819 クマさん、巨大なスネイクと戦う
スネイクに追いかけられている2人の人影が見えた。
手に持っているランタンが激しく揺れている。
わたしたちが気付いたってことは相手もわたしのクマの光が見えているはずだ。
「光が近いぞ」
「やっぱり、人がいるの?」
「そこにいる人、逃げろ!」
スネイクに追いかけられている人物が、わたしたちに向けて叫ぶ。
その後ろには、巨大なスネイクが這いずるように冒険者を追いかけている。
逃げろって、逃げていいなら逃げる。くまゆるとくまきゅうなら逃げることは可能だ。
でも、彼らは途中で体力が切れ、スネイクに襲われると思う。
それに助けると決めたから、逃げることはしない。
人の心配をする前に、自分たちの心配をしたほうがいい。
走りながら叫ぶのだって、大変なはずだ。
そんな経験は一度もないから、知らないけど。
普通ないよね。走りながら、叫ぶことなんて。
そんなことを考えていると、冒険者らしき2人が、わたしたちを視界に入れる。
「クマ!? 前にクマがいるぞ!」
「どうするの?」
逃げていた冒険者らしき人物たちがわたしたちに気付き、速度を緩める。
くまゆるとくまきゅうを見て、このまま走っていいのか、悩んでいるみたいだ。
今は悩んでいる時間はない。
立ち止まれば、巨大なスネイクに追いつかれる。
「そのまま走って! スネイクが来ているよ!」
わたしは大きな声で叫ぶ。
せっかく間に合ったのに、目の前でスネイクに食べられたら目覚めが悪い。
冒険者らしき2人は、後ろを振り向く。
「走るぞ」
「でも、クマが」
「スネイクより、マシだ」
緩めていた速度が上がる。
「ユナ、あれはなに? スネイクなの?」
冒険者らしき2人の後ろに見えるスネイクを見ながら、マーネさんが尋ねてくる。
「大きいけど、スネイクだと思うよ」
わたしの判断材料は探知スキルだけだ。
その探知スキルの反応にはスネイクと出ている。
「あんな、大きなスネイクなんて見たことが無いわよ。やっぱり逃げる? この子たちなら、逃げられるわよね?」
先ほどまで、助けると言っていた言葉はどこに行ったのだろうか。
まあ、大きなスネイクが前から迫って来ているなら、逃げ出したくなるのも分かる。
あくまで、マーネさんは小さいスネイクだと思っていたから、助けると言ったまでだ。
わたしだって、そうだ。
でも個人的には、小さいスネイクが100匹と巨大なスネイク一匹なら、巨大なスネイクを選ぶ。
小さいスネイクが100匹集まれば気持ち悪いが、巨大なスネイク1匹は恐いけど戦いやすい。
そんなことを話している間もスネイクは近づいている。
「マーネさん、瓶をスネイクに向けて投げて!」
「あんな大きなスネイクに薬が効くわけないでしょう。それに投げても、この距離じゃ届かないわよ」
マーネさんは手に持っていたスネイク避けの瓶を握りしめている。
「まさか、近づいてから投げろって言うの? 無理よ。投げる前に食べられちゃうわ」
少し、パニックになっている。
まあ、普通は、大きなスネイクを見たら、こういう反応をするのかもしれない。
「大丈夫だから、投げて!」
「どうなっても知らないからね!」
わたしがお願いをすると、マーネさんは巨大なスネイクに向けて瓶を投げる。
瓶は無理に遠くに投げるため、放物線を描くように飛んでいく。
わたしが思っていたよりも、綺麗な投球だ。
失敗したら地面に瓶を叩きつけていた。
瓶は弧を描くように落ちていく。
「だから、届かないって言ったのに」
届かないのは予想通り。
その落ちる瓶に目掛けて空気弾を放つ。
空気弾は瓶を弾き、巨大なスネイクに向けて飛んでいく。
さらにもう一発!
空気弾をもう一発放ち、瓶の方向を調整する。
瓶は巨大なスネイクの頭に向かって飛んでいく。
瓶は巨大なスネイクの頭に当たると割れ、液体が飛び散る。
巨大なスネイクの動きが止まり、口を大きく開き、「シャ───────」と悲鳴のような声をあげる。
薬の効果はあったみたいだ。
わたしはくまきゅうから飛び降りると、スネイクに追いかけられていた冒険者らしき2人の横を駆け抜け、巨大なスネイクに向かって駆け出す。
冒険者らしき2人とすれ違うとき、「くま」「クマ」と聞こえたが、そのまま走る。
巨大なスネイクとの距離が縮む。
倒す方法はいくらでもある。でも、それは周囲を気にしなければの話だ。
ここは洞窟の中。
本来なら、ブラックバイパーを倒したときと同じようにクマの炎を体内に打ち込めば簡単に倒せるけど、ここは洞窟の中だ。
どこかしらに空気穴があったとしても、洞窟の中で火の魔法を使うのは危険だ。
なら、和の国で大蛇を討伐した方法を使えばいい。
スネイクの進行は止まったが、頭は左右に動く。
「洞窟の中で暴れない!」
スネイクの頭の下辺りに空気弾を撃ち込む。
その反動で、一瞬止まり、口が開く。
わたしは巨大なスネイクの口に向かって跳ぶ。
「ユナ!」
後ろでマーネさんが叫ぶ声が聞こえる。
わたしの手には魔力が集まり、スネイクの口の中にクマの岩が出現する。
そのままクマの岩に魔力を込める。
クマの岩は大きくなり、巨大なスネイクの口が広がる。
口ごと頭を破壊されたスネイクは大きな音を立てて地面に倒れる。
もう、蛇系の巨大魔物の討伐には慣れたものだね。
「ユナ、大丈夫!?」
くまゆるに乗ったマーネさんとくまきゅうがやってくる。
「このぐらい大丈夫だよ」
「大きなスネイクに向けて走り出したときには、驚いたわよ。しかも倒しちゃうなんて」
マーネさんは無理矢理に口を裂かれた巨大なスネイクを見ている。
大きさは戦ったことがあるブラックバイパーより、一回り小さいかな?
ブラックバイパーや大蛇と戦ったことがあるわたしとしたら、苦労する相手ではない。
「それにしても、倒し方がエグいわね」
マーネさんは自分の顎や口を触っている。
もしかしたら、自分の口の中で岩が大きくなっていくことを想像しているのかもしれない。
流石のわたしでも、人に対して、そんなことはしない。
「マーネさん、このスネイクはお持ち帰りする?」
「そうね。このぐらいの大きさになれば、いろいろと利用価値はあるわね。それにこんな大きいスネイクは珍しいから他のところでも欲しがると思うわ」
魔物研究室とかもあるのかもしれない。
それに、マーネさんがいらなくても売ればお金になるかもしれない。
そんなことを思って、近づくと。
「まだ、生きてるぞ!」
後ろから、男性が叫ぶ。
それと同時にくまゆるが「くぅ〜〜〜〜〜〜ん」と鳴き、マーネさんを乗せたくまゆると、わたしのクマ服を咥えたくまきゅうが、この場を離れる。
離れた瞬間、わたしたちがいた場所に重い何かがドスンと音を立てて落ちて、地響きが起きる。
「なに!?」
スネイクの尻尾が地面に叩き落とされていた。
……いや、違う。
……尻尾じゃない。
……頭だ。
尻尾ではなく、頭がゆっくりと持ち上がっていく。
舌をチョロチョロと出し、赤い目がわたしたちを見下ろしている。
「双頭……」
マーネさんが呟く。
わたしはくまきゅうに離すように言い、スネイクを観察する。
「早く逃げろ! そっちの頭は凶暴だ!」
「毒を持っているから、離れて!」
冒険者が叫ぶ。
クマの光に照らされているスネイクの口から紫っぽい液が垂れている。
赤い目がわたしとマーネさんを捉えている。
目が動いたと思った瞬間、口元が動く。
巨大なスネイクは水鉄砲のように液体を吐く。
マーネさんを乗せたくまゆると、わたしとくまきゅうは避ける。
「ユナ、毒よ。気を付けて!」
地面に吐かれた液体は、紫色をしている。
「くまゆる、くまきゅう。マーネさんを連れて、ここから離れて」
ターゲットがマーネさんや冒険者に向かったら面倒だ。
わたしは自分がターゲットになるように巨大なスネイクに向けて風魔法を放つ。
大きな魔法を使いたいが、下手をしたら洞窟が崩れる。
それに気に掛ける必要があるのは攻撃だけじゃない。スネイクが吐く毒が、空気中に舞うようだったら危険だ。
「マーネさん、この毒は液体だけ、それとも空中に舞う?」
液体だけなら問題はない。
でも、気体に変わり、洞窟の中に毒が霧状に舞うようなことになれば大変なことになる。
「そんなの分かるわけがないでしょう。逃げるのが一番よ」
逃げるのも一つだ。
でも、倒さないと先に進めない。
マーネさんが求めるものが、この先にある。
とりあえず、予防線として風魔法を使って、冒険者やマーネさんがいるところに毒が行かないように空気の流れを作る。
「風が……」
「これで毒の危険性は減るけど、気をつけて」
「ユナ!」
「それじゃ、ちょちょっと倒してくるから」
わたしは走る。
スネイクは口を小さく尖らせ、毒の液を放ってくる。
どうすればいい。
倒すとは言ったけど、どうする?
戦闘が長引けば毒が増える。
スネイクは毒を飛ばす。避けたと思ったら、尻尾?
わたしが倒した片方の頭を横に振るう。
地面を這うように破壊された大きな頭が、わたしを襲う。
気持ち悪い。
そんな頭をジャンプで躱し、空気弾を放つ。
スネイクの胴体にショットガンのようにへこみができ、後ろに下がる。
わたしは攻撃の手を緩めない。
でも、スネイクの口は開かない。
もしかして、片方の頭が倒された理由を理解している?
知能が高い?
どうしようかと考えていると、後ろにいたマーネさんが叫ぶ。
「ユナ!」
後ろを振り向くとくまゆるが仁王立ちしている。
そのくまゆるがピッチングフォームに入る。
なに?
「くまゆる、今よ!」
「くぅ〜ん」
マーネさんが叫ぶと、くまゆるが何かを投げる。
瓶だ!
小瓶が回転しながら、スネイクの方へ飛んでくる。
マーネさんが投げたヘロヘロのボールじゃない。豪速球だ。
くまゆるが投げた小瓶は巨大なスネイクの頭に当たり、割れ、スネイクの頭に液体が降りかかる。
液体が嫌いなのか、スネイクが口を開く。
いまだ!
暴れるスネイクに向けて走る。
スネイクは「シャ────────」と声を上げ。
マーネさんが作った薬が嫌みたいだ。
わたしは間合いをつめ、一気にスネイクの頭に向けて跳ぶ。
これで終わりだ。
スネイクの口にクマの岩が現れる。
そのまま、巨大化させる。
毒を吐こうとするが、クマの岩が邪魔をして、吐くことはできない。
毒の液はクマの岩の隙間から垂れ落ちる。
口がどんどん開いていく。
最後は口が裂けて、倒れる。
今度こそ、倒したよね。
双頭蛇でしたが、サクッと討伐しました。
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詳しくは帯にてお願いします。
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一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。