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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
879/907

855 クマさん、領主の家に行く

「でも、ユナに毒が効かなかったのは?」

「毒耐性があるからかな」


 クマ装備のおかげだけど、クマ装備を調べたいと言われても困るので、お茶を濁す感じに言う。


「毒耐性ね」


 マーネさんは疑うような目で見るけど、それ以上の追求はしてこなかった。

 しばらくすると、エレローラさんがやってくる。


「お疲れ様。それでコルボーの様子は?」


 部屋に入ってきたエレローラさんに、マーネさんは早々に尋ねる。


「いまだにコルボーは否定しているわ」

「あれだけの証拠があるのに、往生際が悪いわね」


 現状だとマーネさんとコルボーの会話。(毒殺含む)

 コルボーがマーネさんを襲わせた男たちとの会話。

 リディアさんたちの証言と薬。

 リディアさんと同様に騙された病人の家族。

 薬師の証言などがある。


「そのコルボーはどこにいるの?」

「今は警備隊が牢屋に放り込んでいます。わたしの権限で箝口令を敷かせてもらいました」

「警備隊は領主の管轄でしょう。よくできたわね」

「国王陛下の名前を使わせてもらいましたので」

「勝手に名前を使って、あとで怒られても知らないわよ」

「マーネ様とユナちゃんが殺されかけたんですから、大丈夫ですよ」

「マーネさんは分かるけど、わたし?」

「ユナちゃんは国王陛下のお気に入りだからね」


 わたしが国王陛下のお気に入り?


「それを言うなら、フローラ様のじゃない?」


 正確にはくまゆるとくまきゅうがだけど。


「ふふ、国王陛下もユナちゃんのことを大切に思っているわよ。今回の話を聞いたら、怒るわよ」


 それって国王としてどうなんだろうか。


「それで、コルボーの父親には?」

「さきほど先触れを出しました。明日、屋敷で会うことになっています」

「内容は?」

「息子であるコルボーが作る薬について、患者や薬師に対しての行い。そして、魔法省に勤めるマーネ様の殺人未遂について」

「伝えて、もみ消されないの?」

「証拠、証人はこちら側がすでに確保してるから、なにもできないわ」


 それから、エレローラさんとマーネさんは今後の話をして、エレローラさんは証拠と証言を纏めるために仕事に戻っていった。


「ふぅ、疲れたわ。くまゆるとくまきゅうをお願い」


 マーネさんはベッドに倒れながら頼んでくる。

 わたしとマーネさんは隠れる必要がなくなったので、宿屋に泊まることになった。

 わたしは子熊化したくまゆるとくまきゅうをマーネさんのベッドの上に召喚する。


「ああ、癒されるわ」


 マーネさんはくまゆるを抱えながら頭を撫でている。

 最近、忙しかったマーネさんはくまゆるとくまきゅうに癒やされている。


「あなたもおいで」


 今度はくまきゅうのお腹を触っている。


「ユナ」

「なに?」

「ありがとうね。あなたがいなかったら、死んでいたわ。まさか、コルボーが毒を撒くとは思ってもいなかった。完全にわたしの落ち度だったわ」


 人は追い詰められるとなにをするか分からない。


「しかたないよ。コルボーも同じ部屋にいたんだから」


 本人がいるのに毒を撒くとは思わない。


「それでも、薬師として気付くべきだった」

「コルボーも言っていたでしょう。気付かれないように遅効性で匂いもしない毒だって」


 くまゆるとくまきゅうがいれば、気付いてくれたかもしれなかったけど、その時はいなかった。


「ああ……情けないわ。あんだけ、証拠を集めてコルボーを追い詰める準備までしていたのに」


 そう言って、くまゆるを抱きしめる。

 殺されていたら、コルボーを追い詰めることはできなかった。

 死人に口なしだ。

 マーネさんは先ほどまで、顔には出していなかったけど、ショックだったみたいだ。


「でも、エレローラさんが来てくれたんだから、もう大丈夫だよ」


 翌朝、同じ宿に泊まっていたエレローラさんが部屋にやってくる。

 宿を出ると馬車が二台止まっている。


「2人は、こっちの馬車に乗って」


 エレローラさんが前に止まっている馬車に目を向ける。


「あっちの馬車は?」

「コルボーが乗っているわ」


 どうやら、一緒に連れて行くみたいだ。

 マーネさんとエレローラさんは馬車に乗り、わたしはマーネさんの護衛として馬車に乗る。


「それで、コルボーは未だに否定しているの?」

「ええ、無実だと言っているわ。父親のところに連れて行かれれば大丈夫だと思っているみたいね」


 本当に往生際が悪い。

 しばらく馬車に揺られて、屋敷の前に止まる。

 馬車から降りると身ぎれいな格好をした中年の男性と女性が待っていた。

 もしかして、この街の領主? コルボーの両親?

 エレローラさんが先に降り、マーネさん、わたしと続いて馬車を降りる。

 中年男性は小さい声で「クマ?」と言う。

 わたしと目が合うと、すぐに目を逸らし、エレローラさんのほうを見る。


「エレローラ様、お待ちしていました」

「用件は、昨日、先触れで伝えたとおりよ」

「愚息が申し訳ありません」


 男性は頭を下げる。


「と、父さん。騙されないでくれ!」


 わたしたちの馬車の後ろにあった馬車から転げ落ちるようにコルボーが降りてくる。

 手首を縛られていて、うまく馬車から降りられなかったみたいだ。

 コルボーは立ち上がり、駆け寄ろうとするが、左右から騎士に抑えられる。

 でも、父さんってことは、やっぱり、この街の領主で、コルボーの両親だったみたいだ。


「おまえの話を聞くつもりはない」

「父さん!」


 父親はコルボーを無視して、エレローラさんに目を向ける。


「エレローラ様、ここではなんですので、どうぞ中のほうへ」


 コルボーは叫ぶが、騎士によって口を塞がれる。

 わたしたちは領主夫婦の案内で屋敷の中に入り、応接間に通される。


「本当に愚息が申し訳ありません」


 夫婦揃って、頭を下げる。


「うぅぅぅ」


 わたしたちの後ろでコルボーが唸っている。


「まずは証拠を確認していただきますが、よろしいですか?」

「はい、よろしくお願いします」

「まず、こちらが魔法省のマーネを襲うように指示を出した証拠の録音です」


 コルボーと男たちのやり取りの会話が流れると領主夫婦の表情が曇る。

 さらに続いて昨日のマーネさんとコルボーの会話が流れていると、コルボーの両親は徐々に怒りだす。

 さらにエレローラさんはコルボーの悪事を説明していく。

 患者を意図的に治さず、長期的に薬を販売していたこと。

 薬草を安く買い取っていたこと。

 他の薬師の邪魔をしていたこと。

 効果が薄い薬を販売していたこと。


「おまえって奴は。この家を取り潰しにするつもりか」


 父親はコルボーに近寄ると首根っこを掴む。


「落ち着いて」


 エレローラさんの声で、コルボーを突き放す。

 それからもわたしが知らないコルボーの悪事がエレローラさんの口から次々に説明される。

 商業ギルドと冒険者ギルドに圧力をかけていたこと。

 この街にいる荒くれ者を使って、患者から金を巻き上げていたこと。

 この件に、あのわたしたちを襲った男たちも関わっていたとのこと。

 やっぱり、悪いことをしていたんだね。

 それらの事柄に、全て領主である父親の名前を使っていたこと。


「貴様と言う奴は」


 コルボーの父親は怒り、コルボーを殴り飛ばす。


「お前をフェリトン家から追放する。二度と、この家の門を通ることも、フェリトン家の名を名乗る事も許さん!」


 エレローラさんはコルボーの口を塞いでる布を取るように騎士に指示を出す。


「なにか言いたいことがあれば、いいわよ」

「ち、違うんだ。父さん。全部、噓だ。デタラメだ」

「どうして、エレローラ様が、わざわざ王都から来て、ただの薬師であるおまえを陥れないといけないんだ?」

「それは……」

「それに、これだけの証拠がある。証言も聞けば、間違いなく有罪になるだろう」

「息子を見捨てるのか」

「犯罪者を庇うほど、我が家は落ちぶれていない」


 擦り寄るコルボーを払う。


「エレローラ様、この度は申し訳ありませんでした。息子を管理できていなかったわたしの責任です。どのような処罰も受け入れます」

「現状では、あなたに罪を負わせることはしません」

「ですが」

「彼も大人です。親に責任はないでしょう。ただ、フェリトン家の名が使われたのは事実。それを把握してなかったことに関してはあなたの責任です。ちゃんと周りの声を聞いていれば、気づけたことです」

「はい」


 でも、それが難しい。

 誰かが口を閉じれば、声は届かない。

 それで、クリフも過去に間違いを起こした。


「まあ、それも、賄賂を渡されていたようですが」


 どうやら父親にバレないように対処済みだったみたいだ。

 わたしとマーネさんの証言は必要がないほど話は進んでいく。

 これも領主である父親がまともだったおかげかもしれない。

 親がまともでも、子がとんでもないことはあるし。その逆も、よくあることだ。


「それでは、息子から被害を受けた者には、わたしのほうから謝罪を」

「それはしないでいいわよ」


 今まで、黙っていたマーネさんが口を開く。


「どうしてですか?」

「エレローラも言っていたけど、これはコルボーの責任。親の責任じゃないわ。管理していなかったのは薬師ギルドの責任でもあるわ」


 薬師ギルド、そんなのがあるんだ。

 確か、鍛治ギルドもあるって聞いたことがあるから、似たようなものかな。


「ですが」

「コルボーの財産から償いをさせるわ。大ごとにすれば街が揺らぐこともあるわ。そんなことになれば、他の住民が不安になる」


 信用ができない領主とレッテルが貼られたら、それを払拭するのは難しい。


「もし、息子のことで悪いと思っているなら、薬草園でも作りなさい。それを適正価格で薬師に卸しなさい」

「薬草園ですか?」

「個人でやっている薬師もいるけど、街で作ってくれるなら、緊急時に役に立つわ。でも、それにはお金がかかるから、率先して行う領主は少ない。謝罪の気持ちがあるなら、今後の患者に目を向けて」

「わかりました。薬草園を作らさせていただきます」


 その言葉にマーネさんは嬉しそうにする。

 その薬草園で少しでも救われる病人が増えることが嬉しいのかもしれない。


まともな両親でした。

あと数話で終わるかと思います。


書籍21巻2月7日(金)発売中です。

表紙や店舗購入特典の配布先などは活動報告にて確認をお願いします。


※投稿日は4日ごとにさせていただきます。

※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合は活動報告やX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ131話公開中(ニコニコ漫画125話公開中)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝23話公開中(ニコニコ漫画20話公開中)

お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。


【くまクマ熊ベアー発売予定】

書籍21巻 2025年2月7日発売中。(次巻、22巻、作業中)

コミカライズ12巻 2024年8月3日に発売しました。(次巻、13巻発売日未定)

コミカライズ外伝 3巻 2024年12月20日発売しました。(次巻、4巻発売日未定)

文庫版11巻 2024年10月4日発売しました。(表紙のユナとシュリのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2025年1月20日、抽選で20名様にプレゼント)(次巻、12巻発売日未定)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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>マーネさんは疑うような目で見るけど、それ以上の追求はしてこなかった マーネさんも研究者としていろいろと気になるのでしょうけれど・・・ユナにはツッコんで欲しくない”秘密”が在ることを理解して、追求し…
まさかのまともな両親 たとえ腹黒くても、我が子より優先するものがはっきりしてる並以上の有能 三下系貴族様が悪あがきするよくある展開でなくてちょっと拍子抜け でも何か裏が?いやしかしこれ以上の引き延ばし…
コルボーの態度を見てると情状酌量の余地がないなあ 一応殺人は未遂に終わったから死刑は無さそうだが鉱山送りくらいはありそう
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