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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
831/928

807 クマさん、フローラ様に会いに行く

 馬車は、わたしが知っているところで止まる。

 いつも通る門から少し離れた場所だ。

 わたしとエレローラさんは馬車から降りるとフローラ様の部屋に向かう通路を歩き出す。

 ここからなら、一人でもフローラ様のところに行けるので、仕事に行かずに隣を歩くエレローラさんに尋ねる。


「エレローラさん、仕事はいいの?」


 わたしの言葉に驚いた表情をする。


「今、ユナちゃんを案内する仕事をしているでしょう」


 わたしが思っていた言葉が返ってきた。

 いくら言ってもダメだと思い、諦める。


「国王様に叱られても、わたしのせいにしないでくださいね」


 あとで仕事をさぼった理由にされても困る。


「ふふ、心配してくれてありがとう」


 エレローラさんの心配をしたんじゃなくて、わたしの心配をしたんだけど。

 まあ、国王に文句を言われたら、わたしはちゃんと仕事の確認をしたことを言うつもりだ。

 わたしたちは通い慣れた道を進む。

 擦れ違う人は、エレローラさんに向けて頭を下げる。

 こういうところを見ると、エレローラさんは偉い人なんだなと改めて思う。

 フローラ様の部屋の前にやってきてエレローラさんはドアをノックすると、返事を待たずにドアを開ける。

 相変わらずだ。

 ドアが開くと、フローラ様のお世話をしているアンジュさんの驚いた声が聞こえてくる。


「エ、エレローラ様!?」

「お邪魔するわね」


 エレローラさんはそう言うと部屋の中に入っていく。

 わたしもドアの前に立っているわけにはいかないので、エレローラさんと一緒に部屋の中に入る。


「ユナさんも」


 アンジュさんは、わたしを見て驚くが、すぐにいつもの表情に戻る。


「フローラ様、ユナさんが来てくださいましたよ」

「くまさん?」


 フローラ様は椅子に座って本を読んでいた。

 わたしに目を向けると笑顔になり、持っていた本を置き、わたしのところにやってくる。


「フローラ様、元気にしていましたか?」

「うん」


 満面の笑みをする。

 わたしはフローラ様の頭を撫でる。

 王族の頭を撫でて、不敬罪にならないよね? と考えても今更だ。

 フローラ様も嬉しそうなので、気にしないでおく。


「フローラ様、本を読んでいたのですか?」

「うん!」

「ふふ、ユナちゃんの絵本のおかげで、他の本にも興味を持って、いろいろな本を読んでいるのよ」


 わたしの絵本のおかげと言われると、少し嬉しい。


「フローラ様、偉いですね」


 わたしが褒めると、フローラ様は嬉しそうにする。


「くまさん、あたらしい、えほんある?」

「ごめん。新しい絵本はないの」


 わたしの言葉に、少し残念そうな表情になる。

 描いてくればよかったかな。

 お城に来る予定はなかったし、最近、忙しかったし、絵本のネタも考えていない。


「フローラ様、無理を言ってはダメですよ」

「……うん」


 フローラ様はエレローラさんの言葉に頷く。

 わたしが読んだ漫画や小説の王族だったら、「描いてこい」と言ったり泣きじゃくったり我が儘を言う王族が多い。

 でも、フローラ様は教育がしっかりしているのか、我が儘を言ったりしない。

 わたしはフローラ様になにかできないか、少し考える。


「……そうだ。フローラ様の絵を描きましょうか?」

「わたしのえ?」


 せっかく、マーネさんからコカトリスの羽ペンを貰った。


「くまさんがかくの?」

「少し、時間がかかるけど、大丈夫ですか?」

「うん、だいじょうぶ」


 フローラ様に笑顔が戻る。

 わたしたちは絵を描く準備をする。

 ずっと、立ってもらうのは疲れるし、王女を床に座らせるわけにもいかないので、椅子に座ってもらうことにする。

 紙とイーゼルはアンジュさんが、どこからともなく用意してくれた。


「フローラ様、椅子に座ってください」


 フローラ様は椅子にちょこんと座る。


「これでいい?」

「そのまま、少しだけジッとしていてくださいね」


 フローラ様は言われたとおりに、ジッとして、わたしを見る。

 もしかして、絵を描かれる経験があるのかもしれない。

 あの国王様なら、可愛い娘の絵を描かせていてもおかしくはない。

 わたしはコカトリスの羽ペンを持ち、フローラ様を描き始める。

 まずは、黒色で輪郭を描いていく。

 久しぶりの人物画だけど、和の国でサクラたちを描いたので慣れたものだ。

 流石にべた塗りはできないので、線のみ。

髪の色は薄ピンク。

 赤い色を調整すると薄ピンクになることを見つけた。

 魔力を微調整しながら、描いていく。これが意外と難しい。でも、慣れてくると微妙な色合いも作れる。

 髪飾りは緑、服は白と緑を基調とした感じ。

 ぶらぶらと動く靴も緑。


「くまさん、まだ?」

「もう少しですよ」


 徐々に、ジッとしていられなくなってきたのか、体が動き始める。

 まあ、ほとんど描き終えているので、動いていても問題はない。

 そして、絵は完成する。


「できましたよ」


 わたしはイーゼルの向きを変え、フローラ様に見えるようにする。


「わたしだ~」


 キャンバスには笑顔で、こちらを見ているようなフローラ様が描かれている。


「飾る額縁が必要ね」


 大切にしてくれるのは嬉しいけど、額縁に入れられて飾られるのは少し恥ずかしい。

 まあ、飾られるのはこの部屋だと思うし、見られるとしても、この部屋に入れる一部の人だけだ。

 その一部に、少し問題があるけど……。

 フローラ様は絵を嬉しそうに見ている。

 喜んでもらえたなら、描いてよかった。


 わたしはコカトリスの羽ペンを見る。

 コカトリスの羽ペンの使い方も慣れてきた。

 魔力の微妙な流れで、細かい色の変化もできることが分かった。

 エレローラさんの言葉じゃないけど、このコカトリスの羽ペンで絵本を描くのもいいかもしれない。

 ただ、問題は複写ができないかもしれないことだ。


「エレローラさん、この羽ペンで描いたものって複写できる?」

「そうね。できるできないと言われたら、できるわよ」


 エレローラさんは簡単に答える。


「そうなの? でも、契約書で偽物が出ないようにするって」

「そうだけど。別に絵本が偽物と分かっても、問題はないでしょう」


 確かに、絵本は一冊以外は複写されたものだ。

 わたしが描いた手書きの絵本は世界で一冊。フローラ様が持っている絵本だけだ。

 有名な画家の絵をプリンターで印刷したようなものだ。

 見たら、偽物とすぐに分かる。

 でも、見るだけなら問題はない。

 そういうことだ。

 別に、本物と区別ができない絵本を作るわけではない。

 それじゃ、コカトリスの羽ペンで絵本を描いても問題はなさそうだ。


「フローラ様、クマさんに言うことがあるでしょう」


 エレローラさんがフローラ様を諭すように言う。

 フローラ様が絵を見てから、わたしを見る。


「えっと、くまさん、ありがとう」

「どういたしまして。大切にしてくれると嬉しいかな」

「うん、たいせつにする!」


 満面の笑みだ。


「エレローラさん、フローラ様の教育もしているの?」

「気付いたときだけね。フローラ様に注意できる人は少ないから、気付いたときは指摘しているのよ」

「だからノアやシアみたいな、良い子に育つんだね」

「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」


 娘を褒められて、エレローラさんは嬉しそうにする。

 それから、遅めの昼食をとることになった。

 本来なら、食事が運ばれてくるはずだったけど、アンジュさんが料理長に連絡をして、止めていたらしい。

 絵の邪魔をしないようにとエレローラさんから言われていたらしい。

 いつの間に。

 わたしが絵を描いていて、気付かなかったみたいだ。「ユナちゃん」「くまさん」

 エレローラさんとフローラ様の視線がわたしに向けられる。つまり、いつものことらしい。

 なにかあったかな~。

 少し考える。


「お蕎麦、食べる?」

「お蕎麦?」

「うどんみたいなものかな?」

「うどん? 確か、小麦粉を練った物を細くしたものよね。美味しいわよね」

「食べた事があるの?」

「食べるわよ」

「貴族なのに?」

「貴族だって食べるわよ。まあ、フローラ様は食べたことがないかもしれないけど」


 確認するようにアンジュさんを見る。


「わたしが知るかぎりでは、食べたことはないと思います」


 確かに、イメージ的にゼレフさんや王宮料理人たちがうどんを作るとは思えない。


「それじゃ、うどんにする?」

「うどんなら、ゼレフに頼めば食べられるでしょう。その、そばが気になるわ」

「そば粉って言うものを練ったものだから、基本的にうどんと似たようなものだよ」


 話の結果、お蕎麦を食べることになった。

 わたしは和の国で買っておいたソバの生麺をだす。

 ケースに入っており、一人前別に小分けにされている。

 さらに蕎麦つゆ。こちらも小樽に入っている。

 美味しかったそば屋で頼み込んで購入した。


「これがそばね。うどんとは色が違うわね」


 フローラ様も椅子の上に立って、テーブルの上に出した蕎麦の麺を見ている。


「これを食べるの?」

「少し、準備をしますね」


 わたしは携帯コンロを2つ出す。

 火の魔石がはめ込まれており、外で使うのは便利な魔道具だ。

 普通に販売されている。

 これも、昔に魔法省の人が作ったのかもしれない。


 わたしは鍋にお湯を張り、蕎麦を茹でる。

 もう一つのコンロでは蕎麦つゆを温める。

 そして、二つがいい感じになったところで、どんぶりに麺とつゆを入れ、最後に長ネギを刻み、乗せる。

 おっと、これを忘れるところだった。

 作り置きの天ぷらを別皿に出す。

 天ぷらは一人分を作るのは大変だから、まとめて作って、作り置きをしている。

 作り置きしておいても、クマボックスに仕舞っておけば傷まないから、好きなときに食べることができる。

 天ぷらはサクッと派と、しっとり派がいるから、お好みで食べてもらう。

 これで、完成だ。


日曜に投稿ができず、申し訳ありませんでした。

活動報告にも書きましたが、話が纏まらず、お休みにさせていただきました。


今回はフローラ様の絵を描くことになりました。

今度は、絵本を描きたいですね。


※投稿日は水曜日、日曜日の0時になります。

予定が分かり休みをいただく場合はあとがきに、急遽休む場合は活動報告に連絡させていただきます。


【書籍】

書籍20.5巻 2024年5月2日発売しました。(次巻、21巻予定、作業中)

コミカライズ11巻 2023年12月1日に発売しました。(12巻作業中)

コミカライズ外伝 2巻 2024年3月5日発売しました。

文庫版10巻 2024年5月2日発売しました。(表紙のユナとサーニャのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年8月20日、抽選で20名様にプレゼント)(次巻、11巻作業中)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
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