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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい大陸を発見する
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657 クマさん、解体イベントを見る その2

 蜘蛛の解体が始まった。

 棄権する者は誰一人いない。全員、手慣れた感じで解体をしていく。

 昨日の決勝も凄いと思ったけど、今日はそれ以上だ。全員が昨日の決勝に出場した者たちより実力があるのは間違いない。

 こんな凄い人たちに混じって、参加しようと思う人が減っても仕方ないかもしれない。

 経験が違い過ぎる。

 そんな解体する人たちをフィナはジッと見ている。


「別にそんなに見なくても大丈夫だよ。フィナが嫌がる魔物の解体はさせるつもりはないから」


 フィナは虫系の魔物は苦手と言っていた。それを無理に頼むようなことはしたくない。

 そもそも、わたしが頼みたくない。


「ううん。虫系の魔物は苦手だけど、もしも必要なときに、できなかったら困るから」


 こういうところ本当に偉いと思う。

 学校で習う勉強でもそうだけど、大人になって役に立たないことが多い。でも、それは違うと思う。

 勉強とは考えること、嫌なことに立ち向かうこと。

 子供のときから嫌なことから逃げ出していたら、大人になっても、嫌なことから逃げ出すと思う。

 だから子供のときから嫌なことにも逃げ出さず、立ち向かうことは大切だ。それは大人になっても自分の糧となると思う。

 もちろん、イジメや暴力など、理不尽なことからは逃げたほうがいいが、勉強など、自分の糧になるものからは逃げないほうがいい。この世には勉強がしたくても、できない子もいる。

 もっとも、学校に行っていなかった、わたしが言うセリフじゃないけどね。

 わたしが面倒なことから逃げ出すのは両親の血筋かもしれない。

 血は争えないって、よく言ったものだ。


「やっぱり、あの人、凄い」


 ウルフの解体で、動作が少ないのに、解体が速かった年配の人を見ている。

 周りと比べても、動作が相変わらず少ない。体力の温存になると思う。体が小さいフィナには、勉強になるかもしれない。


 そして、昨日の決勝よりも速く、次々と蜘蛛の解体が終わっていく。

 三回戦に行けるのは20位まで。その20位前後は団子状態で、誰が20位に入ってもおかしくはないほど、実力は拮抗していた。

 審査する人も大変そうだ。

 

「フィナ、どうだった?」

「うん、みんな凄い」

「ゲンツさんと比べてどう?」

「お父さんって、いうか。ギルドの中で、こんなに急いで解体する人は誰もいないから、比べられないと思う」


 それはそうか、解体イベントであり、誰かと競うからこそ、この速度だ。毎日、こんな速度で解体をしていたら身がもたない。


「それじゃ、来年はゲンツさんに参加してもらうのもいいかもね」

「ユナちゃん、あの人が一回戦で負けたら困るから、やめてあげて」


 わたしの提案にティルミナさんが止める。

 確かに、参加して一回戦でボロ負けでもしたら、父親として、解体の先生としての威厳がなくなってしまうかもしれない。家族関係に傷をつけることもない。

 でも、ここにゲンツさんを信じる人物がいる。


「え〜〜、お父さんなら、きっと一番だよ。お父さん、すごいもん」


 シュリがゲンツさんの一回戦負けを否定する。


「そ、そうね。お父さんは凄いもんね。きっと、一番ね」


 シュリが抱く夢を壊さないようにティルミナさんは答える。

 ゲンツさんが解体が上手なのは知っているけど、この参加メンバーの中では、どれほどの実力があるのかは実際のところは分からない。

 シュリの父親像を壊しても可哀想だから、もしものことを考えると参加させないほうがいいかもしれない。

 こういうことを考えるから、参加者が減っていくのかもしれない。

 そんな話をしている間に、二回戦を突破した20名の名前が呼ばれ、三回戦の準備に入る。

 三回戦こそ、わたしが知らない魔物が出てきてほしいものだ。

 だけど、その期待は裏切られる。

 三回戦はスコルピオン、ゲーター、タイガーウルフの3種セットの解体だった。


「ユナちゃん、どうしたの? やっぱりつまらない?」


 エレローラさんが、わたしの表情に気づいたのか、尋ねてくる。


「いや、今日はわたしが知らない魔物を見ることができるかと思ったから、少し残念だっただけだよ」


 観客席では魔物を見たことがない人たちは魔物が出るたびに驚きの声をあげているが、わたしとしては、知っている魔物ばかりで物足りない。


「まあ、冒険者のユナちゃんからしたら、そうなるのも仕方ないわね」

「魔物って、やっぱり珍しいの?」

「一般の人からしたらそうね。この王都の中から一度も出たことがない人もいるでしょうからね。それに王都の外に出ても、周辺はもちろん、街道を外れることがなければ滅多に遭遇するものじゃないからね」


 都会に住んでいるわたしが、野生のクマに遭遇する感覚かな?

 山や森に行かなければ、遭遇することもない。都内に住んでいれば、クマと遭遇することはない。


「それに見かけても遠くだし、冒険者ギルドに報告が上がれば、すぐに周辺を探索され、魔物がいれば討伐されるわ」


 何もしてないのに討伐は可哀想に思うけど、遭遇すれば襲われる危険性が高い。

 砂漠のときにいた馬のように人と共存していたラガルートって魔物もいたけど、そういう魔物は稀なのかもしれない。


「でも、わたし、結構な割合で魔物と遭遇しているよ」


 こっちの世界では引き篭もっていないせいか、魔物との遭遇率は高い。


「それは、ユナちゃんが冒険者で、自分から魔物がいるところに出向いているからじゃない?」


 それを言われると、何も言えなくなる。

 魔物が出たと聞いて、出向いていることが多い。

 街道だとウルフぐらいしか遭遇していないかも。

 クラーケンも行ったらいたし。動く島、タールグイは人が踏み入らない場所だし、エルフの村も魔物がいたのは元々だし、ピラミッドもそうだし。

 あれ? わたしが行く先々で魔物が待ち構えているような?


「それとも、魔物に好かれる運命なのかしら?」


 そんな運命、願い下げだ。

 わたしのモットーは楽しく、楽に、好きなことをして生きることだ。

 そんな話をエレローラさんとしている間も、フィナは真剣に解体を見ている。

 シュリは「凄い」と言いながら、ティルミナさんと一緒に話をしながら見ている。

 シアも、時折エレローラさんに話しかけながら見ている。

 解体技術は、素人のわたしの目からでも、誰も彼も凄く、誰が勝ってもおかしくないように見えた。

 そんななか、5名が四回戦に進んだ。


「四回戦は5名なんだ」


 20人いたから、四回戦に行けるのは10名かと思ったけど、一気に減って5名となった。


「たぶん、四回戦の解体する魔物の関係上、そうなったんじゃないかしら? 討伐された魔物の数によって、毎年、そのあたりは変わってくるから」


 わたしの独り言にエレローラさんが答えてくれる。

 確かに珍しい魔物となれば、何体もいるわけがない。ドラゴンとか、コカトリスとか、大きなスコルピオンとか、毎年、何体も現れでもしたら大変なことになる。

 そうなると、人数を絞った四回戦に出てくる魔物には期待が持てるかもしれない。

 少し、楽しみになってきた。

 そして、三回戦の片付けが終わり、会場には四回戦に勝ち進んだ5名が残る。


「それでは、お待たせしました。残ったのは5名。はっきり言って、わたしには、誰が勝ち残るか想像もできません」


 進行役の男性の言葉には同意だ。

 昨日のデッド君とガルド君の二人と違って、今日の参加者たちはレベルが高すぎて素人のわたしでは、誰が優勝するかは分からない。

 ただ、気になる人が残っている。フィナがウルフのときに見つけた年配の男性だ。今までに1位はとっていないが、ここまで残っていた。


「それでは、皆さんが気になっている四回戦の内容を発表します。残った5名には、四回戦に進めなかった者の中から、2名選んでもらい、チームを作ってもらいます」


 進行役の男性がそう言って、手を伸ばす。その手を伸ばした先には、負けてしまった人たちがいる。


「チーム? 個人戦じゃないの?」

「たぶん、四回戦は大型の魔物なんでしょうね。大きな魔物となれば、一人では行わないでしょう」

「もしかして、ブラックバイパーを解体したときみたいに、みんなでするのかな?」


 エレローラさんの話を聞いていたフィナが、思い出したように言う。

 確かに、ブラックバイパーを一人で解体するのは大変だ。あのときはゲンツさんや解体できるギルド職員が数人で行なっていた。そこにはフィナもいた。

 エレローラさんやフィナの言うとおりに、ブラックバイパーを一人で解体するのは大変だ。

 ブラックバイパーを1人で解体するのは時間的にも体力的にも不可能だ。フィナがブラックバイパーを1人で解体しているところを想像すると、泣きながら「解体が終わらないよ」と頑張っている姿が想像できる。


「でも、他人の力を借りると、その人の力で勝ったと思えなくなるね」


 昨日も今日も個人の力で勝ち残ってきた。それがいきなりチーム戦と言われると違和感しかない。


「ふふ、ユナちゃんそれは違うわよ。上に立つ者は、解体の指示を出し、周りの解体の状況も把握する技能も必要なのよ。個人の力は三回戦まで、四回戦からは珍しい魔物に加えて、それを的確に指示を出せるかになってくるわ」


 確かに自分勝手に解体をされたら、収拾がつかなくなる。

 ようするにリーダーシップを取れるかどうか。いくら解体が上手でも、大型の魔物となれば一人では限界がある。ゲームでいえばパーティーリーダー。強い魔物を倒すには連携が必要だ。攻撃を仕掛けるタイミング、魔法を使うタイミング、回復のタイミング。意思疎通ができているメンバーならできるかもしれないが、そこまでいくには、リーダーが指示を出すしかない。

 この世界、パーティーリーダーといえばジェイドさんの顔が浮かび、納得する。

 とあるゴブリン顔のように、個人の実力があっても、性格に難があれば、解散することもある。

 そう考えると、四回戦の内容もちゃんと理にかなっている。



二回戦、三回戦が終わり、四回戦はチーム戦となりました。

ゲンツさんも指示を出したりできますので、意外と上位に行けるかもしれませんね。


【お知らせ】

申し訳ありません。

次回の投稿は五分五分と思っていただければと思います。

未確認の仕事があり、どれくらい時間がかかるか未定なので、

投稿ができましたらします。できなかったら、すみません。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲンツさんガンバ! 団体戦たかあっても面白そうと思って読んでたら団体戦出てきた。 たしかに慣れてない人を指揮することもあれば教えないながらということもあるしいてもの慣れたメンバーでしない…
[良い点] 今年に入って異世界転生ものの作品を読み漁っていたのですが、奴隷や孤児であるがために満足な教育も受けられず、大人になっても自分で道を切り開く術がない人の悲しさを数多く見て、現在の日本で(結構…
[気になる点] 《確かに、ブラックバイパーを一人で解体するのは大変だ。あのときはゲンツさんや解体できるギルド職員が数人で行っていた。そこにはフィナもいた。  エレローラさんやフィナの言うとおりに、…
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