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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい大陸を発見する
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659 クマさん、解体イベントを見終わる

 声が飛び合い、もの凄い速さでワイバーンが解体されていく。 

 誰が勝ってもおかしくはない。


「フィナは誰が勝つと思う?」


 わたしたちの中で、一番解体の見る目があるフィナに尋ねる。


「えっと、あのおじいちゃんかな」


 フィナは少し悩みながら答える。

 ウルフのときから、何度も目が向いていた年配の男性だ。

 目立った解体ではないが、着実に解体をして勝ち上がっている。


「フィナちゃん。どうして、そう思うのかしら?」

「えっと、指示をだされている人たちが、やりやすそうに解体をしているから」


 エレローラさんの質問に答えるフィナ。

 他の人たちは声を張り上げたりしているが、あそこだけは静かに解体が行われている。

 他のチームとは違う。


「たぶんだけど、他の2人が難しい解体部分に入る瞬間に、あのおじいちゃんが入ってきてくれてるから、スムーズに解体ができているんだと思う」


 フィナに言われてみて分かる。確かに、あのお爺ちゃんは静かに移動して、解体を手伝い、しばらくすると自分の解体に戻ることを何度も繰り返している。

 サポートの2人が、どんな解体をしているのか、どの部分が苦手としているのか、全て把握しているかのように動いているみたいだ。


 そして、フィナの目が正しく、年配の男性は四回戦を勝ち、決勝に進んだ。

 決勝に進んだのは2名。

 つまり、決勝の魔物は二体。どんな魔物が出るか想像がつく。

 わたしが渡した二体のコカトリスになると思う。

 そして、決勝はわたしの想像どおりにコカトリスで、優勝は、そのまま年配の男性だった。

 結局、目新しい魔物を見ることはできなかった。でも、会場はワイバーン、コカトリスが登場したときは、驚きと、恐怖と、いろいろな感情が出ていた。

 優勝した年配の男性は表彰され、会場から拍手が送られる。


「フィナ、どうだった? 勉強になった?」

「うん、わたしには、まだ無理だけど、ワイバーンやコカトリスを見ることができてよかった。クリモニアじゃ見たことがなかったから」

「ふふ、王都でも、ワイバーンやコカトリスは、そう見ることはできないわよ」


 フィナの感想にエレローラさんが笑う。


「それでは、最後に優勝したバログさんの指示に従い、四回戦まで残った5名により、特別な魔物を解体していただきます」


 進行役の男性の言葉で現れたのは、わたしが倒した巨大なスコルピオン。スコルピオンのあまりの大きさに会場はざわめく。


「あら、もしかして、ユナちゃんが倒した?」


 巨大なスコルピオンのことを知っているエレローラさんが尋ねてくる。砂漠での報告した時に、エレローラさんには知られている。

 一部、甲殻が剥がされているので、間違いなくわたしが倒した巨大なスコルピオンだ。


「そうなんですか!?」


 シアが驚く。

 今日は、いろいろなことがバレる日だ。


「サーニャさんに譲ってほしいと頼まれてね」


 それに、いつまでも持っていても意味がないので、解体してもらって、素材にしたほうがいい。


「ブラックバイパーの話を聞いたときも驚いたけど、どうしたら、あんな大きな魔物を倒せるのかしら?」


 ティルミナさんが巨大なスコルピオンを見ながら言う。

 ちょうど地下で、空間があったから、海水を入れて水攻めをして倒した。

 クマの転移門のことを知っているティルミナさんなら話してもいいけど、ここにはエレローラさんがいるので、黙っておく。エレローラさんにクマの転移門が知られたら、クリモニアと王都の足代わりにさせられそうだ。


 そして、5人によって、巨大なスコルピオンの解体が行われ、全てのイベントが終わった。

 最後にサーニャさんより、イベントに参加してくれた人たちと、危険な魔物を討伐してくれた冒険者たちに感謝の言葉が贈られる。


「参加してくださった皆さんに、討伐した魔物を提供してくださった冒険者の皆様には感謝の言葉もありません」


 討伐した魔物って、ほとんどわたしが提供した魔物だった気がするんだけど。だからと言って、こんな公の場でわたしに向かって言われても困るから、いいけど。


「この会場には街の外に出たことがない人や、魔物を一度も見たことがない人もいるかと思います」


 会場の中には一般人もいる。


「わたしたちの日々の平和は知らないところで、冒険者や騎士、兵士たちが守ってくれていることを、忘れないでほしい。どこに危険があるか、知ってほしい」


 街道は定期的に冒険者が通ることで安全が確保されている。もちろん、100%ではないが、放置されるよりは安全性は高くなっている。


「確か、見回りもしているんだよね」


 わたしは引き受けたことはないけど、街の周辺の見回りをする仕事もある。だって、討伐依頼じゃないので、貰えるお金は少ないし、新人冒険者用の依頼だ。

 新人冒険者には街の周辺の地理に詳しくなってもらうのと、魔物を遠くから見つける技術、見つけたときの対応を覚えさせるためらしい。


「サーニャは、ああは言ってくれているけど、騎士や兵士の派遣は、よほどのことがないとしないわ」

「どうしてですか?」


 フィナが尋ねる。


「冒険者の仕事を奪うことになるし、いろいろな場所に騎士や兵士を派遣して、もしも王都に危険があった場合、王都を守れないでしょう。だから、その辺りの判断は国、その土地の領主の判断に任せられているわ」

「たしかに」


 いざ、国や街が危険なときに守れなかったら、騎士や兵士の意味がない。


「あと、定期的に街と街の間で乗合馬車が出ているでしょう。その乗合馬車の護衛のお金の一部は国や街が出しているのよ」


 ああ、モリンさん、カリンさんが王都からクリモニアにやってきたとき、護衛付きの馬車に乗ってもらったことを思い出す。


「冒険者が一緒に行動すれば、一般人の安全を得ることができるし、冒険者にもお金が入るでしょう。もし、街道で魔物に遭遇したときに討伐してくれれば、次に通る者の安全が確保されるでしょう。そうすることで、人と物の移動を守っているの」


「凄いですね」


 わたしたちがエレローラさんの話を聞いて驚いている間に、サーニャさんの言葉は終わり、会場からは拍手が起こり、イベントは無事に終わった。

 これから、どうしようと思っていると、疲れた表情をしたサーニャさんがやってくる。


「疲れたわ〜」


 先ほどまで、凛々しい顔をして、喋っていた人と同一人物とは思えないほどの、だらしない顔だ。

 でも、イベント主催のトップだ。いろいろと疲れることがあるんだと思う。

 だから、労いの言葉をかけてあげる。


「お疲れ様」


 わたしが言うと、みんなもサーニャさんに労いの言葉を言う。


「ふふ、ありがとう。でも、やっとこれで終わったわ。これもユナちゃんのおかげね」

「一ついい?」

「何かしら?」

「どうして、わたしが倒した魔物ばかりだったの? 珍しい魔物が見られるかと思って、楽しみにしていたのに」

「ああ、そのことね。それは、ユナちゃんに払うお金がないからよ」

「…………?」

「あれから、ユナちゃんから預かった魔物の素材の計算をしたのよね。そうしたらあら、不思議。とんでもない金額になったのよ。そのことを副ギルマスに言ったら、怒られてね。さっさと解体してお金にするしかないって。それで予定していた解体する魔物を変更したりして、大変だったのよ」

「そんなに、王都の冒険者ギルドって貧乏なの? そもそも、魔物の素材って商業ギルドが買い取るんじゃないの?」


 商業ギルドって、金持ちってイメージがある。


「貧乏じゃないわよ。ユナちゃんが倒した魔物が凄すぎるのよ。あの巨大なスコルピオン一体で、ちょっとしたお屋敷は建つわよ。それに、イベントに使う予算は決まっているわ。多少の誤差は許されるけど」

「だからと言って、そんなにお金がないの?」

「ユナちゃん。一括でお金が出ていくと、他にお金を回せなくなるでしょう」


 確かに、一億円あったとして、全部渡してしまったら、その一億円は他では使えなくなる。その一億円の一部を使おうとしていた人が困ることになる。


「それにオークションにかければ、どこまで上がるか分からないわ。だから、その辺りは商業ギルドと話し合ったりする予定。それに、一気に売るより、小出しにして売ったほうが値崩れもしないから、素材は確保しておきたいのよ。そんなわけで、なるべく早くに、ユナちゃんから預かった魔物を解体しておきたかったのよ」

「別に急いでいないから大丈夫だけど」

「ダメよ。親しき仲にも礼儀ありよ。もし、ユナちゃんにお金を払っていないことが知られでもしたら、冒険者ギルドの信用問題になるわ」

「別に、お金を貰っていないことを言いふらしたりはしないよ」

「ユナちゃんが話さなくても、冒険者ギルド職員、商業ギルド職員、少なからず知っている人はいるわ。どこから、情報が漏れるか分からないのよ。一応、情報漏洩は罰されるから、話したりはしないけど。でも、過去にお酒を飲んで酔っ払って機密を喋った人がいたのよ」


 わたしはお酒は飲めない年齢だから飲んだことはないけど、お酒を飲むと、記憶が無くなったり、口が軽くなったりするらしい。思考回路を壊すみたいだ。

 話を聞くだけだと、お酒は危険な飲み物に聞こえてくる。

 お酒が飲める年齢になっても、飲むのはやめよう。

 間違って、元の世界のことを喋りでもしたら困る。

 そもそも、こっちの世界では、お酒を飲める年齢って決められているのかな?


「ふふ、お酒は飲んでも飲まれるなって、言うからね」


 話を聞いていたエレローラさんが笑う。

 エレローラさんはお酒に強そうだ。

 少しなら良薬、飲み過ぎれば病気になる。なんでもそうだけど、ほどほどが一番だ。


「まあ、そんなわけだから、これから商業ギルドと相談してお金を用意することになっているから、少し待っていてね」

「了解」


 わたしとの話が終わると、サーニャさんはフィナに話しかける。


「あと、フィナちゃんには伝えてあると思うけど。明日以降でいいから、冒険者ギルドに来てもらえるかしら? 今回の依頼料と、解体してくれた魔物のお金を渡すから」


 フィナは断ろうとするが、ティルミナさんが「明日、伺わせていただきます」と代わりに言う。

 参加は依頼された仕事だけど、参加して魔物を解体したお金は全員がもらえる権利だ。断るのは違うと思うし、サーニャさんに失礼だと思う。

 だから、ティルミナさんは、フィナの代わりに言ったんだと思う。





【お知らせ】

次週は、お休みにさせていただきます。

理由としは、今週、2回目のコロナワクチン接種の予定になっています。

1回目のときに少しだけ副反応がでました。2回目のほうが副反応が大きいということなので、安静にしておこうと思います。

アニメやコミカライズ関係の仕事もあり、申し訳ありませんが、お休みにさせていただこうと思います。

楽しみにしてくださる読者様がいましたら、申し訳ありません。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フィナの活躍楽しめました。 他にもユナを慕っている女の子達がいますが、今後はそれぞれが個性を出して、少しずつ凄いところを見せてくれるのなと期待させてもらえました。
[一言] 黙っててと言ってもポロッと出た言葉でバレてしまうんですよね。 シアとエラローラがポロッと言ってしまった様に。
[一言] 小説家になろう 勝手にランキング の項目にクマが… 復活してました^^
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