597 クマさん、仲間が増える
わたしがミアたちに付いていくことを提案する。フィナとカガリさんからは反対意見はでてこない。
「一緒に?」
「見ていたから分かると思うけど、あの甲冑騎士ぐらいなら、倒せる実力はあるよ」
「そうじゃのう。それに妾たちも一緒に付いていったほうが安心じゃ。進んだ先にお主たちの死体があったら、最悪の気分になるからのう」
「勝手に殺さないで」
「じゃが、先ほどもユナが助けに入らなかったら、危険じゃったぞ」
「範囲外まで逃げれば」
ミアは言い訳をしようとするが、カガリさんが言葉を続ける。
「そっちの小娘が転んでいたぞ。それに、そんなナイフで倒せると思っておるのか?」
「それは……」
ミアは握っているナイフを見る。
「……ミアちゃん」
「わたし、こんな格好しているけど、冒険者だから、それなりに修羅場を通ってきているよ」
「……冒険者。それじゃ、そっちの2人も!」
ミアがフィナとカガリさんを見る。
「妾は違う」
「わたしも違います」
いや、年齢的になれないでしょう。
でも、カガリさんの場合、どうなんだろう?
冒険者ギルドに行っても、追い出されそうだけど、スオウ王辺りが裏から手を回せば取れるかな?
いや、短い時間だけど、大人になれるから、大人の姿で申し込めばいいだけか。
「でも、冒険者ってことは、お金を要求するんでしょう? わたし……お金持っていない」
ミアが小さい声で呟く。
別にお金を請求するつもりはなかったんだけど。それじゃ、納得がいかないかもしれない。
「それじゃ、もし、お宝を見つけて、わたしが欲しいものだったら、わたしに買い取りの優先権をくれればいいよ。もちろん、相場で買わせてもらうよ」
「あなた、もしかして、お金持ち?」
「ミアのお金持ちの定義は分からないけど、冒険者として、仕事もしているし、お金は持っているよ」
嘘は言っていない。
「でも、裏切られて、お宝を持っていかれたら……」
人を疑うことはいいことだけど。
でも、こんなクマの格好したわたしの実力のほうを疑わないのは、少し新鮮かも。
これも、目の前で甲冑騎士を倒しているからかな。
「ミアちゃん、疑うのはよくないよ。もし、そんな人たちなら、わたしたちを何度も助けたりしないよ。見捨てて進めばいいだけだもん」
「……」
「それに、わたしが死んだら、ミアちゃん、自分が許せなくなるでしょう」
キャロルはジッとミアを見つめる。そんなミアもキャロルを見つめ返す。
そして、ミアは根負けしたようで、頷く。
「……分かった。キャロルが言うなら」
「彼女のことは信じているのね」
「キャロルはたった一人の親友よ。それに、キャロルは人を見る目だけはあるから」
「ミアちゃん、酷いよ。わたし、人を見る目だけじゃないよ〜」
笑いが起きる。
「でも、本当にいいの? キャロルの言葉じゃないけど。あなたなら、わたしたちを置いて、先に進むこともできるでしょう?」
「そうだね。もし、ミアたちを見かけただけならここまで言わないと思う。でも、何度も話して、わたしたちにいろいろなことを教えてくれたり、忠告をしてくれたり、あなたたちが悪い人じゃないことも分かったし。それに、カガリさんの言葉じゃないけど、もし、あなたたちの死体が転がっているのを見たら、自分が許せなくなると思うから」
「だから殺さないで。でも、あなたお人好しね」
ミアは笑う。
少しは信じてもらえたかな?
「ユナお姉ちゃんは、優しいんです」
「そうじゃのう。ここまでのお人好しは、そうはいないぞ」
フィナとカガリさんが褒め始める。
「違うよ。わたしは自分勝手だよ。自分がしたいようにしているだけ」
2人の死体を見たくないのは本当だ。
知らない人の死体なら、可哀想とは思っても、悲しまないし、気持ち悪いと思い、他人事のように思う。
わたしは、その程度の人間だ。
「それじゃ、あらためて自己紹介じゃな。妾はカガリ、こんななりをしておるが、お主たちより年上じゃから、言葉には気を付けるんじゃぞ」
「年上?」
ミアが首を傾げるが、カガリさんがフィナの背中を押して、自己紹介をさせる。
「わ、わたしはフィナ。えっと、魔物や動物の解体はできるけど、戦うことはできないです。あと、少しだけ魔法が使えます」
2人が自己紹介をしたので、わたしも続ける。
「わたしはユナ。この格好についてはノーコメント。聞かれても答えないから。それから、この中じゃ戦闘担当かな? それで、こっちの黒いクマがくまゆるで、白いクマがくまきゅう。わたしの召喚獣だよ。危害を与えなければ大人しいけど、わたしたちになにかしようとしたら、この子たちが容赦しないから、気をつけてね」
「……くまゆる、くまきゅう」
ミアとキャロルはジッとくまゆるとくまきゅうを見ている。
わたしたちの自己紹介より、くまゆるとくまきゅうのほうが気になるみたいだ。
「えっと、前にも名乗ったけど、わたしはミア、有名な冒険家になるのが夢よ」
「わたしはキャロルです。ミアちゃんの幼馴染で、冒険家で有名になれたらいいなと思っています」
などの簡単な自己紹介をする。
ミアはジッとくまゆるとくまきゅうを見ている。
「くまゆるとくまきゅうに触りたいの?」
「そんなんじゃないけど。触っていいなら、触らせてもらうわよ」
ミアは嬉しそうにしながら言う。
「違うなら、別に」
「じょ、冗談よ。触りたいです。触らせて」
わたしが拒否すると、ミアが低姿勢になる。
人のことは言えないけど、面倒臭い性格しているな。
わたしが触る許可を出すとミアはくまきゅうに近づき、体に触れる。
「柔らかい。気持ちいい。それに真っ白で綺麗」
「くぅ〜ん」
綺麗と言われて、くまきゅうは嬉しそうに鳴く。
「わたしも、触らせてもらっていいですか?」
「いいよ」
わたしはキャロルにも許可を出すと、キャロルはくまゆるに近づき触る。
「本当に柔らかいです。それに大人しいです」
「くぅ~ん」
2人は撫でたり、乗りたがったり、くまゆるとくまきゅうを堪能しまくった。
「これから、出発と言いたいところだけど、今日のところはここまでにしましょう。そろそろ日が沈むわ」
「そうだね」
ミアの言葉にキャロルも頷く。
たしかに、もうすぐ日が沈み始める。
それは、2人がくまゆるとくまきゅうを触り過ぎたせいだと思う。
まあ、本格的に探索するなら、日を変えたほうがいいのは確かだ。
「それじゃ、外に行きましょう」
「外?」
「あなたたち、本当に何も知らないのね」
ミアが呆れるように言う。
「ミアちゃん、そんな言い方ダメだよ。わたしたちだって、初めてのときは知らなかったんだから」
「どういうこと?」
「この町の中だと、魔道具が使えないのよ」
ミアとキャロルの話によると、町の中だと魔道具が使えないそうだ。
だから、アイテム袋から物が取り出せないので、お泊りセットが出せないってことらしい。
「信じられないなら、確かめてみたら」
クマボックスで確かめてみようと思ったけど、わたしのクマボックスはスキルになる。アイテム袋とは違うのかもしれない。
なので、フィナにお願いする。
「取り出せないです」
フィナはアイテム袋から、物を取り出そうとするが、出てこない。
「だから、外で休むのよ」
ミアは勝ち誇ったような顔をする。
でも、キャロルの話では、ミアたちもアイテム袋が使えなくなったときは、慌てたらしい。それで、町の外まで戻ると使えることに気づいたと言う。
「アイテム袋が使えないときは慌てたわよ。食糧を出すこともできないし。でも、町の外に出たら使えるようになって安心したわ」
「それで、次の日は魔道具が使える範囲を調べたりしていたんです。それで、町の中だと使えないことが分かったんです」
「だから、水などは出しておかないと、飲めないのよ」
それで、一晩明かすには魔道具が使える町の外で休むそうだ。
「不便で仕方ないわよ」
クマボックスはどうなんだろう。
わたしはクマボックスから水筒を出す。
あっ、普通に出た。
「ちょ、今、どこから出したの!」
どうやらミアが見ていたらしい。
「アイテム袋からだよ」
わたしはミアに向けて、白クマパペットをパクパクさせてみせる。
「どうして、出せるのよ」
ミアは自分のアイテム袋から出そうとするが出ない。
「わたしのアイテム袋は特別だから」
「特別ってなによ」
ミアが白クマさんパペットを掴む。
「それにしても、アイテム袋までクマなんて、あなた、本当にクマが好きなのね」
その言葉に、わたしは否定はできなかった。
だって、くまゆるとくまきゅうが見ているし、それにクマは嫌いではない。
「どうする? 食糧ならわたしが持っているけど」
わたしのクマボックスは使えるみたいだから、外に行かなくても食事はできる。
「ごめんなさい。わたしたちが乗ってきた馬がいるから、一度様子を見に行きたいんです」
馬もいるということなので、わたしたちは、ミアたちが乗ってきた馬がいる所まで戻ることになった。
「それにしても、どうして、ユナのアイテム袋は使えるのかしら?」
「こ奴は、非常識の塊じゃから、考えるだけ無駄じゃぞ」
「わたしとしては、カガリさんだけには言われたくないんだけど」
大人になったり、幼女になったり、空を飛んだり、狐になったり、何百年も生きていたりする。わたしからしたら、カガリさんのほうが非常識の塊だ。
「フィナもそう思うよね?」
「いや、ユナのほうじゃよな?」
わたしとカガリさんに挟まれるようになったフィナは、わたしとカガリさんを交互に見ると口を開く。
「えっと、どっちも、どっちかな?」
フィナは笑みを浮かべながら、誤魔化した。
クマさんに仲間が増えました。
【お知らせ】
ニコニコ漫画にて、読める話数が4/16(木)11時まで増量中です。
もし、読んだことがない読者様がいましたら、この機会に読んでいただければと思います。
よろしくお願いします。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。お礼の返信ができないため、ここで失礼します