613 クマさん、鼻水を気にする
7/13 後半部分を大幅に修正あり
わたしが乗るくまゆると、フィナとカガリさんが乗るくまきゅうが走る。
「2人とも逃げてくれていたらいいんだけど」
「2人だってバカじゃないから、スライムが迫ってくれば逃げるじゃろう。じゃが、馬でどこまで逃げられるか分からんから、急いだほうがいいじゃろう」
ミアが馬に乗って逃げたことがあったけど、くまゆるやくまきゅうと違って長時間走り続けることはできなかった。まして、今回は2人を乗せているはずだ。
「くまゆる、くまきゅう、急いで!」
「「くぅ〜ん」」
くまゆるとくまきゅうはさらに加速する。
スライムのせいで、大回りになってしまったが、ミアたちと別れた近くを通り抜ける。
スライムがここまで来ている。
逃げるなら、スライムが来るほうとは反対方向のはず。
くまゆるとくまきゅうは走り続ける。
ミア、キャロル、どこにいるの?
探知スキルに反応が出るのを待つ。
人の反応が一つだけ出た。
どうして、一つだけ?
ミアとキャロルのどちらか? それとも、知らない人?
とにかく、その人の反応があるところに向かう。
「ユナお姉ちゃん。ミアお姉ちゃんが!」
フィナが声をあげる。わたしにも見えている。
ミアが一人で立っている。
「あやつ、一人でなにをしておるんじゃ?」
「キャロルお姉ちゃんがいないよ!」
「馬もいない。もしかするとキャロルを逃すために、1人で残ったのか? バカが」
「くまゆる、くまきゅう、ミアを回収したら、一気にスライムを振り切るよ」
「「くぅ〜ん」」
ミアとの距離が縮まってくる。
ミアは目を閉じてジッとして、わたしたちに気づいていない。
もう、諦めているのかもしれない。
「ミア!」
わたしは叫ぶ。
わたしの声にミアの目が開く。そして、わたしたちのことを驚いたような目で見る。
「ミア、手を伸ばして!」
ミアが手を伸ばす。わたしは、すれ違いにミアの腕をクマさんパペットで掴み、そのまま、わたしが乗るくまゆるの背中に乗せる。
ミアがわたしの背中に抱きついてくる。
「ユナ、どうして?」
「どうしてって、スライムが分かれて動き出したから、慌てて戻ってきたんだよ」
戻ってきた理由を簡単に説明する。
ミアがわたしの背中に顔を埋める。
「うぅ、ごめんなさい」
「なに、謝っているの?」
「わたし、ユナたちが、わたしたちをオトリにして、逃げたんじゃないかって、考えていたの」
確かに、わたしたちがスライムを引き付けると言いながら、実際はスライムが自分たちの方へ、迫ってくれば、そう考えても仕方ないかもしれない。
「だから、絶望して、泣いておったのか?」
「ミア、泣いているの?」
ミアはわたしの背中にいるので、顔は見ることができない。
でも、鼻をぐずる音が聞こえる。
「泣いてなんか、いないわよ!」
「わたしの背中に、鼻水は垂らさないでね」
「だから、泣いてないって言っているでしょう。ぐじゅ」
「いや、鼻水の音が」
「それよりもキャロルお姉ちゃんは?」
わたしの背中に鼻水が付くより、キャロルの心配をするフィナ。
まあ、正しいんだけど。
それに、鼻水でクマ装備は汚れないはずだから、大丈夫なはずだ。
大丈夫だよね?
「キャロルを馬に乗せて、1人で行ってもらったわ」
やっぱり、そうだったみたいだ。
「お主はキャロルを助けるために、1人で残ったのか?」
「キャロルは親友よ。それに、キャロルがヘシュラーグの町に付いてきたのは、わたしの責任だし。2人とも死ぬくらいなら、キャロルだけでも生きてほしいでしょう」
「お主の気持ちも分かるが、キャロルに会ったときは、ちゃんと謝るんじゃぞ。残された者の気持ちも考えるがよい。それが大切な者だったら、なおさらじゃ」
カガリさんが、年長者らしく答える。
カガリさんも長く生きている。もしかすると、大切な人の死によって、生きてきたのかもしれない。
これが、幼女姿でなければ、説得力があったんだけど。
「ありがとう。キャロルに会ったら、謝るわ」
「それには、キャロルと合流しないとね」
わたしの言葉に反応するかのように、くまゆるとくまきゅうが加速する。
そして、あっという間にキャロルと合流することができた。
「ミアちゃん、酷いよ」
キャロルはミアに抱きつく。
「ごめん」
「わたし、わたし、ミアちゃんが死んだと思って」
キャロルは目に涙を浮かべながら、怒っている。
「ミアお姉ちゃんとキャロルお姉ちゃん、無事に会えてよかったね」
「そうだね。わたしたちが戻らなかったら、ミアはスライムに取り込まれていたからね」
そうなれば、キャロルの言葉通りに、ミアは死んでいたと思う。
本当に間に合ってよかった。
ミアの行動についてはキャロルに叱ってもらうことにし、わたしはフィナに背中に鼻水がついてないことを確認してもらう。
「大丈夫だよ」
フィナは笑いながら背中を触ってくれる。
安心したわたしは、フィナと一緒にキャロルが乗っていた馬の世話をする。
馬は疲れていたようで、水を出すと嬉しそうに飲みだす。
「よく、頑張ったね」
フィナが優しく馬を撫でる。
「馬の扱いもできるんだね」
「冒険者ギルドにも馬がいるので、お世話をしたことがあるだけです」
馬のことはフィナに任せ、わたしは馬を乗せる荷台を作り、カガリさんが浮遊させる魔法をかけてくれる。
フィナが馬の手綱を引っ張り、馬を荷台に乗せる。
これで、移動する準備は整った。
スライムとの距離は取ったとはいえ、長くとどまっていることはできない。
ミアとキャロルを見ると、まだ抱き合いながら話している。
「お主たち、いつまで、女同士でイチャイチャしておる」
「イ、イチャイチャなんてしていないわよ!」
ミアは叫び、キャロルは恥ずかしそうにして、2人は距離を取る。
「皆さん、ミアちゃんを助けてくれて、ありがとうございます」
「気にしないでいいよ。わたしたちの考えが甘かっただけだから」
「まさか、二つに分かれて、両方に向かうとは思いもしなかったわい」
わたしたちは、スライムの行動を説明する。
「それで、わたしたちのほうへ、スライムがやってきたんですね。その、わたし、ユナちゃんたちが、わたしたちを……」
「ミアから聞いたよ。そう思われても、仕方ないと思っているから、気にしてないよ」
「お主たちには悪いが、一緒にヘシュラーグの町まで来てもらうぞ」
「はい、もちろんです」
「それしか、方法がないみたいだしね」
くまゆるにはミアとキャロルに乗ってもらい、わたしと、フィナとカガリさんは3人でくまきゅうに乗る。馬の乗った荷台をわたしが運ぶ。
スライムの動向を確認しながら、大きく迂回するように走る。
「大丈夫そうだよ」
スライムが一塊になったのを確認し、わたしたちのことを追いかけてくるのを、カガリさんの上からの目視と、わたしの探知スキルで確認する。
「それじゃ、ヘシュラーグの町に戻ることにするかのう」
どんなに距離を作っても、わたしたちのことを追いかけてくるのは確認した。わたしたちは、それを有効に使わせてもらうことにした。
わたしたちは、急いでヘシュラーグの町に向かった。
「本当に信じられないクマね」
走り続けたくまゆるとくまきゅうはヘシュラーグの町に戻ってきた。
「それで、クリュナ=ハルクが町のどこかに作った、魔道具を止めるなにかを探すのよね?」
そのために急いで戻ってきた。
わたしたちはクリュナ=ハルクが魔道具を止めるなにかを作ったと思われる町のどこかの場所に、スライムに関することがなにかあるかもしれないと考えたからだ。
情報は少しでもあったほうがいい。
「ふふ、それじゃ、わたしのお爺ちゃんのメモが役に立つのね」
ミアは嬉しそうにメモを取り出す。
ミアのお爺ちゃんのメモには甲冑騎士がいた場所が書かれている。つまり、地下にいた研究者がクリュナ=ハルクの作ったものを甲冑騎士に守らせていたはずだから、甲冑騎士がいる場所にクリュナ=ハルクが作ったものがあるはずだ。
甲冑騎士に守らせれば、そこに大切なものがあると言っているようなものだけど。今回はそのバカのおかげで、町のどこにあるかも分からないクリュナ=ハルクが作ったものを探さずに済むから感謝をしないといけない。
「こっちよ。くまゆる、行くわよ!」
ミアは役に立てるのが嬉しいのか、くまゆるに指示を出して、先頭を歩きだす。
「地図だと、この辺りだけど」
メモを見ながら周囲をキョロキョロとする。
周りには、どこも廃墟になっている建物ばかりだ。
「甲冑騎士がいるはずだから、甲冑騎士を探せば」
「ユナお姉ちゃん。あそこに、甲冑騎士が倒れているよ」
本当だ。地面に甲冑騎士が倒れている。
「前に見たときは、動いていたわよ」
キャロルが近づく。
「キャロル、気を付けなさいよ」
キャロルは甲冑騎士を調べ始める。
「魔石がないわ」
「誰かが討伐して、魔石を持っていったってこと?」
「違うような気がする。そもそも、魔石を取ったあと、甲冑騎士を組み立てる必要はないでしょう」
「そうだけど……」
「とりあえずは、甲冑騎士が倒れていたってことは、この近くにクリュナ=ハルクが作ったはずの魔道具を止める何かがあるはずじゃ。手分けをして探すとしよう」
「それじゃ、甲冑騎士が、まだいるかもしれないから、くまゆるはミアとキャロルと一緒についていってあげて」
「くまゆるちゃん、よろしくね」
「もしものときはお願いね」
「くぅ〜ん」
「それじゃ、キャロル、くまゆる。わたしたちはあっちを探すわよ」
ミアとキャロルはくまゆると一緒に近くの建物の中に入っていく。
「くまきゅうはカガリさんについてあげて」
「妾は別に一人でも」
「まだ、完全じゃないんでしょう。カガリさんに何かあったらサクラが悲しむよ」
「うぅ、分かった。くまきゅう、それでは妾と一緒に行こうか」
「くぅ〜ん」
くまきゅうはカガリさんを乗せて、歩き出す。
「それじゃ、フィナはわたしと一緒に行こうか」
「うん!」
わたしたちは3つに分かれ、甲冑騎士が倒れていた周辺を調べることにする。
追記7/13 21:30
※申し訳ありません。
後半分を大幅に変更させていただきました。
続きを書いていたのですが、話のテンポが悪くなり、修正させていただくことにしました。
読者様にはご迷惑をおかけします。
誤字脱字を修正してくださっている読者にはご迷惑おけします。
前半部分は修正させてもらったのを使わせていただいています。
後半部分が無駄になってしまい、申し訳ありません。
くまなの
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部、漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。