627 クマさん、くまゆると共同作業する
一体目のタイガーウルフに少し手間取ってしまったから、二体目のタイガーウルフのところに早く向かわないと。
探知スキルを使い、もう一体のタイガーウルフの居場所を確認する。
「うん?」
同じ場所にタイガーウルフとくまゆるの反応がある。
もしかして、戦っている?
くまきゅうの反応を確認すると、こちらはウルフと戦っているようで、くまきゅうの近くにあったウルフの反応が消えていく。
くまきゅうは大丈夫と判断して、わたしはくまゆるのところに向かう。
くまゆるのところに駆けつけると、くまゆるとタイガーウルフが戦っていた。
タイガーウルフがくまゆるに襲いかかる。だが、くまゆるは腕を薙ぎ払って、タイガーウルフを近づけさせない。
「くぅ~ん」
タイガーウルフが離れたタイミングでくまゆるは爪に魔力を集め、腕を振るう。くまゆるの爪から風の刃となってタイガーウルフを襲う。タイガーウルフは躱し、さらに距離を取る。
くまゆるの攻撃に違和感を覚える。くまゆるならタイガーウルフぐらい倒せるはずだ。まるで、手加減をして、時間稼ぎをしているみたいだ。
くまゆるが、わたしのほうを見る。
もしかして……。
「くまゆる!」
「くぅ~ん」
わたしが叫ぶと、くまゆるはタイガーウルフに向けて駆け出す。タイガーウルフもそれに合わせるように走り出す。お互いの距離が一気に縮み激突する。タイガーウルフの爪が、くまゆるの爪がお互いを襲う。
同時かと思われた攻撃は、くまゆるの腕が早く振り抜かれ、タイガーウルフが吹っ飛ぶ。
くまゆるはそのまま走り出し、吹っ飛ばされて倒れているタイガーウルフの体に脚を乗せて、動きを封じ込める。
「くぅ~ん!」
くまゆるがわたしに向かって鳴く。
わたしはくまゆるの考えを理解して、水の魔法を作り出し、タイガーウルフの顔に水を放つ。
タイガーウルフは暴れるが、くまゆるに押さえつけられて動けず、溺死する。
くまゆるならタイガーウルフぐらいなら倒せたはずだ。でも、そうしなかった。
この村に来る途中でサーニャさんから綺麗な状態でタイガーウルフを討伐してきてほしいと言われたことを、くまゆるとくまきゅうに話しながらやってきた。
だから、くまゆるはタイガーウルフを傷つけないで倒すために、わたしを待っていてくれたみたいだ。
「くまゆる、ありがとう」
「くぅ〜ん」
この嬉しそうな顔を見ると、わたしの考えは間違っていなかったみたいだ。
「でも、サーニャさんとの約束を守るより、くまゆるとくまきゅうのほうが大切だから、危険なことはしないでいいからね」
サーニャさんとの約束より、くまゆるとくまきゅうのほうがずっと大切だ。
倒せるときに倒さないで、ちょっとしたミスで怪我をしたり、逆にやられでもしたら、目も当てられない。
「くぅ〜ん」
くまゆるが悲しそうに鳴く。
別に怒ったわけではない。
「でも、ありがとう」
「くぅ〜ん」
わたしがお礼を言って、頭を撫でると、今度は嬉しそうにする。
「それじゃ、村の中にいる残りのウルフも倒しちゃおうか」
「くぅ〜ん」
くまきゅうが頑張ってくれたようで、ウルフの数はかなり減っていた。
もしかすると、2人で話し合って、役割分担でもしていたのかもしれない。
わたしとくまゆるがウルフ討伐に加わると、サクッと村の中にいたウルフの討伐が終わる。
「くまゆる、くまきゅう、ありがとうね」
わたしは2人の頭を撫でてあげる。
「「くぅ~ん」」
ウルフとタイガーウルフの回収は後にして、わたしは一番初めに会った男性の家に向かう。
「もう、大丈夫だよ。村にいた魔物は全て倒したよ」
家に向かって言うと、ドアがゆっくりと開く。
「本当か?」
ドアの隙間から尋ねてくる。
「本当だよ。できれば確認してもらって、討伐証明書のサインがほしいんだけど」
男性は少し不安そうにドアを開け、家から出てくる。
「本当に、あれだけの数のウルフを倒したのか?」
「自分の目で見てもらえる?」
いくら、わたしが倒したと言っても、信じてくれなければ意味がない。それなら、倒した魔物を見てもらったほうが早い。
男性は家から出て、倒した魔物を見ると、村長の家や他の家に向かって、安心だと言葉をかける。
そして、村長や他の村の人が魔物討伐の確認をしてくれる。
「本当にありがとうございます」
村長にお礼を言われる。
初めは、わたしの格好を見て、怪訝そうな表情をしていたが、わたしとくまゆる、くまきゅうの戦いを見ていた人が村の中にたくさんいた。
物音がして、窓から外を見ていたらしい。その人たちの言葉もあって、わたしのことを信じられなさそうにしていた人たちも、信じてくれた。
どちらかというと、わたしではなく、くまゆるとくまきゅうが倒したと思っている人が多いみたいだ。
まあ、実際にくまゆるとくまきゅうも倒しているので、間違いでもない。
「他に魔物はいないんだよね?」
「はい、確認されていたのは、タイガーウルフ二頭とウルフの群れだけです」
なら、依頼完了だ。
村に大きな被害が出る前に討伐ができてよかった。
そして、約束どおりに討伐したタイガーウルフとウルフはいただいていく。
せっかく、くまゆるのおかげで綺麗に討伐したのだから、持って帰らないとね。
「それじゃ、わたしは帰るね」
「もう、お帰りになるのですか? お礼もまだですが」
村長が引き留めようとするが、おもてなしは不要だ。
わたしの言葉に、村の子供たちが残念そうにする。
わたしが村長と話している間に、くまゆるとくまきゅうに懐いている。
一言、言いたい。お父さん、お母さん、子供をクマに近づけさせちゃ危ないよ。
「仕事だから、お礼は気にしないでいいよ」
子供たちにはくまゆるとくまきゅうから離れてもらい、くまゆるに乗ろうとしたとき、村の外から誰かがこちらに向かって走ってきて、わたしたちの前までやってくる。
長時間走っていたのか、汗だくで、息を切らしている。
「うわぁ、クマ!」
くまゆるとわたしを見て、汗だくの男が驚く。
いや、近くまで来る前に気づくでしょう。
でも、息を切らして、ふらついていたから、ちゃんと前を見ていなかったのかもしれない。
「おまえは、隣村のジミー。どうした? そんなに慌てて」
「そ、村長……」
ジミーと呼ばれた男性はくまゆるとくまきゅう、それから、わたしを見る。
「このクマたちなら安心だ」
そのクマたちとは、わたしも含まれているのかな?
「本当に大丈夫なのか?」
「ああ、村の恩人だ。それでどうした? そんなに慌てて」
「村が魔物に襲われた」
また、魔物?
多くない?
話によると男性は近くの村の人だと言う。
その村が蜘蛛という魔物に襲われたそうだ。
名前から嫌な予感しかしない。
蜘蛛だよね?
都会生まれの、都会育ちのわたしは虫が苦手だ。
特に、足がいっぱいある虫は超がつくほどに苦手だ。
蜘蛛はゴキに続き、嫌いな虫、上位に入る。
男性は村について教えてくれる。
村の仕事をしていると、蜘蛛が現れたそうだ。初めは村の全員で倒そうとしたが、一匹だけでなく、何匹も現れて、混乱し始めたと言う。
そんな中、村長に隣の村に助けを求めに行ってくれと頼まれて、ここまで走ってきたと言う。
そして、この村に来るときに蜘蛛に襲われたが、冒険者に助けられたそうだ。
「あの2人が助けてくれなかったら、俺は蜘蛛に殺されていた」
「その冒険者は?」
「分からない。通りすがりだった。一応、村の現状は説明したが、村に助けを求めに行けと言われて」
冒険者とは別れ、村に向かったと言う。
その冒険者が強くて、蜘蛛討伐に行ってくれていたらいいんだけど。
さて、どうしたものか。
足がたくさんあり、あの口に、あの気持ち悪い動き。いくらクマ装備があっても、精神は守ってくれない。
「……ユナさん」
村長が困った表情でわたしを見る。
普通の魔物なら、気兼ねなく倒しに行ってあげるけど、蜘蛛だ。聞かなかったことにして、帰りたい。
蜘蛛だ。できれば戦いたくない。
他の人に任せられるなら、任せたい。
でも、見捨てるわけにはいかないよね。
わたしは小さくため息を吐く。
「あっちに村があるんだよね」
「ユナさん!?」
「行ってくるよ。でも、無理そうだったら、他の冒険者に頼むよ」
見捨てて、後から蜘蛛に食われたと聞いても後味悪いし。
「村長、本当にこの嬢ちゃんに頼むのか? 危険なんだぞ」
「ユナさんは、このような格好をしているが、タイガーウルフとウルフの群れから村を救ってくれたお強い人だ」
「だが……」
だけど、村長の言葉を後押しするように、村の人たちが声を上げる。
「その嬢ちゃんなら、強いから大丈夫だ」
「俺、タイガーウルフと戦うところを見た」
「くまさん、強いよ」
「別にわたしのことは信じられないならそれでいいよ。他の冒険者に頼めばいいだけだし」
「すまない。村にも嬢ちゃんぐらいの娘がいる。とても、あんな魔物と戦えるとは思えなくて。もし、嬢ちゃんが蜘蛛に食われでもしたら……」
どうやら、わたしのことを心配してくれていたみたいだ。
「魔法は使えるし、この子たちもいるから大丈夫だよ」
わたしはくまゆるとくまきゅうに目を向ける。
男性はくまゆるとくまきゅうを見ると、頭を下げる。
「村を頼む」
男性を助けた冒険者が蜘蛛を討伐してくれていたら、ラッキーと思うぐらいにして、村に向かうことにする。
とりあえず、現状の確認だ。
わたしはくまゆるに乗る。
「くまゆる、くまきゅう。行くよ」
「「くぅ〜ん」」
男性に聞いた村に向かってくまゆるとくまきゅうを走らせる。
お互いの村の位置を考えると、もしかして、タイガーウルフとウルフは蜘蛛から逃げてきたのかもしれない。
はた迷惑なこともあったものだ。
あけましておめでとうございます。
去年はクマをありがとうございました。
後半は投稿が遅くなったり、できなくなったりして申し訳ありませんでした。
アニメ2期も決まりましたが、今後の予定は分からない状況です。
今後も投稿が遅くなったりするかもしれませんが、その辺りはご了承ください。
今年も、時間がある限り、投稿していきたいと思いますので、今年もクマをよろしくお願いします。
※活動報告にて、コミカライズ6巻のSSのリクエストを募集中です。
51話から60話までのお話で、SSを読みたいとおものがありましたら、よろしくお願いします。
パッシュUPの公式サイトにて51話~59話まで公開中です。60話は1月27日となっています。
もし、リクエストがありましたら、活動報告のほうにお願いします。
※年末調整などをしないといけないため、投稿はしばらく、日曜日にさせていただきます。
楽しみにしている読者様には、ご迷惑をおかけします。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。