776 クマさん、氷竜に遭遇する
「これで、おしまいか?」
「周辺にはいないね」
探知内では、離れている場所にはいるけどこちらに来る様子はないので、これでお終いとする。
近寄ってくればくまゆるとくまきゅうが教えてくれる。
「カガリちゃん! 凄い」
わたしとカガリさんがクマバスに戻って来ると、リーゼさんがカガリさんに抱きつく。
「怪我はしてない?」
「大丈夫じゃ」
「2人とも凄いです。あんな魔物を倒しちゃうなんて」
「嬢ちゃんたち2人だけで、この街に来たのも納得だ」
「それで馬は?」
漁師のバランさんが今にも飛び出しそうになるので引き留め、クマバスで馬がいる小屋の前まで移動させる。
「小屋は無事のようだ」
見た感じ、小屋が壊された様子はない。間に合ったみたいだ。
バランさんはクマバスから降りると小屋に駆け寄り、扉を開ける。
わたしも一緒について行き、小屋の中に入る。
馬はちゃんといた。
バランさんは馬を見て安堵すると、近寄り、優しく馬の首をさする。
「ルガ、無事でよかった」
馬の名前はルガって言うんだね。
「それじゃルガ。ここは危険だから移動するぞ」
馬を小屋の外に出そうとするが、馬が嫌がる。
「ルガ、また魔物が来るかもしれない。だから、来てくれ」
馬は抵抗する。
「どうやら、吹雪の中、外に出たくないみたいじゃのう」
カガリさんが馬の反応を見て言う。
もしかして、狐だから馬の気持ちが分かる、とかだったりしないよね?
たまにくまゆるとくまきゅうと会話をしているところを見かけるので、馬とも意思疎通ができるんじゃないかと思ってしまう。
「それじゃ、鉱山の入り口までトンネルを作るよ」
小屋の入り口に移動すると、地面に魔力を流す。
雪の下から土が盛り上がり、鉱山の入り口までトンネルができあがる。
「これなら、馬も大丈夫でしょう」
バランさんが手綱を引っ張ると馬は素直に歩き出し、トンネルを通り始める。
やっぱり、カガリさんは馬と会話ができる?
トンネルの中は暗いので、ちゃんとところどころに光魔法を設置済みだ。
他のみんなもトンネルを通って、鉱山の入り口に向かう。
わたしはクマバスを仕舞い、くまゆるとくまきゅうと一緒に歩く。
カガリさんはちゃっかり、くまゆるの背中に乗っている。
「ユナさん、カガリちゃん、ありがとうございます。無事に戻って来られました」
「馬も無事だった、ありがとう」
バランさんは馬に水を与えている。
さっそく、わたしとカガリさんが作った水場が活用される。
鉱山のベッドがある部屋に戻ってくると、みんな安心したようにベッドに腰を下ろす。
「いつも、あんなに現れるの?」
「魔物は現れますが、数のほうは分かりません」
「いつも、吹雪が起きたときは、鉱山のこの部屋に隠れますので」
それはそうだ。
魔物が一体でも現れれば逃げる。
もし、元の世界でもオオカミやクマに遭遇したとして、周りに何頭いるかなんて確認はしない。その場から離れる一択だ。なにより、確認は冒険者の仕事だ。でも、その冒険者はいない。
「この中まで入ってこないのか?」
「いまのところ、一度もありません」
「雪がないところには移動しないのかもしれぬな」
まあ、氷の魔物だし、吹雪のときにしか現れないとも言っていたし。
「とりあえずは吹雪が止むのを待つしかないのう」
「いつも、こんな感じで、いきなり吹雪くの?」
「前兆もなく吹雪く。それで、何度も危険な目に遭っている。とくにバランさんが魚を捕りに海に行っているときに吹雪かれたときは大変だった」
「いつも、そんな危険がある中、魚を捕りに行ってくれている」
「それが俺の仕事だから、気にしないでくれ」
「作物を育てられればいいんじゃが、吹雪のせいで、作物を収穫まで育てることができない」
確かに、せっかく作物を育てても吹雪がおこれば全部ダメになってしまう。
「お主たち苦労してきたんじゃのう」
みんなも落ち着き、カガリさんが部屋に置かれている椅子に座った瞬間、くまゆるとくまきゅうが「「くぅ~ん!!」」と信じられないほどの大きな声で鳴く。
「なんじゃ!」
カガリさんが椅子から落ちそうになる。
わたしは異常な声で鳴くくまゆるとくまきゅうに嫌な予感がする。
探知スキルを使う。
魔物の反応はある。でも表示は『no data』
こんなのは初めてだ。
でも、思いつくのは氷竜。
「ユナさん、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんはどうしたのですか?」
「外に何か来たみたい。ちょっと、見てくる。みんなはここにいて」
「妾も行こう」
「ユナさん、カガリちゃん、気を付けてください」
みんなのことはくまゆるとくまきゅうに任せ、わたしたちは鉱山の外に向かう。
「嫌な予感がするのう。尻尾が出てしまった」
今まで尻尾と耳はなかった。
でも、今は服の下から尻尾らしきのものが膨らんでいる。
「それで、何が来ているのじゃ。まあ、聞かずとも予想はできるが」
「その予想は外れてほしいんだけど」
「それには同意じゃ。でも、妾の尻尾の震えが止まらない」
「わたし1人で見てくるよ」
「小娘1人で行かすわけにはいかぬ。年長者の役割じゃ」
今はわたしより幼い幼女だけどね。
でも、一緒に来てくれるのは心強い。
わたしとカガリさんは重い足取りで鉱山の出口にやってくる。
「大蛇のときとは異なる、まとわりつくような魔力じゃな」
わたしはなにも感じない。
雪に触れても分からなかった。
カガリさんはこの手のことには敏感みたいだ。
狐だから?
それを言ったら、わたしはクマだよ。
「いないね」
でも、反応はある。
動いている。
わたしたちは鉱山を出て、周囲を確認しているとカガリさんが「上じゃ!」と叫ぶ。
上を見ると、大きな物体が降りてきた。地面が揺れる。
「……氷竜」
目の前には白い体の綺麗なドラゴンがいた。
頭の額に角があり、鋭い爪が地面を抉り、大きな翼が広がる。
大きな尻尾が左右に揺れたと思ったら、馬小屋を壊す。
氷竜がわたしたちのほうへ目を向ける。
目は鋭く、この世の生き物で最強と言われててもおかしくはない威圧感がある。
「これはまずいのう。大蛇のとき以上に体が震えておる」
魔力に敏感なカガリさんは自分の体を抱きしめる。
わたしも大蛇以上の魔物だと、肌で感じる。
「こっちから、先に手を出すんじゃないぞ」
わたしは頷く。
できれば戦いたくない相手だ。
ゲームなら、素材集めとか言って倒しただろうけど、ここは現実だ。カガリさんもいるし、鉱山の中にはリーゼさんたちもいる。
入り口を塞がれたら、大変なことになる。
なにより、ドラゴンの強さが分からない。
クマ装備が丈夫と言っても、ドラゴンの攻撃は受けたことがない。
『ナツカシイマリョクヲカンジタトオモイキテミレバ、ヒトノコガフタリカ』
ドラゴンを見ていると、いきなり頭の中に言葉が聞こえてくる。
「氷竜が話しかけてきておるのか」
カガリさんは頭を押さえながら言う。
氷竜が話しかけて……。
「ユナ、絶対に手を出すんじゃないぞ」
カガリさんに言われなくても、手を出すつもりはない。
氷竜の口から冷気が漏れ出してくる。
『ナツカシイマリョクヲモツ、クロイヒトノコヨ』
黒い人の子。
カガリさんは白っぽい和服だ。
わたしは黒のクマの着ぐるみ。
つまり、わたしのことを言っている。
でも、懐かしい魔力ってなに?
氷竜と会ったことなんてないよ。
「なんですか?」
『アノモノノ、ケツエンシャカ』
あの者の血縁者?
わたしには心当たりがない。
うちの親がこの世界にいるわけがないし、親戚?
そもそも、この世界に、わたし以外の異世界人がいるの?
「あの者、が誰のことを言っているか分かりません」
わたしは怒らせないように、丁寧に答える。
『コタエルツモリハナイカ』
ないんじゃなくて、分からないんだよ。
あの者って誰のこと?
尋ねたいが、氷竜は今度はカガリさんに尋ねる。
『ソッチノ、カワッタマリョクヲモッテイルシロキコハ、ナゼココニイル』
わたしが黒き子なら、白き子って、カガリさんのことになる。
「妾がここにいるのは、この者について来ただけじゃ」
カガリさんは、わたしのほうを見ながら答える。
「お主に尋ねる。妾のことを知っておるのか?」
『ハルカムカシ、シロキモノトオナジマリョクヲシッテイルダケダ』
遙か昔に、カガリさんと同じ魔力を持っている人物を知っている?
カガリさんの家族? 関係者?
妖狐がいるってこと?
「わたしも聞いていい?」
『ナンダ』
「わたしと似た魔力って誰のこと?」
『ソレハコタエラレナイ』
「どうして」
『ヤクソクダ』
そう言うと、氷竜は翼を羽ばたかせる。
「待って!」
わたしの言葉を無視して、氷竜は飛んで行ってしまう。
「お主、氷竜を呼び止めるな」
だって、気になるでしょう。
意味深なことだけ、言い残して立ち去るなんて。
「お主の気持ちは分かるが、時と場合を考えろ」
「うん、ごめん」
もし、怒らせでもしてここで戦うことになれば、カガリさんが死んでいたかもしれない。
攻撃で鉱山が崩れ、リーゼさんたちが生き埋めになっていたかもしれない。
なにより、カガリさんだっていろいろと尋ねたかったと思う。
「じゃが、まさか氷竜が話しかけてくるとは思わんかったわ」
「ドラゴンって話せるの?」
「対話ができるとは聞いたことがない。ただ、今まで出会わなかっただけなのか、話した者が黙っているのか、あるいは出会った者は死んだかじゃな」
「わたしたちは生きているよね」
「生かしたのは、ただの気まぐれかもしれぬ。こればかりは氷竜にしか分からないことじゃ」
勝手にやってきて、言いたいことを言って、去っていった。
カガリさんの言うとおりに、氷竜の気持ちは分からない。
申し訳ありません。次回の水曜日の投稿は休ませていただきます。
12/1はコミカライズ11巻と文庫版9巻の発売日です。
コミカライズの店舗購入特典のイラストカードもあります。イラストは活動報告にてあげさせていただきましたので、確認していただければと思います。
文庫版9巻
【お知らせ】
小説の更新日は日曜日、水曜日になります。
投稿ができない場合、あとがきなどに報告させていただきます。
アズメーカー様より、「アクリルキャラスタンド」「B2タペストリー」各2種、予約受付中です。
プリロール様より、くまクマ熊ベアーぱーんちのクリスマスケーキ2023が予約受付中です。
絵柄などは活動報告にてあげさせていただきましたので、よろしくお願いします。
くまクマ熊ベアーぱーんちBlu-ray&DVD、全3巻発売日中です。
最終刊には029先生全巻収納BOXも付いてきますので、よろしくお願いします。
奥飛騨クマ牧場とのコラボが2023年12月31日まで期間延長決定しました。
【発売予定表】
【フィギュア】
フィナ、ねんどろいど 2024年1月31日予定
KDcolle くまクマ熊ベアーぱーんち! ユナ 1/7スケール 2024年3月31日
グッドスマイルカンパニー、POP UP PARADE ユナ 発売中
【アニメ円盤】
1巻2023年7月26日発売
2巻2023年8月30日発売
3巻2023年9月27日発売
【書籍】
書籍20巻 2023年8月4日に発売しました。(次巻、20.5巻予定、作業中)
コミカライズ11巻 2023年12月1日発売予定。
コミカライズ外伝 1巻 2023年6月2日発売しました。
文庫版9巻 2023年12月1日発売予定。(表紙のユナとルイミンのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年3月20日、抽選で20名様、)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




