603 クマさん、部屋を探索する その2
【お知らせ】
15巻が発売していませんが、16巻の書き下ろし及び、店舗特典の書き下ろしの話を活動報告にて募集しています。
活動報告に書かせていただいていますので、ご存じの方もいると思いますが、16巻の書籍作業のため次回10日に投稿させていただきましたら、しばらくお休みをいただきます。
再開したばかりで、申し訳ありません。
詳しいことは活動報告にて、よろしくお願いします。
くまなの
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部、漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。
「ユナお姉ちゃん。まだ、見ちゃダメですか?」
わたしたちがバカなことをやっていると、フィナがくまゆるの後ろからチラチラとこちらを確認しようとしていた。でも、くまゆるが体を動かしてフィナの視線を防いでいる。
くまゆるの防御は鉄壁みたいだ。
「ああ、もうちょっと待ってね」
わたしたちは、白骨死体を確認して、杖以外何もないことを確認すると、シーツを被せる。
もちろん、その役目もミアだ。
ミアは嫌な顔をしながらもやってくれる。そのときに、驚かされないようにカガリさんのほうをチラチラと見ながらやっていた。
「もう、大丈夫だよ」
シーツが掛けられるのを確認してから、フィナに声をかける。
フィナがくまゆるの背中から顔を出す。くまゆるも防御はしない。
「それで、何があったの?」
「杖かな?」
わたしたちの視線がミアの手に持っている杖に向けられる。
30cmほどの杖で、先端にはフィナの小さな手の拳ほどの魔石が嵌められていた。
ミアは杖を見るが、早々に諦めて、キャロルに差し出す。
「わたし魔法使いじゃないし、キャロル、何か分かる?」
「魔法は使えるけど、わたしだって、杖は詳しくないよ」
「ユナは?」
「同じく、詳しくないよ」
杖なんて使ったことがないから、キャロル以上に詳しくはない。
「ちょっと、妾に見せてみろ」
皆が諦めていると、くまきゅうに乗っているカガリさんが手を出す。
「なによ。小さいあなたには、まだ必要がないものよ」
「いいから、見せてみろ」
「仕方ないわね」
そう言いながらも、ミアはカガリさんに杖を渡す。
杖を受け取ったカガリさんは、杖を動かして、いろいろな角度から確認する。
「なにか、分かる?」
「杖にいろいろと施されておるな」
「本当なの?」
ミアは疑う目でカガリさんを見る。
実際に見ただけで分かるとは思えない。
「そもそも、あなたみたいな小さい女の子に分かるの? わたしには普通に短い杖にしか見えないわよ」
「うん、わたしにも見えない」
キャロルもミアの言葉に同意する。
「人生の経験の差じゃな」
「人生の経験の差って、あなたは何歳なのよ」
「おなごに年齢を聞くのは失礼じゃぞ」
「なに、大人の女性みたいなことを言っているのよ」
その言葉にわたしとフィナは笑う。
まあ、中身はお婆ちゃんだし、ミアが言っていることは正しい。
「とりあえず、ユナ。この杖に魔力を流してみろ。なにか分かるかもしれぬ」
カガリさんがわたしに向けて杖を差し出す。
「わたし?」
「妾がやってもいいが、いろいろと面倒じゃろう」
「そうだけど。危険なことはないよね?」
「そんなの分からん。分かるのは、普通の杖ではないということだけじゃ」
そう言われると、やりにくいんだけど。
わたしはカガリさんから杖を受け取り、クマさんパペットで杖を咥える。
そして、観察眼のスキルを使ってみる。
杖としかでなかった。
う~ん、怪しいところはないみたいだけど。
わたしは、カガリさんと同じように、杖を回して見てみる。
杖には波や円などが彫られ、魔法陣のようにも見える。カガリさんはこのことを言っているのかもしれない。
「えっと、ユナ。もし、危険ならしないでいいわよ。もし、ユナになにかあったら困るし」
「心配してくれるの?」
「なによ。わたしがユナのことを心配したら悪いの!? 魔力があれば、わたしが代わってあげるんだけど」
「たぶん、魔力がそれなりにないと意味がないのう」
「それなら、わたしが」
キャロルがゆっくりと手をあげる。
「分かった。分かった。妾がやればいいんじゃろう」
「ううん、わたしがやるよ。別に何かが起きると決まったわけじゃなし」
それに、この中で、もし何かがあった場合、対応ができるのはわたしだけだ。
魔法使いでないミアでは魔力が足りないかもしれないし、運動音痴っぽいキャロルじゃ不安だし、フィナにやらせるのは論外だ。カガリさんだって万全の状態ではない。
わたしなら、なにかあっても、クマの着ぐるみが守ってくれる。
フィナが心配そうにしているので、「大丈夫だよ」と言って安心させる。
みんなはわたしから少し離れてもらう。それを確認したわたしは、杖に魔力を込めてみる。反応がない。わたしはさらに魔力を込めてみる。
すると、杖の先に取りつけられている魔石が光ったと思うと、すぐに消える。
わたしたちは杖を見る。
「なにも起きない?」
「普通の杖?」
「何か反応があると思ったんじゃが、おかしいのう」
カガリさんは首を傾げる。
「なによ。心配して損したじゃない」
「もしかして、魔道具が使えないのが理由かもしれぬな」
「それで、その杖って、普通の杖と違うの?」
「分からない」
観察眼のスキルでも「杖」としかでてない。
「その杖で魔法を使うことはできるの?」
昔にクマさんパペットを外して杖を持って魔法を使ってみたが、魔法は発動はしなかった。
つまり、わたしがクマさんパペットをしてやっても意味がないし、クマさんパペットを外せば確かめることができない。
わたしは部屋を見渡して、キャロルに杖を差し出す。
この中ではキャロルが適任だ。
「危険はないみたいだから、キャロルがやってみて」
「えっと、はい。光を出してみます」
キャロルに杖を渡すと、キャロルは魔法を使おうとするが発動しない。
「カガリちゃんの言う通りに、魔法を発動させる杖ではないみたいです」
「しかも、今度は光らなかったわね」
「もしかして、わたしの魔力が少ないのかな?」
「それは違うじゃろう。それだと、魔法の杖としての役目にはならん。使用目的が違うと思うべきじゃのう」
「それじゃ、使い道が分からないんじゃ、ゴミじゃない。魔石はそれなりに大きいから、売れそうだけど」
魔石はタイガーウルフの魔石ぐらいある。
「高く売れるかな? ユナ、いる?」
いるかいらないかと言われたら、いらない。
でも、魔石って、たまに役にたつことがあるんだよね。
「うん、いいよ。買い取るよ」
「本当!? ありがとう」
ミアは嬉しそうにする。
「それでどうする。今、お金払う?」
「後でいいよ。それにお宝はそれだけではないかもしれないし。あとでまとめて精算したほうがいいでしょう」
「もしかすると、お金を払わずにいなくなるかもよ」
「ユナが、そんなことしないことぐらい分かっているわよ。そもそも、わたしたちに付き合うメリットがユナたちにないんだから。それに、逃げたとしても、何度も助けてもらっているんだから、元は十分に取れているわよ」
予想外の言葉が出てきた。
面と向かって信用していると言われると、少し恥ずかしくなる。
「それじゃ、この杖はわたしが預かっておくよ」
わたしはクマボックスに杖を仕舞う。
「それじゃ、あらためて、この部屋の探索を再開じゃな」
わたしたちは手分けをして、あらためて部屋を調べる。
ベッドの他には本棚、タンス、机、テーブル。研究室にベッドがある感じだ。
わたしはめぼしいものがないか部屋をぐるっと見回すが、これといった物はない。
カガリさんも部屋をキョロキョロと見回し、ミアは気持ち悪がりながらもベッドの下を覗いている。キャロルはどこを調べようかと部屋の中を歩いている。
フィナのほうを見ると、机の引き出しを引っ張っている姿があった。
「うぅ、開かないです」
フィナは一生懸命に机の引き出しを引っ張ろうとしているが、引き出せないでいる。
くまゆるが「くぅ~ん」と鳴いて応援をしている。
「フィナ、わたしがやるよ」
「ユナお姉ちゃん、ごめんなさい」
「そこは、ありがとうだよ」
「……うん、ありがとう」
わたしは、フィナに代わり、引き出しに手を掛け軽く引っ張ってみるが、引き出せない。
何かが引っかかっているみたいだ。
鍵かな?
今度は思いっきり引っ張ってみる。
すると、机は音を立てて崩れ落ち、わたしの引っ張った引き出しが引っこ抜かれる。
「なに!?」
「なんじゃ!?」
わたしは勢い余って後ろに倒れ、お尻を打つ。
思っていた以上に力を込めてしまったみたいだ。
「ユナお姉ちゃん、大丈夫!」
フィナが心配するように近寄ってくる。
「だ、大丈夫だよ」
クマ装備のおかげで、お尻は痛くない。
クマ装備がなかったら、わたしの柔なお尻には痣ができていたかもしれない。
「ったく、驚かせるんじゃない」
「もう、驚かせないでよ。ベッドに頭をぶつけたでしょう」
「驚きました」
「ごめん。ちょっと、力を込めたら、勢いが余って」
一応、わたしが悪いので、謝罪をする。
「それで、ユナお姉ちゃん。引き出しの中には何かあった?」
わたしは手に持っている引き出しを見る。
「箱が入っているね」
鉄の箱だ。
大きさは小学生が持っているお道具箱ぐらいだ。
「何が入っているのかしら?」
ミアが横から覗いてくる。
それに釣られて、キャロルもカガリさんもやってくる。
「わたしが開けるわ」
ミアは、わたしが持っている引き出しから箱を取り出す。
「ミアちゃん、危ないかもよ」
「別に、この中から甲冑騎士がでてくるわけじゃないから大丈夫よ」
そう言って、鉄の箱を開けようとするが開かない。
「錆びて、開かない」
「わたしが開けるよ」
わたしは箱を手にすると、今度は気を付けながら、力を込めて蓋を開ける。
「本当に、信じられない力をしているわね。それで、何が入っていたの?」
「本?」
わたしは中に入っている本を取り出す。
「本っていうか、ノートかな?」
本と言うには薄く、ノートと言ったほうがしっくりくる。
箱の中にはノートが二冊入っていた。
その一つのノートの表紙には「記録」と書かれていた。