634 クマさん、キングスパイダーと戦う その2
キングスパイダーのことをクマに任せた俺とランズは村長の家の中に駆け込む。
「デボラネさん、ランズさん、ご無事で」
村長が出迎えてくれる。
そんな村長には悪いが椅子に座らせてもらう。
流石に疲れた。あのクマは俺たちよりも動き回り、蜘蛛を倒した。なのに、疲れた素振りも見せていなかった。
化け物かよ。
「あの女の子は?」
村長はドアを見ながら尋ねてくる。見捨てたと思っているのかもしれない。
「まだ、戦っている」
俺は現状報告をする。村に現れた蜘蛛は倒したが、キングスパイダーが現れたことを話す。だが、村長の反応が薄い。
一般人ならキングスパイダーのことを知らなくても仕方ないので、クマに説明したことと同じことを説明してやる。
「そんなに強いのですか?」
「村に現れた蜘蛛とは比較にならない。村から逃げるか、とどまるか、決めろ」
「……年寄りを残して」
村長は苦しそうな表情をする。
「ああ、だが、逃げたとしても全員助かる保証はない」
逃げているときに襲われれば、見捨てることになる。
「たった一匹なんですよね。デボラネさんとランズさんでも倒せないのですか?」
倒せると言いたいが、できない。
「倒せるとしたら、あのクマぐらいだ」
悔しいが、あのクマはゴブリンキング、ブラックバイパーを1人で倒している。
他にも、信じられないような、いろいろな噂も流れている。
この場で倒せるとしたら、あのクマぐらいだろう。
「あのクマの格好したお嬢さんが」
「信じられなくても当たり前だ」
俺だって、未だに信じられん。
「あのクマが倒すにしろ、倒せないにしろ、それまでには決めろ」
これは俺が決めることではない。
この村の長である村長が決めることだ。
俺はその指示に従うだけだ。
伝えることは伝えた俺は椅子から立ち上がる。
少し休んだおかげで、一息つくことができた。
「ランズ、行くぞ」
「どこにですか?」
「気に食わないが、少しでも、クマがキングスパイダーを倒す確率を上げるために手伝う」
「キングスパイダーと戦うのですか?」
「嫌なら、ここに残れ」
「いえ、デボラネさんが行くなら、俺も付いていきます」
俺とランズは村長の家を出て、クマとキングスパイダーを探す。クマとキングスパイダーは村の中を動き回っていたので、すぐに見つけることができた。
「なんだ、あの速度は?」
クマとキングスパイダーは信じられない動きで村の中を動き回っていた。
右、左、人間離れをした動きだ。
魔力で強化しているのか?
「デボラネさん、あれじゃ、戦いの中に入っても、邪魔になるだけじゃ」
分かっている。
あんな動きに付いていけない。
戦いの間に入ることもできない。
俺様が得意とするのは一撃必殺だ。
クマとキングスパイダーの動きを観察していると、キングスパイダーは家の前で動きを止めることが多いことに気づいた。
クマも攻撃を仕掛けようとするが手が止まる。
「どうして攻撃をしないんですかね?」
「家があるからだろう」
何度かクマの魔法を見たが強力だ。
さらに、あのキングスパイダーを倒す魔法となれば、威力をあげないといけない。
もし、強力な魔法を放てば、キングスパイダーの後ろにある家は崩れ、中にいる人間は崩れた家の下敷きになる。だから、クマは攻撃ができない。
なにか方法はないかと周囲を見ていると、家の壁に梯子が立てかけてあるのを見つけた。
「ランズ、俺は屋根の上から攻撃を仕掛ける。おまえはキングスパイダーとクマの位置を俺に教えろ」
ランズはすぐに理解して頷く。
俺はゆっくりと梯子を使って家の屋根に上がる。
チャンスは一度だけ。
屋根の上で身を低くして潜み、ランズを見る。
ランズはハンドサインを使ってキングスパイダーの位置を教えてくれる。
ハンドサインは魔物や動物を挟み撃ちにするときに、離れた仲間と意思疎通するときに使う。
ランズのハンドサインだと、裏手にいるみたいだ。俺は大剣を持ってジッと待つ。
早く、こっちにこい。
俺はジッと身を潜める。
ランズが少し慌てた表情をしてハンドサインを送ってくる。
音で近づいてくるのが分かる。
クマとキングスパイダーがやってくるのが見えた。
速い。あんな魔物、真っ正面からじゃ、絶対に倒すことはできない。だが、あのキングスパイダーの動きに付いていけるクマも凄いとしか言いようがない。
あんな変な服を着ているくせに。強いなら強いなりの服を身に着けろ。
そんなことを考えているとクマと蜘蛛が、俺がいる家の前にやってきた。
そのまま真下に来い。
キングスパイダーがクマから逃げるように俺様の下に来た。
やはり、クマが攻撃ができないと知っているようで、キングスパイダーは家の前に来ると動きを止める。
チャンスだ。
俺は大剣を強く握り締めると、キングスパイダーめがけて屋根の上から飛び降りる。
△△ △△ △△ △△ △△
「おりゃ!」
ゴブリンが叫びながら降ってきた、いや、ゴブリンだと思ったら、剣を握ったデボラネだった。
デボラネが家の屋根から飛び降りた先にはキングスパイダーがいる。
デボラネのくせにタイミングがバッチリだ。
上からの予想外の攻撃にキングスパイダーも避けられない。
デボラネの大剣がキングスパイダーを突き刺そうとしたとき、キングスパイダーの体が赤く光り、またしても王冠に輝く金色の模様が浮かび上がる。
そしてキングスパイダーに突き刺さるはずだったデボラネの剣を弾く、剣を弾かれたデボラネは地面に転がる。剣を弾いたキングスパイダーは逃げていく。
「デボラネさん、大丈夫ですか?」
倒れているデボラネにランズが駆け寄り、デボラネはランズの手を借りて、悔しそうに立ち上がる。
「くそ、あのタイミングでもダメか」
叫んだのが原因だと思うよ。
いや、蜘蛛だから、気配を感じたのかもしれない。
わたしの後ろからの攻撃も躱したし。
「2人ともどうして?」
「貴様が、いくらたってもキングスパイダーを倒さないからだろう!」
だから、助けに来たわけか。
「村の人は」
犠牲を出して村を捨てるか、村に残るか。
「貴様次第だ。貴様が倒せないと判断したら、村長が決める。俺様にあの蜘蛛の体を貫ける武器があれば、貴様なんかに頼らないのに」
「だから、あのときミスリルの剣を買いましょうって、俺が言ったのに」
ランズがデボラネの愚痴に答える。
「うるせぇ、あんな小さい剣、俺様には合わねえよ」
「仕方ないじゃないですか。デボラネさんの剣は大きいんですから、そんな大剣のミスリルの剣なんて、高くて買えないですよ」
フィナの話では、ミスリルのナイフでも高い。普通の剣はさらに高い。デボラネが持つ大剣のミスリルの剣ともなれば、簡単には買えないだろう。
「クマ! 倒すと言っただろう。なに、手こずってやがる」
デボラネがランズに言い返せないのか、わたしを怒り始めた。八つ当たりはしないでほしいんだけど。
「そんなことを言われても動きが速くて、攻撃は当たらないし。攻撃するチャンスがあっても、強力な魔法を使おうと思ったら、家に張り付いて、攻撃をさせてくれないんだから、仕方ないでしょう」
こっちだって、ストレスが溜まっているんだよ。
クマの風の刃、クマの炎、クマの電撃魔法、放つことができない。
それに一発だけじゃ、無理だ。クマの風魔法が命中したが耐えている。
村の中で連続でクマ魔法を放てば、周囲が大変なことになる。
海でなければ、狭い空間じゃないから、大丈夫だと言ったのは誰よ。
わたしだよ!
でも、デボラネとランズの言葉でミスリルナイフのことを思い出す。
ミスリルナイフなら、わたしの魔力を込めれば、威力は上がる。ランズの言葉じゃないけど、ミスリルの武器ならあのキングスパイダーも斬れるはずだ。
それにナイフで攻撃すれば、後ろの家を気にすることもない。蜘蛛に近付きたくないので、深層心理がミスリルナイフのことを記憶の奥にしまい込んでいた。
問題があるとすれば、どうやって近づくかだ。
あの速度では簡単に近づくこともできない。
わたしはデボラネとランズを見る。
……ぽん。
いいことを思いついた。
「なんだ。その笑みは」
どうやら、わたしはデボラネを見て、笑っていたらしい。
自分ではポーカーフェイスが得意だと思っていたけど、顔に出ていたみたいだ。わたしはクマさんパペットで頬をほぐす。
「キングスパイダーを倒す案があるんだけど」
「なんだ」
「…………」
わたしの案を聞いたデボラネは嫌な顔をする。
「それで、本当に倒せるんだな」
「このままじゃ、ジリ貧だし、もし、森に逃げられでもしたら、もっと倒すのに苦労すると思うよ」
はっきり言って、あの移動速度で森の中に逃げ込まれたら、探知スキルがあっても、倒すのは難しい。
それに森に逃げられでもしたら、村の住民は、いつキングスパイダーが現れるか分からない中、不安を抱えて暮らすことになる。
村を離れて他の場所に住むのは簡単なことじゃない。
「それで、どうする?」
「……くそ! 倒したら、あのキングスパイダーの素材もいただくからな! ランズ来い!」
「デボラネさん!」
デボラネとランズが走り出す。
どうやら、わたしの案を渋々と呑んだみたいだ。
わたしは、くまゆるとくまきゅうの手を借りるため、召喚する。
くまゆるとくまきゅうを召喚すると、ムスッとした表情をしている。どうやら、送還したことに怒っているみたいだ。
「ごめん、そんなに怒らないで、2人には手伝ってもらいたいことがあるから」
わたしはくまゆるとくまきゅうの頭を撫で、機嫌をとりながらキングスパイダーを倒す方法を話す。
わたしの作戦にくまゆるとくまきゅうは少し嫌がる。
まあ、もしわたしが、くまゆるとくまきゅうの役目だったら嫌だけど、流石に見捨てるわけにはいかない。
「もし、ここで倒せないと被害が出るからお願い。一週間、ハチミツを多めにあげるから、それから一緒にお風呂に入って、一緒に寝るから」
クマさんパペットを合わせて、お願いする。
くまゆるとくまきゅうはお互いの顔を見合わせると「仕方ないな」という感じで鳴く。
「ありがとう。それじゃ、くまゆるはデボラネに付いていって。そして、準備が整ったら教えて」
「くぅ〜ん!」
くまゆるは鳴くとデボラネの後を追う。
「くまきゅう、わたしたちは、キングスパイダーの相手をするよ」
「くぅ〜ん」
わたしは、デボラネとランズが準備を整えるまで、キングスパイダーを逃さず、周りに被害が出ないように、わたしに注意を引きつけることだけに専念する。
くまきゅうが狙われると、送還したり、再召喚したりして、くまきゅうに狙いを絞らせない。キングスパイダーはそんなやり方にイラついてくる。
そして、しばらくするとくまゆるが村のどこかで鳴く声がする。
次回、決着です。
つまり、デボラネとお別れです。寂しい。
【お知らせ】
本日、2月28日(日) 14:30〜 ABEMA様にて「くまクマ熊ベアー」全話一挙配信があります。
そして、配信が終わった20時からは、キャスト番組の「くまクマ熊ベアー」2期制作決定したんだべあー!もありますので、時間がある人は見ていただければと思います。
また、フリュー株式会社 F:NEX様より、ユナのフィギュアが発売されることになりました。
詳しいことは活動報告にて、お願いします。(画像あり)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。