表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
697/928

674 クマさん、村に寄る

 翌朝、わたしたちは朝食を終えると出発する。


「ノア、こっちでいいんだよね」

「はい。細い糸が繋がっているように感じます」

「プリメ。村は?」

「う~ん。たぶん、こっちだと思う」


 ノアは少し左側を指し、プリメは悩んでから少し右側を指す。


「見事に向かう方向がずれているね」

「どうしますか?」

「う~ん、やっぱり、少し遠回りになるかもしれないけど、情報は欲しいから、村に寄っていこうか」

「わたしは構いませんが」

「プリメもいい?」

「いいわよ」


 そんなわけで、わたしたちは村に寄って情報収集をすることにする。


「くまゆる、くまきゅう、行くよ!」

「「くぅ~ん」」


 くまゆるとくまきゅうは、プリメが教えてくれた村に向かって駆け出す。

 そして、しばらく走ると、魔物にも人にも遭遇することもなく、村が見えてきた。


「見つかると騒ぎになるかもしれないから、プリメは隠れていてね」

「分かっているわよ」


 プリメは飛ぶと、ノアのポーチの中に入っていく。


「ノアは、わたしから離れちゃダメだからね」


 どんな村か分からない。危険な村の可能性もある。と思ったが、村に近寄ると、村の外の近くにいた男性が「クマに乗った女の子が、村を襲いに来た!」と逆に、わたしたちがクマに乗って村を襲うように思われた。

 わたしはくまゆるとくまきゅうは安全だと説明する。


「襲ってこなければ、何もしないよ」

「本当に、そのクマは大丈夫なんだよな」

「大丈夫だよ」


 わたしの言葉に男性は、頷いてくれた。

 久しぶりに、くまゆるとくまきゅうが恐がられたよ。


「まず、確認だが、お嬢ちゃんのその格好はなんだ?」

「クマだけど」

「見れば分かるが、もしかして、街では、そんな格好が流行っているのか?」


 どうやら、わたしたちが近くの街から来たと思っているらしい。

 本当のことを話すことはできないので、そのまま勘違いしてもらうことにする。


「違うけど」

「そうか。街には行ったことがないから、そんな服が流行っているのかと思ったよ。それで女の子2人が、クマに乗って、こんな寂れた村になんのようだ? 迷子か?」


 確かに、活気はないけど、自分で寂れた村と言うのはどうかと思う。


「迷子じゃないよ。この辺りで危険なところがないか、街が近くにあるのか、あと、妖精のことを知っていたら、教えてくれたらなと思って」

「妖精? 綺麗な人の形をした小さな人のことだよな」

「ちょ、小さい人って、妖精は違うわよ。モゴモゴ」


 ノアがポシェットを押さえながら、後ろに下がる。


「なにか、言ったか?」

「ううん、なにも言っていないよ」


 わたしは誤魔化して、話を聞く。


「危険な場所や街は教えてあげられるが、妖精のことは婆さまに聞いたほうがいいな」

「婆さま?」

「ああ、昔に見たらしいからな」


 男性は村の近くの危険な場所などを教えてくれながら、その婆さまって人のところに案内してくれる。

 村はいたって普通の村だ。とくに変わった様子はない。


「おまえさんたちが入ってきた入り口から、左の方へ行くと、森と草原がある。その辺りは魔物の群れが出没するから、行かないほうがいい」

「魔物って、どんな?」

「ウルフだな」


 ここでもウルフがいるのか。

 まあ、実際にゲームみたいに最終ボスの前にある街にいる魔物のように、めちゃくちゃに強い魔物だったら、街の住民は死んでいるよね。


「討伐はしないの?」

「村から離れているから、ここまで来ることはない。あと縄張りさえ入らなければ襲ってくることもないから大丈夫だ」


 当たり前だけど、縄張りに入れば襲ってくるってことだ。


「だから、放置している。俺たちの村にさえやってこなければ、無理に倒すこともないからな」

「いつか、襲ってくるとは思わないのですか?」


 ノアが尋ねる。


「昔は思ったが、そんなことは一度も起きていない。危険を冒すことでもない。それに冒険者に頼むにしてもお金がかかる。それなら、放置したほうがお互いのためだ」


 そういう考え方もあるんだね。

 わたしなら、後顧の憂いがないようにって倒してしまうけど。

 あらためて思うと、乱暴な考えだね。


「それから、街は村を出た先に馬車が通っている道があるから、そのまま進めばある」

「遠いの?」

「馬車で3日ほどだな」


 結構遠い。でも、くまゆるとくまきゅうが走れば、十分に一日で着く距離だ。


「だが、嬢ちゃんたちは、その街からクマに乗って来たんじゃないのか?」

「えっと、それは」


 違うと答えれば、「どこから来たんだ」と尋ねられたら答えられないし、だからと言って、そうだとも言えない。


「やっぱり、迷子になって、自分たちの街の場所を聞きにきたのか?」


 男性は勝手に、わたしたちを迷子認定して、頷いている。

 ここで、否定しても、他に答えようがないので、そう思ってもらうことにする。

 ただ、街の名前や、国の名前を尋ねにくくなった。自分の国や住んでいる街なのに名前を知らないのはおかしい。もし追及されても、答えられない。


「うん、妖精を探しに来ていたら」


 とりあえず、魔物のことと街の場所は分かったので、話を逸らすことにする。


「ユナさん?」


 わたしはノアに目配せして、首を横に振る。わたしが言いたいことが伝わったのか、ノアは小さく頷く。


「帰ったら、ちゃんと親御さんに謝るんだぞ。それと、あまり親御さんを心配させるんじゃないぞ」


 男性は優しく言う。

 わたしとノアは素直に頷いておく。


「だが、街じゃ、馬じゃなくて、クマに乗るんだな」


 男性はくまゆるとくまきゅうを見ながら言う。


「いや、このクマは特別で、クマに乗っているのはわたしたちだけだよ」


 勘違いされたままだと、本当に街から来た人がバカにされてしまうので、そこのところはハッキリと否定しておく。

 流石に、馬の代わりにクマに乗っている街はないと思う。

 ……ないよね?


 そして、寂れた家に到着すると、男性はドアを勝手に開けて、家の中に声をかける。


「婆さま、いるか。妖精について聞きたいって女の子たちが来たんだが」

「妖精かい?」


 奥の部屋から、腰に手を回したお婆ちゃんが出てくる。


「クマ!?」

「驚かせて、ごめんなさい。この子たちは危険はないから」


 わたしは謝罪をして、後ろにいるくまゆるとくまきゅうの説明をする。

 くまゆるとくまきゅうは小さい声で「くぅ〜ん」と鳴く。


「本当に大人しいクマだね。それによく見れば、嬢ちゃんもクマの格好をしているんだね」


 お婆ちゃんが、わたしを見て微笑む。


「この女の子たちが、わざわざ街から妖精を探しに来たんだとさ。悪いが話してやってくれないか」

「ふふ、こんな年寄りの話でいいなら、話してあげるよ。中にお入り」


 男性とは別れ、わたしたちは家の中に入る。

 くまゆるとくまきゅうは家の前にいてもらい、わたしとノアは家の中に入る。


「それで、妖精を探しに、この村に来たのかい?」


 妖精本人がこの村に来たことがあるから、他の妖精も来たことがあるかどうか聞きにきたとは言えないので、誤魔化しながら尋ねる。


「はい。もしかして、この村で妖精を見たって人はいないかなと思って」

「ふふ、わたしは見たことがあるのよ。とても、綺麗だったわ」


 どこからともなく、嬉しそうな笑みがきこえてくる。それを誤魔化すようにノアが話しかける。


「お婆さまは、妖精を見たことがあるのですか?」

「若い頃にね。この村の近くには昔から、妖精の住む場所があると言われているの」


 プリメたちの妖精の森のことかな。


「妖精がいる場所は分かるんですか?」


 お婆ちゃんは首を横に振る。


「誰も知らないわ。ただ、妖精が、この村に遊びに来るの」

「でも、妖精って、誰でも見えるわけじゃないって聞いたけど」

「おや、お嬢ちゃん、詳しいね。妖精は、見える人と見えない人がいるの」


 妖精は自分の魔力の波長と合わないと見ることができない。


「わたしが指さしても、誰も妖精を見ることはできなかった。わたしも、嘘つき呼ばわりをされたくなかったから、それ以上は言わなかった」


 幽霊が見えると言っても、見えない人に信じてもらうのは難しい。下手をしたら、おかしい人に思われるかもしれない。これが霊媒師とか、特別な力を持っている人ならともかく、一般人が言っても、まず信じてもらえないと思う。


「わたしは、1人で妖精を追いかけたわ。妖精は村の中を楽しく飛んでいたわ。でも、妖精はわたしが見えていることに気付くこともなく、遠くに飛んでいってしまったの。それから、何度も妖精を探したけど、二度と見ることはなかったわ。あのときに声をかけていたらと、何度思ったことか。妖精さんとお話がしたかった」


 妖精を見ることは奇跡に近い。

 自分の魔力と波長が合う妖精がいつ村に来るかなんて、分からない。

 その日、同じ時間、同じ場所にいる確率は低いと思う。家の中にいたら、まず会えないし。引きこもりのわたしだったら、まず会えることはないと思う。


「もう、老い先が短い。最後にもう一度、あの美しい姿を見たかった」


 お婆さんは、寂しそうに言う。


「ごめんなさいね。ちょっとしんみりしちゃって」

「いえ」


 なんとも言えない気持ちになる。

 プリメはいるが、騒ぎになるかもしれないから見せてあげることはできない。ノアのほうを見ると、ノアも困っている。


「わたしが知っている妖精の話はそのぐらいね。役に立ったかしら」

「はい、とっても」


 実際のところは役に立っていない。

 でも、それを無下にするほど、わたしは冷酷ではない。

 わたしがお礼を言って、お暇しようと思ったら、ノアのポシェットが動く。


「そんなに、わたしを見たいの?」


 ノアのポシェットから、プリメが出てくる。


「プリメさん!?」


 ノアが困ったようにプリメを見るが、プリメはお婆さんの前に飛んでいく。


「妖精さん……」

「うん、妖精だよ」

「うぅ」


 お婆さんは目に涙を浮かべ始める。


「本当に妖精……。お迎えが来る前に会えて嬉しいです」


 お婆ちゃんが手を差し出すと、プリメはその手に乗る。


「ふん、妖精が見えなくて、後悔して死なれたら、たまったものじゃないからね」

「もう、思い残すことはありません」

「なによ。わたしに会えたのに死ぬつもりなの。わたしに会えたことが幸運と思うなら、もっと長生きしなさいよ」

「そうですね。また、妖精に会えるかもしれないので長生きをしないといけませんね」


 お婆さんは笑う。


「お婆ちゃん。最近、妖精を見た人がいるって、聞いたことがない?」

「いるかもしれないけど、みんな、黙っていると思うわ。小さい村だから、誰かが見て騒いでいたら、広まりますので」

「そう」


 それじゃ、もし、プリメのお姉さんを見た人がいても、捜すのは難しいかもしれない。


「でも、妖精を探していると言っていたけど」


 お婆ちゃんは自分の手の上に乗っているプリメを見ながら尋ねる。


「探しているのは、この子のお姉ちゃんなの。行方がわからなくて」

「そうなのですね。お役に立てずにごめんなさい」

「ううん、いいの。手掛かりはあるから」


 まあ、この村に来た目的は、近くの危険な場所、街の情報、できれば国の名前とかも知りたかった。あと、妖精の話が聞ければいいかな程度だ。そのうちの半分の目的が達成できたから、問題はない。

 わたしたちはお婆ちゃんにお礼を言って、家を出る。


「お婆さま、プリメさんに会えて嬉しそうでしたね」

「人を幸せにさせるのも、幸運の一つかもね」

「わたしもプリメさんを見たとき、感動しました。幸せな気持ちになりました」


 確かに、プリメを見たときには驚いたが、同時に初めて見た妖精に感動したかもしれない。


「ふん、そんなに褒めても、嬉しくないんだから」


 プリメは顔を逸らすが、嬉しそうだった。


遅くなり、申し訳ありません。

週一となりますが、再開させていただきます。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここまで事情話すならどこの国か最近村から出ていった人についても聞けばいいのに
ここには「ぶ、ブラッディベア」とかいうやつはいなかった。
[一言] 普通に話破綻してるし。 村に寄る方が危険やし、そのまま行った方が安全。笑 ましてやクマの事で言われる危険があるのに。笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ