595 クマさん、ミアとキャロルから話を聞く
わたしとカガリさん、フィナはくまゆるとくまきゅうの上に座り、ミアとキャロルは崩れた石の上に適当に座る。
ミアとキャロルはくまゆるとくまきゅうの上に座るわたしたちを羨ましそうに見ながら、口を開く。
「冒険家にとって、情報は大切なのに」
「でも、ミアちゃん。助けてもらったんだから」
ミアの言う通り、情報は大切なものだ。冒険家に限ったことではないけど、情報はお金には変えられないものがある。情報が漏れただけで、会社が倒産することだってある。
「別に話したくないことは話さんでもいい。ただ、ここがどんな場所なのか知りたいだけじゃ」
カガリさんは引き出せる情報だけ聞くみたいだ。
ミアはカガリさんの言葉に納得したらしく、話し始める。
「この町は魔道具の技術者が集まって作られた町ってことは話したわよね」
「ああ、じゃが、どうして、この町は廃墟になったんじゃ?」
「言い伝えでは、危険な物を作っているのが国にばれて、危険分子とみなされて、技術者は全員殺されたと言われているわ」
「でも、別の本には魔物に襲われたという話もあります」
ミアの説明にキャロルが追加する。
わたしがフィナに話してあげた理由の一つだ。
「あと、とある国が技術者を引き抜いたって話もあるわね」
「実験で大事故が起きた話も……」
「優秀な技術者が、歳をとって亡くなったとか。とにかく、何かしらの理由で、優秀な技術者が失われて、廃れていったみたいよ」
「ちょっと待て」
いろいろと説明する2人をカガリさんが止める。
「なによ」
「つまり、お主たちも、この町が滅んだ理由は知らんってことか?」
「全部、聞いた話だから、わたしたちに文句を言われても困るわよ」
「申し訳ありません。自分の目で見たわけじゃないので、どれが本当のことなのか、分からないんです」
キャロルが頭を下げて謝る。
「なんじゃ、使えんのう」
「なによ。せっかく教えてあげたのに」
ミアが頬を膨らませる。
「それに、ここがどうやって滅んだなんて、どうだっていいでしょう?お宝さえ見つけれれば」
「何を言っておる。その町の特色を聞いて、どのような魔道具を研究して、どのような魔道具を作っていたのかを、聞くことによって、どんな魔道具かを想像して探るものじゃろう。滅んだ理由もその一つじゃ。技術者の実力がなく大した物が作れずに滅んだ場合は、お宝探しも無駄になるじゃろう」
「それに、国によって滅ぼされたり、技術者が引き抜かれでもしてた場合も、お宝はないって可能性もあるよ」
「うぅ、たしかに。言われてみれば」
カガリさんとわたしの言葉にミアが項垂れる。
「じゃから、歴史は必要じゃ」
「あなた、幼女なのに、頭いいのね」
「幼女は余計じゃ」
カガリさんは叫ぶ。
「まあ、町が滅んだ理由が分からんなら、仕方ないのう。それにしても、技術者が集まって作られた町にしては、訳がわからんのう。個人で研究するなら、新しく町を作る必要はないじゃろうに」
「資金集めってことかな?」
「資金集め?」
研究をするにはお金がかかる。物を作る、材料を集める。作る物が大きければ、人も必要になる。
たまに、漫画とかで山奥に1人の研究者が隠れて研究しているシーンとかあるけど、どこから材料持ってきたの? どうやって建物作ったの? どうやって、地下室を作ったの? 電気は自家発電? とか思ったりする。
木材を加工する者、石材を加工する者。この世界なら魔石だって使うだろうから、購入するだろうし。必要なら、冒険者を雇うかもしれない。
お金や材料を用意してくれるスポンサーがいなければ、お金も人もいくらあっても足りないと思う。
それに、生きていくには、食料も必要だ。
「それなら、別に普通の町でもよかろう」
「そこは知名度じゃない? 魔法都市とか、剣術都市とか言われたら、魔法の優秀な人が集まった街や、優秀な剣士が集まった街に聞こえるのと一緒だと思うよ」
魔道具の技術者が集まった町と聞くと、いろいろな魔道具があるイメージになる。そうなれば、いろいろな場所から魔道具を買いに人が集まってくる。
「まあ、確かにユナの言う通りじゃのう。魔道具を研究する者なら、売り物になる魔道具も作っていたかもしれぬからのう」
あくまで、想像であり、正しいとは限らない。
町が作られた経緯が書かれた本や、その時代に生きた人物から話を聞かないかぎり無理だと思う。
そんなことができるのは、カガリさんやムムルートさんのような長寿の種族だけだ。
……もしかして、ムムルートさん。こんなところまで来ていないよね?
和の国や砂漠の街まで行った人物だ。ありえない話ではなさそうで、少し怖い。
「それで、あの甲冑騎士はなんなの?」
この町については、ミアたちも知らないようなので、甲冑騎士について尋ねることにする。
「近づくと、襲ってくるみたいよ」
ミアが面倒臭そうに話す。
「でも、あれは動かないよね」
わたしは近くにある甲冑騎士に、クマさんパペットを向ける。
実は近くに、もう一体あったが、それは近寄っても動かなかった。
「動く物と、動かない物があるみたいです」
「時間が経って、壊れているんじゃない?」
キャロルの言葉に、ミアが適当に言う。
もし、そうだとしたら、一部とはいえ、町が廃墟になるほどの時間が経っているのに、逆に動いているほうが凄いかもしれない。
「でも、その動かない甲冑騎士を調べることができたので、多少は構造を知ることができました」
「だから、魔石の位置が違うことを知っていたのね」
「キャロルは、その手のことは詳しいのよ」
なぜか、ミアが自慢気に胸を張る。
ただ、胸を張っても、それほど大きくないので嫌味になっていない。
「じゃが、危険なことをするのう。もし、動いたらどうするつもりなんじゃ?」
「逃げます。追いかけてくる範囲が決まっているようなので、一定の距離を逃げれば、追いかけてこなくなります」
「それじゃ、わたしが助けなくても大丈夫だった?」
「そうよ。別に、助けられなくても、逃げれば大丈夫だったんだから」
「ミアちゃん!」
ミアのツンデレが発動するが、キャロルが怒る。
「じょ、冗談よ」
ツンデレは漫画やアニメで見る分には可愛いと思うけど、実際にされると、面倒臭い子なだけなのかもしれない。内面描写がないせいかな?
もし、ミアの内面描写があったら「本当は素直にお礼が言いたいのに、どうして、わたしは素直になれないの」とか、あるかもしれない。
「ユナだったわね。なに、ジロジロ見ているの?」
わたしがミアのことをジッと見ていたら、視線を感じたらしい。
「いや、こんなに可愛い女の子たちが冒険家なんて凄いなと思って」
「そ、そう? そんなにハッキリと可愛いって言われると照れちゃうわね」
ミアは本当に恥ずかしそうに、照れた仕草をする。
ツンデレでしかもちょろい。
「でも、あなたたち3人とも、わたしに負けずに、可愛いわよ。とくに、あなた」
ミアがわたしを指差す。
「そんな、可愛らしいクマの格好なんて、見たことがないわ」
それって、中身が可愛いじゃなくて、外側のクマが可愛いって意味なのかな。
まあ、分かっていたけど。
「でも、一定の距離を離れると、あれは追いかけてこなくなるの?」
「活動範囲が決まっているのか、一定の距離になると、元の位置に戻っていきます」
それぞれの守る範囲があるってわけか。
「ふふ、その甲冑騎士は、怪しいのう」
話を聞いていたカガリさんが呟く。
「カガリお姉ちゃん、なにが怪しいの?」
「フィナよ。考えてみるがよい。上の階に甲冑騎士はあったか?」
フィナは首を横に振る。
「なかった」
「じゃろう。そして、お宝らしき物もなかった。つまり、そこは守らせる物がないってことじゃ」
「それじゃ」
カガリさんの言葉に、フィナが何かを思いつく。
「分かったか? つまり、あの甲冑騎士があるところにお宝があるってことじゃ」
カガリさんが名推理とばかりに、自慢気にする。
まあ、わたしもカガリさんの推理には同意だ。
鍵だって、大切なものがあるところには掛ける。
鍵が頑丈なほどにお宝度は増す。それと同じことだ。
「うぅ、幼女のくせに、頭がいいのね」
「わたしたちも、そう思って、守護騎士がいる辺りを調べることにしたんです」
「でも、近づいたら追いかけられたのよ」
「あれは、ミアちゃんが、不用意に近づいたからでしょう?」
「右が動かなかったから、左も動かないって思うでしょう?」
「思わないよ~」
ミアが助けを求めるようにわたしたちのほうを見る。
「思わないよ」
「思わぬな」
「思わないかな?」
フィナにまで言われて、落ち込むミア。
「それにしても、お主たちは戦う技量もないのに、よくこんな場所を探索しようと思ったのう」
「わたしたちは冒険家よ。戦うのが目的ではないわ。魔物を避け、危険を回避して、お宝を手に入れるのが、わたしたちの仕事よ」
冒険家でもトレジャーハンターって感じかな?
それでも、危険なところに行くんだから、多少は身を守る強さは必要だと思うんだけど。
「それなら、あの甲冑騎士からも、見つからないように目的を達成するのが、お主たちのやり方じゃないのか?」
「うぅ、それは……」
カガリさんの言う通りだ。ゲームの職業で言えば、盗賊。トラップなどを回避し、お宝をゲットする。
でも、彼女たちにそれほどのスキルがあるとは思えない。
「とにかく、情報はこのぐらいでいいでしょう。助けてもらった分は話したわよ」
ミアは立ち直る。
強い子だ。
【お知らせ】
本日、コミック4巻の発売日です。
それに伴い、アニメ情報が公開されました。
キャストなどの詳しいことは活動報告にて、お願いします。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。お礼の返信ができないため、ここで失礼します。