602 クマさん、部屋を探索する その1
そんなわけで地下探索です。
ユナのクマ力があれば、扉も簡単に開きます(笑)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部、漢字の修正については、書籍に合わせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。
フィナの光魔法によって、わたしたちの上にクマの形をした光が3つほど浮かんでいる。
「クマか、狐のほうが可愛いじゃろうに。フィナ、今からでも狐に変えてみないか?」
カガリさんがクマの形をした光を見ながら、そんなことを言いだす。
「その、わたし、ユナお姉ちゃんのクマさんをイメージして練習したから、クマしか作れないです」
フィナは申し訳なさそうにする。
「それじゃ、仕方ないのう。次は狐もしっかり練習するんじゃぞ」
「えっと、はい」
フィナはカガリさんに言われたまま頷いてしまう。
「フィナ、別に練習なんてしなくていいからね。カガリさんも、フィナは断りにくい性格をしているんだから、無茶なお願いは言わないで」
フィナはわたしとカガリさんを見て、少し悩んでからうなずく。
「なんじゃ、狐の光にするのが無茶なお願いなのか? まあ、それなら、サクラの奴が魔法の練習を始めたら、狐魔法を覚えさせよう」
狐魔法って。つまり狐の形をしているってことだよね。
まあ、それはそれで可愛いと思うけど。
サクラは、あんなことがあったから魔法が使えるようになるか分からないけど、使うことができることを祈るばかりだ。
「あなたたち、いつ甲冑騎士が襲ってくるか分からないんだから、緊張感を持ってほしいんだけど」
ミアが、クマの光で騒ぐわたしたちを注意する。
「襲ってきたとしても、金属の動く音がするから気づくよ」
わたしたちはクマの光に照らされながら階段を下りていく。階段を下りると、長い通路が続く。
「ちょっと、まって。奥に甲冑騎士がいるわよ」
ミアが声をあげる。
でも、わたしには見えない。
「フィナ、前のほうに光を飛ばして」
「えっと、はい」
フィナは返事をすると、わたしたちの上に浮かぶクマの光の一つを奥に移動させる。
動きはぎこちないけど、ちゃんと動かせている。
わたしの魔法の勉強会が終わったあとも練習をしているみたいだ。
そのクマの光が通路の先を照らすと、甲冑騎士がいた。
「本当に甲冑騎士がいた。よく気づいたね」
「ふふ、目はいいのよ」
「それじゃ、倒してくるね」
わたしは、いつも通りに甲冑騎士をサクッと電撃が纏ったクマさんパペットで沈黙させる。
そして、周囲の安全を確認してから、皆を呼ぶ。
「扉ね」
甲冑騎士の後ろには大きな両開きの扉があった。
「うぅ~うぅ~、えっい」
ガチャ、ガチャ。
ミアが扉を押したり、ノブを回すが、扉は開かない。
鍵がかかっているみたいだ。
「壊すしかないね」
「中から、甲冑騎士がたくさん出てきたりはしないわよね?」
「そんなこと、開けてみないと分からないよ」
探知スキルでは分からないし、確認のしようがない。
「でも、壊すってどうやって壊すの?」
ミアが疑問に思ったときには、わたしのクマさんパペットはドアノブを咥えていた。
そして、思いっ切り力を込める。ゴンと大きな音がすると、片方の扉が外れる。
「ちょ、なにをしたのよ!」
「扉を外しただけだよ」
クマさんパペットの力を借りてだけど。
「いやいや、そんな簡単にできるわけがないでしょう」
「きっと、扉が傷んでいたんだよ。ほら、中に入るよ」
いろいろと質問されても面倒臭いので、わたしは外したドアを壁に立てかけ、中に入ることにする。その前に安全確認のため、覗き込む。それに合わせてフィナがクマの光を移動させてくれる。
フィナのクマの光が扉の先を照らしてくれる。
前のほうに柵のようなものが見える。
わたしたちは柵まで移動する。
柵の先があり、広い部屋のようだ。それも、ちょっとやそっとの広さではない。
「広さが分からないわね」
フィナの魔法の光だけでは、部屋を照らしきることができないので、わたしは光魔法を放つ。
「水?」
わたしの光によって照らされたのは、水だった。
「貯水庫?」
「でも、広いわね」
ミアが柵に寄り掛かり、遠くを見渡す。
学校にあるプールより広い。
「落ちたら助けられないから、落ちないでね」
「まあ、そんな格好じゃ助けられないわよね」
広いと思うけど、貯水庫なら、このぐらいはあってもいいと思う。逆に小さいぐらいだ。
クマの光を移動させるが、怪しいところはない。
くまゆるとくまきゅうも反応はない。
「それにしても、ユナの光魔法もクマなのね」
ミアが天井近くに浮かぶクマの光を見て、しみじみと言う。
「今度、わたしもクマを作るの練習してみようかな」
キャロルがそんなことを言うので、カガリさんは「狐にせい」と言っていた。
「どうして、狐なのよ」
「それは、妾が狐が好きじゃからじゃ」
まあ、流石にカガリさん本人が狐とは言えないよね。
そんな会話をしながら大きな部屋を見渡していると、フィナが声をあげる。
「ユナお姉ちゃん。あそこに、ドアがあります。それと甲冑騎士も」
扉を出た先には左右に通路があり、その通路には、いくつものドアがある。そして、その一つのドアの前に甲冑騎士がいる。
「そうなると、あのドアが怪しいってことじゃのう」
「甲冑騎士を置いた人って、バカだったのかな。こんなにドアがあるのに、あのドアの前だけ甲冑騎士を置くなんて」
ミアが誰しもが思う感想を漏らす。
「まあ、人って無防備にするには勇気がいるからね」
宝箱が無数にあったとしても、その中に大切な物が入った宝箱を、鍵もせずに放置するには勇気がいる。
人としては大切な物には鍵をかけたくなるのが心情だと思う。
道しるべとなる甲冑騎士を倒し、ドアの前にやってくる。
ドアに鍵がかかっていたけど、気にせずに、ドアを破壊する。そして、クマの光を部屋の中に放ち、部屋の中を確認する。
甲冑騎士はいない。
「大丈夫みたいだよ」
わたしはクマの光を消し、フィナたちが部屋に入ってくると、わたしのクマの光の代わりにフィナのクマの光が部屋の中を照らす。
部屋はちょっとした広さがある。6畳ほどの部屋が2つほどある。
わたしは部屋の中を見回す。
「思ったより、小綺麗じゃのう」
「地下にあったせいか、あまり荒れていないわね」
カガリさんとミアの言う通りに、外気に触れていなかったのか、思っていたよりは綺麗だった。
「それじゃ、なにかあるか調べましょう」
「そうね。甲冑騎士を置くぐらいなんだから、きっとなにかあるわ」
ミアはやる気になる。
「ユナお姉ちゃん。わたしも探したいから、くまゆるから降りてもいい?」
「うん、いいよ」
とくに危険はなさそうなので、許可をだす。
そして、手分けをして、部屋の中を探す。
「やっぱり、光は点かないわね」
ミアは壁に付けられている魔石に触れるが、反応はない。
「えっと、フィナ。部屋の中に光が届くようにお願いできる?」
「は、はい」
ミアがフィナにお願いすると、浮かんでいる3つのクマの光が移動して、部屋全体を灯す。
「ありがとう」
ミアがお礼を言うと、フィナは嬉しそうにする。
役に立てたことが嬉しいみたいだ。
「本棚があるのに、本がないわね」
「本があれば、どんな魔道具を作っていたか分かるのに」
「出ていくときに、処分をしたのか、持ち出したのかのう。そうなると、他の部屋も望みが薄くなるのう」
魔道具を作っていた研究者の部屋だと思うんだけど、めぼしいものが見当たらない。
「ベッドがあるわ。なにか膨らんでいるけど」
ミアの言葉にみんなの視線がベッドに向かう。
「嫌な予感がするのう」
「わたしもそう思う」
「フィナは見ちゃダメだよ」
「うん」
フィナには後ろに下がってもらい、くまゆるに視界を塞いでもらう。
それを確認したミアが毛布に手を掛ける。
「行くわよ」
ミアがゆっくりと毛布を持ち上げる。
ほこりが舞う。
そして、毛布の下には想像通りのものがあった。
「うぅ」
ミアとキャロルは、軽く目を逸らす。
ベッドには白骨死体が寝ていた。
フィナに見せないでよかった。
「フィナ、絶対にこっちを見ちゃダメだからね」
「カガリ、あなたも見ないほうがいいわよ」
「気を使わなくても大丈夫じゃ。もっと、気持ち悪い人の死体も何度も見たことがある」
「幼女なのに。どんな人生を送っているのよ」
カガリさんはジッと白骨死体を見る。
「本当に怖がらないのね」
「このぐらいで、怖がるわけがないじゃろう」
「わたしの妹だったら、泣いているわよ」
カガリさんはミアの言葉を聞き流して、白骨体を見ている。
「何か手に持っているのう」
「本当だ」
白骨体の手には短い杖のような物が握られている。
でも、誰も手を伸ばそうとはしない。
「ほれ、ミア。お主の出番じゃぞ」
「わ、わたしが取るの?」
カガリさんに背中を押されて驚くミア。
「なんじゃ、妾みたいな幼女にやらせるのか?」
カガリさんは、ここぞとばかりに自分の容姿を使う。
それ、反則だからね。でも、そのことを言って、わたしにやらされても困るので、黙っていることにする。
「それは……」
ミアはカガリさんから、わたしに視線を移す。
「わたしは戦闘で疲れているから」
噓だ。できれば、わたしも白骨死体に触れたくないので遠慮したい。
ミアはカガリさん、わたし、キャロルを見てから諦める。
キャロルは首を横に思いっきり振っていた。
流石にくまゆるの後ろに隠れているフィナにやらせる気はないのか、覚悟を決める。
「わたしが、やれば、いいんでしょう」
ミアはゆっくりと白骨体に手を伸ばす。
その手はプルプルと震えている。
どうして、人って、こういうとき、驚かせたくなるんだろう。
でも、流石に我慢だ。ここは自重する。
わたしが我慢すると決めたとき、カガリさんがゆっくりとミアに近づく。
そして、ミアの手が白骨死体の手が持っている杖を掴んだとき、声を上げた。
「わっ」
「きゃ」
いつもと違った女の子らしい可愛い声がミアから出る。
「なかなか、可愛い声を出すのう」
カガリさんはミアの反応がよかったのか、笑っている。
「あんた、いたずらにもほどがあるわよ」
ミアが少し涙目になっている。
「なんじゃ、漏らしたか?」
「漏らしていないわよ」
なんだろう。
わたしって、いつもこんなことをしていたんだね。
「ユナ! なに笑っているの!?」
矛先がわたしに飛んできた。
「ちゃんと、カガリを管理しなさいよ。あなたが保護者でしょう」
「別に、わたしが保護者ってわけじゃ」
そもそも、カガリさんのほうが年上だし。
「幼いときから、こんないたずらを覚えさせると、ろくな大人にならないわよ。本当に、わたしの可愛い妹たちを見習ってほしいわ」
いや、だから、カガリさんは大人で、お婆ちゃんだし。そもそも、人じゃないし。
「あんたは、クマの上に乗っていなさい」
ミアはカガリさんを持ち上げると、くまきゅうの上に乗せる。