567 クマさん、魔法を教える その3
フィナとノアは一生懸命に光魔法の練習をする。
魔法を学ぶときに、初めに光魔法を使うことは正しいと思う。
火の魔法なんて、危なくて初心者には使えないし、他の魔法だと見ただけでは強弱は分かりにくい。でも、光魔法は明るさで判断がつき、形を変える練習も容易にできる。
なにより光魔法なら、どこでも練習ができるのが利点だ。
「ユナさん。もう一度見せてください」
わたしは何度か、光の魔法を見せてあげる。ノアとフィナは何度も光魔法を見て、わたしから学んでいく。
クリフが言っていたとおり、イメージするのは見るのが一番だ。だから、わたしは参考になるように、光の強弱から、光の色を変えたりした。色は赤、青、緑、黄色、白、ピンクと様々だ。
「光の明るさもそうですが、光にはそんなに色があるんですね」
「色がついたガラスに光を通して見るのと一緒だよ」
光は一色ではない。イメージによっては、赤にも青にも、緑にもなる。それを応用して、ミリーラの町で花火を打ち上げたことがある。
「青とか緑とか綺麗です。でも、光の色を変えることに、どんな意味があるのですか?」
この世界には信号弾みたいなものはないのかな?
それとも子供だから知らないのかな?
わたしだって、信号弾なんて元の世界にいたときを含め、一度も見たことなんてない。知識で知っているだけだ。そうそう見れるものじゃない。
「ノアやフィナにはあまり関係ないけど、遠くにいる人に合図を送ることができるよ。例えば、魔物がどこにいるか探索しているときに、魔物を見つけたときは赤色の光を空に上げるとか。見つけられなかった場合は青色にするとか、他にも色を決めておけば、遠くにいる人に意味を伝えることができるでしょう?」
「たしかに、そうですね」
ノアは感心したように頷く。
それに明るさの強弱を変えるだけの練習では飽きてしまう。他のイメージの練習も取り込んだほうが、楽しみながら魔法の勉強ができると思う。
「まあ、二人が使う機会があるかと言われたら、ないと思うけど、イメージの練習には良いと思うよ」
「そんなことはありません。とっても勉強になります。それにいろいろな色のクマさんの光を作ってみたいです」
「シュリに見せてあげたら喜ぶかも」
二人は光の強弱の他に、色の練習も始める。
二人は楽しそうに魔法の練習をする。お互いに褒めあい、助け合い、二人の魔法は成長していく。
そして、わたしは二人の成長が楽しく、途中からは形を変化させる練習も取り入れる。
最終目標は、好きな形と色をした光を浮かび上がらせることだ。
二人なら、間違いなくできると思う。
それから数日が過ぎ、フィナとノアは光の強弱や、いろいろな色の光、違う形の光を作れるようになった。
「ふふ、クマさんが光っています」
ノアとフィナは、いろいろな色のクマの形をした光を浮かび上がらせている。
ここまで来るのは、意外と大変だった。何度もいろいろな色や形の光を作らされた。もちろん、クマもだ。
だけど、その苦労のおかげもあって、二人の上達速度は早かった。
二人が一番苦労したのは、手から魔力を放つことだった。これは、いくら見本を見せてもすぐにはできなかった。体の中にある力を放出することが難しかったようだ。
前に言ったことだけど、静電気を放出しろと言われても、できないのと同じことだ。
でも、今では、二人の上には色とりどりのクマの形をした光が浮かんでいる。
これで、二人は魔力を集めること、魔力をイメージで変化させること、魔力を手から離すこと。この三つの基本ができるようになった。この中の一つでも欠ければ、他の魔法を使うのは困難だと思う。
「これで二人とも、光魔法は合格だね。それじゃ、明日からは違う魔法の練習をしようか?」
「やった!」
「はい」
ノアとフィナは嬉しそうにする。
翌日、他の魔法の練習は、部屋の中でするわけにはいかないので、わたしたちは初めに魔法の練習をした庭にやってくる。
「ノア、他の練習方法は知っている?」
魔法の教え方は、ノア先生に尋ねる。自己流で適当に教えるより、ノアが知っている方法で教えてあげたほうが良い。
「えっと、魔法はイメージになりますので、その扱う魔法の対象物を見たり、触ったりします。火の魔法なら火を見たり、水の魔法なら水に触ったり。風魔法なら風を感じたり、土魔法なら土に触ったりする感じです」
光魔法のときと同じだね。
見たり触れたりすることで、そのものに対してのイメージはしやすくなる。
逆に見たことも触ったこともないものをイメージするのは難しい。
わたしが雷のイメージをしてみてと言っても、二人にはできないだろう。わたしはテレビや本などで、雷がどういうものなのかを知っている。だから、イメージができる。でも、二人は知らないからイメージができない。
これが呪文や詠唱で発動するなら、必要はないんだろうけど。残念ながら、この世界の魔法は呪文ではない。
「それで、二人はどの魔法から覚える?」
ここからは別々の魔法の練習になる。好きな魔法、覚えたい魔法はイメージしやすく、上手く使えることが多い。苦手な魔法や、覚えたくない魔法は、やる気もでないから使えないと思う。
「もちろん、土魔法です。それでクマさんをたくさん作るんです」
「わたしは水魔法を覚えたいです」
二人の希望は、初めの頃から変わっていないようだ。
わたしはノアに聞いた通りの練習方法でそれぞれの魔法の練習をする。
ノアは地面に手を置き、フィナは水が入ったバケツに手を入れて、それぞれイメージの練習をする。
「それじゃ、わたしが先にやります」
ノアは土を見て、手を触れ、イメージする。
ノアの手にあった魔力が変化して、土に変わる。
「土になりましたが、なにか上手くいきません」
ぽろぽろと土が手の平から落ちる。
「初めは光の玉のように丸くするといいよ」
わたしは手本で丸い土の塊を作ってみせ、ノアに渡す。
「固いです」
「土に変化するイメージはできているから、後は固くするイメージができれば、できると思うよ」
「はい。もう一度やってみます」
ノアは手を汚しながら練習を再開する。
わたしはフィナのほうを見る。
フィナは水が入ったバケツから手を出して、目を閉じる。少し集中すると、フィナの手から水が流れ落ちる。
「できました」
変化するだけなら、二人ともできる。後はここからどうするかだ。
「フィナは水魔法で、何ができたら解体に便利なの?」
解体をするときに便利とは聞いているけど、解体ができないわたしには詳しいことは分からない。
「水を動かすことと、水の強弱の調整をしたいです。解体するときそれができると、いろいろと便利なので」
「それじゃ、こんな練習がいいかもね」
わたしは水を作り出し、蛇のようにクネクネさせてみせる。
「それは魔法の交流会のときに見た魔法ですね!」
ノアがわたしの魔法を見て、すぐに気づく。
そう、これは交流会のときに見た水の魔法だ。フィナが見たことがなければ、わたしが見せてあげればいいだけのことだ。
わたしのクマさんパペットから出た水は、蛇のようにクネクネと動き、フィナの前で止まる。
「フィナは、この練習だね。このコントロールができれば、水の強弱もできると思うし」
コントロールができるってことは、魔力の扱いができるってことだ。水の強弱もできるはずだ。たぶん……。
できなかったら、他の練習方法を考えればいい。
「はい、やってみます」
フィナは手から水を出すが、そのまま地面に落ちてしまう。
「光魔法を使ったときを思い出しながらやるといいよ」
「はい」
フィナは返事をすると、何度も挑戦する。
「ユナさん、わたしにもコツを教えてください。どうやったら土が固くなりますか?」
ノアも先ほどからやっているけど、土にはできるけど固まらないみたいだ。
新人冒険者の女の子にも教えたけど、硬くしないと魔物に命中しても倒すことはできない。
どれだけ、硬く、威力があるものが作れるかによって、魔法使いのレベルが変わってくると思う。
まあ、ノアが目指しているのはクマの置物だ。でも、それだって固くないと崩れてしまう。
「形を作ったら、魔力で固めないとダメだね。その形のまま、魔力で押し潰す感じだけど。まずは手で土を握る感じでいいと思うよ」
ノアは手が汚れるのも気にしないで、土を掴み、自分の手で握って、玉を作ってみる。
「手でなく、魔力で固める」
ノアは何度もイメージの練習をすると、やってみせる。
「できました」
ノアの手のひらに、ゴルフボールほどの大きさの土の塊ができあがる。
でも、ノアがその土の塊を握った瞬間、簡単に崩れてしまう。
「うぅ」
「まだ、弱かったみたいだね。でも、形ができるようになったんだから、順調だよ」
「はい、頑張ってみます」
ノアは返事をすると、魔法の練習を再開する。
フィナのほうも、水を操る練習を続けている。
そして、その日の練習が終わる頃には、触っても崩れない程度には土の塊ができるようになり、フィナも手の平の上で水が動かせるぐらいにはなった。
ただ、大きくなると、二人ともできなくなる。
たぶん、魔力を集める量が大きくなるほど、扱いが難しくなるんだと思う。それで、魔法の威力が変わってくるけど、小さな炎を作るのと、大きな炎を作るのでは、魔力の大きさが変わってくるのは当たり前だ。
ここで、魔法使いのレベルの差が出るんだと思う。
二人は順調に魔法を覚えていきます。
次回で、魔法練習は終わるかな? 終わらせたいな。
※いつも誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。お礼の返事ができませんので、ここで失礼します。