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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
822/907

798 クマさん、ノアに捕まる

 翌日、昼食を食べに「クマの憩いの店」に顔を出す。

 そこにはいつもどおりの日常風景が流れている。

 クマの格好した子供たちが動き回り、カリンさんの指示を出す声が聞こえ、美味しそうに食事をする人たち。


「ありがとうございました」


 パンを購入してくれたお客様にお礼を言う女の子。

 接客も手慣れた感じだ。


「ユナお姉ちゃん!」


 店を見渡していると、とある女の子が気付き、わたしのところにやってくる。

 わたしは頭を撫でてあげると、嬉しそうにする。

 一人の頭を撫でると次々と集まってくる。

 昨日、孤児院に行ったときと同じ状況だ。


「もう、相変わらず、ユナさんが好きなんだから」


 カリンさんがやってくる。

 店内にいた全員の子供たちの頭を撫でてあげると、子供たちは早々に仕事に戻っていく。

 孤児院ではリズさんが、お店ではカリンさんが、しっかり子供達の教育をしている感じだ。

 その上に、院長先生とモリンさんがいる。


「ユナさんがしばらく来てくれなかったから、嬉しいんですね」

「しばらくと言っても、一週間も経っていないでしょう」

「子供の一週間は、わたしたちの感じる一週間よりも長く感じるものですよ」


 確かに大人の1日と子供の1日の感じ方は違うと聞く。


「カリンさん、年寄りみたいだよ」


 わたしの言葉にカリンさんは驚いた表情になる。


「お、お母さんが言っていたんです。わたしもユナさんが全然来てくれなくて、寂しかったですよ」


 本当かな。

 まあ、わたしも長い間、お店に来ていない気持ちになっている。

 わたしも、まだ若いってことかな?

 でも、今と小学生のときと比べると、小学生のときのほうが確かに1日が長かったような気がする。


「それで、どこに行っていたんですか? フィナちゃんからは、どこかに行っているみたいなことを聞きましたが」

「ちょっと、魔物討伐にね」


 氷竜と戦ったから嘘は言っていない。


「そういえばユナさんって、冒険者なんですよね。そんな姿をしているからすっかり忘れていました」


 カリンさんが、わたしの服を見る。

クマの格好。

 冒険者らしくない。

 カリンさんは「ゆっくりしていってください」と言うと、仕事に戻っていく。

 わたしはパンを選び、空いている席で食べる。

 相変わらずモリンさんのパンは美味しい。

 わたしは周りを見る。

 みんな笑顔でパンやケーキ、プリン、フライドポテト、ポテトチップスを食べている。

 本当に平和だね。

 今まで、静かな氷の世界にいたから、喧騒が嬉しく感じる。

 騒がしいのはあまり好きじゃないけど、たまに恋しく思うときがある。 

 のんびりとまったりしながらパンを食べていると聞き慣れた大きな声が上がる。


「ユナさん、いました!」


 わたしのところに金色の長い髪の女の子がやってくる。


「ノア、どうしたの?」

「どうしたのじゃないです。どこに行っていたんですか?」


 一週間ほど外出しただけなのに、みんな騒ぎ過ぎだ。


「和の国に、ちょっとばかり、行っていただけだよ」


 周りに聞こえないように小さい声で答える。


「わたしも連れて行ってください」

「いや、日帰りのつもりだったんだよ。でも、いろいろと面倒なことがあって」

「その面倒ごとってなんですか? いえ、それよりも家に来てください」


 ノアがわたしの手を引っ張る。


「えっ、なんで?」

「お父様がユナさんを呼んでくるように言ってます」

「……断りたいんだけど」


 2日前に帰ってきたばかりだよ。

 クリフの呼び出しなんて、面倒ごとにしか思えないんだけど。

 カガリさんの言葉が浮かんでくる。

『お主は面倒ごとの神に愛されているんじゃろう』

 何度も言うけど、そんな神様、イヤだ。


「ダメです。ユナさんを家に連れてくるように言われています」

「いなかったって言えばいいよ」


 実際に先日までいなかったんだから、あと数日はいないってことにしてほしい。


「無理です」

「わたし、これから帰って、くまゆるとくまきゅうのお世話をしないといけないし」


 訳、「帰って、くまゆるとくまきゅうとまったりする予定だから、行けないよ」


「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのお世話なら、わたしがします」


 ノアはわたしの手を離さない。

 どうやら、逃がしてくれないみたいだ。


「それじゃ、わたしと一緒にお世話まったりしよう」


 敵が強いときは、こちらに引き込めばいい。

 わたしはノアが欲しいと思われる言葉を賄賂として使う。

 ノアの中で抗争が起きる。

 わたしを連れて行くか、くまゆるとくまきゅうと遊ぶか。


「うぅ、ダメです。お母様に怒られてしまいます」


 ノアは首を横に振る。


「エレローラさん? 呼び出しはクリフじゃないの?」

「実はお母様から手紙が来て、お父様が、そのことでお話がしたいそうです」


 どうやら、エレローラさんに怒られるほうが勝ったらしい。

 くまゆる、くまきゅう敗北。

 でも、エレローラさんからの呼び出しか。

 厄介ごとかな。

 面倒ごとかな。

 嫌だな。

 帰って来たばかりだよ。

 もしかすると、フローラ様が会いたいとか言っているのかな。

 それなら、話を聞きにいかないといけない。


「ノア、エレローラさんの手紙の内容は知っているの?」


 話を聞いてから決めればいい。


「えっと、前にフィナやシュリ、お姉様と一緒に押し花を作ったことを覚えていますか?」


 押し花?…………ぽん。

 従業員旅行から帰ってから、ノアたちと一緒に押し花を作ったことがあった。


「それがどうしたの?」

「わたしも詳しいことは聞いていませんが、その押し花に使った花についてらしいです」


 確か、押し花で使った花はタールグイで摘んだ花と、ノアが持ってきた花を使った。


「もしかして、その花に問題があったの?」

「詳しいことはお父様から聞いてください」


 そう言われたら、クリフに会いに行かないといけない。

 わたしはパンを口に入れる。

 パンを食べ終わると、ノアに連れて行かれる。


「お父様、ユナさんを連れてきました」

「来たか」


 執務室に通され、クリフが仕事をしている。

 椅子に座るように言われ、わたしとノアは椅子に座る。


「わたしたちが作った押し花で使った花に、なにかあったって聞いたけど。使った花に問題があった? もしかして毒草とか?」


 押し花に使った花に毒があったとか、危険な花だったとか。


「エレローラの手紙によると貴重な花が使われていたらしい。毒とか危険があるとかは書かれていなかったから、その点は大丈夫だろう」


 それならよかった。

 ノアやフィナの家に毒草があったら大変だった。


「その貴重な花って、どんな花なの?」

「手紙には書かれていなかった。一応、ノアに押し花を見せてもらったが、花に詳しくない俺が見ても分からなかった」

「お父様にも話しましたが、それぞれが好きずきに花を選んだので、わたしが作った押し花にはないかもしれません」


 確かに、好きずきに花を選び、好きなように押し花を作った。


「つまり、シアが作った押し花に、その花があったってことだね」

「そうらしい。ノアから話を聞いたかぎりだと、ノアとおまえさんが用意した花で作ったらしいな」

「わたしが用意した花はララが用意してくれた普通の花です」

「まあ、その中に珍しい花がなかったとは言えないが、俺はおまえさんが用意した花だと思っている」


 わたしが用意した花はタールグイで採ってきた花だ。

 クリフの言うとおりにノアが用意した花は問題はないはず。

 つまり、タールグイで摘んできた花が貴重な花だった可能性が高い。


「そのことで、エレローラが詳しく話を聞きたいらしい」


 やっぱり、面倒ごとになった。

 せめての救いは、花が危険じゃなかったことだ。


「急ぎ?」

「急ぎではないが、早めに来てほしいと書いてあった」

「わたしも一緒に行きたいです」

「ダメだ。少し前に妖精の国に行っていただろう」


 ノアが助けを求めるようにわたしを見る。


「それに俺がエレローラに怒られる」


 それを言われたら、わたしから助け船を出すことはできない。

 子供のノアを連れて行くには、親の許可が必要だ。

 わたしが勝手に連れて行くわけにはいかない。

 クリフを説得できたとしても、エレローラさんに怒られるのはわたしだ。

 それに、クリフの言うとおりに、最近、ノアを連れ出し過ぎているからね。


「ノア、今回はお留守番だね」

「……うぅ、分かりました」

「それじゃ、適当にエレローラさんのところに行ってくるよ」

「頼む」


 まあ、緊急性ではないなら、のんびり行けばいいかな。


「それじゃ、一緒に行けない代わりに、久しぶりにくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんと遊びたいです」

「そのぐらいなら大丈夫だけど……」


 確認するようにクリフに目を向ける。

 勉強とか予定があったら、流石にいいよとは言い切れない。


「それで、諦めてくれるならいい」


 クリフの言葉にノアは嬉しそうにする。

 ノアはわたしの手を掴むとノアの部屋に連れて行かれる。

 そして、約束どおり、くまゆるとくまきゅうを召喚する。


「くまゆるちゃん、久しぶりです」


 ノアはくまゆるに飛びつく。


「くぅ~ん」


 くまゆるに挨拶をすると、次にくまきゅうに抱きつく。


「くまきゅうちゃんも元気でしたか?」

「くぅ~ん」


 ノアは笑顔だ。


「でも、貴重な花って、なんなんでしょうか」


 ノアが棚の上に飾ってある押し花に目を向ける。

 みんなで作った押し花だ。


「わたしも花には詳しくないからね」


 現実世界の花にも詳しくないのに、異世界の花だ。

 それに花って、世界中にどれだけの種類があることやら。


「ユナさん、あの花はどこで摘んで来たのですか? たしかシュリたちと摘んできた花ですよね」


 くまゆるとくまきゅうの間に挟まれながら尋ねてくる。

 タールグイで摘んできたことはノアは知らない。


「えっと、あの動く島で採ってきたんだよ」


 前回、ノアは動く島、タールグイに行ったので、教えてあげる。


「あの島ですか……納得です。あの島は世界中、いろいろな場所を動いているんですよね」

「わたしも詳しいことは分からないけど、多分ね」

「どこかで種が落ちたんでしょうか」


 種は風で飛ばされたり、鳥などが運んでくることが多い。人や獣にくっついている場合もある。

 この世界なら、魔物が運んで来た可能性もある。


「それだと、お母様に説明するのが難しくなりますね」

「う~ん、その辺りは適当に答えておくよ。動く島のことはミリーラの漁師なら知られていることだし」


 従業員旅行のときに島に行ったことを素直に話しても問題ない。

 一緒に行ったシアも知っている。

 ノアも納得したようで、それ以上は尋ねてこなかった。



覚えている読者様が、どれほどいますか分かりませんが、押し花ネタです。

※2017年04月18日 「377話 クマさん、押し花を作る」になります。


書籍20.5巻、文庫版10巻の発売が5月2日に決まりました。

20.5巻について、活動報告に情報を書かせていただきましたので、よろしくお願いします。


【書籍】

書籍21巻 2024年5月2日発売予定。(次巻、21巻予定、作業中)

コミカライズ11巻 2023年12月1日に発売しました。

コミカライズ外伝 2巻 2024年3月5日発売しました。

文庫版10巻 2024年5月2日発売予定。(表紙のユナとサーニャのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年8月20日、抽選で20名様にプレゼント)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
>「実はお母様から手紙が来て、お父様が、そのことでお話がしたいそうです」 エレローラさんからの手紙は、”通常”の方法でクリフまで届けられたようですね。 早い方がいいけれど、そこまで緊急ではないので、…
[一言] >エレローラさんからの呼び出しか。  厄介ごとかな。  面倒ごとかな。 エレローラ案件である以上、並みの事態ではありえないですからね。
[良い点] 押し花がまさかの伏線。 タールグイが新しい物語へのキーになることが最近多いですね。便利なのかな。新しい土地に行くのにちょうどいいですしね。 タールグイ自身にもまだ明かされていない謎とかもあ…
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