555 クマさん、久しぶりにミサに会う
リーデントを捕らえたわたしたちはシーリンの街に戻ってきた。
シーリンに戻ると、ギルドマスターはマランにリーデントのお店の取り調べを命じる。それからミレーヌさんと今後のことを話すようで、ギルドマスターの部屋で話が行われている。
ブリッツたちは、深夜から今まで見張っていたので、わたしたちが戻ると、眠そうな表情をしながら宿屋に向かった。
ちなみに、見張っていたけど、結局誰も怪しい人物は現れなかったそうだ。
そして、ジェイドさんたちはブリッツたちと入れ代わる感じに店を見張るそうだ。店の取り調べが行われているのに、近づく盗賊はいないと思うけど、念のためだそうだ。
それから、ブリッツの話では、マリナたちはブリッツたちが来るまで見張りをしてくれたらしい。一応、わたしの名前でお願いしたし、あとでお礼に行かないとダメかな?
そんなことを考えながら、商業ギルドの一室で一人で休んでいると、「ユナお姉様、ここにいらっしゃいますか?」と尋ねながら、銀髪の美少女が部屋の中に入ってきた。
「ミサ?」
「ユナお姉様! よかった。まだ、居てくれました」
部屋の中に入ってきたのは、このシーリンの街の領主の娘のミサだった。
ミサはわたしを見つけると満面の笑みに変わり、わたしのところに駆け寄ってくる。
「どうしたの? 商業ギルドに用でもあったの?」
商業ギルドにたまたま来ていて、わたしがいることを知って、会いに来てくれたのかもしれない。
「違います。ユナお姉様がシーリンの街に来ていると話を聞いたので、会いに来たんです」
予想は半分当たっていたけど、商業ギルドに用はなかったらしい。
でも、わたしのことは、誰から聞いたんだろう? と思ったけど門番に、商業ギルド、マリナなど、いろいろと情報源があることに思い至る。
「それで、わざわざ会いに来てくれたんだ」
「だって、ユナお姉様。シーリンに来てくれませんから、会いに来たんです。たまには、わたしの家に遊びに来てください」
たしかに、ミサの誕生日パーティー以来、シーリンの街に来ていない。シーリンに来る用がないから仕方ない。
実際問題、理由がないのに、会いに行くのはハードルが高い。
理由もなく、会いに行くほどわたしの対人レベルは高くない。こういうとき、人付き合いのレベルが問われる。
そんなことをミサに言えば、「会いに来てくれるだけでいいんです」とか言われそうだ。
「それじゃ、時間ができたら遊びに行くよ」
「約束ですよ」
ミサは満面の笑みを浮かべる。
これは約束を破ることはできないね。
今度、フィナやノアを連れて、遊びに来よう。
それなら、理由も付けられる。
「そういえば、誕生日パーティーのことは聞いている?」
「フィナちゃんの誕生日パーティーをノアお姉様の誕生日パーティーと一緒にやることですよね。そのことでしたら、ノアお姉様から手紙をもらいましたので、知っています」
ノアはちゃんと手紙を出してくれたみたいだ。ノアはその辺りはしっかりしているね。
「あと、手紙にくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんの大きなぬいぐるみを、ユナお姉様、フィナちゃん、シュリちゃんと一緒に作っていると書かれていました」
そこまで書いていたんだね。
「ノア本人から、大きなくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみのリクエストがあったからね」
「ノアお姉様、本当に頼んだんですね。でも、みんなで、ぬいぐるみを作るのは楽しそうです」
ミサが羨ましそうにする。
別にミサを除け者にしたわけでないけど、ミサは違う街に住んでいるから仕方ない。
「でも、ノアお姉様まで、一緒に作っているとは思いもしませんでした」
「わたしたちが作っている所にノアがやってきたと思ったら、自分も一緒に作るって言いだしたんだよ。自分の誕生日プレゼントを自分で作るなんておかしいと思うよね?」
「はい。でも、楽しそうです」
たしかに、元の世界じゃ、みんなで何かを作るってことはしてこなかった。だから、なんだかんだで、みんなで作るのは楽しかった。
「それで、フィナちゃんのプレゼントも大きいくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみですか?」
「いや、ノアとミサの家みたいに大きな家じゃなくて大きなぬいぐるみは置けないからって断っていたよ。だから、フィナのプレゼントはまだ決まっていないよ」
そろそろ、フィナへのプレゼントを決めないといけない。特大ぬいぐるみだったら、それでもよかったんだけど。そうもいかないので、考えないといけない。
特に、フィナにはこの世界に来て、一番世話になっている。
フィナ本人に欲しいものを聞いても、「いりません」とか「なんでもいいです」とか言って、欲しいものは絶対に言わないと思う。
ノアみたいに、ハッキリと欲しい物を言ってくれたほうがプレゼントするほうは楽なんだけど。
「それで、ユナお姉様はどうして、シーリンに来たんですか?」
どうやら、わたしがシーリンにいることは知ったけど、理由までは知らなかったらしい。
わたしはくまゆるとくまきゅうの等身大ぬいぐるみ作りが、最後の綿入れで完成というところまでいったが、頼んでいた綿が盗賊に盗まれたことを話す。
「それで、冒険者ギルドに相談したら、同様に盗賊による事件が起きていたから、捕まえに行ったんだよ」
わたしの説明にミサも納得したようだった。
それから、ミサと誕生日パーティーの話をしていると、新たなお客さんが部屋に入ってきた。
「二人とも、ここにいたのじゃな」
「お爺様!?」
部屋の中に入ってきたのはグランさんだ。
グランさんはミサのほうを見てから、わたしのほうに視線を向ける。
「お嬢ちゃんは、相変わらずの格好をしているんじゃな」
わたしから、クマの格好を取ったらなにも残らない。魔法も使えなければ、重い剣も持てない非力な少女になってしまう。
「もしかして、グランさんも、わたしに会いに来てくれたんですか?」
「ミサが、嬢ちゃんが来ていると知ると、家を飛び出していったからのう」
「だって、急がないとユナお姉様が帰ってしまうかもしれないじゃないですか」
「それに、わしたちを救ってくれた嬢ちゃんが来ているなら、挨拶の一つもと思ってな。息子夫婦は忙しいから、わしが来たわけじゃ」
「グランさん、暇なんですね」
「息子夫婦に全て任せたから、肩の荷が下りて残りの人生を楽しんでおる」
まさしく、隠居したお爺ちゃんだね。
「そんなことを言って。お父様は、お爺様に手伝ってほしいといっていますよ」
「もちろん、手助けはするが、全てを助けたら、あやつのためにならぬからな」
どうやら、たまに手伝うぐらいで、ほとんど息子のレオナルドさんに任せているらしい。
まあ、仕事を引き継いだら、そんなものだと思う。
「だから、ノア嬢とフィナ嬢の誕生日パーティーの付き添いには、暇なわしが一緒に行くことになっている」
暇とか言っちゃったよ。
でも、ミサ一人でクリモニアに来るわけにもいかない。レオナルドさんたちが忙しいなら、暇なグランさんが来るのは、考えれば分かることだ。
「そうだ。グランさん、ありがとう。街の門とか、商業ギルドにわたしのことを伝えておいてくれたんでしょう。なにも言われずに街に入ることができたよ」
「そうか。お嬢ちゃんは、わしたちの恩人だからのう。気持ちよく街の中に入ってほしいから伝えておいた。門番は嬢ちゃんに不愉快な思いをさせなかったようじゃな」
変な目で見られるのは仕方ないけど、いちいちクマの格好について尋ねられると、面倒くさいし、気分がいいものではない。
なにより、くまゆるとくまきゅうを見られても、何も言われないことが嬉しい。驚かれたり、怖がられたりするのは悲しくなる。
それから、話を終えたミレーヌさんが部屋にやってきて、明日、クリモニアに帰ることを伝えに来た。わたしもミレーヌさんと一緒に、クリモニアに帰ることにした。
泊まるところは、昨日と同じで、商業ギルドの一室でも借りられればいいかと思っていると、部屋にいたミサが「それじゃ、わたしの家に泊まってください」と言い出した。
もちろん、グランさんも同様のことを言う。
迷惑になるから、断ろうかと思ったけど、最近、ミサに会いに来ていなかった負い目もあるので、素直にミサの提案を受け入れることにした。
なにより、断ったら、悲しそうな顔をするのが想像できた。
それから、マリナがやってきたので、昨日のお礼を言う。
「気にしないでいいわよ。ちょっとしたお金も入ってきたし」
と言って、気にした様子もなかった。
遅くなりました。
ミサがやってきました。誕生日パーティーの確認です。
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