580 クマさん、フィナにプレゼントする デゼルト編 その2
「それで、リスティルさんとノーリスは? 二人にもムムルートさんを紹介したいんだけど」
バーリマさんは婿養子で、リスティルさんが、ムムルートさんの冒険者仲間の子孫だ。
「実は、男の子が無事に産まれまして、リスティルは部屋にいます。ノーリスはそんな妻の傍にいます。後で挨拶に来ると思いますので、そのときにお願いします」
おお、無事に産まれたみたいだ。
「おめでとう」
「無事に子供が産まれたのも、ユナさんのおかげです」
「わたしはなにもしていないよ」
別に体に不調があったわけでもない。
「いえ、妻の不安を取り除いてくれたのは、ユナさんです。あのような性格ですが、不安に思っていたと思います。心配事もなくなり、安心して過ごせるようになりましたから」
確かに、妊娠中に不安や心配事などの負担を抱えることはよくない。それだけで、体調を壊すこともあり、お腹の赤ちゃんが危険なことになることもある。
いろいろと大変だったけど、デゼルトの街を救えてよかった。
「それで、部屋を用意しますが、部屋はどうしましょうか? 一人一部屋でも大丈夫ですが」
バーリマさんはフィナやシュリのほうに軽く目を向けながら、尋ねる。
どうやら、小さいシュリもいるから、気にかけてくれているみたいだ。
「どうする?」
わたしはみんなを見る。
「その、できれば、ユナお姉ちゃんと一緒がいいです」
フィナが少し考えて、答える。
知らない場所に泊まるんだ。不安なのかもしれない。
「そうなると、シュリも一緒だね」
「うん、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんと一緒に寝る〜」
「ああ、それなら、わたしも一緒がいいです」
ルイミンまで手を挙げる。
「そうなると、わし、一人になるのう」
ムムルートさんは寂しそうにするが、クマハウスでも一人で寝ている。間違いなくわざとだ。
そんなわけで、ムムルートさんは一人部屋になり、わたしたち4人が同じ部屋になることになった。
「それでは、そのように準備をさせていただきます。それで今日は、どうなさいますか?」
まだ、昼ぐらいだ。十分に出かける時間はある。
「それじゃ、街の中でも散歩しようか?」
「はい」
「やった〜」
「はい」
「そうじゃな」
全員、お出かけする案に賛成する。
「それでは、わたしが案内します」
カリーナが申し出てくれるので、その厚意に甘える。
わたしたちはお屋敷の外に出る。
「えっと、フィナちゃんとシュリちゃん、それから、ムムルート様にルイミン様。どこか行きたい場所はありますか?」
家の前でカリーナが、皆に尋ねる。
「えっと、カリーナちゃんって呼んでいいかな?」
「はい、好きなようにお呼びください。ルイミン様」
「その、ルイミン様はやめてほしいかな。この街に貢献したのはお爺ちゃんで、わたしじゃないから、普通にルイミンって呼んで」
その気持ちは分かる。わたしもユナ様なんて、呼ばれたら、絶対に呼ばせないようにする。
「えっと、それじゃ、ルイミンさんってお呼びしてもいいですか?」
「うん」
「フィナちゃんもシュリちゃんも好きなように呼んでくださいね」
「それじゃ、カリーナちゃん」
「カリーナ姉ちゃん!」
それぞれの呼び方が決まった。
ムムルートさんが混じって、「わしもムムルート様は止めてほしい」と言ったが、カリーナは真剣な表情で「それはできません」と、きっぱり断っていた。
まあ、この街を作った一人だ。ご先祖様の仲間だから、カリーナにとっては、ムムルートお爺ちゃんとは呼べないだろう。
「それで、どこに行きましょうか?」
あらためて、カリーナはみんなに尋ねる。
「わたしは、カレーの材料が欲しいから、あのお店かな」
スパイスの補充はしておきたい。
たまにカレーって食べたくなるから不思議だよね。
「わたし! 鳥さんに乗りたい」
シュリが手を挙げる。
「湖の鳥ですね」
「あの鳥に、わたしたちも乗れるんですか?」
「乗れますよ」
「それじゃ、わたしも乗ってみたいです」
ルイミンもシュリの提案に同意する。
「フィナは?」
「わ、わたしも乗ってみたいです」
少し、恥ずかしそうに言う。
どうやら、フィナも乗ってみたかったみたいだ。
「ムムルート様は、どこかありますか?」
「わしは、街を見ることができるなら、どこでも構わない」
「それでは、街を軽く見ましたら、鳥に乗りに行きましょう」
わたしたちは中心である湖の周りを歩く。
そんな中、隣を歩くカリーナはチラチラと横目で、わたしたちを見ている。
「さっきから、わたしたちを見ているけど、どうかした?」
「その、いろいろと聞きたいことがあって。フィナちゃんたちが、どんなところから来たのか。ムムルート様には、ご先祖様のことを聞きたいし。でも、街の中をちゃんと案内したいし、どうしたらいいのか分からないんです」
カリーナは恥ずかしそうに答える。
まるで、アイドルに会ったファンみたいな反応だね。
「とりあえず、話しながら歩いてもいいんじゃないかな」
「はい。でも、本当にユナさんが言うムムルート様が、わたしのご先祖様と一緒に街を造ったムムルート様だとは思いませんでした」
100年以上の前のことだ。そんな偶然が起きた。世間は狭いとはよく言ったものだ。
「わたしも名前を聞いて、もしかしてと思ったけど。確認したら、そうだと言うから驚いたよ」
「お爺ちゃん、昔はいろいろなところに行っていたんだね」
和の国まで行っているし、わたしが知らない、いろいろなところに行っているんだと思う。
今度、わたしもくまゆるとくまきゅうに乗って、知らない場所に行ってみようかな。
それとも、タールグイなら、和の国のように見知らぬ土地に行けるかもしれない。今度、久しぶりにタールグイに行って、確認してみるのもいいかもしれない。
それから、カリーナの案内で街の中を散策する。
「相変わらず、みんな、ユナさんを見ますね。その、ユナさんの格好は王都の人たちもしているんですか?」
「王都にはいないけど、わたしが住んでいるクリモニアの街にはいるよ」
「そうなんですか!?」
嘘は言っていない。お店の子供たちがクマの格好をしている。
「フィナちゃん。本当なの? 王都じゃ見たことはなかったけど」
ルイミンがフィナに尋ねる。
「えっと、たぶん。ユナお姉ちゃんのお店で働いている子が、クマの格好をしているので、そのことだと思います」
フィナがすぐにばらしてしまう。
「ユナさん、お店をやっているんですね」
「まあ、成り行きでね。ほとんど、フィナの母親に任せて、わたしは何もしていないけど」
最近、ティルミナさんからの相談が減ったような気がする。お店を作ったばかりの頃は、いろいろと相談があったけど、最近は、順調でトラブルもないみたいで、相談されることがない。
良いことなんだけど。あらためて思うと、寂しいものだ。
「フィナちゃん。ここまで来るの、大変でしたか?」
「えっ」
いきなりの質問に、フィナは戸惑う。
「王都から、遠いと思うんです。それに砂漠を通って、大変だったと思います」
フィナはわたしを見て、さらに、下を向いて少し考えこむ。
「えっと、はい。とっても大変でした。でも、ユナお姉ちゃんのくまさんがいましたから、移動は大丈夫でした。砂漠はちょっと、暑かったけど……」
フィナは嘘を混ぜながら、カリーナの質問に答える。
うぅ、ごめん。フィナに嘘を吐かせてしまった。
でも、少しは砂漠を経験させてよかったかな。砂漠を知っていると、知らないのでは、嘘を吐くにしても、困るからね。
「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんですか? わたしもくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんに乗って、いろいろな場所に行ってみたいです。フィナちゃんたちが羨ましいです」
「その気持ち、分かります。わたしも、ユナお姉ちゃんに会うまで、世界がこんなに広いなんて、知りませんでした。こんなに遠い所に来られるとは思いませんでした。でも、ユナお姉ちゃんに会って、世界が広いことを知って、いろいろな場所に連れてきてくれました。だから、ユナお姉ちゃんには感謝しています」
「ユナ姉ちゃんは、お母さんを助けてくれたし、いろいろなところに連れていってくれたよ」
「わたしもです。ユナさんがいなかったら、こんな遠くまで来ようと思わなかったし、来られなかったです。だから、わたしもユナさんに感謝です」
「そうじゃのう。嬢ちゃんには、村を救ってもらい、ここまで連れて来てくれた。感謝をしないといけないのう」
フィナの言葉にシュリ、ルイミン、ムムルートさんまで、そんなことを言いだす。
なんだろう。聞いているわたしが恥ずかしくなるんだけど。羞恥プレイじゃないよね?
それから、カリーナはフィナとシュリに、クリモニアの街のお話を聞いたりしていた。
「それで、ムムルート様、街並みを見て、どうですか?」
「綺麗な街並みじゃ。それに、人が多い。わしがいたときは、本当に少なかった」
ムムルートさんは、記憶を甦らせるように遠い目をする。
「ムムルートさんは、街には長くいたの?」
「昔のことで、はっきりは覚えていないが、一年ぐらいはいたかもしれぬ。湖に人が集まり始めた頃、二人に、残りは自分たちがやるからと言って送り出された」
「そうだったのですね」
確認はしなかったけど、そのあとは一度も来なかった感じがした。
「カリーナ嬢ちゃんは少しだけシアンの面影があるのう」
「そうですか?」
「その赤みが掛かった髪の色はシアン譲りじゃろう」
カリーナは自分の髪に触れる。
「その赤みのかかった髪を見ると、思い出す。ちゃんと血筋が残っていて嬉しい。カリーナ嬢ちゃんには感謝だ」
「いえ、そんなことは」
少しでも面影があると嬉しいものだ。
「ちなみに言っておくけど、バーリマさんは婿養子だからね」
と説明しておいた。
初めはわたしも勘違いしたからね。
遅くなって申し訳ありません。
活動報告にある通りに、書籍の作業をしていました。
無事にカリーナとフィナたちは、仲良くなりそうですね。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。お礼の返事ができませんので、ここで失礼します。