619 クマさん、スライムと戦う その3
投稿が遅れて申し訳ありません。
緊急の仕事が入ったり、出版社様との打ち合わせがあったり、遅れました。
次回、なにもなければ2~3日後に投稿させていただきます。
読者様にはご迷惑をおかけします。
【お知らせ】
くまクマ熊ベアーアニメPV第2弾が公開されました。
ユナ役の河瀬さんが歌うエンディングテーマを聞くことができます。
初公開映像(モリンさん、カリンさんなど)もありますので、よろしくお願いします。
作者のTwitterや、アニメ公式サイトなどで見ることができます。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部、漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。
「現状の妾では、あと子供を一人乗せられるぐらいじゃ」
「それじゃ、フィナなら大丈夫だよね」
「フィナじゃと?」
狐顔が驚いた表情になる。
「カガリさんがわたしとフィナを乗せて、魔道具を追いかける。わたしが土魔法で魔道具を外に追い込む。そして、最後にフィナに魔道具を魔法で壊してもらう」
フィナが魔法の練習をしているのは知っている。
魔道具を壊すことぐらいはできるかもしれない。
「あの娘、最近魔法を覚えたばかりじゃろう。できるのか?」
「分からない。だから、本人に聞いてみるよ」
わたしとカガリさんは一時撤退の名のもと、逃げるようにクマハウスの中に入り、クマの転移門の扉を開く。
ちなみに、カガリさんは元の幼女姿に戻っている。
「ユナお姉ちゃん!」
「ユナ、カガリ!」
「よかった。無事に戻ってきてくれて」
3人が心配そうに駆け寄ってくる。
「それで、スライムはどうなったの?」
わたしとカガリさんは簡単に3人に説明をする。
「フィナ、それで頼めるかな?」
「わたしが、魔道具を魔法で……」
フィナは不安そうに口にする。
そんなフィナを見て、キャロルが口を開く。
「わたしじゃ、ダメなんですよね」
キャロルが尋ねるが、カガリさんはキャロルの胸を見る。
「その胸についたでかいものを取るんじゃな」
「カガリさん、酷いです」
もしかして、カガリさん……わたしとフィナの胸に重たいものがついていないから、乗せても大丈夫って意味じゃないよね?
「子供じゃないとダメなのよね」
「現状の妾では、それが精一杯じゃ」
従来の力があれば、可能らしい。
「フィナが魔法の練習をしているのは知っているよ」
土魔法を作りあげることができる。
あとはそれを当てることができれば。
「無理なら、他の方法を考えるけど」
フィナが嫌だと言えば無理強いはしない。まだ方法はあるはずだ。
でも、フィナは何かを決心するかのような表情をすると、真っ直ぐにわたしを見る。
「……わたし、ユナお姉ちゃんの役に立てるなら、頑張る」
「本当にいいの? 危ないよ。もちろん、フィナのことは最優先で守るけど」
「わたし、ユナお姉ちゃんの役に立ちたい!」
大人しいフィナが珍しく声をあげる。
「ユナ、フィナがここまで言っているんだから、やらせてあげればいいでしょう。そもそも頼んだのあなたでしょう。それなら責任を持ちなさいよ」
ミアの言う通りだ。
頼んでおきながら、フィナを安全なところに置いておこうと、矛盾なことをしていた。
「それじゃ、フィナ。お願いできる?」
「うん!」
わたしがあらためて頼むと、フィナは嬉しそうに頷く。
「それじゃ、行ってくるから、ミアたちは」
「わたしも行くわ。フィナが頑張るっていうのに、部屋に閉じこもっていられないわよ」
「危ないよ」
「ユナとフィナとカガリで、魔道具を壊すんでしょう?」
「そうだけど」
「わたし、信じているから」
ミアはニコッと微笑む。
「分かったよ。でも、くまゆるの傍から離れちゃダメだよ」
「もちろんよ。くまゆる、よろしくね」
「くぅ〜ん」
──────フィナ視点──────
クマさんの扉が閉まる。
ユナお姉ちゃんは、またわたしたちを置いて戦いに行ってしまった。
これで二度目だ。
前はタールグイって島に魔物が集まってきたときだ。
あのときも、わたし、シュリ、シア様をこの安全な場所に置いて、一人で戦いに行った。
「窓もないのね」
ミアお姉ちゃんが部屋の中を歩き回る。
壁には窓一つありません。
「ここは安全なの?」
キャロルお姉ちゃんが尋ねてきます。
この場所はクリモニアにあるユナお姉ちゃん家の下にある部屋です。
スライムが中に入ってくることはないです。
「ここは大丈夫です。ミアお姉ちゃんもキャロルお姉ちゃんも、なにか飲みますか?」
「それじゃ、貰おうかしら」
「フィナちゃん、ありがとうね」
わたしは冷蔵庫からお茶を出し、テーブルの上に置くと、2人とも椅子に座る。わたしも椅子に座りお茶を飲む。冷たいお茶が喉の中を通る。
「それにしても、家の中には不釣り合いな扉ね」
ミアお姉ちゃんがクマさんの扉を見ながら言います。
クマさんの転移門って言って、遠くに行ける扉です。だから、普通の扉と少し違います。
「2人とも大丈夫かしら」
「ユナお姉ちゃんは強いから」
「あんな変な格好をしているのに、信じられないほど強いわよね」
ユナお姉ちゃんの格好を見て、誰も強いとは思いません。
「ユナがいないから聞くけど、フィナたちはどこから来たの?」
「それは……」
ここがどこかも分からないし、ユナお姉ちゃんとの約束で、この部屋のことは話せません。
「やっぱり、言えないんだ」
「ごめんなさい」
「別にいいよ。ただ、3人が遠くのどこかから来たなら、わたしも行ってみたいなと思っただけ」
ここがクリモニアと知ったら、どう思うのかな。
ユナお姉ちゃんに会わなければ、こんな魔道具があるなんて、わたしも信じられなかったと思う。
ユナお姉ちゃんに出会ってから、いろいろなことがあった。
ウルフに襲われているところを助けてもらった。お母さんの病気を治してもらった。それから、王都やミサ様が暮らす街、水がたくさんある海に、反対に水が無く砂しかない砂漠を見せてくれた。そして、ドワーフの街にエルフの村にも連れて行ってくれた。
行った先々で魔物に襲われたこともあったけど、ユナお姉ちゃんが守ってくれた。
いつも、危険がおきても、わたしは安全なところでユナお姉ちゃんの帰りを待っていた。
だから、魔法が使えることを知ったときは嬉しかった。
もしかすると、ユナお姉ちゃんを助けることができるかもと考えた。
でも、ユナお姉ちゃんはわたしの助けがなくても、とても強い。
だから、少しでもユナお姉ちゃんの役に立ちたくて、地下室では光魔法を使ったりした。
でも、わたしが光魔法を使わなくても、ユナお姉ちゃんは光魔法を使える。
実際は、わたしはユナお姉ちゃんの役に立っていない。
「なに、辛気臭い顔をしているのよ」
考え事をしているとミアお姉ちゃんが話しかけてくる。
わたし、そんなに辛気臭い顔をしていたのかな。
「それで、どうしたの? ユナのことが心配?」
「わたし、いつも、ユナお姉ちゃんに助けてもらったりしているから、ユナお姉ちゃんに邪魔と思われていないかなと思って」
「そんなことを考えていたの?」
話を聞いたミアお姉ちゃんとキャロルお姉ちゃんが呆れた表情をする。
「ユナさんはフィナちゃんのことを邪魔なんて思っていないですよ。ユナさん、フィナちゃんが光魔法を使っているところ見て、嬉しそうにしていましたよ」
「あのユナがフィナのことを大切にしていることぐらい、会ったばかりのわたしたちが見ても分かるわよ。食事のときも、部屋にいるときも、いつもフィナのことを気にかけているし」
「何より、フィナちゃんのことを信じているから、わたしたちのことを任されたんでしょう。ほら、部屋から出ていくときに、『あとのことはお願いね』って、それって、フィナちゃんのことを信じているからだと思うよ」
「それに、どこから来たか知らないけど。邪魔で足手まといと思っているなら、こんなところに連れてきていないでしょう」
ユナお姉ちゃんはいつも、わたしのことを誘ってくれる。
それがいつも嬉しかった。
でも、危険なことになると、わたしはいつも護られてばかりだ。
無力な自分が悲しい。
「でも、いつかは、ユナお姉ちゃんの役に立ちたいな」
「フィナはまだ子供なんだから、これから頑張ればいいのよ」
「それに、一緒にいてくれることが、何より一番嬉しいこともありますよ」
キャロルお姉ちゃんは優しい目でミアお姉ちゃんのことを見ます。
「だから、ユナさんが嫌がるまで一緒にいればいいんですよ」
「いや、嫌がるまで一緒にいたらダメでしょう」
ミアお姉ちゃんが笑い、キャロルお姉ちゃんも笑う。
「ミアお姉ちゃん、キャロルお姉ちゃん、ありがとう」
2人に話を聞いてもらったら、少しだけ心の中にあったモヤモヤがなくなった。
ユナお姉ちゃんに魔法を教わったんだ。もっともっと練習して頑張ろう。
しばらくするとクマさんの扉が開き、ユナお姉ちゃんとカガリお姉ちゃんが入ってきて、魔道具を壊すのに、わたしの手を借りたいと言われた。
初めは戸惑ったけど、ユナお姉ちゃんのお手伝いができると思うと嬉しかった。
だから、少し怖かったけど、ユナお姉ちゃんのお手伝いをすることにした。
──────ユナ視点──────
わたしは念のため白クマに着替えてから、外にでる。
「白クマになる理由って、なにかあるの?」
「着ていると、魔力を増やしてくれるんだよ」
もう、いろいろ隠すのが面倒臭くなったので、ミアの質問に答える。
「そんな凄い服だったのね。ただのユナの趣味だと思っていたわ」
「わたしも」
ミアの言葉にキャロルも同意する。
たぶん、ほとんどの人は、わたしのクマの格好は好きで着ていると思っていると思う。
いや、クマは嫌いじゃないよ。でも、戦闘防具としてはどうなんだろうとは思う。
「ほれ、話してないでいくぞ。お主は妾の服を持っておれ」
防壁の上に来たカガリさんは、服を脱ぐとミアに渡す。そして、大きな狐に変身する。
「話には聞いていたけど、この目で見ると、驚くわね」
「それじゃ、2人とも乗れ」
わたしはカガリさんの上に乗る。
それを見ていたくまゆるが「くぅ〜ん」と鳴く。
どうやら、自分以外に乗るのが嫌らしい。
でも、くまゆるは飛べないんだから、今回ばかりは仕方ない。
飛べないクマはただのクマだからね。
「フィナも乗って」
「うん」
「くまゆると違って、しっかり掴まっていないと落ちるから、気をつけてね」
フィナはわたしの後ろに抱きつくようにカガリさんに乗る。
「重いのう」
別に、わたしもフィナも太ってはいないよ。
「飛べる?」
「まあ、ギリギリってところじゃろう」
カガリさんはゆっくりと浮かび上がる。フィナが力強く、わたしを抱きしめてくる。
「大丈夫?」
「うん、空を飛ぶなんて、初めてのことだから」
わたしもそうだったけど、フィナも空を飛ぶ経験なんてない。
わたしは、テレビやネットで空からの映像を見たことがあるから、想像はつくけど。フィナにとっては未知の経験だ。
「怖かったら、やめる?」
「ううん。わたし、ユナお姉ちゃんの役に立ちたいから、頑張る」
「よし、今回のことが終わったら、ご褒美に、妾が空の散歩に連れていってやろう。だから、今はスライムの討伐じゃ」
「うん!」
それ、いいな。
わたしも空の散歩のご褒美がほしい。
フィナが乗るとき、わたしも頼んでみようかな。