82 クマさん、暇になる
短いです。
新天地に行くための繋ぎの話しです。
店はわたしが居なくても平気なので最近は口を出すことはなくなっている。
売り上げも順調、モリンさんは新しいパンを模索中。サンドイッチを作り、挟む具材を研究中。子供たちも仕事に慣れ、楽しく仕事をしている。
新しい料理も増えつつある。
ルリーナさんもギルも冒険者に戻っていった。
2人ともデボラネとのパーティーは解消して、ソロで依頼を受けたり、臨時のパーティーを組んだりしている。
お店の方にもお客様として来店をしてくれている。
わたしは何もすることがないので転移門で王都に向かう。
王都は誕生祭が終わったが相変わらず人は多い。
今日はフローラ姫にプリンを持っていくためにお城に向かう。
わたしが城の入り口に向かうと兵がわたしを覚えていたのか、近寄ると気安く挨拶をされる。
「中に入りたいけどいいかな?」
ギルドカードを見せる。
ギルドカードにはお城への入城許可証が記載されているから問題なく入れる。
入城する用件を聞かれるのでフローラ姫に会いに来たと伝える。
さすがにわたし一人ではお姫さんに会うことはできず、エレローラさんを呼ぶので待つように言われる。
「ユナちゃん、お久しぶり」
「お久しぶりです、エレローラさん」
「フローラ姫に会いに来たの?」
「ええ、しばらく来てませんでしたから」
「わざわざ、クリモニアの街から来たの?」
「しばらく、来れなくなりそうなので」
「まあ、何度もクリモニアの街からは来られないからね」
エレローラさんとフローラ姫の部屋に行くと、なぜか国王がいる。
「陛下、またサボリですか?」
「エレローラ、おまえじゃないんだぞ。俺は普通に休憩だ」
「それこそ人聞きの悪い。わたしはちゃんとユナちゃんの案内役です」
「俺は普段のおまえのことを言っているんだ」
「普段のわたしですか? 真面目人間の塊ですね。それに陛下はなんでフローラ姫の部屋にいるんですか?」
「そんなのユナが来たと連絡が入ったからに決まっているだろう。ユナが来たらフローラのところに来るのは分かっているからな」
二人が言い争っていると、フローラ姫が近寄ってくる。
「フローラ姫、お久しぶりです」
「クマさん。来てくれたの?」
「約束ですから」
クマボックスからプリンを出す。
「プリン持って来ましたから一緒に食べましょう」
「うん」
テーブルの上にプリンを並べる。
一応4つ。
それを見たエレローラさんと国王もやってくる。
「その、ありがとうございます」
誕生祭のときの国王の発言についてお礼を述べておく。
「なんだ、いきなり」
「プリンの件です。お店を守ってくれたようだったので」
「そのことか。俺がおまえに無理やり作らせたんだ。あれぐらいなんともない。何かしてくることがあれば俺か、フォシュローゼ家のクリフに頼むといい」
「そうよ。こき使っていいからね」
「あと、これ渡しておきます」
1枚の紙を国王に渡す。
「なんだ、これは」
「プリンのレシピ。これでフローラ姫に作ってあげてください」
「いいのか?」
「今度、いつ来れるか分かりませんから」
「分かった。ありがたくもらっておく。料理方法は信頼がおける俺の直属の料理人に教えることにする」
「別に洩れてもいいから、その料理人さんの処罰とかは止めてね」
プリンのレシピで処刑とかはやめてほしい。
「安心しろ。王族の料理を作る者の中に情報を漏らす者はいない」
「でも、盗む人はいるでしょう」
「王族の料理のレシピを盗む奴がいたら、相応の報いを与えてやるよ」
国王の笑顔が怖いんだけど。
「あと、しばらく来られないって仕方ないだろう。クリモニアの街は遠いんだからな。たまに来てくれるだけでも娘が喜ぶから感謝する」
クマの転移門があるからすぐに来れますとは言えず。
「それだけじゃなくて、ちょっと海に行こうと思ってね」
「海?」
「王都から、東に行けば海があるんだよね」
前回の情報収集で手に入れた情報だ。
「なんだ、おまえ海に行きたいのか?」
「海の食材が欲しいからね」
「また、食い物か」
「食べる喜びを忘れると人生を損するよ」
「確かにそうだな」
国王はプリンを一口食べる。
「クリモニアの街の近くにも海があればいいんだけど」
「海、あるよ」
「……えっ」
エレローラさんの口から漏れる言葉にわたしは固まる。
「あれはあると言うのか」
「どういうこと?」
「クリモニアの街の北東の位置に大きな山があるのは知ってる?」
わたしは頷く。
街から見える大きな山だ。山脈と言ってもいいかもしれない。
「その山を越えると海だよ。もっとも、山脈を越えるのも山を回り込むのも大変だけどね」
あの大きな山の先に海があったのか。
近いといえば近い、遠いといえば遠い。
「街もちゃんとあるよ。船が無いと行き来は大変だけど、ユナちゃんのクマなら行けるんじゃない?」
「ユナのクマ?」
国王が首を傾げる。
「ユナちゃんにはクマの召喚獣がいるのよ」
「おまえ、そんなことまでできるのか?」
エレローラさんがわたしの召喚獣を説明し始める。
くまゆるとくまきゅうの2匹がいるとか事細かく話す。
話を聞いたフローラ姫の目が輝き始める。
国王も興味を持ち始め、話の流れでクマを召喚することになる。
お姫様の部屋でいいのかな?
「本当にいいの?」
「構わん」
とりあえず、許可が出たのでくまきゅうを召喚する。
「ほんとうにクマだ」
「くまさんだ」
フローラ姫はくまきゅうに近寄っていく。
国王は見ているだけで止めようとはしない。
危機感は無いのだろうか?
「本当におまえさんは何者なんだ」
「ランクDの冒険者だよ」
「どこに1万の魔物を倒すランクDの冒険者がいるんだよ」
「そういえばユナちゃん。魔物を1万も倒したのにランクDのままなんだね」
「あれは、通りすがりのランクAのパーティーが倒したことになっていますから」
「名乗り出ればよかったのに」
「嫌ですよ」
「そんな目立つ格好をして、目立ちたくないとか」
呆れたように言う。
プリンを渡したら早々に帰ろうとしたがフローラ姫がくまきゅうを離さなかったため、夕食までお城に滞在することになった。
海~