727 クマさん、ノアにまったりを邪魔をされる
今日こそはまったりしたい。
領主が来ようが、ギルマスが来ようが、国王が来ようが、まったりする。
わたしは決意を固め、通常サイズのくまゆるとくまきゅうの間に挟まれて、まったりモードに入る。
人が働いているときに、まったりするのは最高の贅沢。
なにか、ダメ人間の思考になっているけど、わたしは怠けたい。ゴロゴロしたい。
だから、今日はくまゆるとくまきゅうとまったりすると決めた。
う〜ん、気持ちいい。柔らかい。ふかふか、温かい。
あとは、ここに漫画やゲームがあったら最高なのに。
でも、目を瞑って、惰眠を貪るのもいい。
し・あ・わ・せ。
まったりモードに入って、しばらくすると、玄関からわたしを呼ぶ声が聞こえてくる。
「ユナさ〜ん」
ノアの声だ。
居留守も考えたが、可哀想なので出迎えることにする。
重い体を立ち上がらせ、玄関のドアを開けると、元気な眩しい、ノアの姿があった。
挨拶を済ませ、ノアを家の中に入れる。
ノアは、くまゆるとくまきゅうを見つけると抱きつく。
……そこは、今日のわたしのポジションだよ。
「それで、どうしたの? くまゆるとくまきゅうに会いに来たの?」
「それもありますが、ユナさんに確認です」
「確認?」
「フィナも、あの扉のことを知っていたんですよね?」
扉って、クマの転移門のことだよね。
「まあ、一応」
「いつから、知っていたんですか?」
わたしは問い詰められている。
「えっと、ノアと初めて王都に行ったときかな」
記憶を辿ると、王都に行っているときに、持っていた卵がなくなってしまい、クマの転移門を使って、クリモニアに戻ってきた。
あのときは、まだクマの転移門の凄さを知らなかったんだよね。
だから、気軽にフィナに教えたり、使ってしまった。
今となっては、フィナには教えておいてよかったと思う。
フィナは約束を守って、誰にも話さないでくれた。
「それって、国王様の誕生祭のときから知っていたということですか?」
「うん、まあ」
「そんな、前から知っていたなんて」
ノアは口を尖らせる。
そんなことを言われても困る。クマの転移門は本当に秘密だったから。一般的にある物だったら、話しても良かったけど、クマの転移門みたいな、移動手段は一般的にないみたいだ。
そんなクマの転移門が広まれば、大変なことになる。
ミレーヌさんに知られれば、商品を運ぶ手段に利用されそうだし。冒険者ギルドに知られれば、遠くの依頼をさせられそうだし。クリフや国王に知られれば、いいように扱われるかもしれない。
「簡単に話せないことぐらいノアにも分かるでしょう」
「……はい。敵対する国があれば欲しがると思います。簡単に兵士や騎士、魔法使いを敵国の内部に大量に送ることができます。物資だって、送り放題です。怪我をすれば、すぐに後方に下げられます。新しく兵士を補充することもできます。わたしが国王なら、各国に置きます」
「怖いこと言わないでよ」
11歳の少女が兵士を送るだとか物騒な。
でも流石、貴族の令嬢。頭の回転が速い。
「だから、秘密。前にも言ったけどクリフにも誰でも話しちゃダメだからね」
「はい。誰にも言いません」
クリフの耳に入れば、エレローラさん、果ては国王まで通ってしまう可能性もある。
ふう、でもこれで一件落着かな。
そう思ったが、終わらなかった。
「ですが、それとこれとは話が別です。もしかして、わたしがお父様や他の人に話すと思ったんですか? だから、教えてくれなかったんですか?」
ノアがさらに問い詰めてくる。
「別に、ノアが誰かに話すとは思っていないけど。ノアって時々口が軽いから、うっかり話しちゃうかなと思ったり?」
「ユナさん、酷いです。わたし、そんなに口が軽くありません」
王都に行ったときのわたしとノアの関係は知り合ったばかりだ。
初めてと言っても過言ではない。
それに、お出かけするにしても、くまゆるとくまきゅうとのお出かけを楽しみにしていた。
教えるタイミングがなかったのが一番の原因だ。
それに、クマの転移門のことをあまり話さない方がいいと思ったのもある。だから、いまだにクマの転移門のことは、信用できる人やムムルートさんの契約魔法をしてくれた人にしか教えていない。
これで、尋問は終わったかと思った矢先、タイミング悪くフィナがやってきてしまった。
今日の解体はないはずなのに。
「フィナ、いらっしゃい」
「ノア様!?」
わたしの家にノアがいると思っていなかったフィナは、ノアに出迎えられて驚く。
「ふふ、ちょうど、タイミングがよかったです」
わたしとフィナにとっては、最悪のタイミングだ。
「な、なんですか」
フィナはジリジリと詰め寄るノアの表情に、少し怯える。
「ほら、フィナが怖がっているでしょう。離れなさい」
わたしは今にも問い詰めようとするノアをフィナから離す。
わたしはフィナに、クマの転移門の存在をノアに知られたことを話す。
「フィナも知っていたんですよね」
「……はい」
「黙っているなんて、酷いです」
「ごめんなさい」
「ノア、フィナをいじめない」
「別にいじめていません」
「前にも言ったけど、あの門のことは秘密だから、フィナには黙っているようにお願いをしたんだよ」
「分かりました。それで、フィナは、どこに連れて行ってもらったのですか?」
「えっと……いろいろです」
「いろいろってどこですか!?」
「えっと……」
フィナが助けを求めるように、わたしに目を向ける。
フィナはわたしとの約束を守るため、話してもいいか困っている。
「フィナが困っているでしょう。今度、あの門を使って他の場所に連れて行ってあげるから、フィナをそれ以上問い詰めないで」
「本当ですか!」
まあ、そのくらいだったら問題はない。
「約束するよ。でも、そのときはクリフからお泊まりの許可をもらってね」
「お泊まりですか?」
和の国で星空を見ながら温泉に入ったりするかもしれない。そうなれば、お泊まりは必要だ。
それにあっちこっち見たら、時間もかかる。
「日帰りでもいいけど、それじゃ、楽しみも半減するかもしれないからね。せっかくなら、楽しんだほうがいいでしょう」
「分かりました。それで、もう一つお願いがあります」
「なに?」
「あの扉のことをミサに教えることはできませんか。わたしたちだけが知って、あの子にだけ黙っているのが辛いです」
ミサはノアの幼馴染みで、近くの街の領主の令嬢だ。
わたしとフィナも誕生日パーティーにお呼ばれして、参加した。
3人はクマ友だ。
ミサは誰かの秘密を言いふらすような子ではない。
ただ、広まりすぎるのは……。
「わたしたちだけ、楽しんで……」
「あのう、ユナお姉ちゃん、わたしもノア様の気持ちと同じです。わたしもノア様に黙っていたのが辛かったです」
「……分かったよ。今度、ミサも一緒にお出かけしよう」
「ユナさん!」
「ユナお姉ちゃん!」
二人は嬉しそうにする。
ミサが言いふらさないことは、これまでの付き合いで分かる。
でも、ちゃんと口止めはしておくつもりだ。
「それじゃ、さっそく、お出かけの予定を立てましょう」
「はい!」
二人は仲良く返事をする。
秘密を共有できる友達は嬉しいのかもしれない。
逆に友達に黙っているのは辛かったのかもしれない。
わたしには友達はいないから分からなかったけど、フィナには秘密にするのは辛いかもしれない。
フィナやノアに会えて、その辛さは少しは分かるようになった。
「でも、ノア、大丈夫なの? 数日前まで外出していたでしょう。またお出かけって、クリフが許してくれるの?」
妖精の件で、一週間ほど出かけていた。
何度も外出の許可が出るとは思えない。
一応、ノアは貴族の令嬢なんだから。
「それなら大丈夫です。あのお出かけも、勉強の一つです。戻ってきてから、あの街のことを書いて提出しました」
「提出って……」
まるで、報告書みたいだ。
「まさか、あそこで起こった事全部書いたわけじゃないよね?」
クリフには言っていないこともある。
「あの件に関してはユナさんがお父様に報告した以上のことは書いてません。ただ、その領主が起こしたことで、住民の被害、立場。さらに領主の命令に従い横柄な騎士、諦める住民。街から出ていく冒険者に商人などの考えを書きました」
ほう、そんなことを書いたのか。
本当に報告書やレポートみたいだ。
「それで、お父様からは、貴族は権力があり、住民を従わせる力がある。でも、それは街に住民がいるからこそだと言われました」
街から住民が消えれば、命令を出す相手がいなくなる。
住民がいなければお金は入ってこない。だから、屋敷の使用人は少なかったのかもしれない。
「それと、力は力無き者を守るために使われるべきだと言われました。いろいろな場所に目を向けろ。他人の言葉を聞け、でも、鵜呑みにするのはダメだと」
「クリフ様って、凄いですね」
話を聞いていたフィナが感心する。
「はい。ですが、お父様も間違えることや気付かないこともあると言っていました」
クリフから、この言葉を聞くたびに、孤児院のことを思い出す。
人は全能ではない。間違いを起こす。ただ、自ら間違った道を進まなければ、苦しむ住民は減る。
わたしだって、自分の行動が全て正しいとは思っていない。
誰だって間違いはする。
ただ、その間違いに気付き、正しい方へ進んでくれればいい。
まあ、怠け者のわたしには言われたくないと思うけど。
「貴族って大変なんですね」
「はい。難しいことばかりです。でも、知見を広めることで、判断材料が増えていくから、これからも勉強するように言われました。だから、外出しても大丈夫です!」
いい話が、最後で台無しだ。
アニメを見てくださった皆さん、ありがとうございます。
4月17日(月)は3話の放送日です。引き続きよろしくお願いします。
活動報告にて、グッズなど書きましたので、興味がある方はよろしくお願いします。
【発売予定表】
コミカライズ10巻 2023年5月2日発売予定です。
コミカライズ外伝 1巻 2023年6月2日発売予定です。
文庫版6巻 2023年4月7日発売中
文庫版7巻 2023年5月2日発売予定
文庫版8巻 2023年6月2日発売予定
【お知らせ】
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電子版で購入を考えている方がいましたら、よろしくお願いします
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




