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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける

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719 ミレーヌ、動く

「はぁ」


 ため息が出る。

 クリフに仕事を押し付けられた。

 あの屋敷はいろいろあった曰く付きの屋敷だ。

 屋敷の持ち主は、とある理由で亡くなった。

 公にできないことだ。

 それで、屋敷を処分するときに、屋敷の持ち主の遠縁が商業ギルドに安く売り払った。

 売り出していたが、立派なこともあって買い手はつかなかった。

 そもそも、誰が住むのって話もある。

 それを長く放置していた結果、幽霊騒ぎが起きてしまった。

 ただでさえ買い手が付かない屋敷が、さらに買い手が付かなくなる。

 仕方なくわたしは職員に調べるように指示を出した。

 5人ほどの職員が屋敷を調べに行くと、職員の1人が揺れる光を見たと言う。

 その方向に指をさすが、他の職員には見えない。

 その話をきっかけに、幽霊が出る噂が広まってしまった。

 幽霊は見える者と、見えない者がいる話は聞く。

 ちなみにわたしは幽霊なんて一度も見たことがない。

 ともかく、幽霊騒ぎを払拭するため、冒険者ギルドに依頼を出す。

 冒険者ギルドで幽霊は出ないと御墨付きをもらうために依頼を出しただけだった。

 でも、冒険者ギルドから上がってきた報告は、「幽霊がいるかもしれない」というものだった。

 うちの職員と同様にゆらゆらと揺れる光を見た者がいるのに、一緒に行った者は見えていない。

 さらには耳元で声がしたのに、誰もいない。

 そんな報告まで上がってきた。

 本当に幽霊がいるの?

 壊すのも費用が掛かるし、あの立派な建物を破壊するのはもったいない。

 商業ギルドとしてはあり得ない。

 どうしようかと考えていると、クリフが冒険者ギルドのヘレンさんと一緒に商業ギルドにやってきた。

 なんでも、あの幽霊屋敷についてだそうだ。

 ヘレンさんの話ではユナちゃんが依頼を受けたとのこと。

 その報告に、どうしてクリフが来たの?

 組み合わせが分からない。

 どうやらクリフは、ユナちゃんの代わりに報告に来たようだ。

 屋敷の幽霊の正体は、屋敷に入り込んだ子供だと言う。

 そんなことはあり得ない。

 確認させたときには全ての鍵はしっかり閉まっており、壊された形跡もなかったと報告を受けている。

 だから子供が入り込んだなんて、あり得ないことだ。

 でも、クリフは二度と幽霊騒ぎが起きないと確信している。

 だからと言って、幽霊騒ぎがあった屋敷が売れるわけがない。

 そう言うと、クリフが屋敷を買い取り、宿にすると言い出す。

 クリフが買い取ってくれるのは助かる。売れなければお金は一生入ってこない。

 でも、宿にすると言っても、見た目は立派だ。価格も高くなる。もし、領主権限で安くすれば、他の宿に人が集まらなくなり、領主に不満が出る。

 するとクリフは屋敷の図面を持ってくるように言う。

 そして、図面を見ながら説明する。

 1階は使用人が使っていた部屋が多い。ここを一般客用として開放すればいい。そして、2階、3階と価格を上げると言う。

 確かにそれなら、差別化できる。

 キッチンもあるから料理の提供もできる。

 倉庫もあるから、保管する場所も大丈夫。

 風呂もある。

 確かに、宿として使うのはアリだ。

 商業ギルドとしては、屋敷が売れ、最近困っている宿不足も解消される。そうなれば人や商人が集まり、お金が街に落ちていく。

 商業ギルドの収入も増える。

 わたしが賛同すると、クリフがとんでもないことを言い出す。わたしたち商業ギルドに宿の経営を全て任せると言い出した。

 ……面倒ごとを押し付けられた。

 でもクリフが提示した条件は、決して悪いものではなかった。

 利益の2割をクリフがもらう。それ以外の利益はわたしたち商業ギルドがもらう。

 仕事を欲する人はたくさんおり、仕事を求めて商業ギルドに集まってくる。

 さらに商業ギルドには専門の職業を斡旋する伝手もある。

 なにより、今後また幽霊騒ぎが起きたとしても、クリフが責任を取ると言っている。

 損害が出た場合、クリフから支払いが出る。

 商業ギルドにデメリットはない。

 だから、わたしはクリフの提案を受けることにした。

 だけど……。


「……はぁ」


 わたしはもう一度ため息を吐く。

 やり始めるなら費用は抑えたい気持ちが出る。初期費用があまり掛からないとはいえ、ゼロにはならない。

 ユナちゃんはお店を作るとき、気にしないでお金を使っていたけど、どこからあんな資金が出てきたのかしら。


「確認するなら、行くしかないわよね」


 わたしは屋敷の状態を自分の目で確認するため、屋敷に向かうことにした。

 クリフはああは言ったけど、本当に幽霊なんて出ないでしょうね。

 1人で行くのは怖いので、1人職員を連れていくことにする。


「どうして、わたしが一緒に行くことに」


 わたしが忙しいときにユナちゃんのことをお願いしているリアナと一緒に来ている。


「ギルドマスターの側で仕事ができるんだから、嬉しいでしょう」

「それが幽霊屋敷でなければ嬉しいです」


 それはわたしも同じ気持ちだ。


「ともかく、わたしから離れちゃダメだからね」


 わたしが怖いから。


「言われなくても、離れません」


 リアナはわたしから離れないように寄ってくる。

 わたしたちは屋敷の中に入ると、まずは1階を確認する。

 1階はクリフの言うとおりに使用人が使っていたと思われる部屋が多い。


「ベッドや椅子、テーブルはそのまま残っていますね」


 リアナの言うとおりに各部屋にはベッドも机も椅子も置いたままだった。

 ベッドが二つある部屋もあるから、2人部屋としても使えそうだ。


「掃除は必要ですが、このまま使えそうですね」


 リアナが机に触れると埃が溜まっている。


「そうね。一通り回って、問題がなければ一度掃除業者をいれましょう」


 部屋を出ると他の場所を確認する。

 キッチンや食堂もある。

 食器などもそのまま残っている。引き出しの中に入っていたので綺麗だ。


「こちらも使えそうですね」

「しかも高級感のあるお皿もあるから、高い部屋に泊まったお客様には使えそうね」


 1階を見回ると地下への階段を見つける。


「ギルマス、降りるのですか?」

「確認しないといけないでしょう」


 わたしたちは地下に降りる。

 扉があり開けると倉庫だったみたいだ。

 綺麗に清掃されており、床に花束が置いてあった。

 近寄ると、花束は枯れていた。


「前の住民が、置いたのでしょうか?」

「そうかもね……」

「ここは倉庫として、使えそうですね」

「……ここは、使用しないでいいわ」


 何があったかは詳しいことは知らない。

 でも、想像はできる。


「よろしいのですか?」

「ええ、鍵はしっかりかけ、商業ギルドで預かるわ」


 地下倉庫を後にしたわたしたちは、2階に移動する。

 2階は一階と違って、部屋は広く、客室、応接間などがある。家具もそのまま残っているので使えそうだ。


 そして、3階に移動しようとすると、2階と3階の階段の間の壁に絵がかかっていた。


「ギルマス、この絵はどうしますか?」


 リアナの目の先には太った人物像が描かれている。

 あの男の絵ね。

 何度か会ったことはあるけど、燃やしたくなるわね。

 クリフは屋敷にあるものは全部自由にしていいって言っていたし、燃やすのが一番いい活用方法かしら。

 クリフも誘えば、喜んで来てくれるかもしれない。

 それとも、あの地下の倉庫に飾ってやろうかしら。

 これはクリフと相談ね。


「クリフと相談するわ。でも、取り外す方向で話を進めて」


 絵を外すのは決定事項だ。


「分かりました」


 リアナはメモをする。

 でも、代わりに何か絵を飾りたくなるわね。

 まあ、それは後でゆっくりと考えましょう。


 次に3階の確認を始める。

 元の家主の部屋らしく、高級家具が置かれていた。

 元の屋敷の持ち主に親戚がいたが、引き取りは拒否されたらしい。

 処分してお金にする案もあったが、そのまま屋敷と一緒に売り出すことにしていた。今となっては、それがよかったかもしれない。

 この部屋に合わせた高級家具を揃えるだけでも、お金はかかる。


 それからも、わたしは使える物、処分する物の指示を出していく。リアナは全てメモっていく。

 思っていたよりも使えそうな物が多く残っている。初期経費はかなり抑えられそうだ。

 あとは利益がでるように宿泊代の価格を決めないといけない。


「……幽霊、出ませんね」


 リアナの言葉で思い出す。

 忘れていた。この屋敷には幽霊騒ぎがあったことを。

 かなりの時間、屋敷にいるが幽霊らしきものには出会わない。

 光が揺れているとか、どこからともなく声が聞こえてくるとか、窓が開いていないのにカーテンが揺れるとか、幽霊騒ぎとなった事象が一度も起きてない。

 クリフの言うとおりに、子供のイタズラだったのかしら?


「もしかして、クリフ様が仕組んだことだったのでは?」


 リアナがそんなことを言い出す。


「どういうこと?」

「幽霊騒ぎになれば、誰も幽霊屋敷を買おうとは思いません。そうなると、売るために屋敷の価格を下げないといけません。それを狙って」


 コツン。

 わたしはリアナのおでこを軽く小突く。


「なに、バカなことを言っているのよ。そんなわけがないでしょう」


 孤児院の件があった後、わたしは調べた。

 クリフは、この屋敷を潰したいと思っているはずだ。

 だから、それはないと言い切れる。

 領主として、活用方法を見つけ、購入した。

 だけど、この屋敷にはいい思い出はないから、わたしに押し付けたんだと思う。

 心のどこかでクリフの気持ちが分かるから、クリフの提案を引き受けたのかもしれない。


 それから、ユナちゃんがクリモニアに帰ってきた知らせを聞いたわたしは早速、ユナちゃんに一つのお願いをすることにした。

 あの、デブな男の絵があった場所に、ユナちゃんに絵を描いてもらうことにした。

 もちろん、絵はクマがいいわよね。






ミレーヌさん、宿にするために動きます。そして、絵を……


【お知らせ】

クマ、コミカライズ100話記念として、アクリルスタンドのプレゼントキャンペーンを行っています。

応募方法など、どのようなアクリルスタンドなのかは活動報告に書いてありますので、活動報告にて確認をお願いします。

応募締め切りは2023年2月26日(日)までとなっています。


【お知らせ】アニメ2期、2023年4月放送予定になります。

【お知らせ】文庫版1~3巻 2023年2月3日発売中


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。


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― 新着の感想 ―
クズの絵の代わりにユナちゃんが描いた絵を飾るのはいいアイデアですね!デモここであのクズ貴族の家が出てくるとは思わなかった。たしかに色々やらかしたからかなりのお屋敷に居た筈ですね。
[一言] ユナのとこ行くかと思った。よく考えたらこの時間軸ではいないもんね。 ユナにも教えたら一緒に処分してくれるかも あっ、だめだ、一緒に燃やしそう。地下のこと知ったら特に。 いっそ、ユナちゃん…
[気になる点] 情報通の商業ギルドなのに虐殺の件は知らなかったのだろうか。 地下室の清掃は、クリフ側でやったのかな。 屋敷の持ち主の遠縁が、清掃依頼出すならギルドに出すだろうから知ってそうだし。 ユ…
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