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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい大陸を発見する
655/907

632 クマさん、戦うことにする

「でも、本当に2人だけで大丈夫なの?」


 まだ、森にいる蜘蛛(スパイダー)が村にやってくるかもしれない。


「クマに心配されるほど、やわじゃねえ。貴様は俺様のために、休まずに王都に行け」


 デボラネは子犬を追い払う仕草で、手首を振る。


「それに、これだけの数を倒したんだ。蜘蛛(スパイダー)が来たとしても、たいした数じゃないだろう。俺様が倒してやるよ」


 それをフラグと言うんだよ。

 でも、誰かが冒険者ギルドに報告に行かないといけないし、倒した蜘蛛(スパイダー)の処理もしないといけない。

 デボラネが王都に行くより、わたしが王都に行くほうが速いし、蜘蛛(スパイダー)の解体はわたしはできない。

 適材適所かもしれない。


「わかったよ」


 わたしはくまゆるとくまきゅうに交互に乗って王都に行くため、くまきゅうには休んでもらおうとして、送還しようとしたとき、くまゆるとくまきゅうが「くぅ〜ん」と反応する。


「なんだ。いきなり、鳴きやがって」


 くまゆるとくまきゅうは村の外を見ている。

 また、現れたの?

 探知スキルで確認すると蜘蛛(スパイダー)の反応が村に向かってきている。


「また、一匹、現れたみたい」


 やっぱりフラグだった。

 でも、一匹だからフラグにもならない。


「便利なクマだな。まあ、先ほど言ったとおりに俺様が倒してやる」


 デボラネとランズは村の外に向かって歩きだす。

 蜘蛛(スパイダー)は、わたしたちのほうへ向かってくる。

 うん? 遠くて、はっきりしないが、ひと回り大きいような。それに色が赤いような。

 デボラネの後ろで傍観していると、蜘蛛(スパイダー)が速度をあげる。


「ランズ!」

「はい!」


 近づいてくる。

 やっぱり、ひと回り大きい、そして赤い。

 2人は剣を構える。

 赤蜘蛛は2人の前で飛び跳ねる。空中に上がった赤蜘蛛はランズに向けて糸を飛ばす。ランズは剣で防ごうとするが、剣ごと体が糸に包まれる。


「ランズ!」


 空中にいる赤蜘蛛はそのまま、鋭い脚をランズに向けている。デボラネが体を捻って大剣を横に振る。大剣が蜘蛛(スパイダー)の脚に当たる。そのおかげで、赤蜘蛛の脚の軌道がずれ、着地の位置がずれる。

 デボラネはそのまま大剣を振って追撃をするが、赤蜘蛛は避ける。


 なに、この赤蜘蛛?

 今まで倒してきた蜘蛛(スパイダー)と動きが全然違うんだけど。それに、ひと回り大きいし、色が赤だし。


「冗談だろう。どうして、こんなのが現れる」


 デボラネは信じられないような目で赤蜘蛛を見ている。

 赤蜘蛛は口をカチカチさせると体が赤く光り、デボラネに襲いかかる。

 デボラネは剣を振るうが、赤蜘蛛は避ける。


「クマ! 攻撃しろ!」


 デボラネは切迫詰まったような顔で叫ぶ。

 わたしはすぐに氷の矢を飛ばすが、簡単に避けられる。

 速い。


「離れて!」


 わたしは嫌な予感がしたので、逃げ場をなくすほどの氷の矢を雨のように赤蜘蛛に向かって放つ。

 赤蜘蛛の体が赤く光るが、無数の氷の矢が赤蜘蛛を襲う。


「倒したか」


 だからフラグだよ。

 氷の矢の下から現れたのは赤く光る無傷の赤蜘蛛。体の一部にWWの金色の模様が浮かんでいる。

 赤蜘蛛の目がわたしを見る。

 ゾッとした瞬間、わたしは無意識にクマの風魔法を放っていた。ここで倒さないといけないと言う、直感がわたしを動かした。

 赤蜘蛛にクマの風の刃が襲う。

 切り刻んだと思ったが、クマの風の刃が通った地面には3本の刻んだ跡が残っているが、赤蜘蛛は切れていなかった。

 冗談でしょう?

 赤蜘蛛はクマ魔法に耐えた。

 赤蜘蛛は怒っているのか、口をカチカチさせる。襲ってくるかと思った瞬間、わたしたちから離れると村の中に消えていく。

 わたしたちは、見送ることしかできなかった。


「冗談だろう。あんなのがいるなんて」


 デボラネの額に汗が浮かんでいる。

 そして、思い出したかのようにランズを見る。

 糸に絡まったランズは地面に倒れたまま動かない。


「ランズ!」


 デボラネは糸に巻かれたランズを助けるために手を伸ばすが、糸に触れた瞬間、離す。


「くそ、痺れ糸か」


 痺れ糸?

 直に蜘蛛(スパイダー)の糸に触れると、痺れるらしい。


「どいて」


 わたしはクマさんパペットで糸を掴むと、無理矢理ちぎる。


「ランズ、起きろ」

「で、デボラネさん。すみません。体がしびれて」


 また、あの赤蜘蛛に襲われる可能性もある。

 ここは隠している場合じゃない。

 わたしは、ランズに治療魔法をかける。

 体内から、毒素が消えるイメージをする。


「動く」


 ランズが腕を動かす。


「おまえ、こんなことまでできるのか?」


 今はそれどころじゃない。


「なんなのあれ? 動きが普通じゃなかったけど」


 普通の蜘蛛(スパイダー)でないことは、短い戦いで分かった。

 動きが速いし、わたしの攻撃を躱し、クマの風魔法さえも耐えた。普通の蜘蛛(スパイダー)ではない。


「あれは、キングスパイダーだ」

「キングスパイダー?」


 蜘蛛(スパイダー)の親玉。

 つまり、ゴブリンキングみたいなもの?


「デボラネさん、本当ですか?」

「資料や話でしか聞いたことがないが、色が赤く、魔力を使ったとき、体に金色の冠模様が出ていた。あれはキングスパイダーの特徴だ」


 クマの風魔法を放ったとき、赤蜘蛛の体に草のようなギザギザの模様が浮かび上がっていた。


「遭遇したら、逃げろと冒険者の間で言われているぐらいだ。貴様も見ただろう。移動速度は速く、俺様の剣をなんなく受け止め、貴様の魔法を避け、耐えた。攻撃は毒性の糸を出し、あの硬い脚は鉄の鎧さえも貫く」


 ゴブリンキングもクマの風魔法に耐えたけど、ダメージを与えていた。でも、赤蜘蛛はダメージを与えられている感じがしなかった。一発だけじゃ、比較はできないけど。強いのは確かだ。


「クマ、さっきの提案はなしだ。単刀直入に聞く。あれを倒せるか?」


 さっき?

 ……王都へ行く件のことか。

 赤蜘蛛の出現のインパクトが強すぎで、一瞬なんのことを言っているのか、分からなかった。


「お前も、あの蜘蛛の強さを感じたはずだ」


 感じたよ。

 できれば戦いたくない相手だ。


「デボラネさん、俺みたいな冒険者でもキングスパイダーの話ぐらい聞いたことがあります。いくら、クマが強いと言っても、あれは無理です」

「おまえは、ゴブリンキングにブラックバイパーを1人で倒したんだよな?」


 デボラネはランズの言葉を無視して、再度わたしに確認する。


「もしかして、わたしを煽っているの?」

「確認だ。貴様が倒せないというなら、俺様は蜘蛛討伐から手を引く。悪く思うなよ」

「素材はいいの?」

「死んだら、意味がないだろう。冒険者の言葉に、魔物の王にあったら逃げろって言葉もある」


 装甲が硬いだけなら、内側からクマの炎でも撃ち込めばいいけど。大きさから、できない。

 倒すなら、ゴブリンキングを倒したときみたいに、クマ魔法の連続攻撃しかないかもしれない。


「過去にも現れたんだよね。その時はどうやって倒したの?」

「詳しいことは知らないが、多くの犠牲を払って、追い詰めて、倒したと聞く」


 多くの犠牲……。

 普通の冒険者では相手にならないことぐらいは、あの短い攻防だけで、分かる。


「たった一匹でも、蜘蛛(スパイダー)の何百匹何千匹以上の力を持っている。村にいた程度の蜘蛛(スパイダー)なら、冒険者の数を揃えれば倒せるが、キングスパイダーは数を揃えても、被害が出るだけだ」 


 それには同意だ。

 いくら冒険者の数を揃えても、実力がなければ、死体の山を築くだけだ。


「貴様がキングスパイダーを倒せないなら、今すぐに村の住民を逃がす。その手伝いをしろ」

「デボラネさん、村の全員を逃すのは……」


 人数のことを考えても無理だと思う。


「馬を使う」

「数頭の馬が死んでいるところを見ました。馬の数が足りないです」

「その場合は若者優先、老人を置いていく。俺たちが逃げるための囮になってもらう」


 デボラネの言葉に怒りを覚える。


「怒っているのか? 俺もランズも、キングスパイダーは倒せない。貴様も無理なら、村人を連れて逃げるしかない。そして、全員逃げられないのなら、村を再建できる若者を最優先で逃がすのは、当たり前のことだ」


 デボラネの言っていることは、正しい。正論だ。

 冒険者だって、なんでもかんでも倒せるわけではない。倒すと言って、倒せれば誰も苦労はしない。

 そして、デボラネは自分ができることを提案している。

 それに引き換え、わたしは村の人を全員逃す方法を持っているのに、知られたくないから、黙っている卑怯な人間だ。

 デボラネを怒る資格は持っていない。

 わたしより、デボラネのほうが冒険者らしい行動だ。

 クマの転移門のことを知られたくないと思い、村の住民を守りたいと思い、デボラネの案が呑めないなら、やることは一つだけだ。


「分かった。わたしが戦うよ。ううん、わたしが倒すよ」


 わたしの言葉にデボラネが笑う。

 何か、デボラネに乗せられた気がするが、仕方ない。でも、わたしにはクマ装備にクマ魔法がある。ここは海でもなければ、狭い空間でもない。手加減なしなら倒せると思う。

 でも、問題があるとしたらキングスパイダーが村の中に逃げ込んだってことだ。大魔法を使えば、村や人に被害が出る。

 村に入る前に倒せなかったのが悔やまれる。


「それじゃ、とりあえず村に向かうぞ」

「2人はどうするの?」

「村長に伝える。貴様が倒せれば問題はないが、万が一の場合、村から逃げるか、俺たちが王都の冒険者ギルドに伝えるまで、村に残るか判断をしてもらう」


 誰も被害が出ないのが一番だ。

 でも、わたしが倒せない場合のことも考えないといけない。

 全員で村に残って、冒険者が集まるのを待つか、逃げられる者だけ逃げるか。

 前者は全員死ぬかもしれない。後者は弱者を見捨てることになる。

 もし、わたしにクマのチート能力がなかったら、デボラネのような判断ができるだろうか。





デボラネが冒険者をしている……


【お知らせ】

3/5発売予定でした書籍17巻が、諸事情により3/26に延期になることになりました。

度々、延期になって申し訳ありません。


【お知らせ】

ABEMAにて、キャスト特番決定&一挙配信が決定しました。

ニコニコ動画でも、一挙配信があります。

詳しいことは活動報告にて、お願いします。


総合評価が300,000を超えました。

総合順位も49位になっていました。

ブックマーク、評価、感想、レビューありがとうございました。

これからもクマをよろしくお願いします。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。


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― 新着の感想 ―
[一言] 作者に感心されるデボラネさん・・・
[良い点] あのデボラネが・・・ww こんな一面もあるからあの二人も仲間でいられたんでしょうね。
[一言] >クマの風魔法を放ったとき、赤蜘蛛の体に草のようなギザギザの模様が浮かび上がっていた。 正直、WWスパイダーなんじゃないかと思ったけど、そんなことはなかった件。
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