689 クマさん、プリメのお姉さんと話す
申し訳ありません。
覚えている方がいるか分かりませんが、
プリメのお姉さんのお姉さんの名前、「ティナ」→「ローネ」に変更させていただきました。
どうも、「ナ」を付ける癖があるみたいで、「ナ」が付く名前が多く、修正させていただきました。
読者様にはご迷惑をおかけします。
わたしが起き上がると、妖精が2人いる。
会話からしてプリメのお姉さん。
「ユナ!」
「起こさないように、眠り粉を嗅がせたはずなんだけど」
プリメのお姉さんがそんなことを言い出す。
「ノア! くまゆる、くまきゅう」
声をかけるが反応がない。寝ている。
わたしはクマ装備のおかげで大丈夫だった?
「たしか、ローネだったっけ。帰らないってどういうこと?」
「言葉どおりよ。わたしはここに残る」
「どうしてなのお姉ちゃん。もし、人間に捕まっているなら逃げようよ」
ローネは首を横に振る。
「ここには、大切な人がいるわ。だから、プリメと一緒に帰ることはできない」
「お姉ちゃん!」
プリメは叫ぶが、プリメのお姉さんは無視をしてノアに目を向ける。
「そこの子から、わたしの魔力の繋がりを感じるわ」
「それは、お姉ちゃんのハンカチがノアの中に入って」
「そうなのね。まあ、いいわ。プリメ、早くこの街から出て、妖精の森に帰りなさい。そして、わたしのことは忘れなさい」
プリメを突き放すような言い方をする。
「あと忠告、深夜に魔力が奪われるわ。体調に影響がでるかもしれないから気を付けて」
プリメのお姉さんはプリメに背中を向ける。
プリメは何かを言おうとするが、言葉がでない。このまま行かせてはダメだ。
「ちょっと待って、そんなこと言われても、わたしもプリメも納得して、このまま帰ることなんてできないよ」
わたしの言葉にローネは振り返る。
「いくつか質問に答えて」
「いいわ。プリメをここまで連れてきてくれたお礼に答えてあげるわ」
「あなたが、騎士に力を与えているの?」
「ええ、そうよ」
「どうして騎士に力を与えているの?」
「魔石を集めるため」
「どうして、魔石を集めているの?」
「魔力を集めるため」
「魔力を集めている理由は?」
「あの人を死なせないため」
騎士を強くさせるためじゃない?
それじゃ、全ての魔力は騎士のために使われていない?
この街の領主を死なせないために魔力を?
「話はおしまい。これ以上、話すことはないわ」
「最後にもう一つ。ここで、無理矢理にあなたを連れ戻すっていうのは」
わたしは動く。
「ユナ!」
プリメが叫ぶ。
「ふふ、無理よ」
ローネは笑うと部屋の中に風が巻き起こり、その場に姿はなかった。
開いている窓から出ていったんだろう。
窓の外を見るが分からない。
これは、思っていたよりも厄介かもしれない。
「お姉ちゃん……」
プリメは追いかけようともせず、涙を浮かべながらローネが出ていった窓を見ている。
「プリメ……」
「ユナ、ごめんなさい。せっかく連れてきてくれたのに」
プリメは涙を堪えながら謝ってくる。
「もしかして諦めるの?」
「ユナ?」
不思議な顔をするような表情でわたしを見る。
「もし、プリメのお姉さんが悪いことに手を貸しているなら、目を覚まさせて止めるべきじゃない。それが、家族であり、妹のプリメの役目だよ」
わたしの両親はアレだし、兄も弟も姉も妹もいないから知らないけど、フィナの家族やノアの家族を見ていれば、お互いを気にかけている。
そんな大切な家族が間違った道を進もうとしているなら、止めるべきだ。
……自分に迷惑がかからないなら、わたしは止めないけど。
「プリメだって、お姉さんが心配で、ここまで来たんでしょう。もし、お姉さんが誰にも迷惑をかけていなく、幸せに暮らしているなら帰ってもいいと思う」
妖精と人間の恋の物語だってある。
それを否定するつもりはない。
「でも、それが他の人に迷惑をかけている上で成り立っているなら、止めないと」
ギルマスやカーラさんたち、街に迷惑をかけている。
もう、連れ戻す、連れ戻さないの問題ではない。
なにより事情を知ってしまったからには、このままほっとくわけにはいかない。
わたしの言葉にプリメは噛みしめるように考え込む。
「……ユナ。うん、分かった。わたし、お姉ちゃんともう一度話してみるよ」
死んだような目だったプリメの目に生気が宿る。
お姉さんを連れ戻すことができなくても、お互いに納得しないとダメだ。
でも、わたしって、こんなにお節介焼きだったかな。
この世界に来てから、お節介焼きになったと思う。
「それじゃ、まずは移動しようか」
「移動?」
「せっかく、プリメのお姉さん、ローネから魔力を奪われる忠告を受けたんだから、その対策だよ」
命が奪われることはなくても、魔力が奪われるのはいい気持ちはしない。
わたしはクマの転移門を出すと、気持ちよく寝ているくまゆるとくまきゅうを送還し、ノアを抱き抱え、プリメのベッドの籠を持つ。
そして、クマの転移門を通って、クリモニアのクマハウスに移動する。
クリモニアに移動すれば、魔力を奪われることはない。
わたしは気持ちよく寝ているノアをベッドに寝かせる。
ノアが起きたときに騒がれても困るので、わたしは隣のベッドで寝る。
「ユナ、ありがとうね」
ベッドの代わりの籠の中にいるプリメが後ろを向きながら礼を言う。
「気にしないでいいよ。ただ、簡単に連れ戻すことはできなくなったから大変だよ」
「うん」
初めは、普通に見つけたら連れ戻すことができると思った。
次は、領主に捕まっているかと思い、助け出せばいいと思った。
でも、プリメのお姉さんのローネは自分の意思で、領主の側にいる。
いろいろと面倒くさいことになったのは確かだ。
「ゆっくりと寝て、明日から頑張るよ」
「うん」
「プリメ、おやすみ」
「おやすみ」
部屋は静かになり、久しぶりの我が家で休むのは落ち着き、眠りに落ちていく。
翌朝。
「うぅ、ユナさん、おはようございます?」
ノアが起き上がる。
「ノア、おはよう」
「あれ? ここはどこですか? ユナさんのお家?」
ノアが周りを見ながら言う。
「夢?」
「違うよ。クリモニアのわたしの家であっているよ。昨日の夜に移動したんだよ」
「どうしてですか?」
ノアに深夜に起きたことを説明する。
「それでは、プリメさんのお姉さんが夜にやってきたのですか?」
「うん、本人は帰るつもりはないみたい」
「それでは、どうするのですか?」
「プリメにも言ったけど、悪いことに手を貸しているなら、目を覚まさせてあげないとね」
「そうですね。それが家族であり、姉妹ですね。わたしもお姉さまが悪いことをしましたら、どんなことをしてでも止めます」
ノアなら、きっとそう言うと思った。
「きっと、わたしたちの声は届かないから、姉妹であるプリメにしかできないことだよ」
「わたしにしか……」
プリメが諦めて帰ると言い出したとしても、わたしは残るつもりだ。
プリメは改めて決心した表情をする。
「……うん、わたしが絶対にお姉ちゃんを止める」
「それじゃ、今日も冒険者ギルドに行って、相談しようか」
そんなわけで、街に戻ってきたわたしたちは冒険者ギルドに行く。
「ユナちゃんたちは、大丈夫?」
冒険者ギルドに行くとカーラさんに尋ねられる。カーラさんは少しだるそうな表情をしている。
「深夜、魔力が奪われたみたいだな」
ギルマスもやってくるが、こちらは大丈夫そうだ。
「わたしたちは大丈夫だよ。昨日、プリメのお姉さんがやってきて教えてくれたから」
わたしの言葉に驚いた表情をする。
詳しい話をしたいので、わたしたちは個室に移動する。
カーラさんがだるそうなので、わたしはクマボックスから冷蔵庫を出し、冷蔵庫の中から瓶を出す。
神聖樹から作ったお茶が入った瓶だ。
「なんだそれは?」
「魔力を回復するお茶だよ。飲むと、楽になると思うよ」
疲労回復もあるけど、魔力も回復する。
コップを出し、カーラさんとギルマスに入れてあげる。
二人は胡散臭いと思いつつも、飲んでくれる。すぐには効果は出ないけど、時間が経てば、効果が出るはずだ。
その間、わたしは昨日の夜にあったことを説明する。もちろん、クマの転移門のことは誤魔化す。
「それじゃ、本当にプリメちゃんのお姉ちゃんがいるのね」
「うん。でも、この街に残るって。だけど、お姉ちゃんが悪いことをしているなら、わたしが止める」
「頼りにしているわ」
「それにしても、魔力を集めている理由が死なせないためか」
「そのために騎士に力を与え、魔石集めをしていたのね」
「領主って、病気なの?」
「前にも話したが、領主の情報は少ない。悪いが健康面の情報は一切ない」
「だからと言って、他人の魔力を集めていいことにはならないわ」
「そうだな。それだけ、街の住民が苦しんでいる。仕事を無くし、死んだ者もいる」
「でも、魔力が無くなると、最悪、領主が死ぬことになるんですね」
ノアが誰も口にしなかったことを言う。
プリメのお姉さんの話が正しければ、魔力を止められたら領主は死ぬことになるかもしれない。
ここにいる誰しもが思っていたことだ。でも、誰も口にしなかった。それを11歳のノアに言わせてしまった。
「ああ、そうだ。だからと言って、このままじゃダメだ」
「はい。領主は住民が幸せになるようにしなければいけません。自分が生きるために住民を不幸にしてはいけません」
ノアは自分に言い聞かせるように言う。
もしかすると、クリフやエレローラさんに同じことが起きた場合のことを考えているのかもしれない。
家族を取るか住民を取るか。こればかりは、本人の心の天秤にかけるしかない。
プリメのお姉さん登場です。
前書きにも書きましたが、プリメのお姉さんの名前を「ティナ」→「ローネ」に変更させていただきました。
【お知らせ】
クマのコミカライズ最新刊、8巻の情報が出ました。
発売日は6月17日です。
表紙などの画像は活動報告にて見ていただければと思います。
書籍最新刊の19巻はもう少しお待ちください。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。