67 クマさん、無双する
今年最後の投稿です。
ありがとうございました。
探知魔法に反応する魔物の群れは森全体に広がっている。
森の中はゴブリン、ウルフ、オークがそれぞれに群れをなしている。
斥候の調べた数が正しければゴブリンは5000匹。
強さも数も問題ではない。
問題なのはわたし自身の魔力の総量がどのくらいあるのかが分からないこと。
過去に一度も魔力が切れるほど魔法を使ったことがない。どれほどの魔法の数、威力を放つことができるか分からない。
ゲームにはMPが存在した。この世界にだって、魔力容量は存在する。
でも、その容量を調べる方法は知らない。存在するかも知らない。
そのため、わたし自身の魔力容量は分からない。
さらにゲームと違って魔法を使用する魔力は一定ではない。
ゲームではファイヤーボールを使うとMPが10減る。でも、この世界ではそのような基準は存在しない。
同じファイヤーボールでも魔力を込める力次第で威力は無限に広がる。MPで言えば、5でも20でも50でも可能だ。
もっとも、今のわたしでは魔力を込めてもそれがいくつなのか知る方法はない。
この戦いの勝負は魔物との勝負ではなく、わたしの魔力容量との勝負になる。
「くまゆる、ここまでありがとうね」
ここまで休みもなく走り続けたくまゆるを撫でて労ってあげる。
くまゆるを戻し、くまきゅうを召喚する。
「くまきゅう、これから魔物の中走り抜けるからよろしくね」
くまきゅうの首を撫でてあげる。
準備も終わり、くまきゅうに乗ったわたしは森の中に突入する。
森に入るとすぐに数匹のゴブリンが迫ってくる。
一瞬で風魔法を発動させ、首を切り落とす。
自動誘導魔法。
目標に視線を向け、魔法を放つ。あとは勝手に目標に向けて魔法が飛んでいく魔法。
わたしは探知魔法を使いながら、ゴブリンの首を刈っていく。
森の中を白いクマが走り抜ける。
その度にゴブリンの首が飛んでいく。
数えていないが1000の首は飛んだと思う。
まだ、魔力はある。
魔法を放つ。ゴブリンの群れに向かう。
くまきゅうが走り抜ける道にはゴブリンの首なしの死体が転がる。
森の中を白い影が、風の魔法が、走り抜ける。
そして、探知魔法からゴブリンの群れの反応が消える。残っているのは僅かな数のみ。
何体倒したか分からない。
魔力に余裕はまだある。
ゲームなら残りポイントが分かるんだけど。
現在位置から、右に行けばウルフの群れが、左に行けば、オークの群れがいる。そして、中央にワイバーンがいる。
魔力がどこまで続くか分からない今、ウルフより、オークの討伐を先にすることにする。
ワイバーンは後回しだ。
ゲームでは戦ったことはあるけど、この世界ではない。
先に倒せる魔物から倒すのがゲームのセオリーだ。
苦戦している間に雑魚に囲まれでもしたら面倒だ。
クマボックスからオレンの果汁を取り出し、小休憩をする。
オレンの果汁を飲み干し、くまきゅうにオークがいる方向に向かってもらう。
「くまきゅう、ごめんね。もう少し頑張ってね」
まだ、半分も終わっていない。
数分後、オークの群れに出会う。
ゴブリンと違って、風に込める魔力を増やす。
ゴブリンの首とオークの首では強度が違う。
「2倍ほどの魔力で切り落とせるといいんだけど」
オークに向けて風の刃を飛ばす。
オークの首が刈り落とされる。
大丈夫そうだ。
オークの数はおよそ500体。
ゴブリンと違って、オークは耐久力、攻撃力が段違いに上がる。
だから、すべて遠距離攻撃で倒す。
オークは武器を振り回し、巨漢には似合わない速度で駆け寄ってくる。
くまきゅうで走っていると、矢が飛んでくる。
オークアーチャー!
ゲームにも登場した弓矢を使うオーク。
飛び道具とは厄介だ。
風魔法でくまきゅうを包み込む。
さらに魔法が飛んでくる。
「オークメイジもいるの?」
弓を持っているオークアーチャー。
杖を持っているオークメイジ。
大きなランスを持っているオークランス。
そして、全員が剣を持っている。
うざすぎる。
数には数を。
土魔法を発動させて、クマのゴーレムを30体ほど作り出す。
その瞬間初めて魔力が吸い取られる感覚に襲われる。
ちょっと多すぎたかな。
クマのゴーレムはオークに向かって走り出し、鋭い爪でオークの首を突き刺していく。
わたしも風魔法を使い、首を切り落としていく。
クマのゴーレムは矢が刺さっても動きは止めない。魔法も受け止める。それでも傷を負えば魔力を流して修復する。
そして、わたしとゴーレムが通ったあとにはオークの死体の道が出来上がった。
「魔力はまだ、ある……」
体内に魔力があることを確かめる。
「あとはウルフとワイバーンのみ」
こんなに戦っているのにクマの服のおかげか体力的疲労は少ない。
「もうひと踏ん張りしますか」
ワイバーンの位置は……
中央から動いていない。
魔力を少しでも回復させるために白クマに着替えなおす。
誰もいないよね。
白クマになると体が温かくなり魔力が回復しているのがわかる。
白クマに着替えたわたしは、オークの死体をクマボックスに仕舞いながらゴブリンを討伐した場所まで戻る。
オークが持っていた剣も弓も杖も戦利品として貰っていく。
仕舞わないのは切り落とした頭ぐらいだ。
だって頭だよ。近寄るのも気持ち悪いし、使える場所も無いらしいから、持ち帰る必要はない。
だから、わたしが通る帰り道にはオークの死体ではなく、オークの頭が転がることになった。
オークを仕舞いながら戻ってきたわたしは白クマのまま短い休憩を取る。
魔力が回復したのを感じ取ると、黒クマに着替え直す。
それじゃ、ワイバーン討伐に行きますか。
くまきゅうに乗り、ワイバーンに向けて走り出す。
そういえば、こんだけ森の中で戦闘が起きているのにもかかわらず、ワイバーンは動いていない。
なにか、理由があるのかな。
わたしがワイバーンの群れに近づくと、その理由は判明した。
「寝ている」
もしかしたら、眠らせられているのかな。
理由はわからないけど、起きる前に倒す。
寝ているワイバーンにゆっくり近づき、一体ずつ、首を切り落としていく。
拍子抜けするほど簡単に終わってしまった。
隣で首が落とされているのにワイバーンは起きることがなかった。
ワイバーンを倒し終わると、クマボックスに死体を仕舞っていく。
こんな簡単にワイバーンの素材を手に入れてよかったのかな。
ワイバーンを仕舞い終わった瞬間、地面が揺れる。
「なに?」
地面が盛り上がる。
後方にジャンプする。
地面から出てきたのはゲームでも登場した魔物。
イモ虫やミミズを巨大化させたような生物、ワーム。
口を大きく開き、這いずり出てくる。
探知魔法のとき、気づかなかった。
地下深くまで探知魔法が届かないのか、ワイバーンの下にいたために気づかなかったのかもしれない。
「キモチワルイ」
ワームの体が地面から出る。ブラックバイパーよりも大きい。
ワームがこちらを振り向く。
口から涎が大量に流れ落ちる。
ワームはわたしを餌と認識する。
大きな口がわたしに襲い掛かってくる。
後ろに飛んで躱す。
大きいくせに速い。
ゲームでも気持ち悪くて戦わなかった魔物だ。
皮膚を攻撃すると、液体をばら撒き、悪臭を放つ。そして、すぐに皮膚は再生するという面倒な魔物だった。
でも、今はクマ魔法がある。
ブラックバイパーを倒したのと同じ方法で倒すことができる。
炎のこぐまを10体作り出し、大きく開いている口の中に突入させる。
ワームは炎のこぐまを餌と勘違いしたらしく自ら食べに行く。
ワームの体の中でこぐまたちは消えることも無く燃え続ける。
これって巨大生物に対して最強魔法な気がする。
外側の皮膚が硬くても内側は柔らかい。
ワームは体を地面に何度も叩きつけると、動かなくなる。
「えーと、これって売れるの?」
イモ虫を食べる地域もあるらしいけど、さすがにこれは食べたくない。
たとえ、フィナたちが食べるとしても、食べさせたくないんだけど。
とりあえず、処理は後で考えよう。
お金になればそれに越したことはない。
死んだワームをクマボックスに仕舞っておく。
残りはウルフのみ。
魔力はまだあるし、ウルフの討伐へ向かう。
ウルフの討伐は簡単に終わった。
大変だったのはウルフをクマボックスに仕舞う作業だ。
クマゴーレムたちに運んでもらい、わたしは仕舞う作業をする。
最後の一匹を仕舞う。
これで魔物討伐が終わった。
くまきゅうに乗って血腥い森から出る。
空気が美味しい。
空を見ると日は傾き、夕暮れ時になっている。
わたしはクマボックスから、旅用のクマハウスを取り出し、ここで一泊することにする。
なんだろう、肉体的疲労は少ないはずなのに凄く疲れている。
精神的なものからだろう。
簡単に夕飯を食べ、お風呂に入ったあと誘われるままにベッドに倒れると夢の世界に落ちていった。