562 クマさん、魔法を教えてほしいと頼まれる
ミサはフィナとノアがプレゼントを喜んでくれたので、嬉しそうにしている。
それからも、フィナとノアにプレゼントが渡された。ちなみに、クリフからフィナへのプレゼントはクリモニアの街にある高級レストランの家族の招待券だった。今回の謝罪ってことで「家族で楽しんできてほしい」と言いながら渡していた。フィナは断ることもできず、微妙な笑みで受け取っていた。
そのフィナの後ろではティルミナさんとゲンツさんも、なんとも言えない表情をしていたのを、わたしは知っている。
まあ、料理だ。家族で楽しんでくればいいと思う。
そして、グランさんは宝石の付いたネックレスをプレゼントしようとして、みんなから呆れたように見られていた。流石に宝石はもらえないので、断ることになった。クリフも口添えをしてくれたので、断ることができて、フィナとティルミナさんたちは安堵していた。
「グラン爺さん、その年で言うのもなんだが、相手が受け取りやすい物を考えたほうがいいぞ」
クリフの言葉に、グランさんはしょぼーんと悲しそうにしていた。
ノアにも用意してあったが、フィナが受け取らなかったので、ノアも受け取らなかった。なので、少しグランさんが可哀想だった。
まあ、今回は、流石にグランさんを擁護できないから、仕方ない。
クリフが「もう少し一般人の感覚を身に付けたほうがいいぞ」とアドバイスしていた。
高級レストランの招待券も、どうなんだろうと思ったけど、宝石よりはマシってことで、わたしの心は判断した。
わたしは楽しそうにしているノアに話しかける。
「エレローラさんとシアが来れなくて残念だったね」
もしかしたら、来るかと思ったけど、二人とも来られなかった。仕事や学園もあるし、クリモニアと簡単には行き来はできない。
こういうとき、クマの転移門を教えてあったら連れてくることもできた。でも、シアやノアはともかく、エレローラさんに知られると、いろいろと面倒になりそうだから、教えるのはためらわれる。
それなら、ノアには教えて王都に連れていってあげればいいかな? わたしがそんなことを考えていると、ノアは首を横に振って否定する。
「寂しくないと言ったら、嘘になりますが、お母様から誕生日プレゼントは貰いましたから。それに、この前、王都に行ったときに会えましたから大丈夫です。それに、お母様は大切なお仕事をしていますので」
少し、寂しそうにするが、全て理解したような表情をする。
もしかして、去年も、一昨年もいなかったのかもしれない。
ノアは首にかかっているネックレスを見る。
確か、魔法を使うために、エレローラさんからもらったんだっけ?
ノアはネックレスを見て、少し考える。そして、何かを決意すると、クリフのところに向かう。
「お父様、お願いがあるのですが」
「なんだ?」
「魔法の勉強ですが、ユナさんに教わってはダメでしょうか?」
「ユナに?」「わたし?」
クリフとわたしの視線が合う。
「お父様は、魔法の練習の許可をくださいました。できれば、魔法はユナさんに教わりたいです」
「ユナに教わって、魔法がクマになったりしないか?」
「……」
普通なら、笑い飛ばすところだ。
でも、わたしは笑えない。だって、クマ魔法は存在するし、実際に使っている。
「まあ、土魔法なら、あり得るか」
クリフは勝手に結論をだす。
そういえば、クマの土魔法のことは知っていることを思い出す。
でも、クマ魔法には炎も水もあるよ。クマの刃も含めれば、風魔法もあるし、さらには電撃クマもある。
クリフはわたしのほうを見ながら、少し考えると口を開く。
「ユナが構わないなら、いいが」
「本当ですか!? ユナさん、お願いします」
ノアは私の手を握って、お願いしてくる。
「別に、教えるのはいいけど。わたし、独学だから、上手に教えられないかもよ」
一応、新人冒険者の女の子には魔法の使い方? 威力を上げる方法や、魔物の討伐の仕方は教えたことがある。でも、ノアは一度も魔法を使ったことがない。魔法を使ったことがない者に教えるとなると、話は別だ。
「一応、魔法の基礎の知識は勉強しています。だから、大丈夫だと思います」
「まあ、ダメなら、こちらで魔法の先生を用意すればいいだけだからな」
「それならいいけど」
わたしが承諾すると、ノアは嬉しそうにする。そんな中、フィナが何か言いたそうにしている。
「フィナ?」
「あのう、わたしも、ユナお姉ちゃんに、魔法、教わりたいです」
フィナがそう口を開くと、わたしのほうを見てから、ティルミナさんのほうを見る。
「お母さん、わたしが魔法使えるか分からないけど、魔法の練習してもいい?」
「まさか、冒険者になるとか言わないでしょうね」
フィナは首を横に振る。
「ならないよ。もし、水の魔法が使えるようになれば、解体の仕事も楽になるし、他の魔法が使うことができれば、みんなを助けることもできるから」
「フィナ……」
「ユナお姉ちゃん。お金はないけど、頑張って解体します。だから」
ティルミナさんが働き始め、解体はたまにしているが、それは孤児院で使う分だったり、お店で使う分だ。ティルミナさんのお願いもあって、お金は渡していない。現物支給で、肉などを渡しているぐらいだ。
でも、わたしはフィナ貯金などを作っている。
もし、フィナが王都の学園に行きたいと言い出したら、渡そうかと思ったりしている。
まあ、それはだいぶ先の話になると思うけど。
とりあえず、フィナからお金を貰うつもりはない。
「いや、ノアもフィナもお金はいらないよ。ティルミナさんとゲンツさんの許可をもらえれば、教えるよ」
クリフからお金を貰うのは気にもしないけど。フィナやティルミナさんからお金を貰うのは気が引ける。だからといって、フィナから貰わないのに、ノアから貰うのはおかしい。
なにより、妹のように思っているフィナとノアからお金なんて貰えない。
それに新人冒険者の女の子からもお金なんてもらっていないし。
「お母さん、お父さん」
フィナはジッとティルミナさんとゲンツさんのことを見て、返事を待つ。
ティルミナさんは小さく溜め息を吐く。
「分かったわ。好きなようにしなさい」
「ああ、でも、危険なことだけはするなよ」
「お母さん、お父さん、ありがとう」
フィナは満面の笑顔になる。
「フィナ、よかったですね。一緒に魔法の勉強をしましょう」
「はい!」
フィナとノアは手を取り合う。
そんな二人を羨ましそうにミサが見ている。
「うぅ、ノアお姉様もフィナちゃんも羨ましいです。お爺様、わたしも魔法の練習がしたいです」
「父親にお願いするんじゃな。流石にわしが許可を出すことはできぬからな」
孫とはいえ、勝手に許可を出すわけにはいかないよね。普通に考えても、両親の許可は必要だと思う。
ミサが助けを求めるようにわたしを見るが、こればかりはグランさんが正しいので、助けることはできない。
ちなみにシュリも羨ましそうにしていたが、ミサはともかく、シュリはまだ魔法を使ってはいけない年齢だから諦めてもらう。
そして、食事とプレゼントも終え、大人たちは話しているので、ノアのお願いもあって庭に移動し、くまゆるとくまきゅうを召喚する。
「本当に、その格好のまま乗るの?」
全員、ドレス姿のままだ。
「別に、走り回るわけではありませんし、くまゆるちゃんもくまきゅうちゃんも綺麗ですから、汚れたりしませんから大丈夫です」
「「くぅ~ん」」
くまゆるとくまきゅうは、汚くないよって鳴く。
召喚したばかりのくまゆるとくまきゅうが綺麗なことは、わたしが一番よく知っている。
「それに、着替えるのが面倒です」
そう言うと、ノアはくまゆるに抱きつく。
「ぬいぐるみの触り心地も良かったですが、やっぱり本物も気持ちいいです」
ぬいぐるみが偽物とは言わないけど、本物が一番だ。本物の良いところは、温かいところだ。でも、真夏では暑い。それはぬいぐるみでも同じことだけど。
「ユナさん、乗ってもいいですか?」
「いいけど、本当にドレスが汚れるようなことはしないでね」
わたしが許可を出すと、ノアとミサは嬉しそうにくまゆるとくまきゅうに乗り、フィナはドレスが汚れないように気にかけ、さらに走り回ろうとするシュリの腕を掴んでいる。
フィナとしては、着替えたいんだと思う。ここに来るときも。
「ドレスが汚れますから、着替えたほうが」
「大丈夫です」
「でも、転んだら」
「大丈夫です。転ばなければいいんです」
ノアとそんなやり取りがあった。
「ほら、フィナもシュリも乗ってください」
その言葉に、シュリが走り出そうとするが、フィナが腕を掴んでいる。
「シュリ、絶対に走っちゃダメだからね。転んでもダメだからね」
「うん、わかっているよ。転ばないよ」
それを、わたしの世界では、フラグと言う。
フィナもシュリも、ノアとミサが乗るくまゆるとくまきゅうに乗り、お屋敷一周の旅が始まる。
結局、一周では終わらず、何周もすることになった。
わたしは一緒に来たララさんにお茶をいただき、ララさんと会話をしながら、のんびりと時間を過ごした。
ちなみに、フラグは折られ、誰もドレスを汚すことはなかった。
フィナとノアに魔法を教えることになりました。
※いつも誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。お礼の返事ができませんので、ここで失礼します。