも、角は大きい。
「できれば両方お願い」
「別にいいけど。他の人には黙ってほしいかな」
これ以上、大騒ぎになるのは困る。
「ええ、約束するわ」
「でも、ここに角を出すのは狭いかな」
前回、くまゆるとくまきゅうを召喚するために、わたしとエレローラさんでマーネさんの部屋を片づけたと言っても、少しだけだ。
「それじゃ、屋上に行きましょう」
王都に戻ってきました。
マーネさんが成長するのも先になりそうです。
書籍21巻2月7日(金)発売中
表紙や店舗購入特典の配布先などは活動報告にて確認をお願いします。
書籍22巻の書き下ろし、店舗購入特典ショートストーリーや書き下ろしのリクエストを募集中です。もし、なにかありましたら活動報告に書いていただければと思います。
※申し訳ありません。文庫版の作業が来たため、次の投稿はお休みにさせていただきます。
次回の投稿は1週間にさせていただければと思います。
※投稿日は4日ごとにさせていただきます。
※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合は活動報告やX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)
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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。