680 クマさん、ハーレムパーティーと再会する
わたしに抱きついてきたのはローザさんだった。
ミリーラの町で一緒に盗賊を討伐したり、砂漠で出会った冒険者だ。
ローザさんに続き、ランも抱きついてくる。
倒れそうになるが、クマ装備のおかげで踏ん張ることができる。
「どうして、ここにローザさんたちが」
「それはこっちのセリフよ」
「本物のユナよね」
ローザさんとランがわたしを確認するように見つめてくる。
わたしも信じられないので、同じように確認する。
「本物のローザさんたちだよね」
「本物よ。こんなところでユナちゃんに会えるなんて」
「よかった」
2人は、わたしとの再会を喜ぶように、なかなか離れてくれない。
「とりあえず、離れて」
「逃げない? どこかに行ったりしない?」
「逃げないし、どこにも行かないから」
抱きつかれたままじゃ、詳しい話もできない。
「ローザ、ラン、ユナから離れろ。困っているだろう」
「ユナ、久しぶり」
わたしが困っていると美女たち3人をはべらせているハーレム男のブリッツとグリモスがやってくる。
「うん、ブリッツもグリモスも久しぶり。砂漠で会ったのが最後だったよね」
あれから会っていないので、久しぶりだ。
こんなところで会えるとは思っていなかった。
もしかしてわたしが思っているよりも、ここは近い場所だった?
「ユナさん、この人たちは?」
わたしの後ろで、状況が分からないノアが尋ねてくる。
「何度か、お世話になった知り合いの冒険者だよ」
「どちらかと言えば、わたしたちがお世話になったのよ」
「ミリーラの町では一緒に盗賊討伐をした」
ローザさんの言葉にランが言葉を付け足す。
数ヶ月前のことだけど、懐かしい思い出だ。
「そうなんですね」
「わたしはローザ、よろしくね。えっと……」
「ノアールと言います」
「ノアールちゃんね」
「わたしはラン、よろしく」
「グリモス」
「俺はブリッツ」
それぞれが名前を名乗る。
「それでユナ、一ついいか?」
「なに?」
「ここはどこだ?」
「……はぁ?」
目の前にいる男が発した言葉に、一瞬思考が止まる。「ここはどこだ?」ってそれはこっちのセリフだ。
「わたしたち迷子なのよ」
「でも、ユナに会えたってことは、ミリーラの町に帰れる」
ローザさんとランの2人が喜ぶ。
それからローザさんたちから、この街にいる経緯を聞いた。
「そんなわけで、ここがどこなのか、帰り方もわからないの。でも、ユナちゃんに会えたから安心ね。ユナちゃん、ミリーラの町? 王都でも、クリモニアでもいいわ。帰り方、教えてくれると助かるんだけど」
みんな、安心しきった顔をしている。
どうやら、わたしがクリモニアへの帰り道を知っていると思っているみたいだ。
まあ、普通はそう思われても仕方ない。
「ごめん、帰り道は分からない」
「えっ、どうして!? それじゃ、どうやってここに来たの?」
「もしかして、ユナもわたしたちと同じ感じで迷子になったの?」
ローザさんとランが尋ねてくる。
「えっと……」
妖精の力を使って来たって説明するには、プリメのことを話さないといけない。
でも、簡単に話せることではない。
「もしかして、答えられないことなのか?」
ブリッツがわたしとノアの表情を読んだのか、そう尋ねてくる。
「答えられないことはないけど。言いにくいかな」
「なら、これだけ答えてくれ。ユナは帰れるのか? あまり悲観的になっていないが」
ブリッツが核心をついてくる。
「……わたしたちは帰る方法はあるよ」
だから、悲観はしてない。
妖精の鏡でも、クマの転移門でもクリモニアに帰ることはできる。
「どんな方法だ? 俺たちもその帰る方法は使えるのか」
「使えるかどうかと言われたら、使えるけど。簡単には使えない。わたしも許可が必要だし」
「お金が必要なら払う」
「頑張って働くわ」
「えっと、お金の問題とかではなく」
「もしかして、わたしたちは帰れない?」
「……」
ローザさんとランが落ち込んでいく。
「ユナさん」
わたしが困っていると、ノアがわたしの服を引っ張る。
妖精の鏡を使うには、プリメ。さらに言えば妖精の森の中に入らないといけないから、妖精の女王様の許可が必要になってくる。妖精の女王様が人を4人も追加で入れてくれるとは思えない。
ブリッツたちは悪い冒険者たちではない。どちらかと言うと善人。だからと言って、わたしの一存で妖精の森に連れていくわけにはいかない。
だからと言って、こんな見知らぬ土地で困っている知り合いを見捨てることはできない。
でも、クマの転移門を使えば、ローザさんたちをクリモニアに帰らせることはできる。
「わかったよ。とりあえずわたしがここに来た方法を話すけど、秘密にしてもらわないとダメだよ」
「秘密? もちろん話さないわよ」
「ああ、もちろんだ」
わたしたちは、お互いの情報を共有することになった。
でも、妖精の話などを、他の人に聞かれても困るので、わたしたちが泊まっている宿屋で話すことになった。
宿屋の泊まっている部屋に戻ってきたわたしたちは、二つあるベッドにローザさんとラン、わたしとノアが座り、備え付けてあった2つの椅子にブリッツとグリモスが座る。
「どこから話したらいいかな」
「話せる範囲で構わない」
それなら、今回、ここに来ることになった本人に出てきてもらうことにする。
「プリメ、悪いけど出てきてもらえる。この人たちは大丈夫だから」
「本当?」
プリメはノアのポシェットから顔を出すと、ローザさんたちの前に姿を見せる。
「妖精?」
「わたしたちは、この妖精のプリメに、お姉さんを探してほしいって言われて、妖精の森にある妖精の力って言うのかな。その力を使ってクリモニアから妖精の森に移動して、その妖精の森からここまで来たの」
「それじゃ、わたしたちも、その妖精の森に行けば帰れるの?」
「無理よ。こんなに人間を妖精の森に連れて帰ったら、わたしが女王様に怒られちゃうよ。もしかしたら、入れてくれないかもしれないし。今回だって、1人だけと言われたのに、2人も連れてきて怒られたし」
「2人?」
「ノアは、この街の子じゃなくて、わたしと一緒にクリモニアから来たんだよ」
「そうなんだ」
わたしはノアが一緒にクリモニアから来た理由を説明する。
「それじゃ、ノアールちゃんの中にプリメちゃんのお姉ちゃんの魔力がこもったハンカチが入ってしまったから、ノアールちゃんもクリモニアから来たのね」
「はい」
「まだ、小さいのに、こんな見知らぬ土地まで来て大変でしょう」
「いえ、ユナさんが一緒ですし、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんも一緒にですから、大丈夫です」
「まだ、小さいのにしっかりしているわね」
それはそうだ。貴族の令嬢で、教育もしっかりされている。フィナとの付き合いもあり、一般人を見下したりもしない。
これも、クリフの教育のおかげなのか、エレローラさんの血筋のせいなのかは分からないけど。ちゃんと、まっすぐに育っていると思う。
「ユナちゃんたちが、どうやってここに来たのかは分かったけど。結局のところ、わたしたちは帰れないのね」
「ユナに会えたから帰れると思ったのに」
「仕方ないさ」
ローザさんたちはプリメを見ながら、諦めようとする。
「それなら、わたしに頼まなくてもユナに頼めば」
わたしはとっさにプリメを掴む。
「ユナちゃんに?」
「えっと……」
笑って誤魔化す。
話を聞くことになってから、初めからクマの転移門を使うつもりだった。でも、わたしの秘密主義の性格が発動する。
「もし、プリメのお姉さんを見つけることができれば、お礼として妖精の森の中に入れるかも」
「ユナ!」
プリメが驚くが話には続きがある。
「ただし、妖精の森の場所は秘密だし、移動の仕方も秘密。目隠ししてもらうことになると思うけど。それでいいなら」
目隠しして、クマの転移門を通ってもらえれば、知られることもない。
ローザさんたちも帰れるし、わたしも秘密を守れる。そのぐらいはいいよね。
それにローザさんたちに手伝ってもらえれば、プリメのお姉さんの情報も聞き出しやすいと思うし。何しろ、わたしはクマの格好した変な女の子だし、ノアは子供だし。情報収集には適していない。
「そんなことで帰れるなら、わたしはいいわよ」
「妖精の森、移動方法。知りたかった」
「それじゃ、ランには残ってもらいましょう。もし、妖精の女王様の反感を買って帰れなくなったら、大変だから」
「ローザの意地悪。わたしも約束は守る」
「それじゃ、決まりだな。俺たちもプリメのお姉さんを探す手伝いをするってことで」
ブリッツの言葉にローザさんたちは同意する。
「言っておいてあれだけど、いいの?」
「帰りたいのは本音だけど、ユナちゃんのお手伝いをしたいと思っているわ」
「それに恩を売れば確実」
「問題ない」
「ランの言葉じゃないが、少しでも妖精に良いように思われたほうがいいからな」
4人がプリメのお姉さんを探すのを手伝ってくれることになった。
『ユナ、どういうことよ。目隠ししても妖精の森の中には入れないわよ』
プリメがわたしの耳元で言う。
『大丈夫だよ。あの門を使うから。でも、あの門のことは、あまり知られたくないから、妖精の力ってことにしてくれると助かるんだけど』
『まあ、そういうことなら』
わたしの考えを理解したプリメは納得してくれる。
そんなわけで、ブリッツたちが仲間になりました。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。