55 クマさん、王都に到着する
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檻をクマのゴーレムで引いて戻ってくると全員起きていた。
「みんな、起きてたの?」
「起きてたの? じゃないわよ。盗賊が50人も来ていると知って寝ていられるわけないでしょう」
「そうだのう。流石に盗賊50人に襲われるかもしれない中で寝ていられないのう」
グランさんも起きている。
年寄りは寝てないと駄目だろうに。
「ユナさん、流石に黙っていることはないと思います」
「ユナお姉ちゃん。流石に今回は……」
「盗賊捕まえてきたのに、わたし怒られるの?」
わたしの言葉にみんなの視線がクマのゴーレム、盗賊が入った檻に移る。でも、どっちに視線を移せばいいか困っている。
「えーと、何から、突っ込めばいいの?」
「そうね。とりあえず、盗賊がどうなったか聞きましょう」
みんなの視線がわたしに集まる。
「見ての通り、捕まえたから檻に入れたんだけど」
「どうやって1人で捕まえたの」
「魔法でちょちょいと」
「その檻は?」
「魔法でちょちょいと作った」
「最後にそのクマは?」
「檻を運ぶためにちょちょいと作った」
周りから溜息と、呆れ顔と、コメントに困る者といろいろ。
なぜに。
「聞くたびに突っ込みたくなることが増えるんだけど」
マリナが呆れ顔でわたしを見る。
「それで、その盗賊どうするの」
「さあ、どうしたらいいの? 王都に連れていく? ここで殺す?」
わたしの殺す?って言葉に盗賊が反応する。
「もしかして、その盗賊。ザモン盗賊団じゃない?」
マリナの後ろで盗賊団を見ていた魔法使いのエルが口を開く。
「ザモン盗賊団?」
確か、本人たちもそんなことを言っていたような。
「この辺りで暴れている盗賊団よ」
「冗談でしょう。あのザモン盗賊団を1人で捕まえたの?」
「そんなに凄いの?」
「金は奪い、アイテム袋に入っているアイテムは拷問で無理やり取り出す。女がいれば犯す、酷い盗賊団と聞いてます」
「なら殺す?」
女を犯すって言葉に反応をしてしまった。
「面倒だけど王都に引き渡してアジトを吐かせた方がいい。アジトに捕まっている女性がいるかもしれない。本来なら、すぐに助けに行った方がいいかもしれないけど、アジトにいる人数、場所がわからない。聞きだすにしても時間がかかるかもしれない。それが本当かどうかもわからない。それにわたしたちは護衛中だし、捕まえた盗賊もいる。だから、今は王都に向かった方がいい」
マリナの説明はごもっとも、反対する意見は無い。
面倒だけど盗賊団は王都に運ぶことになった。
「それじゃ、今後のことも決まったし。まだ、暗いし寝ましょう」
まだ深夜。本当なら夢の中にいる時間だ。
「この状況で寝るの?」
「この盗賊の数の中、寝れる気がしないわ」
「わたしも」
「ユナさん、わたしも寝れません」
「ユナお姉ちゃん……」
「さすがのわしも寝れんのう」
みんなわたしの寝る言葉に賛同の者は誰もいない。
今、寝ないからと言って、明日はこの盗賊たちの近くで寝ることになるんだけど。
それに寝れないからと言っても朝まで数時間ある。
「なら、いっそのこと出発するかのう」
「グラン様?」
「流石のわしも寝れそうもない。馬には悪いが頑張ってもらおう。途中で馬が疲れたら休めばよかろう」
その言葉で皆、野宿の片づけを始めだす。
本気ですか皆さん。
結局、深夜にも拘らず、王都に向かって出発することになった。
まあ、わたしはクマの上で寝ますけど。
出発して、日が上がり、馬の休憩も入れるために朝食を食べることにする。
そこで、盗賊たちが騒ぎ出した。
「俺たちにも食べ物、寄こしやがれ!」
「そうだ、そうだ」
「数日ぐらい、食べなくても死なないよ」
「ふざけるな!」
騒ぐ盗賊に水を掛け黙らせる。
ちなみに盗賊が持っていたアイテム袋は全て回収してある。
この中に食べ物があったとしても食べることはできない。
彼らが口にできるのは魔法使いが出した水だけだ。
盗賊は徐々に衰弱し始めている。
ザモン盗賊団の酷い行いのことを考えればたいしたことではない。
盗賊に襲われて3日後の昼、王都を囲む壁が見えてきた。
あっちこっちの道から王都に向かう馬車が合流する。
その度にクマのゴーレム、クマの召喚獣、盗賊たちが目を引く。
王都の門に近くなると、数人の門兵が駆け寄ってくる。
「おい、これはなんだ」
門兵が尋ねてくる。
そんな門兵に対応するのがグランさん。
冒険者が説明するよりは貴族様が説明してくれた方が話が通りやすいと思いグランさんに名乗り出てもらった。
「わしはグラン・ファーレングラム伯爵じゃ。これはわしらを襲ってきたザモン盗賊団を捕らえて連れてきた。このクマはそこのお嬢ちゃんの魔法だ」
グランさんが盗賊とクマのゴーレムについて説明する。
「ファーレングラム様ですか。これは申し訳ありませんでした。わたしは王都第15兵士団、副団長のランゼルと申します」
敬礼をして名を名乗る。
やっぱり、グランさんって偉いんだね。
「盗賊を引き渡したいがいいかな」
「はい。これはザモン盗賊団ですか。よく捕まえることができましたね」
「まあな。それで、わしらはどうしたら良いかのう?」
「はい、ではこちらに来てください。こちらで盗賊を引き取ります」
王都に並ぶ列を無視して、ランゼルの後を付いていく。
王都に入るために並んでいる者は皆こちらを見ている。
盗賊の檻を、クマのゴーレムを、召喚獣クマを、クマの格好をしたわたしを。
「なんだ。あのクマは」
「クマだ」
「大きいクマだ」
「クマだな」
「くまさんだね」
「クマ~」
門の近くに馬車を止める。
兵士たちが沢山集まってくる。
いくら、食事をしてなくて衰弱しても盗賊は50人いる。逃げ出したり、暴れたりしたときのためだろう。
「それでは、檻を開けてもらえますか」
檻の一部の土棒を取り外す。
盗賊たちは諦めて、1人ずつ檻から出てきて、兵士に連れていかれる。
衰弱しているから、反抗する力も残ってないのだろう。
全員いなくなったところで、檻とクマのゴーレムを土に帰す。
あと、証拠になるかわからないけど盗賊がもっていたアイテム袋も渡しておく。
「ご協力ありがとうございます。それで盗賊の処理の報告はどちらにいたしましょうか」
「それは、このお嬢ちゃんに頼む。この盗賊を捕まえたのはお嬢ちゃん一人だからな」
「そ、それは本当ですか」
「ああ、あとお嬢ちゃんはフォシュローゼ家の護衛の者だ。だから、報告ならそちらに頼む」
「フォシュローゼ家ですか」
「なにか、分からないことがあればわしのところに来るがいい」
「はい、わかりました。ご協力ありがとうございました」
「それでわしらは王都に入ってもよいか? 流石に老人の長旅は疲れた」
「はい、どうぞ。中にお入りください。でも、そのクマは……」
くまゆるとくまきゅうを見る。
流石に王都の中は歩けない。
フィナたちにクマから降りるように言って2匹を戻す。
わたしたちは歩いて受付でギルドカードを見せて門を通る。
「ノア、家はどこにあるの?」
「上流地区になるので、距離は結構あります」
「まあ、のんびり王都見物しながら行きますか」
「なら、お嬢ちゃんたち、わしの馬車に乗っていくといい」
「でも、乗る場所が」
「大丈夫よ。わたしたちはここで降りるから。護衛の達成のサインを貰ったからね」
「マリナ、ご苦労だったな」
「いえ、そんなことはありません。ユナがいなかったら、2回は死んでました」
「今回は仕方ない。気を落とすことはない。だから、帰りも頼むぞ」
「はい、ありがとうございます。わたしたちも誕生祭を楽しみながら仕事をしています」
頭を下げてマリナたちは去って行く。
「さあ、乗るがいい、行く場所は同じだからのう」
断ることもないので馬車に乗せてもらうことになった。
馬車から見える王都は賑やかだった。
「誕生祭があるから、いろんな場所から人が集まってきているんだよ」
確かに王都に入るときも列ができていた。
「ユナさん、見えてきました。あれがお母さんがいる、お爺ちゃんの家です」
街にある領主の館よりも大きい。
こんな広い家にいったい何人の人間が住んでいるんだか。
「それじゃ、ノアール。時間があったら王都にいる間だけでいい。ミサの遊び相手になっておくれ」
「はい、遊びに行かせてもらいます」
「ノアールお姉様、遊びに来て下さいね、きっとですよ」
馬車はわたしたちを降ろすと走り出していく。
王都だーーーーーーーー