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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける

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706 クマさん、ベルングと戦う その4

※リヤン視点※


 ローネの気持ちが伝わってくる。

 いつもローネは泣いている。

 自分がここにローネを連れてきてしまったことで、ローネを苦しめている。

 ベルングの妖精に対する執着が、ここまでとは思わなかった。

 ただ、ベルングに喜んでもらえればと思っていた。でも、ベルングは妖精が見える自分に嫉妬し、ローネを自分のものにしようとしていた。だから、ローネを帰らせようとしたが、ベルングが拒んだ。

 怒り出し、そんなことは許さないと言い出した。

 そして、俺は薬を飲まされ、ここに長いこと寝かされている。目を開けることも口を開くこともできなかったが、たまに意識が戻ることがあった。それはローネが近くにいるときやローネの感情が大きく動いたときだ。

 でも、その時はいつもローネが泣いている時だ。

 手を差し伸べることも、声をかけることも、慰めることもできない。

 ローネの顔が見たい。


「リヤン」


 今日も泣いている。


「妹が、わたしを探しに来てくれたの。一緒に帰ろうって言われたの。でも酷いこと言って追い返しちゃった」

「だって、一緒に帰ることなんてできないもん」

「帰れば、プリメも危険にあう」

「ベルングが追いかけてくると思う」

「そう、聞いて。プリメのパートナーだけど、クマの格好をしているの。でも、可愛らしい女の子だったよ」


 ローネは今日、あったことを話してくれる。ときには楽しそうに、ときには悲しそうに。


「でも、最後にプリメに会えて嬉しかった」


 最後じゃない。また会えると声をかけたい。

 でも、そんな言葉もかけることはできない。

 ローネが悲しそうにしているのに、何一つしてあげられることができない。

 そんな俺は、次第に闇の奥に沈んでいくように眠りに落ちていき、意識は沈んでいく。

 ローネ……ごめん。


 体に衝撃が走る。

 意識が覚める。

 ローネの声が聞こえてくる

 どうやら、ローネの妹が人を連れて、ローネを迎えに来たようだ。

 こないだ聞いた妹のプリメとクマの格好した女の子なのかもしれない。

 そして、自分も一緒に連れ出そうとしたが、俺が苦しみ始めて断念したようだ。

 この部屋は住民の魔力が、俺、ローネ、ベルングに回るように作られたものだ。

 有効範囲はこの屋敷内。それ以上離れると、俺は魔力が受け取れず、一方的にベルングに魔力を奪われることになる。だから、俺はベルングの許可なしに、この屋敷から出ることはできなかった。


 俺を運ぶことを断念したことで、苦しさが和らいでくる。

 ローネ、俺を見捨てていいから、妹と一緒に遠くに逃げてくれ。

 その一言を伝えたいが、伝えることもできない。

 それから、屋敷の騎士が現れ、ローネが助けるためにやってきたユナと言う女の子が戦うことになったのが聞こえてくる。

 俺とローネを連れ出すために女の子が騎士と戦っている。

 もし、女の子が死ぬようなことがあれば、自分が許せなくなる。

 頼むから、俺を捨てていいから、ローネを連れて逃げてくれ。

 そんな願いもむなしく、騎士と女の子が戦う音だけが聞こえてくる。

 そして、騎士と女の子が会話をしているとベルングが現れ、騎士を殺したことは分かった。

 ベルング、今の俺は憎しみしかない。

 ローネを苦しめたベルングを許せない。

 俺とローネの優しさを踏み躙った。


 ベルングはローネの妹プリメが見えるユナという女の子にも目をつけた。

 そして、その女の子を自分の物にしようとする。

 女の子に俺と同じようになってほしくない。

 逃げてほしい。

 でも、女の子も戦うことに了承する。

 そして、この部屋を壊されでもしたら困るので、戦う場所を移動すると言う。

 もう、俺のことはいい。こんな部屋は壊して、俺を殺して、ローネを連れて逃げてくれ。

 ……お願いだ。

 ……俺を殺してくれ。

 その願いは誰にも届かない。

 部屋から誰もいなくなり、静かになる。


 それから、どれほどの時間が過ぎたのだろうか。

 誰も戻ってこない。

 そんなとき、大量の魔力が体に流れてくる。

 過去に一度経験した。

 ベルングが魔力を得るためにした時だ。

 体中を魔力が入り込み、同時に抜けていく。

 痛い。苦しい。ローネの苦しみも伝わってくる。

 すぐに駆けつけたいが、体が動かない。

 何が起きているんだ。

 魔力の流れが治まると、不思議な感覚になっていることに気づく。

 今まで開けることができなかった目が開く。

 部屋の中だ。膨大な魔力が一気に流れたことで目覚めることができた?

 だが、起きあがろうとするが、体が動かない。

 どれほどの時間を寝ていたのだろうか。

 時間の感覚はないので分からない。

 ローネの不安の感情だけが伝わってくる。

 頼む、動いてくれ。

 力を入れるが、ほんの僅か、動く程度だ。

 歩くことはもちろん、立ち上がることもできない。

 ローネのところに行きたい。

 そんなとき、誰かが階段を下りてくる音がする。


「なんだ。この部屋は?」

「ねえ、この布なに?」

「うわ!?」

「嘘でしょう」

「隊長……死んでいる」

「どうして、こんなところで死んでいるのよ」

「知らねえよ。ここは立ち入り禁止で、いつも鍵で扉が閉まっているんだから。お前だって知っているだろう」

「そうだけど」

「それが、鍵が壊され、扉が開いていたから、調べに来ただけなんだからよ」

「もう、出ましょうよ」


 待ってくれ、行かないでくれ。

 俺は体を動かす。


「ねえ、あそこに人が……」


 俺に気付いてくれた。


「死んでいるのか?」

「知らないわよ」


 男と女が近づいてくる。


「この人は……」

「リヤンさんじゃ」


 自分も見覚えがあった。この屋敷に仕える騎士と使用人の女性だ。


「どうして、こんなところで、こんな姿に」


 俺は口を開こうとするが、声は出ない。


「リヤンさん、大丈夫か!」

「先に、水よ!」

「おう、リヤンさん、ちょっと待ってくれ」


 騎士は魔法で水を作りだし、俺の口に注いでくれる。

 喉に水が通る。


「あ、あり、が、とう」


 声は掠れるが出た。


「大丈夫ですか?」

「どうしてここに?」


 部屋が揺れる。


「話は後にして、とりあえず、ここから出ましょう」

「そうだな。リヤンさん、背負いますね」


 男が俺の体を起こし、女性の手を借りて、俺を背中に乗せてくれる。


「あり、が、とう」

「とりあえず、部屋から出ますので、しっかり掴まっていてください」


 俺は力が入らない手で、自分の手首を掴み、落ちないようにする。

 それが精一杯だ。

 男は床に倒れている男を一瞥してから、階段を上っていく。


「いったい、なにが起きているんだよ」


 その答えは誰ももっていない。

 ただ、ローネからは不安な感情だけが伝わってくる。



※ユナ視点※


 ベルングの力がどんどん強くなっていく。

 動きも人とは思えない速度で動き、距離を取れば強力な魔法を放ち、距離を縮めればミスリルの剣で攻撃を仕掛けてくる。

 街の住民の魔力が集まり、さらにローネの力で強化されているベルング。

 クマで強化されたわたし。

 住民の魔力が尽きるのが先か、わたしの魔力が尽きるのが先か。

 ミスリルの剣が横切る。

 わたしは躱し、蹴り飛ばす。ベルングは転がるが、すぐに立ち上がる。

 人間を辞めたと言っても信じるかもしれない。


「ユナ!」


 プリメが心配そうに、わたしを見ている。


「わたしのせいよ。もう、戦わないで」

「ローネ……」

「わたしが死ねばベルングはこれ以上強くならないと思う。ユナ、わたしのために戦ってくれてありがとう。プリメに会わせてくれて、ありがとう」


 何か、悟り、何かを決心した表情をしている。


「何を考えているの?」


 不安になり、尋ねる。


「死ぬ勇気がなかった」


 ローネは小さい何かを取り出す。

 ナイフ!?


「初めから、こうしていればよかったんだよ」


 そう思った瞬間、ローネはナイフみたいな物を両手で握り、自分の喉に向けて振り下ろす。

 わたしはとっさのことで動けない。でも、近くにいたプリメが動く。


「お姉ちゃん!」


 プリメの小さい手から血のようなものが流れている。

 ローネが振り下ろしたナイフのようなものを握っていた。


「プリメ……」

「お姉ちゃん、やめて。どうして、お姉ちゃんが、あの男のために死なないといけないの。お姉ちゃんは悪くないよ」

「ううん、わたしがベルングの研究を手伝ったから」

「それだって、リヤンってパートナーのためだったのでしょう」


 ローネはリヤンが好きだった。

 それは話を聞いているだけで伝わってきた。

 その好きなリヤンのために手伝っていた。


「プリメの言う通りだよ。ローネが死ぬことはないよ。でも、ローネが悪くないとは言わない。リヤンを守るためとはいえ、あの男の言いなりになっていたんだからね」


 大切な人を守るために、他人を不幸にしていいことはない。

 でも、進む道が、その道しかない場合もある。

 進みたくない道でも、進むしかない人もいる。

 この世には選択肢を選ぶことができないこともある。


「ユナ……」

「わたしが、今のベルングを倒せばいいってことでしょう」

「勝てないよ。もし勝ったとしても、街の人間が。わたしのせいで、迷惑をかけているのに。お願い。死なせて……」

「お姉ちゃん……」


 これも、わたしが人を殺したくないとか、言っていたせいだ。

 今でも、人を殺すことに戸惑っている。

 普通に生きてきた人なら、人を殺す感覚は持ち合わせていない。異世界に来たからといって、人を殺すのは簡単にできることじゃない。

 そんなのは漫画や小説だけの話だ。

 でも、ここで、ベルングを殺さないと、誰も救われない。

 わたしの心が揺れているとき、声が上がる。


「これは、どういう状況だ?」


 屋敷のほうから男と女の人が出てくる。

 服装は騎士とメイド。それから、背中に誰かが背負われていた。





書きたいものをまとめるのは難しい。


※19巻にサインをしてきました。本屋さんで見かけましたら、よろしくお願いします。


【告知】書籍19巻の発売日は10/7となっています。(活動報告にカバーイラスト公開中です)

【告知】コミカラズ9巻の発売日11/4となっています。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。


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― 新着の感想 ―
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