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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける

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723 クマさん、デーガさんを案内する その2

「久しぶりだな」


 ミリーラに従業員旅行に行って以来の親子の再会になる。と言っても、そんなに月日は経っていない?


「どうして、お父さんがここに?」

「それは、お前の様子を見にだな……」

「もう、連絡もなしに来るなんて」

「すまない」


 何か、立場が逆転しているような。


「とりあえず、大きい体で通路に立っていられると邪魔だから座って」

「おう」

「アンズちゃんも、とりあえず料理を作りに戻って。お客さんが待っているんだから」

「うん」


 セーノさんに言われて、わたしとデーガさんは空いている席に座り、アンズは厨房に戻っていく。


「それで、いきなりどうして来たんですか?」


 フォルネさんがデーガさんに尋ねる。


「それは、娘の状況が知りたくてな」

「アンズちゃん、手紙を出していると言ってましたよ」


 セーノさんが話に入ってくる。


「だが、嘘を言っているかもしれないだろう?」

「ああ、娘さんを信じていないんだ」

「そ、そんなことはない。俺に心配かけまいと、店にはお客がいっぱいだとか、みんなは優しいとか……」

「それって、わたしのことも信じていないってこと?」


 今度はわたしが話に割り込む。


「嬢ちゃんのことは信じている」


 女性三人に追い込まれるデーガさん。


「ユナお姉ちゃん、セーノお姉ちゃん。デーガおじさんをいじめちゃダメだよ。お母さんが『父親って、娘さんがいくつになっても心配で大切だ』って言っていたよ」

「ああ、それ分かる。ぶっきらぼうのくせに、やたらと話しかけてくるのよね」

「わたしが子供のときに男の子に泣かされたら、怒って男の子の家に行こうとしたわ」


 セーノさんとフォルネさんは懐かしそうに言う。

 わたしは子供のときから、放置されていたよ。

 まあ、可愛げのない子供だったからね。

 フィナみたいな娘だったら、可愛がられたのかな。


「まあ、アンズちゃんのことが心配で来たのは分かったけど。黙って来ることはないと思うけど?」


「いや、俺はアンズの料理の腕が鈍っていないかと、それが心配で」

「ふふ、それじゃ、注文を取るわね」

「それじゃ……」


 デーガさんは料理をいくつか注文する。

 フィナが遠慮していたが、わたしとフィナも一緒に注文する。


「それじゃ、少し待ってね」


 セーノさんとフォルネさんも仕事に戻っていく。


「それにしても、人が多いな。それとみんな美味しそうに食べているな」

「それだけアンズの料理が美味しいってことでしょう」

「そうだな。お客の顔を見れば、アンズの料理の腕が落ちていないことは分かる。だが、自分の舌で確かめないとダメだ」


 厳しい父親だ。

 でも、お客さんが美味しそうに食べている姿を見て、安心しているようにも見える。


「嬢ちゃん、こんな立派な店をアンズのために用意してくれてありがとうな」

「約束だからね。わたしがアンズをクリモニアに誘ったんだから」

「でも、かなりお金がかかっただろう?」

「そうよ。デーガおじさん、聞いてよ」


 料理を運んでいたセーノさんが話に割り込んでくる。


「しかも、この店の2階にただで住まわせてくれて、食費も食材を使っていいことになっているから、実質無料。でも、お給金は一般的なとこと同じ」

「それよりも、多いぐらいよ。もう、よそで働けないわ」


 料理を運んでいたフォルネさんまで、話に入ってくる。


「適正なお給金だよ」


 一応、ティルミナさんに話を聞いて、最終確認をして許可を出しているが、わたしはクリモニアのお給金の相場は分からないので、そのあたりのことはティルミナさんに全て任せてある。

 

 わたしとしては、アンズたちを安いお給金で働かせて、金儲けを考えているわけではない。

 美味しい料理を作ってもらい、好きなときに食べに来ると、料理が出てくればいい。


「本当に、最高の職場だよ」

「うん、ユナちゃんには感謝だよ」


 みんなが温かい目で、わたしのことを見る。

 恥ずかしいから、やめてほしい。

 そんな恥ずかしい空気を壊してくれるかのように、アンズとペトルさんが料理を運んでくる。


「お待たせ」

「温かいうちに食べて」

「おう」


 テーブルの上にミリーラの海鮮料理から、和の国の料理までが並ぶ。

 どれも美味しそうだ。

 さっそく、デーガさんはテーブルに並べられた料理を食べ始める。

 わたしとフィナも一緒に食べる。

 相変わらず、美味しい。


「腕は落ちていないようだな」

「当たり前だよ。街に来てからも、お父さんの教えを守って作っているんだから」


 その言葉にデーガさんは嬉しそうにする。

 会話を続けたかったが、お客さんが入ってくるので、アンズは仕事に戻っていく。

 その様子をデーガさんは見守っている。


「いらっしゃいませ」


 新しいお客さんが入ってきた。

 本当に、人気がある。


「デーガさんか?」


 店に入ってきた男性がデーガさんに声をかける。


「トットか?」

「どうして、デーガさんがクリモニアに? もしかしてアンズちゃんの様子を見にきたのか?」

「ああ、そうだ」

「なんだ、俺の言っている言葉を信じていなかったのか?」

「別に信じていないわけじゃない」


 なにか、2人は知り合いみたいだ。


「デーガさん、この人は?」

「ああ、こいつは」

「俺はトット。商人だ。ミリーラとクリモニアの物を売っている。ミリーラへ行くと、デーガさんの宿に世話になっている」


 ああ、店員と客との関係ってことね。


「それで、嬢ちゃんは。噂のクマか」

「わたしのことを知っているの?」

「おいおい、クリモニアの商人で、嬢ちゃんのことを知らない者はいないぞ」

「嬢ちゃんは、そんなに有名なのか?」

「まあな。いろいろな魔物を討伐している。とくにウルフは一撃で倒しているから、毛皮なんて綺麗だ。なによりも解体が丁寧で高く取り引きされるから、嬢ちゃんが倒したウルフの毛皮は取り合いになるぐらいだ」


 わたしは隣で食事をしているフィナを見ると、顔を赤くして恥ずかしそうにしている。

 ウルフを解体しているのはフィナだ。

 解体が丁寧と言われて、照れているのかもしれない。


「前に、ブラックバイパーを倒したときは、素材の取り合いで大変だったぜ」


 ミレーヌさんから、かなりの利益を得たと言っていた。

 わたしもその恩恵を得ている。

 さらに言えば、まだ在庫は商業ギルドの倉庫に眠っていて、価値が上がったら売るとか言っていた。

 わたしのクマボックスの中にもブラックバイパーの皮や牙が眠っている。

 お金に困っていないので、素材は冬眠中だ。


「嬢ちゃん。そんな魔物まで倒していたのか」

「昔にね」


 懐かしい思い出だ。


「デーガおじさん、ブラックバイパーって、そんなに凄い魔物なの?」


 料理を運びながら、話を聞いていたのか、セーノさんが尋ねてくる。


「俺も、冒険者に聞いたことがあるぐらいだが、凄い大きい魔物だ」

「大きいなんてものじゃないぞ。クリモニアで討伐された魔物では、この数年で過去最大だろう」

「そんなに?」


 みんなが尊敬するような目で見てくる。


「でも、ユナちゃんなら、そのぐらいしてもおかしくはないわよね」

「確かに」

「なんだ。嬢ちゃんは、ミリーラでもなにかしたのか?」

「ナニモシテイナイヨ」

「ふふ、そうだな」

「そうね」


 みんな含みがある笑みを浮かべて、商人のおじさんは頭に「?」を浮かべる。


 そして、料理を食べ終わると、デーガさんは邪魔にならないように片隅の調理場が覗ける位置に移動する。

 なんとなく、わたしとフィナも一緒に付き合う。

 「厨房に入れば」と言ったが、「邪魔になる」と言って、離れた位置から見ている。


「それで、アンズはどう? ちゃんとやっていると思うけど」


 デーガさんはアンズがいる調理場に目を向ける。


「火加減、温度、包丁捌き、しっかりしている。下ごしらえも手を抜いていない。それにミリーラで使っていなかった食材も上手に扱っている。もう、立派な料理人だ」


 そして、デーガさんは一度もアンズの調理に口を出すこともなく、昼の時間が終わる。

 外の入り口に準備中の看板がでる。

 アンズたちは、自分たちの昼食を食べると片付けを始める。アンズとペトルさんは調理場の片付けを。セーノさんとフォルネさんは店内を掃除する。

 わたしとデーガさんも手伝おうとしたけど、4人から止められる。


「わたしたちの仕事だから、ユナちゃんたちは座っていて」


 そう言われたら、わたしたちは手を出すことはできない。

 そして、店の片付けが終わり、全員、椅子に座る。


「アンズ、成長したな」

「お父さん……」

「おまえの話はミリーラの町に来る者に聞いていた。しっかりやっていることは分かっていた。でも、この目で見ないと心配だった。連絡もなしに来てすまなかった」

「ううん、宿が忙しいのに、来てくれて嬉しいよ。でも、宿のほうは大丈夫なの?」


 デーガさんはわたしに説明したように、奥さんと兄、それから手伝いがいるから大丈夫だと説明する。


「それで、お父さんはいつまでいられるの?」

「おまえの腕が落ちていれば、しばらくいて叩き直すつもりだった。でも、それも不要みたいだな」


 その言葉にアンズは嬉しそうにする。


「それじゃ、すぐに帰る必要がなければ、クリモニアを案内してあげたら」

「そうだね。明後日が休みだし、いいんじゃないかな」


 セーノさんがそう言うと、他のみんなも頷く。


「それでデーガさんの泊まる場所だけど、空き部屋あるよね? デーガさんを泊めてほしいけど、大丈夫?」

「嬢ちゃん、俺なら、別に宿を探して」

「商業ギルドのミレーヌさんや領主のクリフの話だと、空いている宿を探すのは大変みたいだよ」


 わたしはそれで、街にある屋敷を宿に改築することを説明する。


「わたしは構いませんが」


 アンズがセーノさんたちを見る。


「別にデーガおじさんならいいよ」

「うん、わたしも」

「もちろん。でも、あの部屋、物置になっていなかった?」

「片付けをしたいけど、これから夕食の準備をしないといけないし」

「それじゃ、わたしが片づけるよ」

「わたしも、手伝います」


 フィナも申し出てくれる。


「俺は」

「準備ぐらいなら、話しながらでもできるでしょう。久しぶりに会ったんだから、アンズと一緒にいて」


 セーノさんに空いている部屋を教えてもらって、わたしとフィナで部屋の片付けを始める。





デーガさんがクリモニアにやってきました。


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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] アンズ達の寮って店の2階ではなく孤児院の近くじゃなかったっけ?  前話でも気になったのがモリンさんも寮に引っ越したから、店関係の従業員は皆寮にいますよね。
[一言] あの両親じゃ可愛くても無理じゃねえかな
[一言] なるほど デーガさんは自分の舌以外は自分の目だろうが それが誰であっても何も信じてないんだね 舌を誤魔化す手段はいくらでもあるのに
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