581 クマさん、フィナにプレゼントする デゼルト編 その3
「そういえば、みなさんは泳げますか? 泳げない人は危険なので、乗れませんが」
たしか、落ちたら危険だから、泳げないと乗れないことを聞いた記憶がある。でも、フィナとシュリは海で練習をしたから泳げる。
だからシュリは自信満々に「泳げるよ〜」と手を挙げる。そして、フィナとルイミンも頷く。
「ルイミンも泳げるの?」
「はい。村の近くに湖がありますから、泳いだりします」
「それと、湖で着る服は持っていますか? ないようでしたら近くのお店で買わないといけませんが」
わたしはクマボックスの中に水着は入っているが、乗る予定はない。
「フィナ、水着は?」
「えっと、一応シュリの分と一緒に持ってきています」
流石、フィナだ。しっかりしているね。
でも、一人だけ暗い顔をしている人物がいる。
「うぅ、わたし持っていません」
ルイミンが悲しそうにするけど、カリーナの言う通りに買えばいいだけのことだ。
「それとムムルート様は申し訳ありませんが、大人の方は乗れませんので」
カリーナは申し訳なそうに言う。
「それなら、ちょうどいい。少し行きたいところがあるから行ってくる」
「そうですか? それなら、後で案内しますが」
「いや、一人で行くから大丈夫じゃ。みんなで楽しんでくれ」
「分かりました。ムムルート様がそうおっしゃるのでしたら」
わたしも大人で乗れないから、ムムルートさんについていこうかと思ったが、一人で行きたい場所と言われたら、付いていくことはできない。
それに今回はフィナの誕生日プレゼントだ。なるべくフィナと一緒にいて、フィナの楽しんでいる笑顔を見ることにする。
「ルイミンのことをよろしく頼む」
「はい、しっかりルイミンさんをおもてなしをさせていただきます」
ムムルートさんは、ルイミンのことを任せると行ってしまう。
わたしたちはカリーナの案内で、お店に行き、ルイミンの水着を購入して、カルガモのところに向かう。
「大きな鳥さんだ~」
カルガモ乗り場と言うのか、カルガモのところにやってくる。
「そういえば、名前ってあるの?」
勝手に心の中でカルガモって呼んでいるけど。
「カモールって言います」
うん、カルガモに近い名前だね。
「それでは、話をしてきますので、少し待っていてください」
カリーナはカルガモではなく、カモールの世話をしている男性のところに向かう。
そして、軽く話をすると、すぐに戻ってくる。
「許可をもらってきました。それでは、あちらで着替えますので」
カリーナは小さな小屋を指差す。
「わたしは見ているから、みんな行っておいで」
「ユナさんも、行きますよ」
「えっ、わたしも?」
たしか、大人は乗れないって言ったよね?
「はい。ユナさんの分もお願いしてきました」
「でも、わたし大人だし、重いかも」
子供からしたら重いってことだ。決して、太っているから重いって話じゃないよ。
「ユナさんなら、大丈夫ですよ」
「はい、ユナお姉ちゃんは、重くないと思います」
「ユナ姉ちゃんは、お母さんより小さいから大丈夫だよ」
「その、わたしも大丈夫だと思います」
全員に一言言いたい。それは、褒め言葉じゃないからね。
結局、フィナたちに引っ張られるように、わたしもカモールに乗ることになった。
まあ、心のどこかで、乗ってみたい気持ちも少なからずあったからかもしれない。
だって、鳥に乗れるんだよ。
クマ並みにレアな経験だ。
わたしたちは小屋に入り、水着に着替える。
でもデゼルトの街で、水着になるとは思わなかった。わたしは黒と白の水着を着る。クマ装備はクマボックスに仕舞い、装備はクマさんパペットのみとなる。
フィナたちを見ると、フィナはフリルが付いた水着に、シュリは白い水着を着ている。シュリの後ろには、きっと尻尾があるんだと思う。
カリーナとルイミンもシンプルな水着を着ている。
「フィナちゃんたちの水着は可愛いですね」
「ユナお姉ちゃんが作ってくれたんです」
「ユナさんが作ったんですか?」
「わたしが絵を描いて、知り合いに作ってもらっただけだよ」
その辺りはちゃんと訂正しておく。
フィナの説明だと、わたしが作ったようになってしまう。
「そうなんですね。ちょっと羨ましいです」
といっても、シェリーに作ってもらうわけにはいかない。
「それじゃ、行きましょう」
わたしたちはカモールを管理する男性のところに向かう。
そして、カモールに乗るにあたって注意事項を聞く。そして、カリーナが一番に乗り、シュリ、フィナ、ルイミンと続く。
カリーナは慣れているのか、綺麗に乗り、シュリは元気に乗り、フィナはゆっくりと乗り、ルイミンは不安そうに乗る。
最後にわたしだけど、重いからって振り落とされたりしないよね。
さっきまでは大人だから、乗れないと思いつつ乗ることになったら、重いから振り落とされないか心配するって、自分のことながら我が儘だ。
わたしはクマに乗るよりも緊張しながらカモールに乗る。
おお、意外と安定している。水の上にプカプカと浮いている。大きな浮き輪に乗っているような感じだ。
わたしがカモールに乗ると、カリーナが乗るカモールを先頭に湖を移動し始める。
乗るときに説明を受けたが、基本、乗っているだけで、行きたいところに指示はできないらしい。
カモールは慣れているようで、同じ場所を移動して戻ってくる。それで、世話をしている男の人から餌をもらう。
カモールは餌を貰うために、わたしたちを乗せて湖を一周するらしい。
ギブアンドテイクってことらしい。
カリーナの乗ったカモールを先頭に列を作り、移動し始める。
ちゃんと、教育されているようで、カモールは纏まって湖の上を進んでいく。テレビで見たことがあるカルガモの親子の移動みたいだ。
「うわぁ、凄い」
「シュリ、騒いじゃカモールが可哀想だから、ダメだよ」
カモールの上ではしゃぐシュリをフィナが注意する。
注意事項の一つとして、カモールが嫌がることはしないよう言われた。もちろん、飛び跳ねたり、騒ぐのは厳禁だ。
「でも、鳥に乗ることができるとは思わなかったよ」
「わたしは、クマに乗ることができるとは思いませんでした」
わたしの言葉にカリーナはそう返す。
「まあ、デゼルトの街に住んでいればクマに乗ることはないよね」
「クリモニアに住んでいても、ないと思います」
「エルフの村でも大人しいクマはいますが、なかなか背中に乗せてくれませんよ」
わたしの答えにフィナとルイミンがツッコミを入れる。たしかに、普通はクマに乗れることはない。
「ユナさん。後で、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんに会わせてくれませんか?」
「帰ってからね。街の中じゃ、驚かれるからね」
「はい。もちろん構いません」
カリーナは嬉しそうにする。
そして、短いような長いような、鳥の上に乗る体験が終わる。カモールは戻ってくるとカモールのお世話をしている男性の所に向かい餌をもらう。
本当に貴重な体験をした。元の世界じゃ、絶対に経験できないよね。
それから、わたしたちは着替えると、街の散策に戻る。
途中で、わたしの希望のカレーのスパイスが売っている店に行き、スパイスを大量に買い込んだ。お店のおじさんは嬉しそうにしていた。
ちゃんと街に残っている姿を見ると、嬉しくなる。
ムムルート視点
わしは一人で街の中を歩く。風景は変わった。変わらないのは湖ぐらいだ。街を眺めながら、街の外れにやってくる。
墓がたくさん並んでいる。
家を出る前にバーリマ殿に墓の場所を聞いておいた。この墓たちは、この街で暮らし、生きてきた者たちが眠っている。そう考えると、多くの者がこの街と共に生きてきたことが分かる。
その墓の中には昔の友が眠る墓もあるので、会いに来た。
「たしか、一番奥の大きな墓だと言っていたな」
墓地の中を歩き、奥のほうに向かって歩く。一番目立つ場所に、ひときわ大きい墓石が見える。
わしは墓石の前に立つ。
「ここに眠っているのか」
悲しい気持ちはある。エルフと人では寿命の長さが違う。
エルフは村の外に出ると、徐々に人との寿命の長さの違いを知り、仲間や身内が老いていくのを見ていくのが辛くなり、村に戻ってくる。エルフの村なら、皆、寿命は長い。ともに生きていける。だから、最終的に村に戻ってくる。そして、わしのように村から出なくなる。
ルイミンもいつかは、嬢ちゃんたちと別れることになる。だが、それも一つの成長になる。
新しい出会いがあり、別れるのは、誰しもが経験することだ。
「久しぶりじゃな。来るのが遅くなって、すまなかった。でも、こんなに街が立派になっているとは思わなかったぞ。さすが、シアンとクアトの子孫たちだな」
目を瞑ると、二人の顔が思い浮かんでくる。
「カリーナ嬢はシアンに似て赤い髪をしている。ちゃんと、お主たちの血を受け継いでいるのが見られて嬉しかった」
成長すればシアンに似るかもしれない。
それから、わしは墓の前で、二人と別れた後、どうやって生きてきたか、シアンとクアトに話してやった。
二度と来ないと思っていたが、昔の友人に会うのもいいかもしれない。
こんな気持ちになれたのも、カガリに会ったせいかもしれぬな。
生きてカガリに会えたことは嬉しかった。
たしか、和の国にも行くと言っていたな。カガリと会ったら、久しぶりに昔のことを話すのもいいかもしれぬ。
遅くなって申し訳ありません。
しばらくは一週間投稿になりそうです。
また、感想の返信ができなくて、申し訳ありません。
ユナもカルガモに乗りました。
きっと、クマさんパペットの中で、くまゆるとくまきゅうが怒っているかもしれませんね(笑)
【お知らせ】
コミックPASH!で「くまクマ熊ベアー」の36話が公開されました。
孤児院の院長先生のお話です。
よかったら、見てください。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。お礼の返事ができませんので、ここで失礼します。