787 クマさん、氷竜と戦いのその後
二頭の氷竜が降りてくる。
状況が分からないわたしとカガリさんは、なにがあっても動けるように気を付ける。
地面に降り立った山頂の氷竜は凍った氷竜を見る。
「ヒトノコニマケルトハ、ケイケンガタラヌ」(※人の子に負けるとは、経験が足らぬ)
その言い方だと、あなたならわたしに勝てるように聞こえる。
実際に負けるつもりはないのかもしれない。
山頂の氷竜が歩き、わたしたちの前にやってくる。
「それで確認だけど、後ろの氷竜は大丈夫なの?」
「ジュウゾクノケイヤクヲシタ」(※従属の契約をした)
従属の契約?
「そんなことができるんだ」
「オタガイノドウイガヒツヨウダ」(※お互いの同意が必要だ)
つまり、相手の同意がなければ従属の契約はできないってことか。
わたしの契約魔法と似ている。
わたしはクマに氷漬けされた氷竜に目を向ける。
山頂の氷竜の命を狙ってきた氷竜。
人を嫌う氷竜。
従うとは思えない。
でも、一応確認してみる。
「この凍った氷竜に対してもできる?」
氷竜を氷漬けしたように、やってみないと分からない。
山頂の氷竜はクマの氷漬けになった氷竜の前に移動する。
ジッとして動かない。
「なにか、話しているみたいじゃのう」
「もしかして、会話が分かるの?」
流石、カガリさん。
そう思ったけど、返答は違った。
「分からんよ。ただ、お互いの間に魔力が流れておるから、そう思っただけじゃ」
なるほど、魔力で会話をしていたのか。
しばらく、氷竜を見ていると、氷漬けになっていた氷竜と山頂の氷竜の角が光りだす。そして、しばらくすると光は消えた。
「ジュウゾクノケイヤクヲシタ」(※従属の契約をした)
それじゃ、今度こそ、これで完全に終わったってことだ。
「でも、よく従属の契約ができたね」
素直に従うような氷竜とは思えない。
「シタガワナケレバ、カラダヲフンサイスルトイッタ」(※従わなければ、体を粉砕すると言った)
「そんなことができるの?」
皮膚もそうだったけど、攻撃は効かなかった。
「ワレタチハマリョクデカラダヲオオイ、マモッテイル。マリョクガナクナレバカノウダ」(※我たちは魔力で体を覆い、守っている。魔力が無くなれば可能だ)
それじゃ、氷竜の魔力を消耗させれば倒せたってことか。
「お主、氷竜の魔力を無くせば倒せたと思っていないか?」
「カガリさん、人の心が読めるの!?」
「読めんよ。お主の顔に書いてあるだけじゃ」
わたしは無言でクマさんパペットで顔をほぐす。
ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。
「でも、死んだ方がいいとか言わなかったの?」
「ソレハヒトノコノカンガエダ」(※それは人の子の考えだ)
人だって考え方はいろいろある。自分の信念に基づいて、受け入れず、死を選ぶ人もいると思う。
そして、命惜しさに従属の契約をする者もいると思うし、なにかを守るために屈辱に耐えて、従属の契約をする人も。
そのときの状況、立場、思いで、変わってくる。
「でも、氷竜はわたしに負けたんだよね? それで納得したの?」
「マケタモノニケンリハナイ。シヌカイキルカダ」(※負けたものに権利はない。死ぬか生きるかだ)
それで生きる選択をしたわけだ。
「ヒトノコヨ。コオリヲトカシテクレ」(※人の子よ。氷を溶かしてくれ)
「確認だけど、本当に大丈夫だよね。氷を溶かしたら、襲ってこないよね?」
「ジュウゾクノケイヤクニヨッテ、ワレニサカラウコトハデキヌ」(※従属の契約によって、我に逆らうことはできぬ)
つまり、山頂の氷竜の心次第ってこと?
だからと言って、このまま凍らせておくわけにもいかないので、山頂の氷竜を信じることにする。
わたしは氷竜を包んでいるクマの氷を溶かす。
クマの氷は水となって、地面に流れ落ちていく。
クマの氷から解放された氷竜は動き出し、咆哮を上げる。
空気が揺れる。
なにより、うるさい。
わたしと同じように思ったのか、山頂の氷竜の尻尾が動き、氷竜の頭に叩きつける。
静かになった。
尻尾で叩かれた氷竜は、なぜかわたしを睨む。
わたしはなにもしてないでしょう。
「ヒトノコヨ。メイワクヲカケタ」(※人の子よ。迷惑をかけた)
本当だよ。
氷竜の面倒ごとに巻き込まないでほしい。
「でも、本当に襲わないんだよね」
わたしは山頂の後ろにいる新しい氷竜に目を向ける。
「ヤクソクノショウメイダ」(※約束の証明だ)
山頂の氷竜がそう言うと、他の二頭の氷竜の角が光り、ドスンと音を立てて角が地面に落ちる。
「ツノニヨッテ、ジュウゾクノケイヤクガムスバレル。カイジョスルニハツノガヒツヨウダ。ツノガハエカワルマデ、ナガイネンゲツガヒツヨウニナルダロウ」(※角によって、従属の契約が結ばれる。解除するには角が必要だ。角が生え変わるまで、長い年月が必要になるだろう)
つまり、新しい角が生えるまで、従属の契約は解除しないということらしい。
いや、角が生えても従属の契約は解除はしないでよ。
「ソノニホンノツノハスキニスルガヨイ」(※その2本の角は好きにするがよい)
それって、わたしにくれるってこと?
今回の報酬は氷竜の角になった。
ちょっと、嬉しい。
ドラゴンの素材ってレアだよね?
山頂の氷竜は二頭の氷竜を見る。
「ソノホウタチハタチサレ」(※そのほうたちは立ち去れ)
新しい氷竜はわたしに向けて咆哮上げると翼を広げ、飛び去っていく。
今の攻撃じゃないよね?
もしかして恨まれている?
絶対に従属の契約は解除はしないでよ。
「ヒトノコヨ。セワニナッタ」(※人の子よ。世話になった)
山頂の氷竜も翼を広げると、飛び去っていく。
まだ話したいこともあったけど、山頂に行けば会えるので、今日のところはここまでとする。
それに疲れたから休みたい。
「終わったのう」
「そうだね」
わたしたちは飛び去っていく氷竜を見つめる。
「それで、この角はどうする? カガリさんいる?」
「妾はいらん。お主が貰えばいいじゃろう」
氷竜の角か。
なにかに使えるかな。
ミスリルナイフより強い武器が作れるとか?
でも、こんなの加工できるの?
とりあえず、わたし以上に大きい氷竜の角はクマボックスにしまう。
氷竜の角、ゲットだ。
わたしはくまきゅうを召喚して乗ると、リーゼさんのところに向かう。
「カガリさん、体調のほうは大丈夫?」
くまゆるに乗っているカガリさんに尋ねる。
「大丈夫じゃ。氷竜の冷気に耐えるため、体温をいきなり上げたことで、ちょっとばかり負担になっただけじゃ」
「後遺症とか、残らないよね」
「お主も心配症じゃのう」
わたしだって、心配ぐらいする。
わたしの代わりに冷気に包まれ、危険な目に遭わせてしまった。
「その、ありがとうね」
なにか、あらたまってお礼を言うのは恥ずかしい。
「子供を守るのは大人の役目じゃ」
見た目が幼女なのに大人って、実際は大人ってよりは年寄りの年齢だけど。
「だけど、カガリさんになにかあれば、サクラたちが心配するんだから、無茶はしないでね」
「耐える方法はあったから、無茶ではない」
でも、目の前で冷気に包まれたところを見たわたしとしたら、泣きそうになったよ。
「じゃが、お主には心配をかけた。すまぬ」
「ううん、助けてくれてありがとうね」
わたしとカガリさんを乗せたくまゆるとくまきゅうは鉱山に戻ってくる。
「ユナさん、カガリちゃん!」
鉱山の入り口から様子を窺っていたリーゼさんたちが、わたしたちを見ると駆け寄ってくる。
「ただいま」
「怪我はしてませんか? カガリちゃん、顔が赤くないですか?」
リーゼさんはカガリさんの額に手を当てる。
「あ、熱い。凄い熱です」
「大丈夫じゃ」
「大丈夫じゃないです。こんなに熱いんですよ」
熱いけど、今は触れても大丈夫な熱さみたいだ。
もし周囲の氷や雪も溶かす熱を体から発しているのを見たら、もっと驚いていたかもしれない。
「魔力で体を熱くしただけじゃ。そのうち治るから心配はしないでいい」
カガリさんはリーゼさんの手を優しく掴むと、安心させるように微笑む。
流石、大人の対応だ。
見た目は幼女だけど。
「それで、どうなったんだ? 氷竜が飛んでくるのは見えた。そのあとは嬢ちゃんたちに言われて鉱山の入り口で様子を窺っていたが」
「もの凄い音が聞こえてくるだけで、状況は分からない」
わたしは簡単に説明をした。
新しい氷竜が仲間を連れて来たこと。一体をわたしとカガリさんが相手にすることになったこと。山頂の氷竜とわたしたちが勝ったこと。
「本当に勝ったのか?」
わたしは証明するために、氷竜の角を取り出す。
リーゼさんたちは驚きの声をあげる。
「もう人は襲わない。山頂の氷竜にも逆らわないって、証明だよ」
「……氷竜の角」
「そのままで、触れぬが良いじゃろう」
手袋もせずに触れようとしたお爺ちゃんをカガリさんが止める。
確かに、冷気っぽいものを出しているように見える。
「もしかして、ずっとこのままなのかな」
「そのうちに落ちつくじゃろう」
ならいいけど。
「これで、山頂にいる氷竜の赤ちゃんが産まれれば、氷竜はいなくなるんですね」
「そうだね」
みんなの表情は明るくなる。
とりあえず、今日は日が沈み、夜も遅く、氷竜と戦って疲れたので、休むことにした。
クマハウス?
予備を出したよ。
山頂にクマハウスを置きっぱで、氷竜との戦いが始まってしまったから、明日にでも回収に行かないと。
「カガリさん、今回はありがとうね」
寝る準備をしているところで感謝の気持ちを伝える。
「なんじゃ、いきなり」
「いろいろだよ。街の探索に付き合ってくれたり、氷竜に会うことにも付き合ってくれたし、危険もあるのに一緒に氷竜と戦ってくれたり」
「そんなことか、気にするな。妾も陸になにがあるか気になったから付き合った。氷竜が対話ができると分かったから、好奇心で付き合った。氷竜と戦ったのは、大人である妾がお主を1人、氷竜と戦わせるわけにはいかぬじゃろう。まあ、あまり役に立てなかったが」
「そんなことないよ。一緒に戦ってくれて心強かったよ」
カガリさんは危険があるのにもかかわらず、氷竜の目の前で気を引いたり、何度もわたしを助けてくれた。
「……そして、危険を顧みずにわたしを助けてくれたでしょう。でも、命をかけてまでも、わたしを守らなくてもいいからね」
あのときは、本当にカガリさんが死んでしまったかと思って、心が締め付けられた。
なんとも言えない感情が出た。
両親が死んだとしても、こんな感情は出ないと思う。
「何度も言うが、別に命をかけたわけじゃない。生き残る算段はあった」
「あの体を熱するやつ?」
「そうじゃ。だが、思った以上に氷竜の冷気が強かったから、狐になり、魔力を増幅させた。この姿じゃ、熱に耐えきれなかったかもしれぬからな」
そうだったんだ。
「それにしても、お主も氷竜を凍らせるなんて、よく思いついたのう」
「なんとなく、氷竜が水を嫌っているように感じたから」
わたしはカガリさんの発した熱や、炎の魔法で周囲の溶けた水を避けていたことを話す。
わたしの説明にカガリさんが、少し考え込む。
「確かに、今思うと、そんな気配はあったのう。それだって、微々たるものじゃろう」
「うん、だから、試しにやってみようと思ったわけ。そしたら、氷竜自身の冷たさによって水が凍って、動きを阻害し始めたんだよ」
翼とか凍って、動きにくそうだった。
「自身の冷気によって自分が凍るなんて、氷竜もバカじゃのう」
「でも、これで、また氷竜と戦うことになっても氷竜を倒せるね」
「お主、また戦うつもりか?」
「相手が喧嘩を売ってくるなら」
わたしの言葉にカガリさんは呆れた表情をする。
「そのときは、付き合わないぞ」
カガリさんはそんなことを言うが、助けてくれるような気がする。
「なにを笑っておる」
「なんでもないよ」
疲れたけど、長い1日が終わった。
氷竜の戦いも決着です。
フィナのねんどろいどが発売しました。
我が家にもやってきました。可愛い。
くまゆるとくまきゅうのねんどろいどもほしいな。チラチラ。
【発売予定表】
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フィナ、ねんどろいど 2024年1月20日発売中
KDcolle くまクマ熊ベアーぱーんち! ユナ 1/7スケール 2024年3月31日
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2巻2023年8月30日発売
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【書籍】
書籍20巻 2023年8月4日に発売しました。(次巻、20.5巻予定、作業中)
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文庫版9巻 2023年12月1日に発売しました。(表紙のユナとルイミンのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年3月20日、抽選で20名様)(10巻、作業中)
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