817 クマさん、洞窟を発見する
柱の上から見る景色は見晴らしがいい。
遠くまで見える。
マーネさんは震えながら周囲を見ている。
わたしは位置を確認するため、クマの地図を見る。
ここはマーネさんが薬草を見つけて移動したときかな。これは魔物討伐するときに、わたしが動いた箇所。
通った道がミミズのようになっている。
なので、やってきた方角は分かる。
普通に考えてミミズの先が進む方角だ。
「あっちから来て、あっちに向かって移動しているよ」
「くまゆるとくまきゅうがいないのに分かるの?」
くまゆるとくまきゅうは下でお留守番だ。
「まあ、一応」
「ユナは方向感覚もあるのね」
マーネさんはわたしがクマパペットで指した先を見る。
「進んでいる道が正しければ、どこかに岩山が見えるはずだけど」
目を細めて、遠くを見る。
遠くを見るスキルなんて便利なものはないので、目を凝らして見る。
遠くには魔物らしきものが飛んでいる。
なんの魔物だろう?
「あそこじゃない?」
わたしが魔物らしきものを見ていると、マーネさんが柵に摑まりながら指をさす。
わたしはマーネさんが指さす先を見る。
木々に隠れているが、岩山が見える。
「他にはないわよね」
「見るかぎりはないと思うよ」
周囲全体を見渡すけど、他にはそれっぽいのは見えない。
「それじゃ、あっちに進むってことで決定で」
「ええ」
進む方角が決まったので、わたしは土魔法で作った柱を消す。
「きゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
マーネさんが叫ぶ。
わたしは空中でマーネさんを抱きかかえ、綺麗に地面に着地する。
「くまゆる、くまきゅう、あっちに向かうよ」
下で待っていたくまゆるとくまきゅうに声をかける。
「「くぅ〜ん」」
「マーネさん、行くよ」
「ユ、ユナ〜〜〜〜〜〜〜〜」
マーネさんがいきなり叫ぶ。
「なに?」
「いきなり柱を消さないでよ。死ぬかと思ったでしょう」
マーネさんはわたしの首根っこを掴み、前後に揺らす。
「ご、ごめん」
マーネさんを下ろすと、地面に座り込む。
「冗談抜きで、死ぬかと思ったわ」
「ごめん」
もう一度謝る。
「もう、二度と、上にあがらないからね」
マーネさんは立ち上がる。
「それで、確認だけど。あんな大きな柱を作って、魔力は大丈夫なの?」
怒っていたけど、心配はしてくれるみたいだ。
「大丈夫だよ」
「なら、いいけど。無理はしないでね」
恐い目に遭わせたのに、わたしの心配をしてくれる。
優しい人だ。
わたしとマーネさんはくまゆるとくまきゅうに乗って、上から見た岩山に向けて進む。
「迷い花って、処理しないでよかったの? 迷う冒険者もいるんだよね?」
今後来る冒険者たちのことを考えれば、処分したほうがいい。
マーネさんも迷う冒険者たちがいるって言っていた。
「わたしは冒険者でも探検家でもない。森を切り進むのは、わたしの仕事じゃない。なにより研究者の立場から言ったら貴重な花の処分なんてしないわ。それに、あそこは魔物や動物が寄ってこないから、安全地帯でもあるわ」
「でも、来られないなら……」
意味がない。
でも、マーネさんは首を横に振る。
「古いけど、野営をした跡があったわ。あの場所を分かっている冒険者にとって、安心できる場所よ。活用できる冒険者がいるなら、残すべき。だから、個人的な意見を言えば、なにもしないが正解だと思う」
とある冒険者にとっては危険な花でも、違う冒険者たちにとっては安らぎの場所なのかもしれない。
あの場所が残っているのが証拠だ。
「分かった。わたしもマーネさんの考えに賛成だよ」
他の冒険者が活用しているなら、わたしが出しゃばるわけにはいかない。
納得もしたので、岩山に向けて進む。
昨日と同じように、薬草を見つけるたびにマーネさんは採取する。わたしは、その間に柱を作って進んでいる方角を確認する。
順調に進み、魔物に遭遇することもなく岩山までやってくる。
その近くの木にリボンが結んである。
もう、誰が付けたリボンなのか分からない。
でも、ここに来たことがある冒険者がいるってことだ。
「ここだね」
「どこかに洞窟があるはずだけど」
わたしとマーネさんを乗せたくまゆるとくまきゅうは岩山の周辺を歩く。
近くに魔物の反応はないので、洞窟探しに専念できる。
「くぅ〜ん」
くまゆるが鳴くと走り出す。
くまゆるとくまきゅうが走った先には洞窟があった。どうやら、見つけてくれたみたいだ。
「ここかな?」
「たぶん、ここだと思うわ」
入り口は大きく、巨大な穴が空いている。
奥は暗く、先は見えない。
「うぅ、本当にあの冒険者は、こんな中に入ったの?」
マーネさんは暗い洞窟を見て、入るのを躊躇っている。
確認のため、探知スキルを使う。
「うっ……」
探知スキルにスネイクと表示。
つまり蛇だ。
あのうねうねして、動きが気持ち悪い生き物。
うん、わたしの苦手な生き物だ。
しかも、魔物反応。普通の蛇とは違うはず。
ゲームでも蛇の魔物は出てきたけど、気持ち悪いから離れた場所から魔法で倒していた。
さらに嫌なことに、たくさんの反応がある。
これならブラックバイパー1匹のほうがいい。
口に魔法を放り込んで終わりだ。
「どうしたの?」
わたしの反応を見て尋ねてくる。
「えっと、中を通らないとダメ?」
「わたしだって、こんな暗い中を入るのは嫌よ。でも、この洞窟はトンネルになっていて、抜けた先だって」
洞窟を覗く。
奥は深い。真っ暗だ。
隣に穴を掘る?
でも、洞窟が直進とは限らない。
曲がりくねっていたら、どこに出るか分からない。
「もしかして、魔物?」
「……うん」
「洞窟にいる魔物って……」
「この子たちが言うにはスネイクみたい」
「分かるの?」
流石に黙っておくわけにはいかなかったので、くまゆるとくまきゅうが分かるってことにして話す。
「うん、まあ。全てじゃないけど」
「それ以前に、この子たちと意思疎通はしていたのは知っていたけど、言葉も分かるとは思っていなかったわ」
「これもクマの加護のおかげだよ」
クマ関係で説明が面倒なときは、クマの加護にする。
「クマの加護ね……」
疑うように見る。
「まあ、いいわ。でも、スネイクね。わたしも好きじゃないわね」
どうやら、マーネさんも蛇は苦手らしい。
マーネさんは洞窟を見ながら考え込む。
「そうだ。ちょっと待って」
マーネさんはそう言うと、くまゆるから降りる。そして、地面にシートを敷き、腰を下ろす。
なにをするのか様子を見ていると、アイテム袋から薬草や、なにかしら機材を取り出す。
「なにをするの?」
「スネイクが嫌う薬を調合するわ」
「できるの?」
「ええ、いくつか持っていた薬草と、途中で採取した薬草を適した割合で調合すればできるわ」
調合はゲームみたいにAとBの薬草をワンクリックで組み合わせればいいだけではない。
現実はAとBの割合に、魔力水の割合。かき回す時間、さらには温度もあるみたいだ。
マーネさんは温めた魔力水にすり潰した薬草を入れて、掻き回す。
「どのくらいでできるの?」
「もう、終わりよ」
透明だった魔力水は青っぽい色になっていた。
「これを足に振りかければ、スネイクは寄ってこないはずよ」
マーネさんは自分の靴や足下に振りかけてから、くまゆる、くまきゅうの足に振りかける。
そして、わたしに近づいてくると、しゃがむ。
「あらためて近くで見ると、クマの足なのね」
マーネさんはわたしのクマ靴に液体を振りかける。
「これでスネイクが近寄ってこないの?」
「効果は実証されているわ。でも、この世に絶対ってものはないわ。個体によって、効果が出ない場合もあるわ。人だって、匂いの好き嫌いはあるでしょう」
「たしかに」
「ただ、多くのスネイクは嫌う傾向はある。だから、いきなり足に巻き付かれるってことはないと思う」
九割、八割でも、効果があれば助かる。
ただ、問題はわたしのクマ靴にちゃんと降りかかっているかどうかだ。
雨にも濡れず、泥水でも汚れない靴だ。
見えていないけど。マーネさんが掛けてくれた液体が弾かれている可能性がある。
まあ、くまゆるとくまきゅうに乗って移動するから、くまゆるとくまきゅうにかけてあれば問題はない。
くまゆるとくまきゅうは泥が引っかかって、ちゃんと汚れるので、わたしの靴とは違って、弾かれないと思う。
「それじゃ、行きましょう」
マーネさんは立ち上がるとくまゆるの背中に乗る。
「マーネさんはスネイクを見たことある?」
「あるわよ。あまり、気持ちいいものじゃないわね」
スネイクは見たことは無いけど、蛇なら同意だ。
「ブラックバイパーよりは小さいよね」
「あんな、化け物と一緒にしないでよ」
やっぱり、ブラックバイパーは化け物なんだ。
「あんな魔物、そうそういないわよ」
やっぱり、珍しいんだ。
「そういえば、少し前にブラックバイパーの素材が売り出されていたわね」
それって、もしかして……。
「オークションに出品されていたから、購入したわ。あのときの出費は痛かったわ」
やっぱり、それって……。
「なにを購入したの?」
「肉も出品されていたけど。購入したのは皮と歯を一本ね。珍しい素材ってことで、争ったわ」
オークションだから、値段がつり上がっていくんだろうな。
「やっぱり、薬に使うの?」
「皮は魔道具ね。皮は丈夫で魔法にも強いから、耐熱が必要な魔道具を作るときとか重宝するのよ」
ああ、たしかに炎の魔法を弾かれたっけ。
だから、体の中にクマの炎を放り投げて討伐した。
「それじゃ歯は?」
「こっちも用途はいろいろあるけど。人によっては削って、武器にすることもできるわ。わたしは主に削って、粉にして薬にして使っているわね」
「薬に使えるんだ」
「どんな効果があるかは教えられないけど、貴重なものよ」
少し気になるけど、教えられたからと言って、作るわけではない。
作り方もあるだろうし。
それにしても、わたしが倒したブラックバイパーの素材がマーネさんに渡っているとは思いもしなかった。
「ちなみにスネイクの大きさって?」
「知らないの?」
「今までに遭遇したことがなかったから」
「全長2メートルから5メートルほどで、太さは個体によって変わってくるわね」
大型蛇ってところだ。
「巻き付かれたら、危険よ。足の骨を砕き、動けなくなったところを喰らわれるから気を付けてね」
体中に蛇に巻き付かれたことを想像しただけで、身震いする。
スネイクの大群とブラックバイパー一体とどっちと戦うほうを選べと言われたら、ブラックバイパーを選ぶ。
大群は気持ち悪い。大きいと恐いけど、戦いやすい。
コミカライズ12巻が発売しました。
本屋さんでお見かけしましたらよろしくお願いします。
活動報告にて、せるげい先生に書き下ろしイラストカードや店舗購入特典もありますので、確認していただければと思います。
文庫版10巻、アクリルスタンドの応募締め切りが8月20日と迫っています。
購入してくださった方がいましたら、応募していただければと思います。
※申し訳ありません。しばらく投稿日は日曜日にさせていただきます。
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文庫版10巻 2024年5月2日発売しました。(表紙のユナとサーニャのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年8月20日、抽選で20名様にプレゼント)(次巻、11巻作業中)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。