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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
730/907

707 クマさん、ベルングと戦う その5

 騎士とメイドがわたしたちを見ている。


「ローネ様に、もう一人の妖精。それにクマが三頭……」


 今、クマ三頭って言った?

 くまゆるとくまきゅうの二頭だよね。

 もしかして、目が悪い?

 少しばかり問い詰めたいが、今はそれどころではない。


「ローネ……」


 騎士の背中に乗せられている人物が小さい声でローネの名前を呼ぶ。


「……リ、リヤン」


 ローネは涙を浮かべたかと思うと、屋敷から出てきた三人のところに飛んでいく。

 騎士の背中に背負られていたのは、地下で寝ていたリヤンだった。


「リヤン、目が覚めたの!」


 ローネがリヤンの顔に抱きつく。


「は、い」


 小さい声で答える。


「もう、起きるのが遅いよ」

「すみ、ません」

「こんなに、痩せ細って」


 ローネは泣きながらリヤンの顔に抱きついている。

 あの台座から離れればリヤンに流れる魔力は止まって、苦しむはずだけど。

 そんな様子はない。有効範囲がある?


 リヤンはローネに向かって微笑むとベルングに目を向ける。


「ベルング……」


 ベルングは動きが止まり、リヤンを虚ろな目で見ている。


「あれがベルング様?」

「本当に……?」


 リヤンが名を呼ぶと、騎士とメイドはベルングの姿を見て驚いている。

 ベルングの姿は変わり果てている。

 初めの頃の雰囲気はない。


「その男をどこへ連れていく」


 ベルングが虚ろな目で騎士たちに問いかける。


「ベルング様。聞いてください。あの立ち入り禁止だった扉の鍵が壊されて、扉が開いていたんです。それで、地下室に確認しに行くと隊長が死んでいて、リヤンさんが寝ていたんです」


 騎士はベルングに説明する。

 その隊長を殺したのは、話しかけている人物だよ。


「どこへ連れていく……」


 騎士の言葉が伝わっていないのか、言葉を繰り返す。

 ベルングにはリヤンとローネのことしか、頭にないのかも知れない。


「ベルング、そんな、すがたに、までなって……」


 リヤンは悲しそうな目でベルングを見ている。


「ローネはわたしのものだ」

「ローネは、おまえの、ものでは、ない。わたしの、ものでもない。ベルング、もう、終わりに、しよう」


 リヤンは苦しそうに声を出すと、騎士の背中を押し出すように自分から騎士の背中から離れる。その反動でリヤンは地面に倒れる。


「リヤンさん!?」


 いきなりの行動に騎士は驚く。


「リヤン!」


 倒れているリヤンにローネが心配そうにする。


「ユナさん、でしたね。おれいも、いえず、もうしわけ、ありません。ローネのことを、よろしく、おねがいします」


 わたしの名前を知っている?

 リヤンはゆっくりと体を起こし、どこから出したのか、手にはナイフが握られていた。


「リヤンさん、そのナイフは……」


 わたしたちが止める間もなく、リヤンは自分の胸にナイフを突き刺した。


「リヤン!」


 ローネはリヤンに抱きつく。


「わたしが、しねば、ベルングに、まりょくは、ながれません。どうか、ベルングを、とめて、ください」


 リヤンは血を吐くと地面に倒れる。

 リヤンの目は閉じ、体はピクリとも動かない。


「リヤン、リヤン」

「そのナイフは俺の……」


 ローネは泣き叫び、騎士とメイドは何が起きたのか、分からないのか、動けないでいた。

 くまゆるとくまきゅう、プリメも見ているだけだった。

 わたしもだ。


「リヤン! 嘘よ! リヤン、起きて。お願いだから。やっと目が覚めたのに酷いよ」


 ローネがリヤンの胸で泣く。


「お願い、死なないで」


 わたしは我に返り、治療魔法をかけにリヤンに近づこうとすると、ベルングがわたしに向けて魔法を放ってくる。わたしはギリギリ躱す。


「リ、ヤ、ン」


 ベルングがふらつくように、リヤンに近づいていく。攻撃のチャンスだけど、できない。ベルングは倒れたリヤンの前に膝を突く。


「リ、ヤ、ン」

「あなたのせいよ。リヤンが死んだのはあなたのせいよ」


 ローネは小さい手でベルングの顔を叩く。

 でも、ベルングの反応はない。


「リ、ヤ、ン」


 ベルングはもう一度、小さい声で名前を呼びながらリヤンの体に触れる。すると、ベルングの体から魔力が溢れるように光り出す。


「なに!?」


 ベルングの魔力によって、ベルングの周りにいた人たちは弾き飛ばされる。

 騎士やメイドは地面に転がる。ローネは空を舞い、わたしは走って受け止める。


「うぅ、痛い」


 わたしの手の中で、ローネが痛がり始める。

 先ほどのベルングがローネから力を得たときと同じ状況だ。

 さらに力を得ようとしている?

 でも、どうして? リヤンは死んだのに。


「ローネ!」

「痛い」


 ローネは痛みで気を失ってしまう。


「ロー……ネ」


 ベルングがゆっくりと立ち上がり、わたしのほうを見ると、もの凄い速さで襲いかかってくる。

 ベルングはわたしに向かって剣を振り下ろす。

 わたしはベルングの振り下ろされた剣をミスリルナイフで防ぐ。

 どこに、そんな力が。

 リヤンの死体を媒体にしている?

 それとも生きている?

 かつてない魔力がベルングから放出されている。


「ローネをかえせ……」

「返せと言われて、そうですかって言って渡せないよ。くまゆる、くまきゅう!」


 わたしは叫ぶと同時にベルングを蹴り飛ばす。

 そして、駆け寄ってきたくまゆるの背中に気を失ったローネを乗せる。


「お願いね」

「くぅ〜ん」

「あなたたちも早くここから離れて」


 わたしは騎士とメイドに向かって言う。


「どこに?」

「そんなの知らないよ。とにかく、ベルングから離れないと殺されるよ!」


 ベルングとわたしの攻防が再開する。

 リヤンは血を流して、倒れている。

 まだ、生きているかもしれないが、助けたくても、ベルングが邪魔をする。

 ベルングは怒りで見境無しに攻撃をしてくる。

 速い……。



※ローザ視点※


 わたしたちは騎士たちが乗ってた馬を拝借して屋敷に向かっている。

 街の中は混乱していた。

 苦しんで倒れている者。介抱している者。

 魔力を奪われた影響みたいだ。

 いったい屋敷で何が起きているの?


「うぅ」


 また、魔力が奪われ、脱力感に襲われる。

 しっかり手綱を握り、馬から落ちないようにする。


「ローザ、大丈夫か」


 心配するブリッツも辛そうにしている。


「わたしは大丈夫」


 ランから借りた魔石を使って、少しだけ体調が戻る。


「ブリッツは大丈夫?」

「大丈夫と言いたいが、少しきついな。だが、そうも言ってられない。ユナたちが心配だ」


 ユナちゃんが強いことは知っている。でも、今回のわたしたちの行動が領主に知られていたことを考えれば、屋敷に騎士が待ち構えていることは十分に考えられる。

 そんな状況の中、ユナちゃんは、たった一人でノアちゃんたちを守りながら妖精の力で強化された騎士たちと戦っているかもしれない。


「早く、行くぞ」

「ええ」


 今のわたしたちには住民を助けることはできない。

 今のわたしたちにできることは、領主のところに向かい、この混乱を収めることだけだ。

 わたしたちは馬を走らせ、領主の屋敷に向かう。


 屋敷に近づくと、クマの形をしたものが見えてきた。そのクマは数体あり、騎士を閉じ込めるように立っていた。


「ユナがやったのか」


 そうとしか考えられない。ユナちゃんが、この騎士たちの足止めをしてくれたんだと思う。

 もし、この騎士たちがギルマスやわたしたちのところに向かっていたら、作戦は失敗していたかも知れない。

 ユナちゃんが騎士たちを足止めしてくれたおかげで、わたしたちは魔力を奪う装置を破壊することができた。

 でも、ユナちゃんの思いも届かず、魔力を奪う装置の破壊は半分失敗に終わっている。


 クマの檻の中で騎士たちが苦しそうにしていたが、今は一刻を争う。住民と同じように助けている時間はない。

 それに助けたら、襲ってくるかもしれないから、今は放置するしかない。


 クマの檻に閉じ込められている騎士たちの前を通り過ぎ、馬を走らせていると屋敷から来たと思われる騎士やメイドに会うが、地面に倒れたり、苦しそうに歩いていた。

 その横を馬で走り抜けていくが、わたしたちを気にする様子もない。

 そんな余裕はないのかもしれない。

 わたしたちも脱力感が激しい。


「いったい、屋敷で何が起きているんだ」

「急ぎましょう」


 そして、屋敷の前に到着する。

 馬がいなければ、到底辿り着けなかった。

 屋敷を囲う塀は無惨に壊され、その壊された塀の中ではユナちゃんと気味が悪い男が戦っていた。

 その2人の戦いは人が戦っているようには見えなかった。

 動きは速く、剣とナイフがぶつかり合う。

 魔法を放てば、地面は抉られ、壁や屋敷が壊れる。


「これが、嬢ちゃんの本気の戦いか」

「ブリッツ……」


 わたしたちもユナちゃんが強いことは知っている。

 でも、それはただ知っているだけで、本当の戦いは見たことがなかった。


「嫉妬するぐらい凄いな」


 その気持ちは分からなくもない。魔法だけでなく、あの動き、ナイフ捌き。どちらの技術もトップクラス。

 わたしが魔法だけの戦いをしても勝てない。ブリッツが剣だけで戦っても勝てない。

 それだけ、ユナちゃんの戦いは凄い。そのユナちゃんと互角に戦っているあの男は誰?


「ローザ、あそこに、ユナのクマがいる」


 ブリッツが見る先に、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃん、それから男と女の人、そして誰かが倒れている。



【お知らせ】各書店様で、書籍19巻が発売となりました。本屋さんで見かけましたら、よろしくお願いします。(活動報告にカバーイラスト、店舗特典購入特典など公開中です)


【お知らせ】出版社様のTwitterにて、作者のサイン本プレゼントキャンペーンを行っています。作者のTwitterでもリツイートしていますので、移動はできるかと思いますので、よろしくお願いします。

締め切りは10/17(月)23:59となっています。


【告知】コミカラズ9巻の発売日11/4となっています。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔力封じ ストーカーもしくは変態同士の技術合戦
[一言] !!!!!!!!!!!!!!! 【魔力封じの首輪】の存在を失念してたぁ! 野嶋信吾さん、オメガぐっじょぶですよぉぉ(・∀・).*・゜ 絶対使うべきですよぉ絶対に。 【伏線回収】の神…
[一言] 魔力により暴走してるなら、ユーフォリアの時に手にした魔力封じの首輪の伏線回収には丁度良いと思うのだがどんな結末になるかな?
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