79 クマさん、冒険者ギルドに依頼を出す
前回の話、後半修正しました。
翌日、開店時間についての話し合いの会話不足だったため。
簡単に説明すると、開店時間を勝手に変えると翌日はトラブル的な話です。
それを対処するために行動するのが今回の話になります。
少しでも時間変更を広めるためにチラシを貼った場所にはティルミナさんにお願いした。
それでも、知らない人は来る。
そのトラブルを防ぐため、冒険者ギルドに向かう。
「ユナさん、こんな時間にどうしたんですか」
ギルドから出てくるヘレンさんの姿がある。
「ヘレンさんは帰るところ?」
「はい、交代時間になりましたので。ユナさんはどうしたんですか?」
「依頼をお願いしに来たんだけど」
「依頼ですか?」
「ちょっとね。事前にトラブルを防ごうと思ってね」
「トラブル?」
簡単に今日のことを説明する。
「だから、明日から営業時間を変えようと思うんだけど。知らない人が来るのは間違いないから。それで謝って帰ってくれればいいけど」
「それで、依頼ですか」
「うちの店は子供と女性が働いているからね。だから、威圧してくれる冒険者でも雇おうかと」
「たしかに、ユナさんのお店は子供たちがいるんですよね。それなら必要かもしれませんね」
「とりあえず、護衛は1週間ほどを考えているんだけど。こんな仕事してくれる冒険者いるかな?」
「それはお金次第だと思いますよ。冒険者はお金で動きますから」
「お金ね。相場が分からないのだけど、どのくらい払えばいいものなの?」
多少、高くても安全が買えるなら安いものだ。
お金をケチって子供たちに怪我でもさせられたら院長先生にどんな顔で会えばいいことやら。
そんなことが起きないようにするためにも護衛は雇いたい。
「うーん、募集するランクによりますね。依頼内容は店の護衛。その相手が一般市民なら低ランクの冒険者でもいいんですが。もし、高ランク冒険者が暴れた場合は低ランク冒険者では無理ですから」
そんな無法者はいないと思うけど、冒険者ギルドで会ったデボラネの件もある。
「ユナちゃんとヘレンさん、どうしたんですか?」
現れたのはゴブリン討伐を一緒にしたルリーナさん。
討伐後も何度か冒険者ギルドで会っている。
ルリーナさんの後ろにはデボラネのパーティーメンバーたちもいる。
わたしに殴られたデボラネ、口が悪いランズ、無口なギルだっけ。
揃いもそろって現れた。
それにしても、どうしてルリーナさんはこんなメンバーと一緒にいるんだろう?
もしかしてゲテモノが趣味なのかな?
「ユナちゃん、失礼なこと考えていない?」
もしかして、心を読むスキル持ち?
「どうして、ルリーナさんみたいな美人がこんなパーティーにいるのか疑問になっただけですよ」
「わたし正式なパーティーメンバーじゃないよ。臨時のメンバーよ。このパーティー、見ての通り脳筋でしょう」
うん、たしかに3人とも脳筋だ。
「それで、一度パーティーを組むことになってね。それで、ずるずると今に至るわけ」
「もう、俺たちと正式にパーティー組もうぜ」
「嫌よ。組むなら、ユナちゃんみたいな可愛い子がいいよ」
そう言ってわたしを抱きしめる。
お姫様抱っこをしてからルリーナさんはやたらとクマの服を触るようになった。
「それで、ユナちゃんはどうしたの?」
「お店の護衛の依頼を出そうと思ってね」
「お店? あの噂の?」
「どんな噂か分からないけど、その店です。ちょっと明日、トラブルが起きそうなので」
「トラブル?」
「今日から開店だったんだけど、少し困ったことが起きて、明日から開店時間をずらすことにしたの。それで、朝からお客様が押しかけてくる可能性があるから、威嚇してくれる、もとい、やんわりと、追い返してくれる冒険者を雇おうと思って」
「なるほどね。なら、わたしたちがやろうか?」
「いいの? わたしは助かるけど」
「いいよ」
「勝手に決めるな。ルリーナ」
受けてくれようとしたルリーナさんに横から止める者がいる。
「デボラネ?」
「俺はやらないぞ」
「デボラネさんが言うなら俺も」
「……」
デボラネが反対するとランズも反対する。
ギルはいつもの通り口を開かない。
「そう、なら臨時のパーティーも終了ね」
「まて、それは――」
「それはそうでしょう。自分たちだけ、わたしが必要なときは使って、わたしがあなたたちを必要としたときに手伝ってくれないんなら、こんなパーティーに参加する必要性はないわ」
ルリーナさんはそう言うとわたしの方を見る。
「ユナちゃん、わたし一人でもいい?」
「俺もやる」
「ギル?」
「食事が美味しいと聞いた。食べさせてくれるなら俺も手伝う」
「ギル、裏切るのか」
「この前、彼女にはお世話になった。それにルリーナの言葉に賛成する」
「ありがとう。ギル」
お礼を述べるルリーナさん。
ギルは無口だけどまともかもしれない。
「勝手にしろ! 行くぞ、ランズ」
「はい、デボラネさん」
二人はルリーナさんとギルを残して去っていく。
「いいの?」
「いいのよ。ユナちゃんの件があったとき、別れようと思ったんだけど、引き止められてね。今日まできたけど、そろそろ切り上げ時かもね」
「冒険者を辞める時は声をかけてくださいね。優秀な人材は絶賛募集中なので」
「その時はお願いね」
社交辞令として受け取っておこう。
でも、本当に冒険者を辞めるなら手伝ってほしいことは沢山ある。
ルリーナさんなら、性格的にも能力も何も問題はない。
「それで護衛だけど、1週間ほどお願いしたいけど大丈夫かな?」
「うん、大丈夫よ。あと、依頼料はわたしも食事でいいよ」
「ちゃんと、食事もお金も出しますよ」
「あのう、二人とも、それはちゃんとギルドを通して依頼を受けてくださいね」
ヘレンさんの言葉はごもっともなこと。
ギルドに入ったわたしは依頼をお願いし、ルリーナさんが受ける感じになった。
依頼料は『くまさんの憩いの店』の食事と少々の銀貨となった。
護衛を手に入れたのでクマハウスに帰る。
裏方といえ引きこもりには疲れた1日だった。
クマ風呂に入り、心も体も洗い流してくれる。
やっぱり、お風呂のある文化は最高ね。
クマ風呂から上がり、白クマに変身してふとんに潜り込んだ。
翌日、お店に行くとすでに二人がいた。
「おはよう」
「おはよう、ユナちゃん」
「……」
返事を返してくれるルリーナさん。
無口なギル。
「噂通りの店だね」
「なんですか。その噂って。昨日も言ってましたけど」
「別に変なことじゃないよ。新人冒険者クマ、店を作るって広まって、店がお屋敷みたいとか、変なクマの像があるとか、中からいいにおいがするとか、そこで働く子供の姿がユナちゃんにそっくりだとか。そんな感じの噂よ」
確かに変なことじゃない。全て事実だ。でも、なんだろ。この納得がいかない感じは。
「それでわたしたちは何をすればいいの?」
「昨日も言ったけど、もし、お客様が来たら開店はお昼からと伝えてほしい。それで帰ってくれればいいけど……」
「まあ、ギルもいるから、文句を言う馬鹿はいないから大丈夫よ」
ギルの筋肉質の背中を叩く。
「一応、お客様だから暴力沙汰は止めてね」
「当たり前よ。一般人にそんなことしないわよ。脅すぐらいよ」
「もし、無理だったら呼んでくださいね。わたしが対応しますから」
わたしは二人に頼み、お店の中に入る。
中からはパンの焼ける美味しそうな匂いがしている。
パン屋の朝はどこの世界でも早い。
キッチンに行くと子供たちとモリンさんが動き回っている。
モリンさん親子はパンを焼いている。その側には数人の子供たちも技術を覚えるためにいる。
数年後にはこの中の何人かを王都に連れていくのもいいかもね。
他の子供たちもパン生地とプリンを一生懸命に作っている。
今、作っているのは明日のやつだ。
昨日の夜は今日の分を作り、明日の分は今作っている。
「お姉ちゃん、おはようございます」
一人がわたしに気付くと子供たちが元気に挨拶をしてくれる。
でも、その顔には疲労が見える。
モリンさん親子は慣れているから平気そうだけど、子供たちは慣れない仕事で疲れている。
昨日も夜遅くまで、今日の仕込みをしていたはずだ。
さらに、今日も朝早くから仕事をしている。
今日の夜は休めるはずだから、今日さえ乗り切ればなんとかなるはず。
でも、火と油を使う仕事だから、疲れたままでは危ない。
わたしはキッチンを歩き、子供たちの頭にクマの手を置く。
「クマのお姉ちゃん?」
いきなり頭に手を置かれて首を傾げる女の子。
「ヒール」
「もう少し頑張ってね。夜は休めるから」
わたしは子供たち全員に体力回復の魔法を使う。
これで大丈夫なはず。
子供たちは何が起きたか分からない様子で首を傾げている。
最後に店内を一通り見て外のルリーナさんの所に戻る。
外に出るとちょうどお客さんに説明をしているルリーナさんの姿がある。
説明を受けたお客さんは素直に帰っていく。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。説明をすればみんな帰ってくれるよ。まあ、ギルのおかげだと思うけど」
「立っているだけだ」
「後ろでギルが立っているだけで、みんなわたしの話を聞いてくれるから助かっているよ」
「……」
一般市民で冒険者に逆らう者はいないみたいだ。
「冒険者の方は平気?」
「それこそ、大丈夫よ。この店が誰の店だと思っているの?」
「えーと、わたし?」
「そう、ユナちゃんのお店よ。初めてのギルドで10人以上の冒険者を伸して、ゴブリンキングを倒し、さらにブラックバイパーを倒した冒険者。そんなユナちゃんに喧嘩を売る馬鹿はいないよ。いるとしたら、成りたての新人か、この街以外で活動してる冒険者じゃないかな。そんなのが来たら本当にギルの仕事だけどね」
「任せろ」
「ありがと、店が始まったら好きなものを食べていいからね」
再度、店の中に入り、みんなの手伝いに向かう。
感想ありがとうござます。