650 クマさん、フィナを労う
今回のフィナの解体イベントは17位で終わった。
参加人数、100名以上。そう考えれば、凄いことだ。
でも、フィナは自分が17位と名前を呼ばれると落ち込んだように顔を下げてしまう。
「お姉ちゃん、泣いているの?」
ここからだと、フィナの顔は見えない。
「エレローラ様、フィナのところに行ってもいいですか?」
ティルミナさんが立ち上がり、フィナのところに駆け寄ろうとするが、エレローラさんが止める。
「ティルミナさん、ちょっと待って」
エレローラさんが会場にいるフィナを見るように言う。
頭を下げて落ち込んでいるフィナにエリザさんが声をかけている。
そんな、エリザさんと同様に、周りの参加者たちがフィナに集まり出す。
「お姉ちゃん、囲まれているよ」
一瞬、何事かと思ったけど、慰めていることがわかった。
遠くで声は聞こえないが、笑い声などは聞こえてくる。参加者たちは笑顔でフィナに話しかけ、話しかけられたフィナも笑顔に変わる。
「お姉ちゃん、笑っている」
「ティルミナさん、わたしたちの出番はないみたいですよ。わたしたちもフィナちゃんが戻ってきたら、しっかり笑顔で出迎えてあげましょう」
「はい、そうですね」
エレローラさんの言葉に全員が頷く。
わたしたちが悲しそうな顔をすれば、フィナに負担がかかる。
そして、参加者たちに声をかけられたフィナはサーニャさんと一緒に戻ってくる。
「お姉ちゃん!」
「シュリ!?」
シュリが駆け出し、フィナに抱きつく。フィナは優しく受け止め、シュリの頭を撫でる。
そんなフィナにティルミナさんが声をかける
「フィナ、頑張ったわね」
「うん。だけど、負けちゃった」
負けたけど、その表情には悲しい表情はなかった。
解体に参加した人たちが、フィナを笑顔にさせてくれたんだろう。
「フィナちゃん、なんて言ったらいいか分からないけど、凄かったよ。見にきてよかった」
「シア様……」
「ふふ、フィナちゃんを推薦した甲斐があったね」
エレローラさんは嬉しそうだ。
そして、最後にわたしが声をかける。
「フィナ、お疲れ様」
「ユナお姉ちゃん……」
フィナの目がゆらゆらと揺れたと思うと、下を向いてしまう。
「ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
フィナが謝ることなんて、なに一つない。
「だって、スコルピオンはユナお姉ちゃんが討伐して、解体したことがあったのに……」
そんなことを気にしていたの?
「別に解体ができなかったわけじゃないでしょう。フィナはちゃんと最後まで解体したでしょう」
「でも……」
フィナはわたしが持ってきた魔物で負けたのが、申し訳がないみたいだ。
「フィナは頑張ったよ。足らないのは技術でも解体の知識でもないよ。足らなかったのは身長かな?」
わたしは微笑みながら、フィナの頭の上にクマさんパペットを置く。
小さい。
「うぅ、これから成長するもん」
フィナは頬を膨らませる。
「そうだよ。フィナはこれから成長して大きくなって、力を付けていけばいいんだよ」
フィナは成長中だ。
11歳という年齢で、他の参加者たちに混じって、四回戦までこられた。十分に誇っていい。
体が大きくなれば、それだけ解体もしやすくなるはずだ。
大きくなったフィナが、解体を続けているか分からないけど、フィナはまだ子供だ。未来はあらゆる可能性を秘めている。
これから、成長し続ける。
どんな未来が待っているかなんて、誰も分からない。
元引きこもりが、格好いいことを言っても、あれだけど。
「これから決勝だけど、ユナちゃんたちはどうする?」
エレローラさんが尋ねてくる。
フィナの解体イベントは終わったけど、残った10人による決勝が行われる。
わたしたちの目的はフィナの応援だ。でも、決勝はどんな魔物が出るのか、優勝は誰になるのかは気になるところだ。
まあ、優勝はあの二人のどっちかは間違いないと思うけど。
「フィナはどうする? 最後まで見ていく? それとも疲れているなら帰って休む?」
解体をして肉体的に疲れているはずだし、慣れないイベントに参加して精神的にも疲れているはずだ。でも、フィナは首を横に振る。
「ううん、エリザさんと約束したから、最後まで見ていく」
わたしたちもフィナの希望に添って、残ることにした。それに、わたしも誰が優勝するかも気になるし、エリザさんが何位になるかも気になる。
「それじゃ、そろそろ決勝が始まるから、わたしは行くけど。フィナちゃん、残るなら一緒に行く? 近くで見ることができるわよ」
サーニャさんがフィナを誘う。
フィナが悩んだ表情で、わたしとティルミナさんを見る。
「いってらっしゃい」
「いっておいで」
ティルミナさんとわたしの考えは一緒だった。
それはフィナのためにもなる。
「うん、行ってくる」
フィナはサーニャさんに連れていかれ、会場に降りていく。
「決勝はなんだろうね。エレローラさんは過去に見たことがあるんだっけ?」
「19歳以下は見たことがないのよね。たまに、20歳以上に出てくる魔物を見に来たことがあるぐらいかしら?」
「シアは?」
「興味がなかったから、わたしも見に来たことがないです」
まあ、身内が参加でもしていなければ、魔物の解体イベントなんて見に行かないよね。
もし現実の世界でも、豚や牛などの解体を見る機会があったとしても、率先して見に行くことはなかったはずだ。
シアの言葉じゃないけど、わたしも興味がない。
フィナが参加するから、見に来ている。
会場を見ると、決勝の準備は終わり、決勝進出した10人が並んでいる。
同じ女性として、決勝進出した女性のエリザさんに頑張ってほしいけど、一回戦からの順位では、優勝は無理だろう
一つでも順位を上げてほしいところだ。
「お待たせしました。それではここまで残った10名により、決勝を始めます」
進行役の男性がマイクを持って宣言すると、会場が盛り上がる。
あの場にフィナがいないのは少し残念だ。
「それでは、決勝に残った10人に、お話を聞いてみましょう」
進行役の男性はマイクを持って、デッド君から話しかける。
「デッド君、おめでとうございます。一回戦から全て一位で決勝進出です」
「ありがとうございます」
「このまま二連覇できそうですね」
「そうですね。先輩たちに良い報告をしたいです」
デッド君は無難な受け答えをする。
「デッド、頑張れ!」
「負けたら、一から教育するぞ!」
観客席から声が飛ぶ。
冒険者っぽい格好をしている。彼のパーティーメンバーなのかもしれない。
次に進行役の男性は2番手のガルド君に近づく。
「ガルド君は残念でしたが、全て2位です。もちろん、これも素晴らしい成績です」
「決勝では勝つ。それだけだ」
一番のデッド君を見ながら言う。
「リーダーがんばれ!」
「ガルド、負けるな!」
デッド君同様に観客席から声が上がる。
「期待をしていますので、頑張ってください」
それから、進行役の男性は他の残った人たちに話をしていく。
「恥ずかしいところを見せるわけにいかない」
「自分の力を見せてやるだけだ」
「俺の解体をするところ見て、勉強してほしい」
「あの二人だけが凄いわけじゃない」
何となく、解説席に座っているサーニャさんとフィナがいるほうを見て言っているような気がする。
そして、最後に10位で突破したエリザさんにマイクが向けられる。
「それでは、最後に女性で唯一決勝進出したエリザちゃんにお話を聞きましょう。まずは決勝進出、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「意気込みはどうでしょうか?」
「みんな、上手な人ばかりだから、どこまでできるか分からないけど、見られても恥ずかしくないところを見せたいわ」
やっぱり、エリザさんの視線もサーニャさんとフィナに向けられているように見える。
初めはギルドマスターであるサーニャさんへのアピールかと思ったけど、エリザさんの言葉で、みんながフィナにかけている言葉のような気がした。
「それでは冒険者ギルド、ギルドマスターのサーニャさんに、お言葉をいただきましょう」
進行役の男性の言葉で、サーニャさんもマイクを手に取る。
「ここまで、残ってくれた次世代の若者たち、ギルドで働く人たち、冒険者で魔物を倒す者たち。いろいろな人たちが参加してくれたことに感謝の言葉もないわ。ギルド職員は日々腕を磨き、冒険者は危険な仕事。無理はせず、一歩一歩成長してほしい。きっと、来年もあなたたちの解体技術を見たいと思っている人たちが多くいるわ。だから、一人も欠けず、来年も参加してほしい」
つまり、参加人数を減らしたくないから、来年も参加してね。ってことかな?
そんな邪推してしまう自分は、心が汚れているかもしれない。
「冒険者は危険な仕事、今日参加した中には、来年、参加できない人もいるからね」
エレローラさんが代弁する。
そうだよ。自分は神様から貰ったクマ装備があるから安全だけど、他の冒険者はそうもいかない。
怪我をしているかもしれない。最悪、死んでいるかもしれない。
わたしの心が汚れていたようだ。
「それでは、最後にフィナちゃんにお言葉をいただきましょう」
「えっ、わたし?」
いきなり、進行役の男性に振られて、フィナは慌てる。
サーニャさんが、そっとマイクをフィナに差し出す。
「みなさん、とても解体がお上手なので、しっかり見て、勉強をしたいです」
「という言葉です。みなさん、恥ずかしいところはお見せすることはできませんよ。ちなみに、フィナちゃんは誰を応援するのでしょうか」
「えっと、その、エリザさんに頑張ってほしいです」
「やっぱり、そうですよね。わたしもエリザさんには頑張ってほしいです」
フィナは恥ずかしそうに答える。
遅くなりました。
決勝になります。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。