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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける

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683 クマさん、冒険者ギルドで話を聞く

「それで、わたしたちは妖精を探しにこの街まで来たんだけど。知っていることがあったら、教えてほしい」

「う~ん。危険なことだから、関わってほしくないんだけど。でも、お姉さんなら仕方ないわね。魔力の譲渡の条例ができたのは三年ほど前」

「今更だけど、プリメのお姉さんが行方不明になったのはいつなの? わたしはてっきり最近だと思っていたんだけど」


 この街に来てから、妖精は前からいるように感じる。


「お姉ちゃんがいなくなったのは最近よ。春が三回過ぎたぐらいだと思うけど」


 その言葉に、わたしとノアは頭を抱えたくなった。


「それじゃ、ずっと、その間、お姉さんを探していたの?」

「ううん、初めは、『最近、お姉ちゃん、見かけないな』と思っていたけど、気にしていなかったの。でも、誰に聞いても知らないって言うし、人間と会うって言っていたのを思い出して、それで、周辺を探したんだけど見つからなくて、途中でハンカチのことを思い出して調べてみたら、妖精の森の外から反応があったの。途中まで行ったんだけど、凄く離れている感じだったし、それに人は誰もわたしのことが見えないから、お姉ちゃんのことを尋ねることもできないし。だから、わたしのことが見えて、信用できる人を探そうと思って」


 それで、妖精の鏡を通って、探していたわけか。

 エルフもそうだけど、長寿の生物は時間感覚がわたしたちと違うから困る。

 三年だよ。あの出会った感じからしたら、最近だと思うよね。

 ノアも信じられないような表情でプリメを見ている。


「えっと、話の続きをいいかしら」


 受付嬢が話の続きをしたそうにしている。


「ごめん」

「それから、数日に一度、夜に住民から魔力が奪われるようになったの。初めて魔力が奪われたときは脱力感に襲われ、魔法使いは魔法が使えなくなって、ギルド内が騒ぎになったことは今も覚えているわ」

「でも。魔力は時間が経てば回復しますよね」


 ノアが当たり前のように尋ねる。

 魔力回復は体力と同じように時間が解決してくれる。


「ええ、そうよ。普通に生活するだけなら、微量の魔力だけでも大丈夫。でも、冒険者である魔法使いにとっては死活問題。魔力が回復したと思った時には、また魔力を奪われる。魔力が完全に復活していないことに気付かずに魔物と戦って、魔力が足りないことになれば、死ぬこともありえる。そんな危険な状態では魔物と戦うことはできない。だから魔法使いは街から出ていき、魔法使いたちとパーティーメンバーを組んでいた冒険者たちも一緒に出ていくことになったの」


 昨日、話を聞いたけど、そんな理由だったんだね。

 たしかに魔法使いが魔力を奪われたら、魔物と戦うことができない。魔力が半分しか回復していないことに気付かなかったら、命に関わる。

 そんな状態では依頼も受けられなくなり、魔法使いたちが街から出ていくのも、当たり前だ。


「そして、冒険者の大半が出ていって、しばらく経った日、あの騎士たちが現れて、冒険者たちの代わりに魔物討伐を始めたの。それで、残っていた冒険者たちも、この街じゃ仕事ができないって、出ていくことになったの」


 魔法使いたちがいないパーティーもある。そんな冒険者たちも出ていき、残ったのは、隅にいた冒険者たちだけってことか。


「でも、どうして騎士たちが魔物討伐をするようになったんでしょうか? 本来は街を守るためだと思うのですが」

「目的は魔石。魔力譲渡の条例ができる前に、領主が大量の魔石を買い占めていたの。その時も、かなり街は混乱したわね。そのあとも魔石を集めるように言われていたんだけど、魔法使いたち冒険者がいなくなったことで、依頼の数をこなすことができず、魔石の数が減っていったわ。それで、領主自らの指示で、騎士たちが魔物討伐をするようになり、魔物の解体はわたしたち冒険者ギルドがやることになり、魔石だけを持っていくようになったわ。わたしたちは他の素材を処理し、販売をし、冒険者ギルドをどうにか続けることができている状態」


 だから、受付嬢は騎士たちにバカにされても、ギルド存続のために我慢していたんだね。


「その魔石がどんなふうに扱われているか気になるな」

「魔石の使い道は分かっているの?」


 ブリッツとローザさんの言葉に、受付嬢は首を横に振る。


「分からないわ。前に騎士たちに尋ねたことがあったけど、教えてくれなかった」


 なにに使われているんだろう。


「普通に考えれば、魔力を奪うため?」

「それは、プリメのお姉さんがしているんじゃないのか?」

「そもそも、プリメのお姉さんはなんのためにいるの?」


 魔石の役目。

 プリメのお姉さんの役目。

 分からないことばかりだ。


「まず、確認だけど、妖精は魔力を奪ったり、与えたりできるの? 妖精騎士と名乗るぐらいだから、妖精から力が与えられている可能性が高いわよね?」


 ローザさんの言葉にプリメに視線が集まる。


「奪うっていうか、取り込むことはできるわ。みんなが、わたしのことを見ることができるのは、ユナの魔力を取り込んでいるおかげだから」


 言い方が違うが、「奪う」も「取り込む」も魔力が人から妖精に移動するって意味では同じことだ。


「それじゃ、与えるっていうのは?」

「それは分からない。人間に力を与えて強くさせることなんて、わたしにはできないし、聞いたこともないわ」


 与える。判断が難しいところだ。

 わたしも、ノアやフィナに魔力の流れを教えるために体に魔力を流したが、強くはなっていないと思う。

 漫画や小説で、仲間から魔力を貰って、強い魔法を放つシーンなどは見かけるが、騎士たちは数日間は、力を得ていることになる。

 他人の魔力を蓄えることなんて、できるかの問題もある。

 でも、ここは異世界であり、わたしが知っていることが全てではない。何かしら、方法があってもおかしくはない。


「いろいろなことが分かったけど、結局のところ領主が一番怪しいってことだね」


 街の住民から魔力を奪い、妖精騎士に命令を出し、プリメのお姉さんを捕らえている可能性がある領主。


「その領主って、どんな人物なの?」

「数年前、先代の領主のゼノーラ様が亡くなって、その息子のベルング様が引き継いだんだけど、子供のときから王都で暮らしていたから、わたしもよくは知らないの」


 子供のときから親元を離れて王都で。

 シアは母親のエレローラさんと一緒だけど、もしエレローラさんが王都にいなければ、子供のときから一人で王都にいたことになる。そう考えれば、おかしい話ではない。


「年齢は?」

「25歳ぐらいだったかしら?」


 領主としては若い。


「結局のところ、これからどうする? 領主を調べるのか?」


 ブリッツが、今後の行動について尋ねる。


「それは難しいわよ。わたしたち冒険者ギルドも調べようとしたけど、たいした情報は手に入れることはできなかった。今じゃ、魔物討伐の依頼をして、嫌がらせをするぐらいかしら」

「魔物討伐って、冒険者なんていないんじゃ」

「一人いるのよ。この冒険者ギルドのギルドマスターがね」


 そういえば、ギルマスの存在を忘れていた。

 できればギルマスからも話を聞きたいところだ。


「そのギルマスが、魔物討伐をしているの?」


 わたしが尋ねたとき、部屋のドアがいきなり開く。


「カーラ、イケメン男を部屋に連れ込んだって本当か!」


 ドアから40過ぎの渋いおっさんが入ってくると、そんなことを言い出す。


「ギルマス!」

「イケメンだけじゃなくて、綺麗な女性たちもいるな」


 ギルマスと呼ばれた男性は、ローザさんたちを見る。

 この渋いおっさんが、この街のギルドマスター。

 体つきはよく、クリモニアのギルマスとも引けを取らない。


「それに、クマの格好した嬢ちゃんに将来有望そうなお嬢ちゃんも。もしかして、このイケメン男が全員連れ込んだのか」


 ギルマスがブリッツを見ながら言う。

 あらためて見ると、わたしにノア、ローザさん、ラン、グリモスに受付嬢。女の中に男のブリッツが1人。そんなふうに思われても仕方ないかもしれない。


「俺はブリッツ。こっちの3人とパーティーメンバーを組んでいる冒険者だ。そっちの2人は仲間だ」


 知り合いとは言わずに、仲間という言葉がでるのは流石だ。

 しかも、怒らず、淡々と答えるところも流石だ。


「それで、こんな部屋でなにを企んでいたんだ。俺も混ぜろ」


 ギルマスは笑う。


「あらためて紹介します。こちらは冒険者ギルドのギルドマスターの……」

「ボルクだ。よろしく。イケメン兄ちゃんと、美しいお嬢さん方。それと、可愛らしいクマの格好した嬢ちゃんと、可愛らしい嬢ちゃん」


 受付嬢が名前を言おうとしたが、ギルマス本人が自分で名を名乗る。


「それで、そっちのイケメン兄ちゃんたちは?」

「イケメン兄ちゃんはやめてくれ。俺はブリッツだ」

「おお、それは悪かったな」

「わたしローザ」

「ランよ」

「グリモス」


 ブリッツたちが名前を名乗るので、わたしとノアも名乗る。


「わたしはユナ」

「ノアールです」

「それと、黒いクマがくまゆるで、白いクマがくまきゅう」


 一応、抱いているくまゆるとくまきゅうのことも紹介しておく。


「そういえば、わたしも名乗っていなかったわね。わたしはカーラ、よろしくね」


 最後に受付嬢が名前を名乗る。

 それぞれが自己紹介を終えるが、ギルマスはノアのほうを見ている。正確にはノアのポシェットをだ。


「それで、そこに隠れている妖精の紹介はなしか」


 プリメはギルマスが入ってきた瞬間、身を潜め、ノアのポシェットの中に隠れた。


「ギルマス、そんな顔したら出てこないわよ」

「こんな、イケメンな男に見られたら、恥ずかしいってことか」


 ギルマスは大笑いをする。

 イケメンではなく、渋いおっさんの間違いだと思う。


「えっと、こんな性格はしているけど、信用はできる人よ。判断は任せるけど、きっと力になってくれると思う」


 わたしたちは顔を見合わせる。

 これで、ギルマスが領主や騎士と繋がっていたら、情報が漏れるかもしれない。そうなれば、プリメのお姉さんの探索に支障が出るかもしれない。

 あまりにも、情報が少なすぎる。

 なにかあれば、クマの転移門で逃すこともできるし、敵対すれば戦うまでだ。

 でも、ギルマスが、冒険者ギルドが力になってくれるなら助かるのは確かだ。


「プリメ、もしものときはわたしが守るから」


 わたしが、そう言うとノアのポシェットから出てくる。


「妖精を見るのは初めてだが、噂の領主の側にいる妖精か?」


 ギルマスは少し、睨むようにプリメを見る。

 やっぱり、妖精にいい感情は持っていないみたいだ。


「違うから、そんな目で見ないでもらえる?」


 わたしはプリメを守るようにギルマスを睨む。


「違うのか、悪いな」


 ギルマスは笑って誤魔化す。

 確かに、あの目は妖精を恨んでいるような目だった。


「でも、無関係とも言い切れない。その領主の側にいる妖精は、この子のお姉さんかもしれないから」


 わたしたちは、ギルマスに、プリメのお姉さんを探しに、この街までやってきたことを説明する。


「そういうことなら、手を貸そう」

「いいの?」

「もし、領主の手元から妖精が消えれば、俺たちにもメリットがあるからな」

「消えればって、殺したりはしないよ」

「妖精の森でも、どこにでも連れていってくれればいい。この街に関わらなければいい」


 ギルマスは真剣な表情で言う。


「約束する。お姉ちゃんは妖精の森に連れ帰る」

「おお、約束だ。妖精の嬢ちゃん」


 わたしたちはギルマスを仲間にした。




※受付嬢の名前でていないですよね。確認はしましたが、書いたような気もしています。もし、書いてありましたら、すみません。時間が空くと、忘れるので困ります。


【お知らせ】

先週お伝えしたとおりに、書籍の修正の仕事がやってきました。

さらに、コロナワクチン3回目の予約が入っており、(1回目、2回目、副反応が出ましたので、今回もでるかと)

さらに、いろいろな仕事もあり、1週間の休みでは無理だと思いますので、

2週間ほど休ませていただければと思います。(3週間になったらすみません。可能性あり)

どうして、予定や仕事が固まるのか不思議です。

アニメ関係の仕事は大なり小なり週に一度やってきますが、

コミカライズ新刊のチェックと書き下ろしは先月終わらせましたので、よかったです。

ちゃんと時間があるときに、前もって仕事をしないとダメってことですね。でも、時間に余裕があるとゲームをしたり、漫画や小説を読んだりしちゃうんですよね。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。


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― 新着の感想 ―
[一言] 誰にも話を聞かれない部屋とは何だったのか… ノックも許可もなく勝手に出入り自由じゃんw
[一言] 来週更新されるかどうかか・・・いぁ、何時迄休みか気になってとゆうか確認でw副反応最初からあったんですね。3回目はないように祈りたい・・・3度目の正直って訳じゃないけどwちなみに3回とも副反応…
[一言] ギルマスどう考えても出番待ちしてたな
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