763 クマさん、ミサを送り届ける
わたしたちはクリモニアに帰ってきた。
静かな、我が家。
そう思ったのも束の間。
「ああ、帰ってきた!」
「どこに行っていたの?」
輝く綺麗な羽を持った妖精が、わたしたちの周りを飛び回る。
「プリメ、ローネ!? どうして、2人がいるの?」
「遊びに来たのよ」
プリメはわたしの周りをローネはノアの周りを飛び始める。
「プリメさん、ローネさん、来ていたんですね」
「ええ」
「遊びに来たわ」
2人は手を繋ぎながらアピールする。
仲良し姉妹だ。
本当にローネを助けることができてよかった。
「あのう、ユナお姉様とノアお姉様は誰とお話をしているのですか?」
ミサが怪訝そうな顔で、わたしとノアを見る。
「幽霊?」
シュリは怖がって、フィナの服を掴む。
「ユナお姉ちゃん、プリメさんがいるんですか?」
プリメのことを知っているフィナが尋ねてくる。
「プリメさん?」
ミサがキョロキョロと周りを見るがプリメとローネの存在に気付かない。
「プリメ、ローネ。この子たちにも見えるようにしてあげて」
お願いをすると、プリメとローネはわたしとノアの魔力を使って、ミサたちにも見えるようにしてくれる。
「……妖精?」
「ちっちゃくて、かわいい!」
「本当に妖精さんですか!?」
シュリとミサはプリメとローネを見て大騒ぎする。
「プリメよ」
「ローネ」
「2人は姉妹だよ。ちなみに、ローネがお姉さんで、プリメが妹」
「ミサーナと申します」
「シュリだよ」
「あら、礼儀正しい子ね」
プリメとローネはミサとシュリの周りを飛ぶ。
「ノアお姉様から話は聞いていましたが、本当に綺麗です」
「うん、すごく、きれい」
ミサとシュリの2人は目を輝かせながらプリメとローネを見ている。
「ふふ、それほどでもないわ」
ミサとシュリに褒められて、まんざらでもないようだ。
実際にプリメとローネは神秘的で綺麗だ。
「まあ、それも口を開かなければだけどね」
プリメが小さい手でわたしの顔を叩くが、全然痛くない。
話が長くなりそうなので、クマの転移門が置いてある部屋から居間に移動する。
「それで、遊びに来たと言うけど、ちゃんと女王様の許可はもらってるの?」
何度もこちらに来ていたことで、女王様に怒られ、ついには禁止令が出されていた。
ノアたちとお出かけするすこし前に来て、フィナを紹介している。
「もちろん、もらったわよ」
「いつから来ていたの?」
「2日前」
早く戻ってきてよかった。
ドワーフの街や王都に行っていたら、もっと待たせることになっていた。
そうしたら、もっと騒いでいたかもしれない。
「これが、妖精の森に繋がっている鏡ですか?」
ミサは興味深そうに妖精の鏡に触る。
でも、鏡は普通の鏡と変わらないので、鏡に触っても鏡の中に吸い込まれることもない。
鏡には銀色の髪をした美少女しか映っていない。
「それで、ユナたちはどこに行っていたの?」
わたしたちはクマの転移門で小旅行に行ったことを話す。
「わたしも行きたかったなぁ」
「もう少し、女王様の許可が早く出ていれば……」
プリメとローネは残念そうにするが、プリメとローネも一緒だったら、騒がしく、大変だったと思うので、わたしとしては2人が来る前に出発できてよかった。
女王様、ありがとう。
心の中でお礼を言う。
「今度は、わたしたちも連れて行ってよ」
「いつ行くかわからないよ」
「何年でも待つわ」
そうだよ。この子たちもエルフ同様に時間感覚がずれてるんだよ。
「わかったよ。そのときはね」
心の中で「タイミングが合えばね」と付け足しておく。
「わたしはプリメさんが住んでいる妖精の森に行ってみたいです」
「わたしも、行ってみたい!」
ミサの言葉にシュリも手をあげる。
「ごめんね。連れていってあげたいけど、人を連れて来ちゃダメなんだ」
「女王様に怒られちゃうの」
「ユナお姉様とノアお姉様は行ったことがあるんですよね」
「わたしとユナさんは、ローネさんを捜すために許可が下りただけですから」
ミサたちにローネを探すことになった経緯を話す。
「そんなことがあったんですね。でも、たくさんの妖精がいる森ですか。神秘的ですね」
「うぅ、わたしも行ってみたかった。妖精さんたち、いっぱい見たかった」
「わたしたちだけじゃ、ダメって言うの?」
プリメはシュリの前で頬を膨らませる。
「違うよ。プリメ姉ちゃん。ただ、妖精さん、たくさんいるって言うから。たくさんの妖精さんを見たかっただけだよ」
まあ、一輪の綺麗な花もいいけど。
一面に咲く花は見ごたえはあるし、いろいろな綺麗な花があれば飽きない。
あの森で見たたくさんの妖精の光景は壮観だった。
だから、ミサとシュリの気持ちも分からなくもない。
「ごめんね」
「気にしないでください」
「うん、無理言って、ごめんなさい」
ミサとシュリは謝る。
「プリメさんとローネさんにお会いできただけでも、嬉しいです」
「わたしも!」
「それじゃ、いくらでも、見ていいわよ」
プリメはミサとシュリの前で飛び回る。
「でも、妖精のことは他の人に話しちゃダメだからね。騒ぎになれば、プリメとローネに二度と会えなくなるから」
妖精の話を聞きつけた人が、わたしの家に集まってくる可能性がある。
それだけ、妖精は珍しい存在だ。
「はい、お話ししません」
「わたしもしないよ!」
「ありがとう」
そして、ミサが手を前に差し出すと、プリメはミサの手の上に止まる。
「プリメさんは、ユナお姉様とノアお姉様と一緒に大冒険をしたのですよね。そのときのお話を聞かせていただくことはできますか?」
「うん、いいわよ」
その日、ノアたちは家には帰らず、プリメとローネを加えて、プリメの冒険譚で盛り上がった。
これでもし、クリフに妖精の森のことを尋ねられても、妖精に会って話をしたという言い訳ができた。
翌日、プリメとローネは帰り、フィナとシュリも家に帰って行った。わたしはノアとミサをノアの家に送り届ける。
「ちょっと、長居しちゃったけど、クリフ怒っていないかな」
「大丈夫だと思います。少し、遅くなるかもと伝えてありますから」
ならいいけど。
ノアの家にやってくると、ララさんが出迎えてくれ、クリフの執務室に案内される。
「お父様、ただいま戻りました」
「帰ってきたか。怪我とかしていないか」
クリフは手に持っていた資料から目を離し、わたしたちに目を向ける。
「ユナさんが、一緒ですから大丈夫ですよ」
「ミサーナも大丈夫か。もし、何かあればグラン爺さんに何を言われるか、わかったものじゃないからな」
「心配ありがとうございます。わたしも怪我一つありません」
「それで、ミサはどうしたらいい? このまま送り届ければいい?」
「ああ、頼む」
グランさんたちは街に帰ったので、わたしが送り届けることになっている。
「ミサ、楽しかったです。また、一緒にお出かけしましょうね」
「はい。その時は誘ってください」
ノアとミサは手を繋ぎ、約束をする。
「ユナさん、ミサのことをよろしくお願いします」
「ちゃんと、送り届けるよ」
わたしはミサを連れて、ノアの家を出る。
「それじゃ、行こうか」
「はい!」
わたしはくまゆるとくまきゅうを召喚する。
わたしがくまゆるに乗り、ミサはくまきゅうに乗る。
そのまま街の外に出る。
くまゆる、くまきゅうのことは知られているので、街の中で乗っていても、騒ぎになることはない。
ただ、他の街から来た人なのか、たまにくまゆるとくまきゅうを見ると、驚く者もいる。
「それじゃ、くまゆる、くまきゅう。急いでミサの街に行くよ。急げば、今日中に帰って来れるから」
「ユナお姉様、待ってください」
走り出そうとするくまゆるとくまきゅうが止まる。
「うん? なに?」
「その、ゆっくり、帰ってはダメでしょうか。ユナお姉様と初めての2人っきりなので。お話をしながら帰りたいです」
「別にいいけど。早く帰らなくて大丈夫?」
「大丈夫です」
「それなら、ゆっくりと話をしながら帰ろうか」
「はい!」
ミサは嬉しそうに返事をする。
わたしたちが乗るくまゆるとくまきゅうはミサが住むシーリンの街に向かってゆっくりと走り出していく。
「ユナお姉様、あの扉のことを教えていただき、ありがとうございました」
「ごめんね。今まで教えることができなくて」
「いえ、気にしないでください。お話ができなかったことぐらいは理解できていますので」
わたしはミサにフィナとの冒険やノアとお出かけをしたことを話しながら、シーリンの街に向かう。
「フィナちゃんとルイミンさんと一緒にドワーフの街に行ったこともあるんですね」
「いろいろあって、大変だったよ」
ドワーフの街のことはエルフの村に行ったときに、ルイミンとフィナから聞いていたそうだ。
わたしは補足する感じで、武器を作った鍛冶職人と武器を扱う冒険者がペアになって、試験を受けた話をしてあげる。
そんな話をミサは目を輝かせながら聞いてくれる。
それから、ノアと一緒にシアの学園の交流会の応援に行ったこと。
「ユナさんも参加したんですよね」
交流会についてもノアから話を聞いていたみたいだ。
「うん、成り行きでね」
「わたしも、シアお姉様とユナお姉様の応援に行きたかったです」
「わたしが参加することはないけど。もし、来年もシアが参加するようだったら、今度はフィナとシュリも連れて、みんなで応援に行こうか」
「はい!」
学園の関係者しか見学することはできないけど、エレローラさんに頼めば大丈夫だと思う。
そして、わたしたちがシーリンに到着したのは夕刻だった。
日常編終わり。次回より、新しい冒険が始まります。
本日、9月27日は「くまクマ熊ベアーぱーんち」Blu-ray&DVD第3巻の発売日です。
3巻には029先生の書き下ろしの全巻収納BOXが付きますので、よろしくお願いします。
【お知らせ】
小説の更新日は日曜日、水曜日になります。
投稿ができない場合、あとがきなどに報告させていただきます。
奥飛騨クマ牧場とのコラボが2023年12月31日まで期間延長決定しました。
【発売予定表】
【フィギュア】
フィナ、ねんどろいど 2024年1月31日予定
KDcolle くまクマ熊ベアーぱーんち! ユナ 1/7スケール 2024年3月31日
グットスマイルカンパニー、POP UP PARADE ユナ 発売中
【アニメ円盤】
1巻2023年7月26日発売
2巻2023年8月30日発売
3巻2023年9月27日発売
【書籍】
書籍20巻 2023年8月4日に発売しました。(次巻、20.5巻予定、作業中)
コミカライズ10巻 2023年5月2日発売しました。
コミカライズ外伝 1巻 2023年6月2日発売しました。
文庫版8巻 2023年6月2日発売しました。(9巻は準備中)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




