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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、ノアとフィナの誕生日を祝う
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584 クマさん、フィナにプレゼントする デゼルト編 その6

「こんなところに階段が」


 水晶板を嵌めた台座の少し後ろ辺りに階段が現れた。


「この下の部屋にシアンやクアトの二人が、いろいろと物を仕舞っていたはずじゃ。まあ、あれから百年以上経っているから、その後はどうなっているかは分からんが」


 まあ、ムムルートさんが出ていった後のシアンさんや子供や孫がどうしたなんて、知る由もない。


「床から階段が現れました」


 フィナが階段の前に移動する。


「階段、降りるの?」

「なにがあるのでしょうか?」


 シュリとルイミンも現れた階段を見ながら興味津々に尋ねる。


「えっと、その」


 カリーナは階段とわたしたちを見ながら迷っている。

 わたしたちを中に連れていっていいのかダメなのか。

 個人的な気持ちとしては、わたしも中に入りたい。でも、この場所はカリーナのご先祖様が守ってきた場所だ。だから、簡単に中に入りたいとは言えない。

 もし、わたしが行きたいと言えば、カリーナの性格からして断れなくなる。


「わたしたちは待っているよ。シュリ、ここはカリーナのご先祖様の大切な場所だから、わたしたちは入れないよ」

「そうなの?」


 シュリは残念そうに階段を見る。


「だから、わたしと一緒に待ってようね」

「うん」


 シュリはいろいろなことをお願いをしてくるが、ダメな理由をちゃんと説明すれば納得してくれる良い子だ。ルイミンも名残惜しそうに階段を見ているが、シュリが我儘を言わないので諦めている。


「シュリちゃん、ルイミンさん。ごめんね」

「ううん、いいよ。お姉ちゃんたちと待っているよ」

「はい、気にしないでください」

「それじゃ、わしも入らないほうがいいかのう?」


 わたしたちが遠慮すると、ムムルートさんまでそんなことを言いだす。


「ムムルート様は、この中に入ったことがあるのですね?」

「まあ、昔のことじゃがな」

「その、一人で中に入るのは少し怖いので、ムムルート様には一緒に来てくださると助かります。それに、ムムルート様には探し物があるのですよね? わたし一人では、探すのが大変かもしれませんので」

「それは構わんが」

「よろしく、お願いします」

 

 そんなわけで、ムムルートさんとカリーナの二人は階段を降りていく。

 シュリとルイミンは羨ましそうにムムルートさんとカリーナを見ている。わたしだって、本音を言えば行きたかった。だって、隠し部屋だよ。シュリではないが、どんな部屋なのか見てみたかった。だからと言って、見たいと言えば、カリーナを困らせることになる。

 ここはグッと我慢して、シュリたちとこの場所で待つことにする。


「それじゃ、わたしたちは、この部屋でも見てようか?」

「うん。ユナ姉ちゃん、あの大きなお皿を近くで見てもいい?」


 シュリが大きな盃から出ている水を指差す。どうやら、この部屋にはまだ興味を引くものがあるみたいだ。


「いいけど、触ったりはしちゃだめだよ」

「うん!」


 シュリに許可を出すと、フィナとルイミンも水が溢れ出る盃を近くで見るため、階段を登っていく。どうやら、フィナも近くで見たかったみたいだ。



━━━━━━━━━━━━━━━━

 ムムルート視点


 わしはカリーナ嬢と階段を降りていく。

 階段を少し降りると、ちょっとした広さの部屋に出た。

 懐かしい。あのときの記憶がよみがえってくる。

 中には懐かしいものもあったが、初めて見るものも多くあった。

 シアンが使っていた机や本棚が今も残っている。

 でも、机や本棚にあるものは知らないものばかりだ。


「こんなところがあったのですね」


 カリーナ嬢は不思議そうに部屋を見ている。


「長い間、使っていなかったはずなのに、綺麗です」

「わしたちが初めて見つけたときも、綺麗じゃったよ」

「あのう。ムムルート様、この部屋には何もなかったのですか?」

「宝石などがあった。でも、それはこの街の発展のために、全て使われた。シアンの奴は全員で分けようと言ったが、わしとコディルコは断った。ここに人が住めるようにする二人のために使ってもらった」

「そのおかげで、今の街があるんですね」


 カリーナ嬢は感慨深そうに部屋を見ている。


「それで、ムムルート様がお探しになっているものとは、なんなのでしょうか?」

「シアンとクアトの手紙じゃ。ノートと一緒に探してもらえると助かる」

「はい、わかりました」


 わしたちは手分けをして部屋の中を確認することにした。

 部屋の中は、わしが中に入った頃よりも知らない物が多い。シアンとクアトが増やしたのか、その子孫たちが運んだのか分からないが、いろいろな物がある。

 カリーナ嬢は、興味津々な様子でいろいろな物を見ている。

 壁を見ると、懐かしいものが飾ってあるのを見つけた。


「これは、シアンとクアトの使っていた武器じゃな」


 わしがそう言うと、カリーナ嬢も壁に掛けてある杖と剣を見る。


「シアン様とクアト様の……」


 この武器を使っていた二人の記憶がよみがえってくる。

 すっかり忘れていたのに、この街に来てから、いろいろと思いだしてくる。

 そして、棚に並んでいる物を見ていると、ちょっとした小綺麗な小箱があった。あの小箱には見覚えがあった。


「カリーナ嬢、その箱の中身を確認してもらえないじゃろうか?」

「これですか? 綺麗な箱ですね」


 カリーナ嬢が棚に置いてある小箱を手にする。


「それはクアトがシアンにプレゼントした物じゃ。もしかすると、中に何か入っているかもしれぬ」

「分かりました。中を確認しますね」


 カリーナ嬢は箱を開ける。


「手紙が入っています」


 カリーナ嬢は箱の中から封筒の束を取り出し、封筒に書かれている内容を確認する。


「これはシアン様とクアト様から、ムムルート様とコディルコ様への手紙です」


 カリーナ嬢は手紙を渡してくれる。


「いいのか?」

「はい。きっと、シアン様もクアト様も、怒ったりはされないと思います」

「感謝する」


 わしは手紙の束を受け取る。

 封筒にはシアンとクアトの名前があった。手紙はかなりの数がある。名前の左下に日付が書かれていた。どうやら、毎年書いていたようだ。


「ムムルート様は、シアン様たちの手紙があることをご存知だったのですか?」

「ここに来て、いろいろと思い返すことがあって、あやつの言葉を思い出しただけじゃよ。それまではすっかり忘れていた薄情なジジィじゃよ」


 お墓の前でシアンとクアトと会話をしているときに『何年経ってもいいから、いつかはわたしたちが作った街を見に来てね。手紙を書いておくから』の言葉を思い出した。


「そんなことはないと思います。きっと、来てくださったことを喜んでらっしゃると思いますよ」


 それも、この手紙の書かれている内容しだいじゃ。

 わしは、一番最後に書かれた手紙の封を切り、中の手紙を取り出し、目を通す。


『ムムルート、元気? わたしは頑張ったよ。子供もできて、孫までできて幸せだったよ。ただ、悔しいのは、この湖の街が、どうなっていくか見られないことだよ。だから、ムムルートが羨ましいよ。この手紙をいつ読んでいるか分からないけど、わたしたちの子孫なら、どの街にも負けない街にしているはずよ。しているわよね?』


 お主の子孫たちは、ちゃんと頑張ってお主の遺志を継いでおる。安心せよ。

 手紙は他にもいろいろなことが書かれていた。

 この年になって、涙が出そうになるのをグッと堪える。これ以上手紙を読むと、涙が出るのを止めることができなくなるので、最後まで読むことはせずに手紙を閉じる。


「カリーナ嬢、このピラミッドに連れてきてくれたことに感謝する」

「いえ、わたしもピラミッドのことや、水晶板のこと、この部屋のことを知ることができてよかったです。きっと、お母さまも喜びます」


 この部屋は変わっておらず、いろいろと思い出される。


「後は、シアンの書いたノートじゃな」

「それも、この小箱の中に入っていました。このピラミッドのことや、水晶板のことも書かれていましたので、ムムルート様がおっしゃってらしたシアン様のノートだと思います」


 カリーナ嬢が古ぼけたノートを見せてくれる。

 懐かしい。あやつが書いていたノートじゃ。


「ああ、それで間違いない」


 この部屋で探しものは終えた。


「それじゃ、上でルイミンたちが待っておるから、戻ろう」

「えっと、こちらのコディルコ様の手紙はどうしましょうか?」


 カリーナ嬢がコディルコ宛ての手紙を持って困っている。

 コディルコはいない。シアン同様に亡くなっている。


「わしが、あやつの墓に持っていってもいいが」


 勝手に持っていくわけにはいかない。


「お願いしてもよろしいでしょうか?」


 でも、カリーナ嬢は簡単に許可を出してしまう。


「いや、その許可はお主の両親から許可を得てからにしたほうがよい」

「そう、そうですね。分かりました。母と父に確認してからにします」


 カリーナ嬢はコディルコへの手紙をアイテム袋に仕舞う。そして、持っていたシアンのノートを小箱に戻すと、小箱を元のあった場所に戻す。


「持って帰らぬのか?」

「この場所から持ち出したら良くないと思います。後日、母と父と一緒に来ます。それに、ムムルート様のおかげで、簡単に来ることができますから」

「そうじゃな」


 お互いに目的の物を見つけたわしたちは、クマの嬢ちゃんたちが待っている部屋に戻る。

 階段を上がる前に、孫たちに変な顔は見せられないので、いつもの顔に戻すため、顔を叩く。

 カリーナ嬢に「どうしたのですか?」と言われたが、「なんでもない」と言って誤魔化した。

 そして、階段を上がり、戻ってくると、クマの嬢ちゃん以外の三人の服が濡れていた。


「お主たち、何をしておるのじゃ?」

「水が出てくるのを見ていたら、濡れちゃった」


 話によると、水が出ている盃の中を見ようとするため、近づき過ぎてしまい、溢れ出る水で濡れてしまったそうだ。


「ふふ、それでは、その濡れたままじゃ風邪を引きますから、外に出ましょうか」


 わしたちは入ってきた扉から外に出る。



次回で、デゼルトの街のお話も終了です。


【お知らせ】

12/20に発売予定のクマ14巻の発売日が1/7になりました。

楽しみにしてくださっている読者様にはご迷惑をお掛けします。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。お礼の返事ができませんので、ここで失礼します。


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― 新着の感想 ―
なんか毎回上から目線で偉そうにカキコしているヤツが目障りで気分悪い!  嫌なら此処に来なければ良いだけの事が出来ない稚拙なクソ野郎ですね w
[一言] そういや最後の一人ってドワーフだっけ エルフ並みに長生きしないの
[一言] シュリって毎回要らんでな。厚かましいし、なんのフラグにもならんし登場するだけでイラってするから消して欲しい。
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