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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
859/899

835 マーネ、ユナを心配する

「マーネさん、逃げて!」


 反応が遅れたわたしと違って、ユナは動いていた。

 普通だったら、恐怖で足がすくんで、動けない。

 でも、ユナは違った。 

 ユナは迷いもなく、あの化け物の大猿に向かって走り出していた。


「くまゆる、くまきゅう、みんなをお願い!」


 ここにいても足手纏いになるのは分かっている。

 だからと言って、ユナを置いて逃げるわけにはいかない。

 でも、くまゆるがわたしを掴むと、軽く上に放り投げ、背中に乗せる。


「待って! あなたたちのご主人様が残っているのよ」

「くぅ~ん!」


 わたしの言葉を無視して、くまゆるは走り出す。

 その隣にはリディアとゼクトを乗せたくまきゅうが走る。

 後ろを振り向く。

 ユナが大猿と戦っている。

 あの小さい体で。

 わたしたちを逃すために。

 くまゆるとくまきゅうはご主人であるユナの指示に従って、この場を離れる。


「ユナちゃんを置いて来ちゃったけど、本当にいいの」

「俺たちがいても、足手纏いになるだけだ」


 ゼクトの言うとおりだ。

 残れば、ユナの負担になる。

 離れることが、最善だ。

 ここでユナのところに戻っても、わたしにできることはない。

 わたしは無力だ。


「でも……」

「今はユナを信じましょう」


 わたしの言葉で、リディアも口を閉じる。

 リディアも、自分が戻っても、なにもできないことを分かっている。

 今はユナを信じるしかない。


 しばらく走ると、くまゆるとくまきゅうが止まる。

 くまゆるとくまきゅうは魔物が近くにいれば分かる。

 止まったってことは大猿が追いかけてきていないってことだ。

 つまり、ユナが、わたしたちを逃す時間を作ってくれた。

 わたしたちはくまゆるとくまきゅうから下りて、ユナがいるほうを見る。


「これから、どうするんだ」

「マーネさん、どうします?」


 ゼクト、リディアの2人がわたしを見る。

 わたしは、その質問に対しての答えを持っていない。

 でも、一番年上のわたしが決めないといけない。

 普通に考えれば、このまま逃げる。

でも、くまゆるとくまきゅうは動かない。走ってきた方向を心配そうに見ている。

 この子たちは主人であるユナのところに戻りたいのかもしれない。

 でも、ユナの指示に従って、わたしたちを逃がした。

 動くときはユナが死んだときかもしれない。

 いや、死んだと分かれば、この子たちは大猿に向かっていくかもしれない。

 わたしが悩んでいると、


「「くぅ~ん」」

「どうしたの?」

「赤猿がやってくる」


 リディアがくまゆるとくまきゅうの代わりに答える。

 くまゆるとくまきゅうがわたしたちの前に移動する。


「数は分かる?」

「3、4、5匹だと思う」


 リディアが耳を澄ませながら、確認する。

 そのぐらいの数だったら。

 くまゆるとくまきゅう、それにゼクトとリディアもいる。


「ここで、倒すわよ」


 逃げても、追いかけてくる。

 それに、これ以上ユナから離れたくない。

 ゼクトが剣を抜き、リディアが弓を持つ。

 くまゆるとくまきゅうも「「くぅ~ん」」と鳴く。

 遠くから、赤猿が駆けてくるのが見えた。

 くまゆるとくまきゅうは赤猿に向かって走りだす。


「リディア、くまゆるとくまきゅうの援護を、お願い」

「ゼクトは周囲の確認」

「俺も……」

「ダメよ。もし、他の場所から現れたら、リディアもわたしも対処ができない」


 魔法は使えるけど、強くはない。

 なにより、わたしには実戦経験が少ない。

 クマと猿の戦いが始まる。

 くまゆるとくまきゅうが腕を振るうと、爪の先から風の刃が飛び出し、赤猿を襲う。

 くまゆるとくまきゅうの攻撃は赤猿を切り刻み、二匹の赤猿が倒れる。


「すげえ……」

「強い……」


 わたしたちの心配は不要だった。

 ユナが言っていた通りに、くまゆるとくまきゅうは強かった。

 追ってきた赤猿はくまゆるとくまきゅうによって、全て倒された。

 赤猿を倒したくまゆるとくまきゅうは戻ってくる。

 そして、先ほどと同じように、ユナがいる方向を心配そうに見ている。


「ユナが心配なのね」


 わたしはくまゆるとくまきゅうを触る。

 わたしは決める。

 リディアとゼクトを見る。


「あなたたちは逃げなさい。リディアの音を聞く力があれば、森から抜け出すことはできるでしょう」


 今まで、そうやって薬草を採取してきた2人だ。森から出ることはできるはずだ。


「マーネさんは……」

「残るわ。この子たちは動かない。わたしだけ、逃げるわけにはいかない。それに、わたしの責任だしね。ギリギリまで引き返すつもり。この子たちは、できるだけユナの近くに行きたいと思っているだろうし」


 ユナにもしものことがあれば、紹介してくれたエレローラに伝えないといけない。

 それが、わたしの役目だ。


「ごめん。約束を守れないかも」


 わたしはリディアとゼクトの妹の薬を作る約束をした。

 でも、その約束は守れないかもしれない。


「ユナちゃんは、強いんですよね」

「わたしの信用がおける2人から聞くかぎり、どの冒険者や騎士より強いわ」

「そう言えば、さっきコカトリスとワイバーンを倒したとか言っていなかったか」

「友人曰く、倒したそうよ」


 信じられないけど、エレローラが噓を吐く理由はない。


「それじゃ、俺たちも一緒に行くぜ」

「兄さん!?」

「だって、ユナは強いんだろう。本人の話じゃゴブリンキングと戦って、倒したんだろう」


 ユナはそう言っていた。

 嘘とは思えない口調だった。


「それに、あの巨大スネイクも簡単に倒したんだ。俺が知っている冒険者の中じゃ、一番強い。ユナが勝つことを信じようぜ」

「兄さんが、そう言うなら」


 リディアも残るのに納得したみたいだ。

 わたしたちは引き返すことにした。


「くまゆる、くまきゅう、気づかれないように近くまで近寄れる? ギリギリまででいいの」

「「くぅ~ん」」


 わたしのお願いに、くまゆるとくまきゅうは困った表情をする。

 わたしの言葉を理解しているクマ。本当に不思議だ。


「あなたたちもユナが心配でしょう。もし、近くにいれば、ユナを助けることもできるわよ」

「「くぅん」」


 わたしの提案にくまゆるとくまきゅうは顔を見合わせる。

 くまゆるとくまきゅうの心が揺れているのが分かる。

 もう一押しだ。


「もし、ユナに戻って来たことを怒られても、わたしがちゃんと守ってあげるから」


 そのぐらいはするつもりだ。


「「くぅ~ん」」


 くまゆるとくまきゅうは顔を見合わせて、「くぅん」「くぅん」と鳴き、話し合う。


「クマが会話しているって、本当に凄いわね」


 くまゆるとくまきゅうは話し合いが終わったのか、「「くぅ~ん」」と鳴くと腰を下ろす。

 つまり、乗せて、近くまで行ってくれるみたいだ。


「ありがとう」


 わたしたちはくまゆるとくまきゅうに乗る。


「リディア、音をお願い。大猿とユナの状況、それと赤猿や他の魔物が近くに来たら、教えて」


 音が分かれば、状況が分かる。

 赤猿が襲ってくる可能性もある。

 わたしたちはゆっくりと、ユナのところに向かう。

 来た道を戻っていると、リディアが反応する。


「聞こえました。大猿とユナちゃんが戦っている」


 まだ、ユナは生きていることにホッとする。


「状況は?」


 リディアはすぐに目を閉じ、音を聞こうとする。


「猿の動き回る音が聞こえます。飛び跳ねたり、剣が硬いものか何かにぶつかる音が。金属と金属?」

「金属と金属って、それって、つまり剣と剣で打ち合っているってことか!」


 いや、ユナは剣を持っていなかった。ありえない。

 ……待って、思い出した。

 ユナは騎士団長と試合をした。

 それは魔法?

 いや、違う。

 騎士を目指す女子生徒の代わりに戦ったと聞いた。

 そして、剣であの騎士団長に勝った。

 つまり、ユナは剣も扱える。


「たぶん、ユナが打ち合っているかも」

「ユナは魔法使いだろう」


 わたしもそう思っていた。

 でも、エレローラの話を思い出した。


「ユナは剣も扱えるわ。話を聞いただけだから、実力の方は分からないけど、王国の騎士団長と副団長を倒す力は持っている」

「いや、王国の騎士団長に勝つって、それは冗談だろう」

「わたしも噂で聞いただけだったから、真相は知らなかったんだけど、友人曰く、ユナは倒したそうよ」


 性格は悪かったけど、実力があった騎士団長だった。


「……」

「それが本当なら、ユナは剣と魔法、両方で高い実力を持った人物になる」


 でも、ユナの実力を以てしても、大猿は倒せていないってことだ。

 くまゆるとくまきゅうが歩みを止める。

 どうやら、ここまでのようだ。

 ここからじゃ、まだ遠い。

 わたしはあるものを持っていたことを思い出す。

 アイテム袋から望遠鏡を取り出す。


「マーネさん、そんな物も持っていたの」

「ええ、目的の木を探すのに役に立つかと思って。一応、予備も持ってきているから、見るなら貸してあげる」


 わたしはもう2つ、望遠鏡を取り出し、リディアとゼクトに渡す。

 わたしはすぐに望遠鏡を覗く。

 ユナと大猿が戦っている。

 お互いに動き回る。


「おい、ユナが持っている武器って、ナイフか」


 大猿が持っているのは、ゴブリンキングが持っていた大剣。それに引き換え、ユナが持っているのはナイフだった。

 大猿が振り回す大剣をユナは躱す。

 ときには、大猿が持つ剣をナイフで受け流す。


「凄い」

「あんな小さいナイフで、どうして大きな剣を受け流すことができるんだ」


 ユナは後ろに跳び、距離を作ると炎の魔法を放つ。

 大猿が持つ剣が炎を斬る。

 炎は拡散して消える。

 火はダメよ。

 赤猿は火の耐性を持っている。

 まして、大猿だ。

 そこらの火の魔法では倒せない。

 なのに、ユナは再度、赤猿に炎を放つ。


「なんだ。あの炎の形は」


 ゼクトが言うとおりに、ユナが放った火の魔法は、クマの形をしていた。

 こんな戦っているときに、クマの形にして遊んでいる場合じゃないでしょう。

 やっぱりと言うか、クマの炎は剣によって斬られ、拡散する。


「剣がユナの魔法を吸収している?」


 剣が赤くなっている。

 ゴブリンキングが持っていた剣。

 初めは普通の剣。

 長い間、ゴブリンキングが剣を持つことで、魔力によって変質して、ゴブリンキングの剣となると言われている。

 あのゴブリンキングが持っていた剣が、ゴブリンキングの剣に変質して、大猿の魔力でさらに変質していたら、どれほどの力を持っているか分からない。

 大猿はユナとの間合いを詰めると剣を振り下ろす。

 ユナ!


会話をする感じなのでくまゆるとくまきゅうの「くぅん」は誤字ではないです。

次回、本格的に戦いが始まるため、投稿遅れるかと思います。(戦闘シーンが苦手なため)


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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
ユナのメインウェポンに思うこと、 ゲームではナイフでも空振りになることもないが、実際には空振りになる可能性もあるし、刃が短過ぎて致命傷を与えられない。 せめてショートソード位はあれば致命傷を与えられる…
あ・・・あの大猿の化物って・・・あの戦闘民族の・・・うおっ、誰か来たっ!?
 会話をする感じなのでくまゆるとくまきゅうの「くぅん」は誤字ではないです。  誤字じゃなかったのか、てっきり会話では「くまーん」となくとばかりに・・・
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