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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい大陸を発見する
646/929

625 クマさん、会場を見学する

本編です。

 お城から戻ってきたわたしたちが、精神的に疲れているティルミナさんの希望もあって、クマハウスで休んでいると、今度はサーニャさんがやってきた。

 なんでも、解体イベントを行う会場を見に行かないかと提案された。


「当日に参加する前に一度見ておいたほうがいいと思うんだけど、どうかしら?」


 わたしたちは、サーニャさんの言葉に甘えることにして、見学をさせてもらうことにした。

 ティルミナさんの気持ちの入れ替えには丁度いい。


 イベント会場は少し離れているらしく、サーニャさんが用意してくれた馬車に乗って移動する。

 クマの格好は目立つので、馬車での移動はありがたい。

 もしかすると、サーニャさんはわたしと一緒に歩くのが恥ずかしいから馬車にした可能性もある。


「冒険者ギルドでやるんじゃないんですね」

「ギルドの建物は大きいけど、見学者が入れるほどは大きくないからね。だから、今回のために広い場所を借りるの。いろいろなイベントにも使われるから、便利なのよ」

「そんな場所があるんだね」


 東京ドームや国立競技場、日本武道館とか?

 やってきたのは、大きな建物だ。高い壁に囲まれ、中を見ることはできない。

 車庫? みたいな場所に馬車を止め、わたしたちは馬車から降りる。


「こっちよ」


 管理人らしき人に馬車を頼み、サーニャさんは歩き出す。

 通路を通り、階段を上り、建物の外に出る。


「うわぁ、広い」


 シュリが声をあげる。

 闘技場のように円形の形をしており、周りは観客席になっている。観客席の中央には立派な観客席がある。

 たぶん、国王陛下や偉い人が見るための席だと思う。


「騎士の試合とか、他のイベントで使われているの。前に国王陛下の誕生祭のときにも使われたのよ」


 知らなかった。

 誕生祭のときに来てもよかったかもしれない。

 でも、王都は広い。数日で全てを見ることはできない。

 東京だって、駅周辺だけでも全てを見ることになったら、何日もかかる。


「うぅ、こんな広い場所でやるとは思いませんでした」


 会場の場所に来ると、シュリは走り回り、フィナは広さに唖然として見回している。ティルミナさんも大きさに驚いている。


「全てを使うわけじゃないわ。あまり遠いと観客席から見えないからね」


 一ヶ所に集まってやるらしいが、そのときの参加人数と解体する魔物とかによって、臨機応変に対応するらしい。


「ティルミナさんとシュリちゃんには、フィナちゃんがよく見える席を用意しますね」

「ありがとうございます」


 ティルミナさんがお礼を言う。


「お姉ちゃん、いいな。わたしも参加したいな」

「シュリちゃんも解体できるの?」

「うん、お姉ちゃんみたいに上手じゃないけど、できるよ」

「ふふ、それじゃ、上手になったら、今度は参加してもらおうかしら」

「ほんとう?」

「ええ、本当よ。そのときはお願いね」


 サーニャさんの言葉にシュリは嬉しそうにする。


「ユナちゃん、ちょっといい?」

「なんですか?」

「ユナちゃんがエルフの村で討伐したときの魔物って、まだある? そのアイテム袋の中だと、状態を維持されるのよね?」


 ヴォルガラスにコカトリスは解体もされずにクマボックスの中に入っている。


「そのことで明日、詳しいことを話したいけど、時間が取れる?」

「とくに予定はないから大丈夫だけど」


 ティルミナさんたちと王都見物をしようと考えていたぐらいだ。

 イベント会場を一通り見学したわたしたちは、馬車でクマハウスまで送ってもらう。


 そして、ティルミナさんが作った夕食を食べながら明日のことを話す。


「明日、わたしはサーニャさんに呼ばれているから、ティルミナさんはフィナたちと王都見物でもしてきてもらえますか?」

「それはいいけど、わたしたちは行かなくてもいいの?」

「わたしが討伐した魔物のことについての話だから」

「分かったわ。明日はフィナたちと王都を回ってくるわ」


 翌日、サーニャさんに会いに一人で冒険者ギルドにやってくる。この前も思ったけど、冒険者の数が少ない。周りを見ながら受付嬢に話しかけると、話が通っていたのか、すぐにサーニャさんがいる部屋に通してくれる。


「ユナちゃん、いらっしゃい。椅子に座って」


 わたしは勧められた椅子に座る。


「それで、わたしはコカトリスでも出せばいいの?」

「話が早くて助かるわ。ええ、メインの魔物をどうしようかと考えていたのよ。そこで、コカトリスのことを思い出して。もちろん、それなりのお金を払うわ」

「お金はいらないけど、素材は譲りたくないんだよね」


 元ゲーマーとしては、いつ使うか分からないかもしれない素材は取っておきたい気持ちがある。

 まあ、そのまま使わずに、アイテムボックスの中で眠り続けることが多いんだけど、持っていてよかったと思うときも、少なからずある。

 なので、お金には困っていないので、手に入りにくい素材を手元に置いておくほうがいい。

 お金に困ったら、売ればいいだけだし。


「解体したものは販売されることになっているんだけど、ダメ?」


 可愛く言われても困る。


「ダメって言うか。解体するものは冒険者ギルドが用意するんじゃないの? 用意してないの?」

「用意はしてあるわよ。今回のために魔法を使って、魔物は保管されているわ。でも、珍しい魔物が討伐された場合、すぐに広まってしまうから、イベントに出るってわかってしまうのよ」


 確かにわたしがブラックバイパーを討伐したときも、すぐに広まってしまった。

 タイガーウルフを討伐したことも知られていたし。

 冒険者ギルドに持ってくれば、人の目もあるし、口止めをするわけにもいかない。必然的に広まることになる。

 人の口を完全に塞ぐことはできない。


「だから、冒険者にもギルド職員にも知られていない魔物を出したいと思ったの」


 解体する魔物が分かっていたら、予習もできる。

 それだと、王都の冒険者やギルド職員が有利になる。

 それを避けたいそうだ。


「それで、ユナちゃんが、まだコカトリスを持っていたら譲ってほしいと思って」

「素材の一部だけなら」

「ありがとう。それなら、どのあたりを譲ってもらえるか話し合いましょう」


 わたしたちが話を始めようとすると、ドアがノックされる。


「もう、なにかしら?」


 サーニャさんは面倒くさがりながらもドアの向こうにいる相手に入室の許可を出すと、受付嬢が部屋に入ってくる。


「どうしたの?」

「それが、至急の依頼を頼みに来ているお客様が来ているのですが、現状では依頼を受けられる冒険者がいないので、お断りをしたのですが」


 断れないみたいだ。


「依頼内容は?」

「村にタイガーウルフが現れたそうです」


 なんでも、村にタイガーウルフが現れたそうだ。家畜とかがやられて困っているとのことだ。


「ああ、タイガーウルフじゃランクが低い冒険者じゃ無理よね」

「はい、タイガーウルフを倒せる冒険者は、イベントのため出払っています」


 もしかしてイベントって、解体のイベントのこと?


「とりあえず、わたしが話を聞くわ」


 サーニャさんが部屋を出るので、なんとなくわたしも一緒についていく。

 受付に向かうと、男性がいる。


「お待たせしました」

「あなたが、ギルドマスターか?」

「はい。ギルドマスターのサーニャです。話は伺いました。さきほどの受付嬢が言ったとおり、現在対応ができる冒険者がいません」

「冒険者なら、そこいらにいるだろう」


 男性はギルド内にいる冒険者たちを見る。

 冒険者たちは目を逸らしたり、逃げるように冒険者ギルドから出ていく。


「彼らは、タイガーウルフを倒せるほどの実力はありません」

「ここ王都だろう。どうして、いないんだ」

「近々、イベントがあることもあって、主立った冒険者たちは出払っています。時間をいただければ、戻ってくると思います」

「いつ戻ってくるんだ?」

「それは、分かりません。依頼先で、どれほど時間がかかるかは分かりませんので。それに戻ってきたとしても、依頼を受けてくれるかは冒険者次第です」

「それじゃ、村が……」


 男が項垂れる。

 なにか、デジャブを感じるのは気のせいだろうか。

 ここでわたしが声をかけると、何を言われるか想像がつく。

 だからと言って、見ないことにして、立ち去ることはできないよね。


「わたしが行こうか?」

「ユナちゃんが? それはありがたいけどいいの?」

「あとで村が全滅したと聞いたら、寝覚めが悪いからね」


 わたしの性格からしたら、後悔することは間違いない。

 性格が悪いわたしだって、多少の人情はある。


「それじゃ、お願いしてもいい?」

「ふ、ふざけているのか!」


 男が声を上げる。


「そんな変な格好した女の子にタイガーウルフを討伐できるわけがないだろう!」


 懐かしい。久しぶりの反応だ。

 最近、このような反応はなかったから、新鮮に感じてしまう。

 クリモニアの冒険者ギルドでは、わたしのことは知られているし。依頼主から、直に依頼を受けることもない。

 だから、このような反応をされることは、最近ではない。


「彼女は、このような格好をしていますが、優秀な冒険者です。彼女に任せておけば大丈夫です」

「そんなこと、信じられるわけが」

「もし、彼女がタイガーウルフを討伐できなかった場合は、ギルドマスターであるわたしが責任を負います」

「サーニャさん。そんなことを言ってもいいの?」

「わたし、ユナちゃんのこと、どの冒険者より信頼しているから。それにタイガーウルフぐらい倒せるでしょう?」

「まあ、タイガーウルフぐらいなら」


 過去に倒しているし、それほど難しい魔物ではない。


「なら、問題はないでしょう」


 そこまで信用されると気恥ずかしい。


「ああ、できればダメージは少なめにお願いね。タイガーウルフもイベントで使いたいから」

「……了解」


 わたしたちの会話に男性は黙って聞いている。

 ギルドマスターのサーニャさんが責任を取ると言っているので、なにも言えずにいる。

 これ以上なにかを言われても面倒臭いので、わたしは村の場所を聞き、早々に出発することにする。



【お知らせ】

●TVアニメ「くまクマ熊ベアー」のLINE着せかえとLINEスタンプ第1弾が発売中です。

詳しくは活動報告にてお願いします。


●ABEMA様にて、2020年12月22日(火)16:00~21:25「くまクマ熊ベアー」#01~#11の一挙配信がありますので、よろしくお願いします。


●ミニアニメ「べあべあべあくまー!」11話目が公開中です。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
「他のものでよければ、ワイバーンとかオオスズメバチとかあるよ。」っていえば在庫処理になるのに。
[気になる点] 新しい大陸を発見するってタイトルはいつまで使うんだろ
[一言] まさに主催者側が用意しようとしている一幕で、選んだ選択肢がユナだった、ということですね。 箝口令なんて国が出さない限り効果なんて知れたものでしょうし。 冒険者ギルドが大きい組織とはいえ、効力…
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