696 クマさん、騎士と戦う
わたしは騎士たちの前に立ち塞がる。
「なんだ」
「クマ?」
「嬢ちゃんが、こんなところになんの用だ」
「ここは嬢ちゃんが来るようなところじゃないぞ」
「それとも、俺たちに用事か?」 「悪いが、嬢ちゃんに構っているほど暇じゃないんだ」
「あっちにいけ」
わたしを無視して、通り抜けようとする。
「悪いけど、ここから先は行かせないよ」
わたしはそれだけ言うと、不意打ちをかける。
地面から無数の土の棒が突き出て、騎士たちを牢屋のように囲む。棒も途中で曲がり、円錐のようになり、天井も塞ぐ。
「魔法使い!?」
「悪いけど、しばらく、その中で……」
そう言おうとしたとき、1人の騎士が剣を抜き、振り下ろすと牢屋を斬った。
土とはいえ魔法で硬くした。簡単にできることじゃない。
国王の誕生祭のときに盗賊を同じように捕まえたけど、そんなことはできなかった。
「嬢ちゃん、俺たちが誰なのか知っての行動か?」
「もしかして、周りの煙のことにも関わっているのか?」
目つきが変わり、わたしを睨み付ける。
これは予想外だ。作戦としては間違った行動だったけど、引き止めたのは正しかった。
この騎士たちをギルマスたちのところに行かせていたら、大変なことになっていた。
だから、この騎士たちは、ここで片付ける。
わたしは動く。
普通の檻じゃ逃げられるなら、クマで閉じ込めるだけだ。
地面からクマが現れ、騎士たちを囲う。
今回は油断してなかったためか、全員を閉じ込めることはできない。
でも、この閉じ込めた騎士は逃がさない。
クマが重なり、天井を作る。
3人ほど捕らえた。
クマの檻に捕らわれた騎士は柱となったクマに向かって剣を振り下ろすが、剣は弾かれる。
「なんだ。斬れないぞ」
流石にクマ魔法なら斬れないらしい。
クマ魔法最強だ。
クマの囲いを避けた騎士たちが、クマの檻に捕らえられた騎士を助けようとするが、助け出すことはできない。
わたしは助け出そうとしている騎士の周りにさらにクマを作る。
「離れろ! 止まれば捕まるぞ」
騎士の一人が声をあげる。
騎士たちは檻から離れると、間合いを取らせないように動き始める。
判断が早い。
声を上げた騎士が周りの騎士たちに指示を出す。初めの檻を斬ったのも、この騎士だ。隊長なのかもしれない。
「変な格好しているが、そこらにいる魔法使いたちより実力があるぞ。気を引き締めろ。変な格好しているからといって、侮るな」
あの街の外で出会った隊長とは違うけど、この人も他の騎士とは違って優秀っぽい。わたしがクマの格好した女の子だからと言って、舐めたりはしない。
ただ、変な格好だけは余計だ。
「ふざけやがって」
「ガキが!」
「……!」
3人ほどの騎士がなにも考えずに、わたしに襲いかかってくる。剣を抜いていないだけ、理性は残っているみたいだ。
隊長っぽい男が「待て!」と叫ぶが遅い。
わたしは襲い掛かってくる騎士の腕を避け、腹にクマパンチをする。
クマパンチ、クマパンチ、クマパンチ。
クマパンチを食らった三人の騎士が後方に飛んでいく。
飛ばした方向にはクマの檻がある。
わたしはクマとクマの間に人が通れるほどの隙間を作る。騎士たちはその隙間を通り、クマの檻の中に吸い込まれるように入る。そして、クマの隙間を閉じる。
「三名様、檻の中にご案内」
と言ってみたら、残りの騎士を怒らせたみたいだ。
騎士が剣を抜く。
残りは5人。
「貴様」
「囲め」
5人がわたしを囲むように移動する。
「俺たちが妖精騎士と知っての行いか?」
「知っているよ。妖精の力を借りて、そんなものなの?」
わたしは、神様の力をもらっているから、騎士たちのこと言えないけど。
でも、そんなことを知らない騎士たちは怒り出す。
人って図星をつかれると、怒り出すよね。
わたしは他の4人は軽く気配を感じるだけにし、指示を出している騎士を正面にして対峙する。
この中で気を付けるのは指示を出している隊長だ。判断力も技術も、他の騎士より一歩抜きん出ている。
騎士たちはわたしとの間合いを取り、攻撃するタイミングを窺う。
隊長の顔が少し下がる。合図を送った。
わたしを囲んでいた騎士が動くが、それよりも、わたしが一歩早く動く。隊長と思われる男に向かって駆ける。
迫ってくるわたしに剣を振り下ろす。わたしは躱すが、すぐに切り返してくる。
反応が早い。
でも、クマボックスから取り出した黒いくまゆるナイフで剣を受け流す。そのまま殴りかかろうとしたとき、後ろから別の騎士が襲いかかってくる。妖精の力のおかげなのか、全員が速い。
でも、わたしのほうが速い。背中に土魔法で壁を作る。
目の前の隊長は驚愕の顔を浮かべる。
遊んでいる時間はない。一歩踏み込み、下から上に向けてクマさんアッパーで腹を殴る。
顔を苦痛に歪め、騎士は上に飛ぶ。落下地点はクマの檻の上、檻の天井を開き、騎士は檻の中に落ちていく。
手加減したから、それほど高くから落下したわけじゃないけど、それなりの衝撃はある。
騎士は地面に落ちると、苦痛で立ち上がれない。
その光景を呆気に見ている残りの4人の騎士。
「隊長!」
隊長の心配をしている場合か。
妖精の力があるだけで、先ほどの隊長より行動力、判断力は下だ。
力を得ても中身が変わっていなければ、猫に小判、豚に真珠。
力を得たなら、それに合う努力をしないといけない。
隊長を失った騎士は統率がなくなり、ただ襲ってくるだけだった。
わたしは残りの騎士たちも次々とクマの檻の中に閉じ込めていく。
「はい、完了」
わたしは手のホコリを払うかのようにクマさんパペットをポンポンと叩く。
弱くはなかったけど、完全に技術不足だ。
「貴様はなんだ」
クマの檻の隙間から騎士が声を上げる
「妖精を取り返しに来ただけだよ」
ローネはわたしのものじゃないけど。プリメの家族だ。だから、間違っていない。
「ローネ様を」
「ふざけるな。ローネ様は、俺たちに力を与えてくださったお方だ」
「連れていくなんて、許さない」
「ローネ様は、俺たちが守る」
もしかして、ローネって慕われている?
「違う。お姉ちゃんは、あなたたちの物じゃない。わたしのお姉ちゃんよ!」
いつの間にやってきていたのか、プリメがクマの檻の中にいる騎士たちに向かって叫ぶ。
「妖精様?」
うるさかった騎士たちがプリメを見た瞬間、大人しくなる。
「お姉ちゃんは絶対に連れて帰るんだから」
「ローネ様は、どこにも行く当てがないとおっしゃっていました」
「この街の領主って男に連れていかれたのよ」
一緒について行ったでしょう。というツッコミはしない。
言ったら、ややっこしいことになるので。
「領主様が」
「だから、わたしは絶対にお姉ちゃんを連れ帰る。お姉ちゃんは大切な家族なんだから」
「家族……」
「話しているところ悪いけど、ローネがお屋敷のどこにいるか知っている?」
「……」
「……」
騎士たちは顔を見合わせる。
「いや、知らない。たまに会うぐらいだ。それに領主様が会わせてくれない」
やっぱり、ノアを連れていかないとダメみたいだ。
ローネの居場所の情報があれば、ノアを連れていかなくて済んだけど。
「それじゃ、悪いけど。しばらくはその中にいてね。全てが終わったら、出してあげるから」
「嬢ちゃんは何者なんだ。俺たち相手に勝つなんて」
「この子に頼まれて、お姉さんを助けに来た冒険者だよ」
「冒険者……」
「それに俺たちに勝ったと言うけど、妖精の力を借りて、個人の力は上がっているけど、基本技術が上がるわけじゃない。まともだったのは、そっちの騎士だけ」
わたしは隊長っぽい騎士に目を向ける。
地面に叩きつけられて痛いのか、座ったままだ。
「力を得たからといって、行動、判断力は下だよ。怠けていた証拠」
騎士たちは黙り込んでしまう。
「それと、悪いけど。武器を出してもらえる? 解放したあとに攻撃をされても困るからね。それとも、焼かれたい?」
わたしは火の玉を作り出して、脅迫する。
解放したあと、襲われても面倒だ。
騎士たちは隊長を見る。
「……分かった」
隊長っぽい人が剣をクマの隙間から、放り投げる。
すると、他の騎士も同様に放り投げる。
これで、あとで解放しても襲い掛かってくることができないはずだ。
騎士を捕らえた後、ノアを呼ぶとわたしに抱きついてくる。
「どうしたの?」
「怖かったです。ユナさんにもしものことがあったらと思ったら」
「わたしが強いことは知っているでしょう」
「はい。でも、危険なことには変わりありません」
「心配してくれてありがとう」
わたしはノアの頭を優しく撫でる。
「それじゃ、ローネのところに行こう」
「はい!」
「「くう〜ん」」
「お姉ちゃん、今から行くからね」
わたしたちはお屋敷に向かって歩き出す。
「ですが、騎士に気づかれて、潜入になるんですか?」
「領主とローネに気づかれていなければ、そうなるんじゃない」
「そういうものなんですか?」
潜入するゲームで、その過程で後ろから殺して、目的地に向かうゲームがある。
要は、わたしたちが潜入したことを知られ、騒ぎにならなければいいことだ。
あの騎士たちは逃げ出すことはできないんだから、領主に報告することもできない。
あとは、街にいる騎士や、街の外に行った騎士たちが戻ってくる場合だけど。街の中はギルマスたちが騒ぎを起こしているし、街の外に出ていった騎士は、こっちのことなんて知る由も無いだろうし。
「それに、ほら、ローネがわたしたちが来たことを知ったら、自分から現れるかもしれないでしょう。もし現れなかったら、ノアが頑張ればいいだけでしょう」
「なにか、ギルドマスターたちが一生懸命に考えた作戦を、ユナさんがぶち壊さないか不安です」
なにか酷いことを言われているような気がする。
「ユナ、ノア、早く行くわよ」
わたしとノアはプリメの後を追う。
少し強かったですが、ユナの相手ではありませんでした。
次話、お屋敷に侵入です。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




